序
東京女子医科大学の輸血部門は 46 年前に独立した部門として創設され,故村上省三元教授,十字猛夫元教授並びに清水勝前教授のご努力により輸血用血液製剤の一括管理,コンピューターによる血液製剤の管理・供給,輸血検査の 24 時間体制やヒト由来の全血漿分画製剤の管理・供給などが行われ,我が国における血液製剤・血漿分画製剤の管理・供給体制のモデルが築かれた.
その後,時代の変遷と共に中央診療部門として従来より体制の整っている各種血液細胞採取の設備・技術を生かした細胞療法・再生医療への診療支援が強く求められるようになった.そこで,以前より実施していた血液疾患に対する自己末梢血幹細胞採取や習慣性流産に対するリンパ球移入療法に加え,2001(平成 13)年から本格的に固形腫瘍に対する末梢血幹細胞移植療法,活性化自己リンパ球移入療法,樹状細胞を用いた免疫療法,γδ型 T 細胞を用いた免疫療法,薬剤抵抗性関節リウマチに対する白血球除去療法,閉塞性動脈硬化症やバージャー病に対する血管再生療法や歯槽骨再生療法などの細胞療法・再生医療を開始した.
本書は細胞療法・再生医療の一部ではあるが当部の専任・兼任医師のみで実際に東京女子医科大学で実施している治療法について述べた.また,未だモデル動物を用いての検討段階であるが,私の 30 数余年に亘るライフワークである遺伝性血液疾患の根治療法と考えられる遺伝子治療の現状についても触れた.
今後,同様な方向性の医療を目指しておられる方々に本書が多少なりともお役に立てれば望外の喜びである.
本書を出版するにあたり,東京女子医科大学東間紘名誉教授,高崎健名誉教授,堀智勝教授,扇内秀樹教授,寺岡慧教授,岩本安彦教授,泉二登志子教授,鎌谷直之教授,山本雅一教授,ならびに田邊一成教授の多大なご支援・ご助力に対して厚くお礼申し上げます.
当部の専任・兼任医師の方々は日常診療で忙しい中,皆熱心に執筆下さり,また,織田達男課長補佐,岡本好雄主任,今野マユミ看護師を始めとしたスタッフ一同は本プロジェクトの推進に協力下さり,厚く感謝する次第である.
本書の出版に際しご理解とご助力下さった中外医学社荻野邦義取締役ならびに編集の労をお取り頂いた久保田恭史氏に心から謝意を表する.
2007 年 10 月吉日
藤井寿一
目次
I.総 論 〈菅野 仁〉
A.細胞療法,再生医療の過去,現在,未来
B.細胞プロセシング業務の内容−東京女子医科大学の現状
C.細胞プロセシング業務の実際
1.血液成分分離採血法(サイタフェレシス)
2.細胞純化
3.細胞培養
II.各 論
1.固形腫瘍に対する造血幹細胞移植 〈鶴田敏久〉
A.はじめに
B.固形腫瘍に用いられる造血幹細胞移植の種類と特徴
1.骨髄移植と末梢血幹細胞移植
2.骨髄非破壊性同種造血幹細胞移植(ミニ移植)と移植片対腫瘍(GVT)作用
3.タンデム移植
C.造血幹細胞の採取法
1.末梢血への幹細胞の動員法
2.末梢血幹細胞の採取法
D.採取細胞の評価と必要細胞数
1.コロニーアッセイ
2.フローサイトメトリー
E.採取細胞の濃縮と凍結
1.造血幹細胞の濃縮法
2.造血幹細胞の凍結法
F.固形腫瘍の造血幹細胞移植前処置に用いられる薬剤
G.細胞の融解と患者への輸注
H.回復までの管理と合併症
I.各疾患における造血幹細胞移植の実際
1.成人を中心とした固形腫瘍
2.小児を中心とした固形腫瘍
2.がんに対する免疫療法−法的規制,CPC,活性化リンパ球療法,樹状細胞療法 〈有賀 淳〉
A.はじめに
B.細胞療法・再生医療における法的規制の現状
1.ヒト細胞を扱う医療に関する法的規制
2.細胞調製における GMP 基準
3.がん免疫療法の施行における法的規制
C.細胞療法・再生医療のための CPC 整備
D.がん免疫療法
E.活性化リンパ球療法
1.LAK 療法
2.TIL 療法
3.CAT 療法
4.CTL 療法
5.γδ型 T 細胞療法
6.NKT 細胞療法
7.がん特異抗体併用 NK 療法
F.樹状細胞療法
1.樹状細胞がんワクチン療法
2.腫瘍内樹状細胞局注療法
3.ATVAC 臨床試験(樹状細胞がんワクチン+活性化リンパ球併用療法)
G.がん免疫療法の課題
3.がんに対する免疫療法−γδ型 T 細胞療法 〈小林博人〉
A.意義・原理
1.γδ型 T 細胞とは
2.γδ型 T 細胞と感染症
3.γδ型 T 細胞と腫瘍免疫
4.含窒素ビスホスホン酸とγδ型 T 細胞
5.免疫化学療法
B.適応
1.腎細胞がん
2.尿路上皮がん
C.プロトコル作成
D.結核菌抗原類縁体を利用したがん標的免疫療法の確立−γδ型 T 細胞の示す
抗腫瘍作用の臨床応用−(臨床第 I/ II相試験)臨床試験実施計画書
1.シェーマ
2.目的
3.背景と根拠
4.試験薬・試験細胞情報
5.診断基準
6.対象
7.登録
8.治療計画
9.有害事象の評価・報告
10.観察・検査項目およびスケジュール
11.本試験で発生する検体
12.目標症例数と試験期間
13.免疫学的モニタリング
14.評価方法
15.エンドポイントの定義
16.統計学的考察
17.モニタリング
18.倫理的事項
19.試験の費用負担
20.プロトコルの承認と改訂
21.試験の終了と早期中止
22.記録の保存
23.研究結果の発表
24.研究組織
25.付表
E.自己活性化γδ型 T 細胞注射薬概要書
1.要約
2.序文
3.細胞の採取,培養,投与方法および品質
4.非臨床試験におけるγδ型 T 細胞の薬理,毒性,投与後の動態
5.先行臨床試験におけるγδ型 T 細胞の薬理,毒性,投与後の動態
6.データの要約,および試験責任医師に対するガイダンス
7.文献
F.方法・手技
1.リンパ球採取
2.ヒトγδ型 T 細胞の培養方法
G.連続血球分離装置を用いた単核球分離
H.γδ型 T 細胞の培養
I.細胞の回収
J.細胞の投与
K.品質管理(quality control: QC)
L.成績
1.腎がんに対する自己活性化γδ型 T 細胞移入療法
2.上部尿路上皮がんおよび他の泌尿器系がんに対する免疫化学療法
M.本法を行う際の注意点・問題点
1.抗原
N.細胞療法を目的とした細胞培養液
1.細胞医療における培養液の重要性
2.細胞医療を目的とした細胞培養液の開発
3.細胞医療をターゲットとした無血清培養液
4.無血清培養液の製造と品質管理
5.培養液の安全性試験
6.まとめ
O.関連事項
1.品質保証
2.臨床試験登録−ICMJE の声明と条件
3.トランスレーショナル・リサーチにおける補償と賠償および製造物責任
4.薬剤抵抗性関節リウマチに対する白血球除去療法 〈小倉浩美〉
A.意義・原理
B.適応
C.方法・手技
1.用意する物
2.手技
3.治療中のチェック事項
D.成績
E.LCAP に要する医療費
F.今後の展望
5.重症虚血肢に対する血管再生療法 〈菅野 仁〉
A.再生療法の基礎
1.再生能力を有する細胞--幹細胞とは
2.種々の幹細胞ソースと再生医療
B.血管再生療法
1.背景
2.重症虚血肢への血管再生療法
6.歯槽骨再生療法−多血小板血漿(PRP)を用いた歯周組織再生治療 〈小倉浩美〉
A.はじめに
B.歯周組織再生の原理
1.組織再生誘導(guided tissue regeneration; GTR)療法
2.再生誘導細胞の培養,移植
3.様々な細胞増殖因子(サイトカイン)療法
C.多血小板血漿(PRP)を用いた歯周組織再生
D.今後の展望
7.遺伝子治療 〈槍澤大樹〉
A.遺伝子治療とは
B.対象疾患
C.遺伝子導入法
D.造血幹細胞を用いた遺伝子治療
E.レトロウイルスによる遺伝子治療
F.レトロウイルスによる白血病発症機構
G.造血幹細胞を用いた遺伝子治療の安全性
H.レンチウイルスベクター
I.遺伝子導入時の培養条件
J.レンチウイルスベクターによる挿入部位
K.造血幹細胞の採取と遺伝子導入
L.RNA 干渉を応用した遺伝子治療
索引