今回,中外医学社から東海大学消化器内科で内視鏡マニュアルを作成してはどうかという提案があった.現在,内視鏡マニュアルとして書かれているものは世の中にたくさんあり,同じようなマニュアルの本を作ることの意味があるかどうかを私は迷ったが,よく考えてみると比較的若い世代の消化器内視鏡医の視点から書かれているものはあまりなく,ある程度完成された内視鏡医の執筆によって構成されたものが多いことに気がついた(私もその執筆者であることも多いが).
 私が思うに一般的に技術とは切磋琢磨してようやく身についているものである.しかも,それぞれの発展段階によって少し教え方もかわってくると思われる.執筆者の中に私も(因みに私は27年間内視鏡に携わっているが)はいっているが,それ以外はまさに脂ののりきろうとする段階の内視鏡医から脂ののりきった段階の内視鏡医が執筆している.このように経験十分な私共の消化器内科の医員が執筆し私自身がそれらを監修して,一冊の本に仕上げた.
 この本はこれから内視鏡を学ぼうとする人だけではなく内視鏡の技術をこれから上達することが目標の消化器内視鏡医およびある程度内視鏡の技術を有している消化器内視鏡医にとってかなり役立つのではないかと思われる.
 最後に内視鏡というものは最近技術のみが議論されているが私は常々,内視鏡も患者あっての技術であり,内視鏡の技術も患者に受けいれられるものでなくては進歩がないと思っている.これらの技術はあくまで患者のためであって,そのために自分の技術を磨くために常に修練しなければいけない.ここに安全性と進歩が存在すると思われる.
 この本を通読することによりそのような消化器内視鏡医が育つということを信じて疑わない.
2005年9月
峯 徹哉


◆ 目次 ◆

第1章 総論
A.内視鏡に必要な解剖  2
 1.上部消化管 <加川建弘>  2
  1.咽頭  2
  2.食道  4
  3.胃  5
  4.小腸  9
  5.十二指腸  9
  6.空腸・回腸  10
 2.胆膵 <高清水眞二>  11
  1.胆嚢と胆嚢管  11
  2.肝内胆管と肝外胆管  11
  3.膵臓  13
 3.大腸 <伊東明美>  17
  1.大腸の定義  17
  2.大腸の区分  17
  3.内視鏡検査に必要な大腸の解剖学的特徴  19
B.検査のための informed consent の書き方 <鈴木荘太郎>  24
  1.インフォームドコンセントinformed consentとは  24
   a.歴史的経緯  24
   b.概念  25
   c.法的意義  25
  2.消化器内視鏡検査におけるinformed consentの実際  27
   a.informed consent実施時の態度と対応事項  27
   b.具体的な説明内容  28
   c.関連事項  29
C.安全な内視鏡に必要なモニタリング <長田成彦>  33
D.洗浄・消毒 <鄭 義弘>  36
  1.内視鏡器機の基本的構造  36
  2.これまで報告された内視鏡関連感染症  38
  3.日常の現場で求められる滅菌・洗浄の条件  38
  4.実際の洗浄の手順  38
   a.検査終了直後  40
   b.流し台に移動してからの作業  40
   c.酵素洗剤液への浸漬  41
   d.消毒  41
   e.乾燥  41
E.Sedation について <椎名泰文>  43
  1.鎮静薬を用いた内視鏡検査について  43
  2.内視鏡室の設備  43
  3.鎮静薬を用いた内視鏡検査の実際  44
  4.鎮静薬の使用量と拮抗薬の使い方  45
   a.ベンゾジアゼピン系鎮静薬  45
   b.麻薬系鎮痛薬  46
   c.全身麻酔薬  46
  5.鎮静薬を用いたための偶発症への対応  47

第2章 内視鏡検査
A.上部消化管内視鏡  50
 1.直視の内視鏡 <松嶋成志>  50
  1.直視鏡とは  50
  2.禁忌と適応  50
  3.前処置,前投薬  52
  4.衣服と体位  53
  5.内視鏡の持ち方と作動チェック,挿入前の準備  54
  6.患者への話しかけ  54
  7.挿入法  55
  8.見下ろしと反転  60
  9.観察の手順  61
 2.側視の内視鏡 <高安博之>  63
  1.ビデオスコープ各機種の仕様比較  63
  2.検査の方法と注意  67
   a.胃内への挿入方法  67
   b.胃内の観察方法  68
 3.症例呈示  74
   症例 1 噴門部小弯側の病変  74
   症例 2 胃体上部後壁側の病変  75
   症例 3 胃体上部後壁側の病変  76
   症例 4 胃体下部小弯側の病変  77
   症例 5 胃角部後壁側の病変  78
 3.生検の仕方 <宮澤正行>  81
  1.生検の目的  81
  2.生検時の注意点  82
   a.施行前の注意点  82
   b.施行時の注意点  83
   c.施行後の注意点  86
B.ERCP <峯 徹哉>  88
  1.ERCPの適応とは  88
  2.ERCP施行の際に気をつけること  89
   a.インフォームドコンセントと術前チェックリスト  89
   b.前処置  90
   c.鎮静のための前投薬と術中モニタリング  90
   d.ERCPの実際  90
  3.Key points  92
   a.前投薬  92
   b.挿入法  92
   c.カニュレーション  94
  4.偶発症対策  94
   a.術中モニタリング  94
   b.消化管穿孔  94
   c.術後管理  94
C.小腸内視鏡(挿入法) <鈴木孝良>  96
  1.ダブルバルーン式内視鏡  97
   a.ダブルバルーン式内視鏡システム  98
   b.挿入原理と特徴  98
   c.ダブルバルーン式小腸内視鏡の実際  99
  2.偶発症  99
D.大腸内視鏡(挿入法) <青木 純>  100
  1.大腸内視鏡検査の適応と禁忌  100
  2.大腸内視鏡検査施行の際に気をつけること  101
   a.検査前検査  101
   b.前処置  101
   c.前投薬  102
  3.大腸内視鏡挿入の実際  102
  4.Key points  103
   a.Rsの越え方  103
   b.S状結腸,SD屈曲部の越え方  103
   c.脾彎曲部の越え方  105
   d.横行結腸の越え方  109
   e.肝彎曲部の越え方  109
   f.上行結腸から盲腸へ  109
  5.観察の方法  110
  6.偶発症対策  110
   a.検査中モニタリング  110
   b.消化管穿孔  110
   c.検査後管理  110
E.超音波内視鏡 <小林健二>  112
 1.上部消化管超音波内視鏡  112
  1.上部消化管超音波内視鏡検査の適応  112
  2.観察の実際  112
   a.前処置・挿入  112
   b.観察  113
   c.施行にあたって知っておくべき解剖と検査の実際  115
  3.疾患ごとの所見  116
   a.食道癌  116
   b.胃癌  118
   c.粘膜下腫瘍  118
 2.大腸超音波内視鏡  122
  1.大腸超音波内視鏡検査の適応  122
  2.検査の実際  122
   a.前処置  122
   b.解剖  122
   c.実際の観察  123
  3.病変の観察  124
   a.大腸癌  124
   b.粘膜下腫瘍  125

第3章 内視鏡治療
A.異物摘出術(アニサキス,PTP等) <川添一哉>  128
  1.異物の種類  128
  2.異物の診断  130
  3.内視鏡的異物摘出法  130
   a.内視鏡機器と把持鉗子の選択とインフォームドコンセント  130
   b.種々の補助具を装着した異物摘出法  131
B.内視鏡的止血術 <渡辺謙一>  135
  1.消化管出血の疫学  135
  2.内視鏡的止血術の適応  136
  3.使用器具と前処置  137
   a.使用器具  137
   b.前処置  137
  4.出血源の検索  138
  5.各種止血術の概要  138
  6.代表的止血術の特徴  139
   a.局注法  139
   b.クリップ法  141
   c.ヒータープローブ法  145
   d.高周波電流凝固法  145
   e.アルゴンプラズマ凝固法  147
  7.内視鏡的止血法無効例への対応(内視鏡的止血術の限界)  148
  8.止血後管理  150
   a.薬物療法  150
   b.止血後の経過観察  150
   c.経過観察内視鏡  150
C.食道静脈瘤内視鏡治療 <渡辺勲史>  152
  1.治療法  152
   a.内視鏡的硬化療法 endoscopic injection sclerotherapy(EIS)  152
   b.内視鏡的静脈瘤結紮術 endoscopic variceal ligation(EVL)  152
   c.EISL(endoscopic injection sclerotherapy and ligation)  152
  2.治療の選択基準  153
  3.手技  154
   a.術前準備  154
   b.手技の実際  156
  4.偶発症とその対策  159
   a.局所偶発症  159
   b.臓器および全身性偶発症  160
   c.PHG  161
D.胃静脈瘤内視鏡治療 <小嶋清一郎>  163
  1.目的と方法  163
  2.治療の選択基準  163
  3.治療の実際と手技《ヒストアクリルを用いた胃静脈瘤硬化療法》  164
   a.インフォームドコンセント  164
   b.必要な器具,薬剤,物品  165
   c.手技  166
  4.Key points  168
  5.術後管理  169
  6.偶発症とその対策  169
E.胃ポリペクトミー <西崎泰弘>  171
  1.意義  171
  2.適応  172
  3.禁忌  173
  4.器具  173
   a.ビデオエンドスコープ  173
   b.高周波スネアと高周波焼灼電源装置  174
   c.留置スネア  174
   d.回収用器具  174
  5.前準備  175
   a.インフォームドコンセント  175
   b.クリニカルパス  175
   c.中止薬  175
   d.術前検査  176
   e.前処置  176
  6.手技の実際  176
   a.内視鏡挿入前  176
   b.内視鏡挿入からスネア絞扼まで  176
   c.通電切断  178
   d.後出血の防止とポリープの回収  178
  7.術後管理  179
  8.経過観察  179
F.EMRとESD(胃・食道) <渡辺純夫>  181
 1.早期食道癌に対する内視鏡的粘膜切除術  181
  1.絶対適応  181
  2.施行の際に気をつけること  182
   a.前処置  182
   b.EEMR−tube法の実際  183
  3.E‐EMR法の特徴とコツ  183
  4.術後管理  184
  5.偶発症  184
 2.早期胃癌に対する内視鏡治療  185
  1.内視鏡治療の適応  185
  2.施行の際に気をつけること  186
   a.ESDのポイント  186
   b.インフォームドコンセント  186
   c.前処置  186
   d.ESDの実際  186
  3.ESDの特徴とコツ  187
  4.外周切開  188
  5.ITナイフによる粘膜剥離  189
  6.術後管理  189
  7.偶発症  189
G.大腸EMR <白井孝之>  191
  1.大腸EMRの適応とは  191
  2.施行の際に気をつけること  192
   a.インフォームドコンセントと術前チェックリスト  192
   b.前処置  192
   c.前投与と術中モニタリング  192
  3.Key points  193
   a.挿入法  193
   b.観察  193
   c.器具(デバイス)と手技  194
  4.偶発症対策  196
H.経皮内視鏡的胃瘻造設術 <武藤信美>  198
  1.適応と禁忌  198
  2.PEG施行の際に気をつけること  198
   a.インフォームドコンセント  198
   b.前処置,前投薬,術中モニタリング  199
   c.PEGの実際  199
   d.術後管理  201
   e.偶発症  203
  3.Key points  203
I.ESTとEPBD <朴沢重成>  207
  1.内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST)  207
   a.適応  207
   b.器具  207
   c.手技  208
   d.偶発症とその対策  209
  2.内視鏡的乳頭バルーン拡張術(EPBD)  210
   a.適応  210
   b.器具  210
   c.方法  211
   d.偶発症  213

索引  214