1973年にイギリスのHounsfieldによってCTが人体への使用が始まったことにより,それまで,ほとんど単純X線撮影とその応用である造影検査のみによって行われていた画像診断に大きな変化が起こった.その後,MRIが実用化され画像診断におけるCTの役割は少し変化したが,ヘリカルCTが出現し,さらに多列型CT〔multidetector-row CT(MDCT)〕の開発,4列から64列への多列化の発展と急速な進歩により新たな展開を遂げてきている.この30数年間,CTは常に画像診断の中心的検査法の位置を保ってきた.初期には珍しい画像検査法であったCTも現在ではごく当たり前の検査法となり,何はともあれCTから検査が始まるというようになってしまった.この風潮には筆者は批判的であるが,実際にはくつがえすことができないほどの大きな現実となっている.
 CT技術の進歩とともに検査方法も変化し,提供されるデータ量も飛躍的に増加し,さらに新たな所見の出現や,より詳細な所見の解釈により読影方法も変化してきている.読影の手段もフィルムを使用しシャーカステンで読影するのが普通であったが,いまやCRTモニタを使って読影する時代に変わりつつある.
 上述のように様々な面で大きな変化が起こり,さらに起こりつつある時期であるが,正常解剖は常に画像診断の基本である.筆者は15年前に自分自身の必要性から『ポケットCT解剖アトラス』という本を編集し,多くの医療従事者の支持を受けてきた.筆者自身にとっても未だ現役の参考書であり,今でも読影室の自分の机の引き出しに入れてあり,今日も胸壁の筋肉の名前の確認のために利用した.しかし,15年は短くない期間であり,CTの画質も古くなってきたため新たなCT解剖書を企画し発刊することになった.基本的には前書の日々の臨床に役に立つ簡便なCT解剖書とするという概念に変わりはなく,さらに改良を加えたものであり,前書と同様に医師,診療放射線技師,看護師などCTに関わる全ての医療従事者の役に立つ本になったと自負しており,多くの人に利用されるように願っている.

2006年5月
河野 敦


目次

1.頭部・頭蓋底  <遠藤寛子> 1
    a. 頭部
    b. トルコ鞍
    c. 頭蓋底
2.側頭骨  <田中宏子> 41
3.眼窩・鼻副鼻腔・口腔  <田中宏子> 59
4.頸部  <山田恵子> 103
5.肺・縦隔  <河野 敦・遠藤寛子・藤原良将> 117
6.上腹部  <松枝 清> 157
7.女性骨盤  <五味直哉> 193
8.男性骨盤  <藤原良将> 215
9.脊椎  <河野 敦> 245
    頸椎
    胸椎
    腰椎
10.上肢  <河野 敦> 275
11.下肢  <河野 敦> 285

索引  301