序
消化器外科領域において最も重要な課題は消化器癌の治療であることはいうまでもなく，この消化器癌の外科治療についてはこれまで多くの本が出版されています．そして最近では，さらなる治療成績の向上と治療の均質化を目指したガイドラインや標準的治療に関するものも目にすることが多くなっています．
消化器癌の治療にあっては，これまでの治療成績を基本とすることは当然ですが，同じ癌であってもそれぞれに異なっており，患者さん個々人にも違いがあり，実際の治療にあたっては実に千差万別であります．「建前と本音」が一致する場合は問題はありませんがしばしば両者がずれることもあり，また，治療成績向上と合併症の治療，予防のために様々な工夫と応用が行われているのが実際であります．従って，治療の標準化が20世紀の大きな成果とするならば，オーダーメード治療，テーラーメード治療が21世紀における消化器癌の外科治療の中心課題といえます．
そこで本書は，標準的治療，すなわち「建前」を基本とすることはもちろんですがそれは成書にゆずり，消化器癌の治療にあたって注意すべきことや工夫をしていること，また疑問に思っていることについて，第一線でご活躍中のそれぞれの分野のリーダーの先生方に「本音」のところを執筆していただくことに致しました．従って，それぞれの項目の内容は，ご執筆いただいた著者の先生方の貴重な経験と卓越した技術に基づいた，いわば汗と結晶の産物であり，行間に込められた思いを読み取っていただき，実際の臨床に応用していただければ幸いです．そして，それが本書のねらいでもあります．その意味で，本書は若手の消化器外科医の先生方を主な対象とはしておりますが，中堅ならびに指導的立場におられる先生にも充分お役に立てるものと確信しています．
最後に，本書の企画に快くご賛同いただき，大変ご多忙のなか貴重な内容をご執筆いただいた先生方に改めて厚く御礼を申し上げます．そして，本書が書棚に置いておかれるのではなく，ページめくりで黒くなって病棟や医局，手術室で見かけるようになることを心より願っています．
2001年6月
東京大学大学院医学系研究科消化管外科教授 上西紀夫
目 次
§1．食 道
1．食道癌の内視鏡治療の適応 2
2．食道癌の内視鏡的切除の方法 4
3．食道癌の内視鏡治療の合併症 7
4．食道抜去術の適応 10
5．食道癌手術における3領域郭清の適応 12
6．食道癌切除後の再建臓器 15
7．食道癌の術前放射線療法・化学療法 18
8．空腸遊離移植術の適応と注意点 23
9．切除不能進行食道癌に対するステント挿入術 26
10．食道癌術後の再建胃管の潰瘍 30
§2．胃
1．内視鏡的粘膜切除術の方法 34
2．内視鏡的粘膜切除術の合併症 37
3．内視鏡的粘膜切除後の局所再発 39
4．胃癌に対する腹腔鏡下手術の適応 40
5．局所切除術の適応とリンパ節郭清 42
6．幽門輪温存胃切除術の適応 44
7．Omentobursectomyの適応 46
8．膵頭十二指腸切除術（PD）の適応 48
9．大動脈周囲リンパ節郭清の適応 50
10．脾臓あるいは膵脾合併切除の適応 52
11．噴門側胃切除の適応，再建術式 55
12．神経温存胃切除術の特徴と利点 58
13．幽門側胃切除後の再建方法 61
14．胃全摘後の再建法 64
15．左上腹部内臓全摘術の適応 66
16．幽門狭窄を伴い切除不能な場合の外科治療 68
17．残胃の癌の初回病変の良悪性と治療 70
18．残胃の吻合部癌の場合の郭清範囲 72
19．多発胃癌の特徴 74
20．胃悪性リンパ腫の治療法の選択 75
21．Epstein-Barr virus（EBV）と胃癌 78
22．AFP産生性胃癌の特徴 80
23．分化型癌と未分化型癌 82
§3．十二指腸・小腸
1．十二指腸腫瘍の治療法 86
2．小腸腫瘍の検査 88
3．スキルス胃癌腹膜再発によるイレウス 90
§4．結 腸
1．大腸癌の肝転移 94
2．大腸癌の肺転移 97
3．腹膜播種を伴う大腸癌 100
4．大腸癌の内視鏡的切除 103
5．内視鏡的切除後の腸切除 106
6．家族性大腸腺腫症の診断と外科治療 109
7．RER陽性大腸癌の特徴と治療 112
8．炎症性大腸疾患に合併した大腸癌 115
9．LSTの診断と治療 118
10．大腸癌に対する腹腔鏡下手術 122
11．多発大腸癌の治療ポイントと術後のフォローアップ 124
12．イレウスを伴う大腸癌の治療 126
13．大腸癌に対する全身化学療法 128
14．尿路系浸潤癌に対する外科治療 130
15．大腸癌穿孔の場合の治療 132
16．大腸癌の組織発生と治療 135
17．大腸癌における大動脈周囲リンパ節郭清 138
18．大腸悪性リンパ腫の治療法 140
19．大腸の悪性腫瘍と鑑別すべき良性疾患 142
§5．直腸・肛門
1．痔瘻癌の診断と手術法 146
2．肛門管癌の診断と治療 148
3．直腸癌の治療方針 150
4．超低位前方切除術の適応と手術上の留意点 152
5．側方リンパ節郭清の適応 154
6．直腸癌に対する自律神経温存術の適応と手技 156
7．骨盤内臓全摘術の適応と手術上の注意点 158
8．直腸局所切除術の適応と手術法 162
9．直腸カルチノイドの診断，特徴と治療法 165
10．直腸悪性黒色腫の特徴と治療法 168
11．直腸癌の局所再発例に対する治療法 170
12．人工肛門造設に当たって 173
13．係蹄式人工肛門とストーマリハビリテーション 176
14．total mesorectal excisionとは 179
15．直腸癌の放射線治療 182
16．直腸sm癌の治療 184
17．パウチ手術の適応 186
§6．肝 臓
1．閉塞性黄疸の手術時期 190
2．肝切除時の術前肝機能の評価 192
3．早期肝癌とは 194
4．肝癌に対する治療法 196
5．多発性の肝細胞癌と多中心性発癌の治療法 198
6．肝硬変患者の発癌リスク因子 200
7．肝細胞癌の検診の検査間隔 202
8．肝細胞癌早期発見法 204
9．大腸癌の肝転移の切除 207
10．大腸・直腸癌の再発結節 210
11．肝切除時の術中のもみだし 212
12．大腸癌・胃癌等の微小肝転移の検出 214
13．肝癌の切除範囲 216
14．肝転移切除の意味 219
15．ICGと肝左葉切除 222
16．多発性の肝細胞癌 224
17．肝細胞癌のPEI 226
18．HPDと肝十二指腸靱帯一括切除 228
19．減黄術（PTCD等）は何日以内に行うか 230
20．肝切除術の切除肝容積 232
§7．胆
1．胆管癌の切除範囲 236
2．胆膵領域の進行癌の治療 238
3．肝門部胆管癌の手術 242
4．胆管癌に対する膵頭十二指腸切除術 245
5．胆嚢癌の切除と膵頭十二指腸切除術 248
6．ステント治療か切除術か 250
7．切除不能の膵胆道癌に対するステント療法 253
8．膵胆管合流異常症例の胆管癌 256
9．肝内胆管癌の早期発見 258
10．胆嚢ポリープのエコーと診断・治療方針 261
11．膵胆管合流異常症例の検査 264
12．先天性総胆管拡張症と胆管癌 267
13．内視鏡的乳頭切除と胆管癌 270
14．肝内結石症と胆管癌 272
15．胆嚢腫瘍の術中迅速診断 274
16．腺腫の治療 276
17．病理検査でみつかった胆嚢癌の治療 278
18．黄色肉芽腫性胆嚢炎と胆嚢癌の鑑別 280
19．胆管癌による閉塞性黄疸 282
20．胆嚢癌の手術での肝切除範囲 284
§8．膵
1．膵癌や胆道癌による黄疸と減黄 288
2．膵癌stage IVaの治療方針 290
3．全胃幽門輪温存膵頭十二指腸切除術 293
4．全胃幽門輪温存膵頭十二指腸切除術と通常の胃切除を伴う膵頭十二指腸切除術 294
5．門脈の予防的合併切除 296
6．膵癌に対する大動脈周囲（16番）リンパ節郭清の意義 297
7．胆道癌・膵臓癌の切除率 298
8．膵癌の補助療法 299
9．悪性の粘液産生膵腫瘍の肝転移の頻度 302
10．粘液産生膵腫瘍の手術とリンパ節郭清 304
11．膵嚢胞の良悪性の鑑別診断 306
12．膵頭十二指腸切除術後の出血 308
13．膵消化管縫合不全の危険因子 310
14．MRCPの診断能 312
15．膵管内乳頭腫瘍の手術適応 314
16．腫瘤形成性膵炎と膵癌の鑑別 316
17．全胃幽門輪温存膵頭十二指腸切除術後の胃内容排出遅延 318
索 引 321