小児救急医療自体が学問的に体系化されていず,全国各地の施設で,先人達の治療方法を継承し,それぞれに利点を追及して,三々五々に自分流に発展してきている感があります.腸重積症の治療法をみてもバリウム,ガストログラフィン,生理食塩水,空気と三者三様であり,さらにX線透視下,超音波下とその方法技術論も統一化されていない.あるいはその鎮静の方法や薬剤の選択においても各施設なりの特徴があるのが現実である.実際に初心者から熟練者まで平易かつ確実に行える手技方法が完成されることが理想であるが,その治療ガイドラインの確立は,こと技術的要素の強い手技スキルでは困難な一面があります.採血や点滴の際の患児の固定1つ取っても千差万別であり,輸液の固定テープ,挿管チューブの固定法など,多くの手技に地域や施設の特徴があることが現実です.このような現状の中,各々の手技に一長一短があることは事実であり,画一的な手技・技術に統一する必要はないと思われますが,より安全性の高い,平易で,確実な,そして子ども達にやさしい手技の確立・普及に向けて,その方法論を議論していくことは重要と思われます.
 いずれにせよ,小児の処置は大変であるというのが一般的であり,処置が簡単という医療者はいないはずです.そこで,幾らかでも小児の処置が大変という先入観が解消されるように,その手技マニュアルを図説中心に企画してみました.実際に,当小児救急センターには東北〜関東〜関西〜九州と全国各地域で研修を積んだ小児科医が集まっていますので,当センターでのオリジナルな基本手技に限らず,各地域の工夫された手技スキルが反映されるように,スタッフ全員で手技マニュアルを作成するように努めました.
 この基本手技マニュアルが多くの実践者から議論され,さらにその手技マニュアルが洗練されていくことが最も望まれていることと考えています.このような観点に立ち,その議論の土台となるべき,手技マニュアルを作成し,これを叩き台として数年ごとに改訂を重ねていくことができれば,小児医療・小児救急医療における,理想的な基本マニュアルの完成が行えるでしょう.このことによって,より普遍的な,全国画一的な手技の方法論が普及していくものと考えられます.本書が,このように将来的に発展していく基礎となる基本手技マニュアルとなればと心から願うとともに,多くの施設で,そして実際現場で,日夜実践している小児科医や救急医の皆さんが,現在の自分の手技を見直し,再考するきっかけとなり,多くの意見が,より良い小児救急医療の提供とその質の向上に反映されれば,幸いと考えています.

2006年7月
市川光太郎


目次

I 小児医療・一般診療における基本手技
  1.採血(新生児〜幼弱乳児,乳幼児以降)  〈庄子智史〉
  2.静脈路(点滴・輸液)確保  〈庄子智史〉
  3.鼻咽頭培養,迅速診断キット検査  〈菊池敦生〉
     A.咽頭培養・鼻咽頭培養
     B.迅速診断キット検査
  4.尿・便培養  〈今村徳夫〉
     A.尿培養
     B.便培養
  5.浣腸・高圧浣腸  〈今村徳夫〉
     A.浣腸
     B.高圧浣腸
  6.皮内注射  〈神薗淳司〉
  7.皮下注射  〈神薗淳司〉
  8.筋肉内注射  〈神薗淳司〉
  9.口腔内吸引,排痰,肺理学療法(非挿管例)  〈若月 準〉
II 小児救急医療における基本手技
  10.気道確保  〈若月 準〉
     A.経鼻エアウェイ
     B.経口エアウェイ
     C.バック-マスク換気
     D.気管内挿管
  11.小児の心肺蘇生法  〈若月 準〉
  12.自動体外式除細動器(AED),手動式除細動器  〈若月 準〉
  13.骨髄針による静脈路確保(IOI)  〈神薗淳司〉
  14.中心静脈路確保  〈神薗淳司〉
  15.動脈内留置カテーテル  〈天本正乃〉
  16.血液・骨髄・髄液培養  〈菊池敦生〉
     A.血液培養
     B.骨髄培養
     C.髄液培養
  17.腰椎穿刺  〈石橋紳作〉
  18.胸腔穿刺,胸腔持続吸引  〈市川光太郎〉
  19.骨髄穿刺  〈神薗淳司〉
  20.膀胱穿刺法  〈市川光太郎〉
  21.胃洗浄  〈西村奈穂〉
  22.栄養チューブ挿入(胃,十二指腸)  〈天本正乃〉
  23.膀胱留置カテーテル  〈菊池敦生〉
  24.酸素療法  〈天本正乃〉
  25.腸重積整復術  〈西村奈穂〉
  26.異物による気道閉塞の解除  〈若月 準〉
  27.異物除去(食道・胃)  〈山根浩昌〉
  28.鼠径ヘルニア嵌頓整復術  〈天本正乃〉
  29.肘内障整復  〈石橋紳作〉

索引