私が大好きな本に「村上信夫のおそうざいフランス料理」というものがあります.昭和53年に発刊されすでに絶版となってしまった本ですが,帝国ホテルの総料理長にまでなった村上信夫氏が一般家庭向けにフランス料理の作り方を書いたものです.フランス料理と聞くと,ソースから素材から作ったり見つけたりするのが大変でとても自分ではできないと思いがちですが,この本はそれを簡単にしかも決して妥協することなく本格的に作れるようにしております.そして,氏はその序文の中で,この本は絵本として大切に本棚に飾っておくのではなく,表紙が油のはねでよごれ,ページにおつゆのしみがつく,そんな本になってほしい,と述べております.
 この本も,そういう思いで書きました.もちろん,心臓リハビリテーションはフランス料理とはまったく異なるものですが,とっつきにくくあまり普及していない心臓リハビリテーションが,簡単にだれでも実施できるものになって欲しいと思って書いたものです.ですから,この本は本棚に飾っておくのではなく,臨床の現場に持っていって,中に書いてある図表を患者さんに示しながら,ぼろぼろになるまで使いこなして頂きたいと願っています.そのために,そのままコピーして患者教育に使えるような図表を多くしました.また,ひとつの章だけを読んでも内容がわかるように,必要だと思う時には同じ図表が各章ごとにくりかえし出てくるようにしてあります.200ページくらいの本でも,全部通して読む時間はなかかないものですから.
 この本の特徴は,多施設の有名人が集まって書いたものではなく,群馬県立心臓血管センターのスタッフだけが書いたということです.ですから心臓リハビリテーションのひとつの形がこの本を通して透かして見えると思います.この本のやり方を参考にすれば群馬型の心臓リハビリテーションができますし,各施設で工夫すればさらに良い独自の心臓リハビリテーションができると思います.また,患者教育関連の項目にかなりページを割いたのも特徴です.これは,現在の心臓リハビリテーションにおいて,運動療法とともに患者教育が極めて重要であると考えているからです.是非,この本を踏み台にして自分の施設の心臓リハビリテーションをブラッシュアップしていってください.
 この本が,わが国の心臓リハビリテーション普及の一石となり,心臓病で悩む患者様の正しい治療の一助となれば幸いです.

2007年2月
群馬県立心臓血管センター
安達 仁


目次

1.心臓リハビリテーションプラン(入院から外来へ) 〈安達 仁〉

 はじめに―心臓リハビリテーション概観―
 A.心臓リハビリテーションの概念
 B.心臓リハビリテーションの意義
 C.心臓リハビリテーションの流れ
   1.急性期心臓リハビリテーション(phase I)
   2.慢性期心臓リハビリテーション(phase II,III)
 D.施設基準,スタッフ

2.入院中の心臓リハビリテーションと看護 〈松村郁子〉
 はじめに
 A.運動負荷試験および運動療法の実際
 B.運動療法中の注意点
 C.規則正しい生活の確保
 D.患者および家族指導
 E.心臓リハビリテーションにおける看護師の役割と生活指導のポイント
 おわりに

3.外来心臓リハビリテーション
a.看護師による心臓リハビリテーション外来 〈安達 仁〉
 はじめに
 A.患者教育の効果
 B.コミュニティでの心臓リハビリテーションとセンターでの
   心臓リハビリテーション
 C.看護師による心臓リハビリテーション外来の実際
 D.看護師による心臓リハビリテーション外来の効果
 まとめ
b.医師による心臓リハビリテーション外来 〈櫻井繁樹〉
 はじめに
 A.心臓リハビリテーションの方法と問題点
 B.心臓リハビリテーション専門外来の特徴
 C.心臓リハビリテーション専門外来の流れと6ヵ月(24週)プログラム
 D.心臓リハビリテーションの1日の流れ
 E.レクチャー
 F.費用
 おわりに

4.カテラボと心臓リハビリテーション 〈安達 仁〉

5.運動療法 〈高橋哲也〉
 A.ADL改善目的の理学療法
  1.急性心筋梗塞後のADL改善目的の理学療法
  2.心臓外科手術後のADL改善目的の理学療法
  3.ADL拡大が遅延する症例に対する理学療法
  4.理学療法プログラム立案で考慮すること
 B.心疾患患者と呼吸理学療法
  1.循環器疾患の呼吸不全の原因
  2.心臓外科手術後の呼吸運動療法
  3.呼吸器合併症の発症率
  4.呼吸器合併症の予防
 C.有酸素運動の実際
  1.運動療法の開始時期とその留意点
  2.機器を使用した有酸素運動の実際
  3.非監視型運動療法
  4.運動療法継続のための行動変容プログラム
  5.その他の有酸素運動療法
 D.レジスタンストレーニングの実際
  1.レジスタンストレーニングの目的
  2.レジスタンストレーニングの禁忌
  3.レジスタンストレーニングの導入時期
  4.レジスタンストレーニングの運動処方
  5.レジスタンストレーニングの注意事項

6.健康増進と運動 〈斉藤智子〉
 A.健康増進概念の広がり
  1.生活習慣病の予防としての身体活動量の有効性と役割
  2.医療,福祉,保健,教育・スポーツ各領域における
    心臓リハビリテーションの知識普及へ
 B.群馬県立心臓血管センターにおける一次予防分野の取り組み 
 C.運動の専門家(exercise specialist)として

7.運動処方 〈安達 仁〉
 A.心疾患患者と有酸素運動
  1.交感神経活性があまり亢進しない
  2.乳酸産生が亢進しない
 B.心肺運動負荷試験
  1.ATの理論的背景
  2.AT決定法
  3.実際のAT決定法
  4.AT決定から運動処方へ
  5.心肺運動負荷試験の実際
 C.疾患別の運動処方
  1.虚血性心疾患
  2.心不全
  3.開心術後
  4.大血管疾患
  5.糖尿病・肥満・メタボリックシンドローム
 D.心拍数を用いた運動処方(心拍処方)
 E.自覚症状による処方
 F.トークテスト
 おわりに

8.患者教育 〈畦地 萌〉
 はじめに
 A.教育シート
 B.問題点抽出のコツと指導のポイント
 C.評価法
  1.双方向型教育プログラム
  2.心臓リハビリテーション専門外来と看護面談

9.栄養指導の実際 〈森 明美〉
 A.患者の食習慣を把握
 B.塩分制限のポイント
  1.薄味で美味しく食べるコツのポイント
 C.血清脂質改善のポイント
  1.栄養基準(高脂血症治療ガイド2004年版より)
  2.血清脂質を減らすためのポイント
 D.エネルギー制限のポイント
  1.摂取エネルギー算出の目安
  2.肥満治療の栄養素量の基準(肥満症治療ガイドライン2006より)
  3.エネルギー制限のポイント
 E.栄養指導方法について
  1.個別指導
  2.集団栄養指導
 F.食べ物・食べ方Q&A(よくある患者からの質問)
 G.継続するために

10.虚血性心疾患患者への心臓リハビリテーション 〈安達 仁〉
 はじめに
 A.狭心症と心筋梗塞の考え方―動脈硬化と血栓―
 B.心臓リハビリテーションの実際

11.開心術後の心臓リハビリテーション 〈安達 仁〉
 A.心臓リハビリテーションに必要な開心術の基礎知識
 B.心臓リハビリテーションのステージ
 C.心臓リハビリテーションの方法
 D.心臓リハビリテーションの効果

12.慢性心不全の心臓リハビリテーション 〈安達 仁〉
 はじめに
 A.心臓リハビリテーションの観点からみた心不全の基礎知識
  1.自律神経活性
  2.血管拡張能・血管内皮細胞機能
  3.骨格筋機能
  4.換気応答
  5.心機能
 B.心臓リハビリテーションの実際
  1.運動療法
  2.食事療法
  3.生活指導

13.大血管術後のリハビリテーション 〈安達 仁〉
 A.解離性大動脈瘤,胸腹部大動脈瘤
 B.閉塞性動脈硬化症

14.一次・二次予防,三次予防 〈安達 仁〉
 はじめに
 A.肥満
  1.目標体重
  2.食事療法
  3.行動修正療法
  4.運動療法
  5.運動・食事・体重の記録
 B.糖尿病
  1.血糖コントロールとインスリン抵抗性
  2.コントロール目標,インスリン抵抗性の指標
  3.食事療法
  4.運動療法
 C.脂質代謝異常
  1.脂質代謝異常把握のための検査
  2.治療目標値
  3.食事療法,運動療法
 D.高血圧
  1.減塩
  2.減量
  3.運動療法
 まとめ

15.運動療法の危険性 〈安達 仁〉
 はじめに
 A.虚血性心疾患
 B.不整脈
 C.対策

付表・付図
 付表―1.心筋梗塞の心臓リハビリテーション実施計画書
 付表―2.開心術後の心臓リハビリテーション実施計画書
 付表―3.運動療法記録表
 付表―4.理解度チェック用紙
 付表―5.心臓リハビリテーションプログラム(2006年11月版)
 付表―6.体重記録表
 付図―1.心臓リハビリテーション手帳の一部

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