序

 頭部CTやMRIによる画像診断に関しては,すでに多くの成書が出版されています.しかしながら,それらの多くは放射線科医により書かれたもので,臨床医の眼からみた本は少ないように感じていました.

 そんな中で,2001年8月より2003 年12月までの15回にわたり,医学雑誌「臨床医」に主として内科医・神経内科医の扱う神経疾患の画像診断について連載する機会を得ました.本書は,その際の原稿を元に,加筆・修正と症例の追加を行い,一冊の本にまとめたものです.とくに,この間の MRI の進歩は著しく,拡散強調画像などの新しい撮影法も普及したため,一部の画像を入れ替えました.

 本書では,神経疾患の画像所見の解説だけでなく,臨床的に重要な事項も併せて記載しています.画像検査の進め方や選択法についても触れるよう心がけました.また各症例では,なるべく画像を経時的に提示し,臨床経過との関係を理解できるように努めました.

 本書は,その対象として医師になって最初の数年間の,主に内科や神経内科を研修する人々を念頭においています.しかし,医学生や一般医家,さらには日頃臨床に携わる看護師,放射線技師やリハビリ関係の方々にも読んで頂ければと思います.

 大学病院より現在の病院に赴任して約9年が経過しました.本書に収録した症例・画像のほとんどは当院における自験例です.いま振り返って,実に様々な症例に遭遇したことに驚いています.ただ,すべての疾患を網羅することはできないため,一部の症例に関しては次の先生方のご協力を仰ぎました.

 画像をご提供頂いた,慶應義塾大学放射線診断科 百島祐貴先生,同神経内科 野川 茂先生,同神経内科 高尾昌樹先生,名古屋市立大学神経内科 山脇健盛先生,国家公務員共済組合連合会立川病院脳神経外科 清水克悦先生,ならびに貴重なご助言を頂いた東邦大学放射線科 寺田一志先生に厚くお礼申し上げます.

 また,「臨床医」への連載以来お世話になった中外医学社雑誌部 中田久夫さん,ならびに本書の出版に際してお世話になった同編集部 森本俊子さんにも深く感謝致します.

 至らぬ点も多いとは思いますが,本書をお読み頂いた方々から,忌憚のないご批判やご意見をお寄せ頂ければ幸いです.

 2005年7月

 小張昌宏


目次
1.脳出血  1
  A.脳出血の概説  1
  B.CT所見  2
    1)高吸収域  2
    2)好発部位  2
    3)出現時期  4
    4)経時変化  4
    5)脳室穿破とリング状増強効果  6
  C.MRI所見  7
    1)MRIの信号強度7
    2)血腫性状の経時変化  8
    3)MRI所見の経時変化  8
    4)MRI検査の問題点  12
    5)MRI検査の適応  13
  D.他の原因による脳出血  13
    1)脳動静脈奇形  14
    2)海綿状血管腫  15
    3)出血性梗塞  17
    4)出血性素質に伴う脳出血  17
2.脳梗塞  19
  A.脳梗塞の概説  19
    1)臨床病型  19
    2)臨床経過  20
  B.CT所見  20
  C.MRI所見  23
  D.臨床病型の診断  26
  E.閉塞脳動脈の診断  27
  F.CT・MRI検査の役割  33
  G.超急性期の画像所見  34
    1)超急性期CT所見  34
    2)MRI拡散強調画像  36
  H.慢性の脳虚血性病変  40
    1)多発性脳梗塞  40
    2)大脳白質・基底核部の多発性小病変  41
    3)側脳室周囲の白質病変leuko‐araiosis  42
    4)Binswanger病  43
  I.特殊な原因による脳梗塞  45
    1)全身性エリテマトーデス  48
    2)Beh<CODE NUM=008D>et病  48
    3)Willis動脈輪閉塞症(モヤモヤ病)  49
    4)ミトコンドリア脳筋症(MELAS)  49
    5)抗リン脂質抗体症候群  49
    6)子癇  50
3.くも膜下出血  53
  A.くも膜下出血の概説53
  B.CT所見  54
  C.髄液検査と脳血管造影  58
  D.MRI所見  58
  E.未破裂脳動脈瘤  59
4.頭部外傷  61 
  A.硬膜下血腫61
    1)慢性硬膜下血腫  61
    2)急性硬膜下血腫  65
  B.急性硬膜外血腫  67
  C.脳挫傷  68
  D.びまん性軸索損傷  68
5.脳腫瘍  70
   A.脳腫瘍の概説  70
    1)種類  70
    2)臨床症状  70
    3)診断  71
  B.髄膜腫  72
  C.下垂体腺腫  76
  D.頭蓋咽頭腫  78
  E.ラトケ嚢胞  80
  F.トルコ鞍空洞症  80
  G.神経鞘腫  82
  H.胚細胞腫  85
  I.松果体嚢胞  87
  J.血管芽腫  88
  K.小脳星状細胞腫  90
  L.髄芽腫  91
  M.神経膠腫  92
    1)星状細胞腫と膠芽腫  92
    2)乏突起膠腫  96
  N.中枢神経系悪性リンパ腫  96
  O.転移性脳腫瘍  99
6.神経系感染症  103
  A.脳膿瘍  103
  B.脳炎  107
    1)単純ヘルペス脳炎  108
    2)他のウイルス性脳炎  111
  C.髄膜炎  111
    1)ウイルス性・細菌性髄膜炎  111
    2)結核性髄膜炎  111
7.脱髄疾患  113
  A.多発性硬化症  113
  B.急性散在性脳脊髄炎  119
8.変性疾患  123
  A.脊髄小脳変性症の概説  124
  B.多系統萎縮症  125
    1)オリーブ橋小脳萎縮症(OPCA)  126
    2)Shy‐Drager症候群  126
    3)線条体黒質変性症(SND)  126
  C.小脳皮質萎縮症  127
  D.遺伝性脊髄小脳変性症  129
    1)SCA1  129
    2)SCA3(Machado‐Joseph病)  129
    3)SCA6  131
    4)歯状核赤核淡蒼球Luys体萎縮症(DRPLA)  131
  E.Huntington病  131
  F.進行性核上性麻痺  132
  G.大脳基底核石灰化症  133
  H.Wilson病  135
9.痴呆疾患  137
  A.Alzheimer病  138
  B.Pick病  140
  C.脳血管性痴呆  141
    1)多発性ラクナ梗塞  142
    2)Binswanger病  144
  D.正常圧水頭症  145
  E.Creutzfeldt‐Jakob病  149
10.中枢神経系奇形  151
  A.脳梁無形成  151
  B.異所性灰白質  153
  C.Chiari奇形  153
  D.脊髄空洞症  154
  E.くも膜嚢胞  156
  F.透明中隔腔  158
  G.神経皮膚症候群  159
    1)神経線維腫症(von Recklinghausen病)  159
    2)結節性硬化症  159
    3)Sturge‐Weber症候群  159
索引  161