第10版の序

 本書の初版は23年前に刊行された.その後,免疫学の進歩に合せ2〜3年おきに適宜手を加えた改訂版を出し,7版では全面的な書き直しを行った.まったくの初学者を対象とするということを念頭に置いているので,学問の最先端の詳細な部分には立ち入れないことはやむをえないと思うが,基本的な考え方に関しては時代に遅れない内容にしているつもりである.今回の改訂にあたり,改めて読み直してみて,初学の方にでも理解しやすいように記されているように思う.免疫学は多くの方が関心をもっておられるのに,難解なゆえに敬遠されているきらいがある.本書はそれに対して入りやすい入口を用意できるものと自負している.これまで多くの方に御愛読を頂いたが,この10版も免疫学のかけ値なしの入門書としてお役に立てればと思う.

  2004年9月

  著 者

初版の序

 国外から国に危害を与えるようなものが攻め入ってきたらそれを防がねばならない.国内においても秩序を乱すようなものが現れたらそれを抑えなければならない.免疫は生体においてそれと同じような働きをしている.免疫のメカニズムやそれを担当しているものについての知識はこの10〜20年の間に飛躍的に増してきた.実にユニークな機構が存在することが次々に明らかにされてきたのである.

 免疫学についての関心は高く,知識をえたいという人は多い.しかしながら,難しくてよくわからない,とりつきにくいというような声もよく耳にするのである.近年とみに脚光をあびた学問の分野である.できるだけ多くの人にその内容を知って頂けたらと思う.

 筆者も免疫学の各領域に詳しい知識をもっているわけではないが,初学の方々に専門知識への橋渡しができたらというような気持ちでこの本を書いた.できるだけ親しみをもって頂けるようにという目的で問答形式で書かれている.このような形式は親しみやすいというばかりでなく,問題点をはっきりさせるということにも役に立つと思う.本書を気楽に読み流して頂けば,免疫学のアウトラインが頭に入り,専門用語についての理解もできるのではないかと思う.更に詳しい知識をえたい方はその上で本格的な免疫学の書物にとり組んで頂けば,当初とりつきにくいと思った本も身近なものに感じられるようになっているであろう.免疫学に興味をお持ちの方々にお役に立てば幸いである.

1981年10月

著者


目次
1.免疫とは何か  1
 自己と非自己
 自己と非自己の識別
 抗原レセプター
 非自己の排除
 T細胞の抗原認識とMHC
 非自己細胞の破壊
 大まかな非自己の認識
 免疫とアレルギー
2.抗体の構造と機能  17
 抗体の構造
 抗体の抗原結合部の多様性
 -どうして無数に近い種類の鍵穴が用意できるのか
 免疫グロブリンとそのクラス
 抗体の働き
3.白血球の種類  40
4.リンパ球の種類と働き  43
 B細胞
 T細胞
 NK細胞
 NKT細胞
 LAK
5.T細胞と抗原との反応  54
6.T細胞の分化  64
7.B細胞からの抗体産生  72
 B細胞の分化
 T細胞による抗体産生補助
 抗体産生
8.異物の除去と食細胞  77
9.異質細胞の破壊  81
 キラーT細胞
 NK細胞
 抗体の関与する細胞傷害
 輸血反応
 移植拒絶反応
 移植片対宿主反応
 がん免疫
10.免疫反応の調節  97
 抗イディオタイプ抗体
 Fcレセプターを介する制御
 細胞死による制御
 負のシグナルによる制御
 サプレッサー(レギュラトリー)T細胞
11.免疫細胞の動態  106
12.サイトカイン  114
 サイトカインとサイトカインネットワーク
 インターロイキン
13.補体の働き  121
 活性化の古典経路
 活性化の二次経路
 補体の制御
14.感染をどうやって防ぐか  129
 局所免疫
 化膿菌の防御
 細胞内寄生菌の防御
 ウイルスの防御
 予防接種
 免疫不全
15.免疫反応が起こす病気  143
 アレルギー
 免疫トレランス(免疫寛容)
 自己免疫
索引  157