本書は 2006 年 3 月に行った第 4 回高松国際パーキンソン病シンポジウムの講演を論文に書き下ろしたものである.主題は「パーキンソン病の心理的側面」と,「神経機能画像の進歩」を取り上げた.これらの背景にある神経生化学については英国の Paul Francis 先生の最新の総説をいただいた.パーキンソン病の心理的側面は患者さんの示す多くのエピーソードに彩られているがその機序に関しての理解は十分ではなかった.本書では報酬系に関する論文を主として,臨床と神経機能画像の側面から解説されている.読者はこの分野での医学の進歩を実感できると思われる.精神症状の理解に関しては Wolfgang Oertel 先生によるパーキンソン病の神経精神学的問題の総説は大変魅力的である.また,レビー小体型認知症に関して生化学と病理学の面からの総説も update な問題として収録しているので本疾患の理解に有用と考える.
 神経機能画像の進歩はめざましいものがあり David Brooks,Wolfgang Oertel,Jon Stossel,Eduardo Tolosa の各先生そして篠遠仁先生から優れた講演をいただくことができたことは大変幸いであった.しかし,一方,我が国の神経機能画像研究や臨床の現状を考えると大変残念かつ寂しいものがある.神経機能画像の進歩は論文ではなく,講演の内容を再現したものであり,使用されたスライドを併せて掲載した.これらの講演やスライドは共に優れたものであり,質疑応答も収載し臨場感にあふれ,通常の総説とはひと味異なった講演内容を楽しんでいただければと思う.
 海外からの講師の講演内容とスライドの多くは大変秀逸であり,我が国の演者もより一層,分かりやすいスライドでの講演が望まれる.優れたスライドなくしては優れた講演はあり得ないことを銘記すべきであろう.本書の講演(総説)は優れたスライドを使用して行われたことは大変幸いであった.なお,神経機能画像の講演の翻訳については旭神経内科リハビリテーション病院副院長篠遠仁先生の監修をいただきお礼申し上げる.
 本シリーズは本書で 5 冊目になるが多くの著者の執筆に対して深謝すると共に,刊行に際して最初からご尽力いただいている中外医学社編集部秀島悟氏に対して改めて心からお礼を申し上げる.

2007年3月
山本光利


目次

第1章  パーキンソン病の心理・精神医学
 1.パーキンソン病の心理学的側面   〈山本光利〉
  A.心身症としてのパーキンソン病の理解
  B.心身症の発現機序
  C.神経機能画像研究
  D.認知と心身症
  E.性格特徴
  F.パーキンソン病患者の心理: 不安の重要性
  G.プラセボ効果
 2.心因性パーキンソニズム   〈Carles Gaig, Eduardo Tolosa〉
  A.心因性パーキンソニズムの臨床的特徴
  B.心因性パーキンソニズムにおけるパーキンソニズム
  C.心因性パーキンソニズムに伴う精神障害
  D.心因性パーキンソニズムの生理病理学: パーキンソン病との関連性
  E.診断
  F.心因性パーキンソニズムにおける臨床検査
  G.治療と予後
 3.パーキンソン病における睡眠障害と神経精神障害
              〈Unger MM, Wolfgang H. Oertel〉
  A.睡眠
  B.認知症
  C.うつ病
  D.妄想/精神病症状
 4.パーキンソン病における精神医学的症状   〈Eldad Melamed〉
  A.パーキンソン病精神病
  B.精神病の発現
   1.ドパミンの役割
   2.セロトニンの役割
   3.コリン神経の役割
   4.ノルアドレナリンの役割
   5.サイトカインの役割
  C.精神病症状と神経伝達物質
  D.管理・治療
 5.パーキンソン病とその関連疾患における神経化学的ネットワーク
                          〈Paul T. Francis〉
  A.パーキンソン病における認知症と行動障害
  B.パーキンソン病/パーキンソン病認知症/
    レビー小体型認知症における大脳皮質の変化
  C.グルタミン酸作動性神経伝達
  D.コリン作動性神経伝達
  E.セロトニン作動性神経伝達
  F.結論

第2章  報酬系研究の進歩
 1.健康と疾患におけるドパミンの役割   〈David J. Brooks〉
  A.病変モデルとしてのパーキンソン病
  B.ドパミンと抑うつ
  C.血流活性化試験
   1.上肢の随意運動
   2.運動の順序を生成する
   3.体性感覚の弁別
   4.ドパミンと疼痛
   5.問題解決
   6.運動中の報酬の影響
   7.ドパミン補充と大脳の活性化
  D.ドパミン放出に関する in vivo 試験
   1.ドパミンと動作
   2.欲求と享受
 2.プラセボ効果: パーキンソン病からの教え
              〈Sarah Lidstone, A. Jon Stoessl〉
  A.パーキンソン病におけるプラセボ効果: 臨床所見
  B.パーキンソン病におけるプラセボ効果: 神経画像所見
  C.ドパミンと報酬
  D.報酬予測とプラセボ効果
  E.その他の疾患における期待とプラセボ効果
  F.結論
 3.強迫性障害における基底核の関与
   ―パーキンソン病の精神症状との関連―   〈黒木俊秀,中尾智博〉
  A.強迫性障害とパーキンソン病
   1.強迫性障害と基底核疾患
   2.パーキンソン病にみられる強迫症状
  B.Dopamine dysregulation syndrome と強迫スペクトラム障害
  C.強迫性障害の機能的脳画像所見
   1.安静時,および課題施行時の画像所見
   2.治療による画像所見の変化
   3.OCD ループ仮説
  D.強迫性障害の異種性
 4.パーキンソン病と病的賭博   〈柏原健一〉
  A.パーキンソン病患者の行動異常における病的賭博の位置づけ
  B.パーキンソン病 病的賭博の性状
  C.パーキンソン病 病的賭博の機序
  D.パーキンソン病 病的賭博の中枢神経系機序
  E.ドパミン受容体サブタイプと病的賭博
  F.治療

第3章  パーキンソン病の認知機能
 1.パーキンソン病における情動関連障害   〈三村 將〉
  A.パーキンソン病におけるうつ病,うつ状態
  B.パーキンソン病における表情認知
  C.パーキンソン病における意思決定
 2.運動がパーキンソン病の認知機能に及ぼす影響について: 仮説的考察
                        〈三輪英人〉
  A.運動が認知機能低下に及ぼす影響
   1.高齢者における疫学的研究
   2.運動の種類と歩行
  B.パーキンソン病患者における運動の効果
   1.身体的活動とパーキンソン病
   2.パーキンソン病における運動の治療的効果
  C.運動が脳に与える影響: 動物モデルから知り得たこと
  D.身体から脳へ: Body−to−brain mediator
   1.運動の認知機能に対する効果: アルツハイマー病遺伝子
     変異モデルにおける知見
   2.運動の認知機能に対する効果: パーキンソン病モデルにおける知見
  E.仮説的考案: パーキンソン病における運動の効果

第4章  Dementia with Lewy Body(DLB): update
 1.パーキンソン病とレビー小体型認知症の生化学
   ―両者間に相違があるか―   〈柏原健一〉
  A.中枢ドパミン系
  B.中枢コリン系
  C.その他の系
 2.パーキンソン病認知症,レビー小体型認知症の神経病理学的な差異について
                        〈坪井義夫〉
  A.PDD,DLB の臨床概念,病理概念の不一致
  B.PDD と DLB 神経病理学的差異を検討する
   1.脳萎縮パターンにおいて PDD,DLB の違いは?
   2.Lewy 小体の脳内分布あるいは密度
   3.PDD,DLB におけるアルツハイマー病関連病理の影響
  C.Mayo Clinic Brain Bank 連続剖検症例における PDD,DLB の差異の検討

第5章  神経機能画像の進歩
 1.ドパミントランスポーターイメージングの基礎   〈篠遠 仁〉
  A.[123I]β−CIT の動態
  B.パーキンソン病および関連疾患における[123I]β−CIT SPECT の所見
  C.本邦における DAT SPECT の開発状況
 2.ドパミントランスポーターの基本概念: パーキンソン症候群の早期診断および
   鑑別診断におけるドパミントランスポーターイメージングの役割
                       〈Wolfgang H. Oertel〉
 3.パーキンソン症候群とドパミントランスポーター SPECT 検査
                       〈Eduardo Tolosa〉
 4.神経機能画像法によるパーキンソン病の早期発見   〈A. Jon Stoessl〉
 5.ポジトロン放出断層撮影法(PET)の進歩: パーキンソン症候群とその他の疾患
   におけるミクログリア細胞活性化の画像化   〈David J. Brooks〉

索引