序文

小児救急医療は今,まさに多角的な問題点から社会問題化しています.その問題点には種々の社会医学的要素が絡んでいるのが現状です.しかし,臨床医学の原点は急病や事故で苦しんでいる全ての人々の苦痛を取り去り,安らぎを与えることであることを考えれば,医療提供側が謙虚な医療姿勢を持ち続けることが最も必要です.すなわち,小児危急疾患の特徴から成人救急医療と異なり,多くの軽症者を厭わず,その中から重症者を見抜くことの重要性を再認識すべきです.加えて,小児科専門医が初期救急医療を早期に的確に行い,二次・三次救急疾患への移行を防止することこそが最も重要と考えられ,すなわち,そこに小児救急医療の質が問われていると言えます.さらに,常に真摯な診療姿勢で患児のみならず,家庭背景を考慮しての家族ぐるみの対応による全人的医療こそが基本と言えるでしょう.

この度,北九州市立八幡病院救命救急センターで20年余り無我夢中で行ってきた小児救急疾患のイニシャルマネージメントを御紹介できる機会を頂いた.そこで,仲間達とともに主な危急疾患別に当センターで行っている小児救急医療の実践マニュアルを作成しました.本書の特徴は診断のアプローチ,検査手順,治療法などに加えて,救急医療現場で役立つように家族への説明ポイントと重症化予知因子を重要視し,全て箇条書きにコンパクトにまとめたことです.独自性の強い部分もあるかとは思われますが,実際に行って,効果を上げている方法を最優先していることで御容赦いただきたいと願っています.

本書が全国の小児救急医療現場での診療に日夜孤軍奮闘しておられる同僚,研修医,さらには他科の先生方にお役に立つことを願ってやみません.

最後に忙しい診療の合間を縫って私の意図を酌んで執筆してくれた仲間達と本書の企画をお許し頂き御協力・御尽力いただいた中外医学社企画部の荻野邦義氏と秀島悟氏の両氏に深謝いたします.

  2003年3月

    市川光太郎


目 次

1.小児救急医療の特徴  〈市川光太郎〉  1

2.危急疾患の見分け方  〈市川光太郎〉  6

I 主な救急症候と診断の進め方

1.高 熱  〈今村徳夫〉  10

2.意識障害  〈石橋紳作〉  17

3.けいれん  〈石橋紳作〉  20

4.頭 痛  〈下野昌幸〉  23

5.頻脈,徐脈  〈堤 隆博〉  25

6.チアノーゼ  〈堤 隆博〉  29

7.ショック  〈堤 隆博〉  32

8.呼吸困難  〈天本正乃〉  36

9.咳 嗽  〈天本正乃〉  38

10.下 痢  〈今村徳夫〉  40

11.嘔 吐  〈今村徳夫〉  44

12.吐血,下血  〈酒井道生〉  48

13.腹痛(急性腹症)  〈酒井道生〉  50

14.血尿,蛋白尿  〈天本正乃〉  52

15.紫斑,出血傾向  〈神薗淳司〉  54

16.関節痛,関節腫脹(四肢痛を含む)  〈神薗淳司〉  56

17.発疹,蕁麻疹  〈市川光太郎〉  58

II 主な救急疾患の治療と重症化予知

A.中枢性疾患

1.急性脳炎,脳症  〈下野昌幸〉  62

2.化膿性髄膜炎  〈石橋紳作〉  66

3.無菌性髄膜炎  〈石橋紳作〉  72

4.熱性けいれん  〈下野昌幸〉  74

5.無熱性けいれん  〈下野昌幸〉  77

6.その他の中枢性疾患

  a.Guillain-Barre症候群  〈石橋紳作〉  81

  b.急性散在性脳脊髄炎  〈石橋紳作〉  84

  c.脳腫瘍  〈神薗淳司〉  86

B.循環器疾患  〈堤 隆博〉

1.心筋炎  90

2.川崎病  102

C.感染症,呼吸器疾患

1.急性ウイルス性発熱性疾患  〈市川光太郎〉  111

2.溶連菌感染症  〈市川光太郎〉  147

3.クループ症候群(上気道閉塞性疾患)  〈市川光太郎〉  149

4.急性細気管支炎  〈市川光太郎〉  154

5.急性気管支肺炎,肺炎  〈市川光太郎〉  159

6.気管支喘息,喘息性気管支炎  〈市川光太郎〉  164

7.その他の呼吸器疾患

  a.縦隔腫瘍  〈神薗淳司〉  171

  b.間質性肺炎  〈市川光太郎〉  175

  c.気胸  〈市川光太郎〉  179

  d.3カ月未満児の発熱  〈市川光太郎〉  182

D.消化器疾患

1.急性胃腸炎,食中毒  〈市川光太郎〉  185

2.EHECへの対応  〈市川光太郎〉  193

3.腸重積症  〈市川光太郎〉  197

4.急性虫垂炎  〈市川光太郎〉  201

5.イレウス  〈市川光太郎〉  206

6.急性肝炎,肝機能障害  〈酒井道生〉  210

7.周期性嘔吐症,ケトン血性低血糖症  〈石橋紳作〉  215

8.その他の消化器疾患  

  a.胆N炎,胆N捻転症,胆石症  〈酒井道生〉  218

  b.総胆管拡張症  〈市川光太郎〉  223

  c.腸回転異常症  〈市川光太郎〉  226

  d.反復性腹痛症  〈市川光太郎〉  230

E.腎尿路・泌尿器疾患

1.溶連菌感染後急性糸球体腎炎  〈石橋紳作〉  235

2.ネフローゼ症候群  〈石橋紳作〉  238

3.急性巣状細菌性腎炎,上部尿路感染症  〈堤 隆博〉  241

4.急性腎不全  〈堤 隆博〉  248

5.急性陰N症  〈市川光太郎〉  257

6.その他の腎尿路疾患  

  a.間歇性水腎症  〈市川光太郎〉  261

  b.尿路結石症  〈市川光太郎〉  264

  c.出血性膀胱炎  〈堤 隆博〉  267

F.血液疾患  〈神薗淳司〉

1.急性貧血  269

2.特発性血小板減少性紫斑病(ITP)  273

3.溶血性尿毒症症候群(HUS)  278

4.アレルギー性紫斑病  284

G.内分泌・代謝性疾患  〈西見寿博〉

1.糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)  288

2.甲状腺クリーゼ  293

3.低血糖発作  296

H.皮膚・関節疾患

1.急性蕁麻疹  〈市川光太郎〉  301

2.ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群  〈市川光太郎〉  304

3.単純性股関節炎  〈下野昌幸〉  307

4.化膿性骨髄炎,関節炎  〈石橋紳作〉  310

5.肘内障  〈石橋紳作〉  313

6.伝染性膿痂疹  〈市川光太郎〉  316

I.境界疾患

1.頭部打撲,頭部外傷  〈下野昌幸〉  318

2.閉鎖性腹部外傷  〈市川光太郎〉  322

3.溺 水  〈市川光太郎〉  333

4.熱 傷  〈石橋紳作〉  341

5.熱中症  〈下野昌幸〉  345

6.薬物中毒  〈市川光太郎〉  352

7.誤嚥,誤飲  〈市川光太郎〉  361

8.中耳炎,副鼻腔炎  〈市川光太郎〉  371

9.咽後膿瘍,頸部感染症  〈市川光太郎〉  375

10.鼠径ヘルニア,陰N水腫  〈市川光太郎〉  379

11.女子生殖器  〈市川光太郎〉  384

12.児童虐待  〈市川光太郎〉  387

13.心因反応  〈市川光太郎〉  397

14.心身症  〈市川光太郎〉  400

15.CPAOA/SIDSへの対応法  〈市川光太郎〉  403

付 表  〈市川光太郎〉

1.心肺蘇生時の手順と薬剤  407

2.心肺蘇生薬とその投与量と使用時の注意点  409

3.心拍再開後の血圧維持薬剤と投与方法  411

4.重度脳障害時の治療戦略  412

5.座薬・静脈注射用抗けいれん薬使用量一覧表  417

6.抗てんかん薬使用量一覧表  418

7.二次性血球貪食性・組織球増殖症(HLH)の診断基準  419

8.注意すべきHLH・HPSの病態を合併する基礎疾患・感染症  420

事項索引  421

薬品名索引  429

コラム目次

 細菌性髄膜炎アラカルト  70

 脊髄梗塞(脊髄動脈症候群)  83

 ハンプの使用法について  100

 冠動脈径の評価基準  108

 川崎病冠動脈病変合併例における心筋梗塞の診断  108

 心筋梗塞の治療  109

 EHECと浣腸,そして抗生剤  195

 腸管出血性大腸菌感染症と腸重積症  196

 自家中毒(周期性嘔吐症)と腸回転異常症  217

 胃潰瘍と急性胃粘膜病変  233

 横紋筋融解症と急性腎不全  256

 停留精巣捻転と鼠径ヘルニア  382

 鼠径部腫瘤  383

 起立性調節障害との鑑別疾患  399

ひやりはっと事例1  287

ひやりはっと事例2  300

ひやりはっと事例3  332