第２版 序
「心臓カテーテル法の歴史はCardiologistの長年の夢を実現させた20世紀のsuccess storyである」と初版の序をしたためてから早や３年経ち，本書も好評のうちに第２版を迎えることになった．心臓カテーテル法は，1960年代から冠動脈造影と共に，心疾患の診断に欠かせない専門技術となったが，Gruentzigの登場により冠動脈疾患の治療にも不可欠の手技として多くのangioplasterが育っている．本書はこの心臓カテーテル技術の実用書として上梓し，多くの読者に好評を頂いた．そのコンセプトは
(1) 心臓カテーテルの基本手技からNew Deviceまでのあらゆる技術について情報を提供する．
(2) 実用的な技術書として写真やイラストを駆使する．
(3) 心臓カテーテル法の実践に必要かつ基本的な病態生理学的知識やcoronary interventionに関する最新の臨床エビデンスについても述べる．
の3点であったが，初版で意図したこの目的は充分果たせられたのではないかと自負している．しかし，この分野の進歩は著しく，日進月歩の進展の中で新しいデバイスの登場により先端技術も格段の変革をみせている．第２版では特にNew Deviceと血管内エコー法（IVUS）の項を大幅に改訂し，最新の情報を提供できるように心掛けた．本書の執筆者はいずれも第一線で活躍中の循環器医であり，コロナリー・インターベンションの専門家の方々である．心臓カテーテル法の基本から専門技術までかゆい処に手が届くよう配慮された執筆内容であり，研修医から心臓専門医まで幅広く利用して頂けるものと確信している．読者には，是非忌憚のないご意見とご批判を頂きたいと願っている．
2003年1月
大阪大学大学院 病態情報内科学 教授
堀 正二
目次
1．心臓カテーテル法の歴史 -右心カテーテル法からPTCAまで 1
1．心臓カテーテル法の始まり 1
2．血管造影法から選択的冠動脈造影へ 1
3．経皮的冠動脈形成術（PTCA）への歩み 2
2．装置・機具
A．心臓カテーテル検査室 4
B．装 置 4
1．心血管造影装置システム 4
2．検査台，支持装置（アーム） 6
C．器 具 6
1．造影剤自動注入器 6
2．ポリグラフ（生体アンプ） 7
3．除細動器 8
4．大動脈バルーンパンピング装置（IABP） 8
5．経皮的心肺補助装置（PCPS） 9
D．造影剤 9
E．診断検査用カテーテルとガイドワイヤー 10
1．ガイドワイヤー 10
2．Cournandカテーテル 11
3．NIHカテーテル 11
4．バルーンカテーテル 11
5．Pig tail型カテーテル 12
6．Judkins型冠動脈造影カテーテル 12
7．Amplatz型冠動脈造影カテーテル 13
8．Sones型カテーテル 14
9．His束心電図用カテーテル 15
10．Brockenbroughカテーテル 15
11．心内膜心筋生検用カテーテル 15
12．カテーテル先端型圧トランスジ ューサー（マイクロチ ップカテーテル） 15
13．一時ペーシングカテーテル 15
14．経皮的経静脈的僧帽弁交連裂開術（PTMC）用バルーンカテーテル（Inoueバルーン） 17
3．心臓カテーテル検査法の準備と手技 18
A．説明と同意（インフォームドコンセント） 18
B．術前検査，前処理 19
C．血管穿刺法とその準備 19
1．カテーテル検査のプロトコールの決定 19
2．検査室入室前後の術前準備 19
3．カテーテル挿入血管 21
a）大腿動脈 21
b）上腕動脈 21
c）橈骨動脈 21
4．血管穿刺法 22
a）大腿静脈および大腿動脈穿刺法 22
b）上腕動脈穿刺法 24
c）右内頚静脈穿刺法 25
D．カテーテルの操作法 25
1．一般的なカテーテル操作法 25
2．Cournandカテーテルの操作法 26
3．Pig tailカテーテルの操作法 27
4．Brockenbroughカテーテルの操作法 27
5．経皮的経静脈的僧帽弁交連裂開術（PTMC） 29
6．経皮的エタノール中隔心筋焼灼術（PTSMA） 31
6．心内膜心筋生検カテーテル 34
7．経皮的大動脈バルーンパンピング 34
4．心臓カテーテル検査における血行動態的計測 36
A．心拍出量測定 36
1．熱希釈法 36
2．Forrester分類による心機能評価 37
B．短絡の測定 38
1．血液ガス分析による短絡の診断 38
2．肺体血流量比，短絡率 39
C．血管抵抗，弁口面積の算出 39
1．肺血管抵抗 39
2．狭窄弁口面積 40
5．心臓カテーテル検査における自己と合併症およびその予防 41
1．死 亡 41
2．心筋梗塞 42
3．脳血管障害 42
4．心大血管の穿孔 42
5．重篤な不整脈 42
6．迷走神経反射 43
7．カテーテル挿入部の障害（血栓性閉塞，偽性動脈瘤，神経損傷） 43
8．その他の合併症 44
a）冠動脈解離 44
b）コレステロール塞栓 44
c）薬剤・造影剤によるシ ョ ック 44
6．虚血性心疾患に対するカテーテル法 45
A．適応 -インターベンシ ョン時代の適応基準- 45
1．右心カテーテル法 45
2．冠動脈造影検査，左室造影検査 46
B．左室造影 47
1．手 技 47
2．解析方法 50
a）左室容積 50
b）左室壁運動評価 50
i）視覚的評価法 50
ii）定量的評価法 50
3．左室造影所見 53
a）左室壁のsegmentationと冠動脈支配 53
b）壁運動異常 54
c）虚血性心疾患にみられるその他の左室造影所見 55
i）左室壁肉柱像 55
ii）左室内血栓 56
iii）心室中隔穿孔 57
C．冠動脈造影 57
1．手 技 57
a）Judkinsカテーテルの使用法 58
i）左冠動脈への挿入法 58
ii）右冠動脈への挿入法 58
b）左右両用カテーテルの使用法 62
c）Amplatzカテーテルの使用法 62
d）造影手技 64
i）通常の造影 64
ii）エルゴノビン負荷試験 65
iii）アセチルコリン負荷試験 66
e）バイパスグラフトの造影手技 67
i）内胸動脈造影 67
ii）静脈グラフト造影 67
iii）胃大網動脈造影 68
2．冠動脈造影像の評価 69
a）AHA分類 69
i）冠動脈のsegmentation 69
ii）狭窄度の記載方法 69
b）定量的冠動脈造影法 71
i）カテーテル 71
ii）pincushin distortion 71
iii）造影法 71
iv）造影条件の統一化 73
c）病変形態 73
d）冠灌流の評価 74
e）側副血行の評価 74
3．正常冠動脈造影像 75
a）左冠動脈 75
b）右冠動脈 77
4．異常冠動脈造影像 82
a）狭 窄 82
i）求心性狭窄 82
ii）偏心性狭窄 82
iii）Ulceration 82
iv）入口部狭窄 85
v）分岐部狭窄 85
vi）慢性完全閉塞病変 85
b）その他の病変 86
i）冠動脈瘤 86
ii）intimal flap 88
iii）石灰化病変 88
iv）冠血栓 89
c）側副血行 89
5．バイパス造影 94
a）内胸動脈グラフト造影 94
b）静脈バイパス造影 94
c）胃大網動脈グラフト造影 98
7．先天性心疾患，弁膜症，心筋疾患 102
A．成人における先天性心疾患 102
1．心房中隔欠損 102
2．心室中隔欠損 103
3．動脈管開存 104
4．Fallot四徴症 105
5．Ebstein奇形 105
6．三心房心 106
7．冠動脈の走行異常 106
a）分 類 106
b）単冠動脈 107
c）左冠動脈肺動脈起始症 Bland -White -Garland症候群 109
d）冠動脈瘻 109
B．弁膜症 110
1．僧帽弁狭窄症 110
2．僧帽弁逆流 111
3．大動脈弁狭窄 112
4．大動脈弁逆流 112
5．三尖弁逆流 113
C．心筋・心膜疾患 113
1．肥大型心筋症 113
2．拡張型心筋症 115
3．拘束型心筋症 116
4．特定心筋疾患 117
5．収縮性心膜炎 117
6．急性心膜・心筋炎 118
8．PTCA
A．適 応 ＜南都伸介＞ 119
1．PTCAによる虚血性心疾患治療の現況 119
2．PTCA適応の変遷 119
3．一般的な適応の考え方 120
a）成功率を規定する因子 120
b）合併症を生じやすい因子 120
c）慢性再狭窄に関わるリスクファクター 122
B．使用器具 122
1．バルーンカテーテル 122
2．ガイディングカテーテル 123
3．ガイドワイヤー 125
4．その他 125
5．PTCAのシステム構成 126
C．PTCA（POBA）の手技 127
1．Simple lesionに対するPTCA手技 127
a）器具の選択 127
i）ガイディングカテーテルの選択 127
ii）バルーンカテーテルの選択 128
b）ガイディングカテーテルの冠動脈入口部への挿入（エンゲージ）の仕方 129
i）左冠動脈へのエンゲージの手技 129
ii）右冠動脈へのエンゲージの手技 133
c）対照造影 133
i）左冠動脈における対照造影 133
ii）回旋枝病変における対照造影 135
iii）右冠動脈病変における対照造影 135
d）ガイドワイヤーの挿入 136
i）前下行枝病変 136
ii）回旋枝病変 140
iii）右冠動脈病変 141
e）バルーン挿入 142
2．Complex lesionに対するPTCA 145
a）分岐部病変 145
i）Kissing balloon techniqueの種類 145
ii）Kissing balloon technique原法（double-guide，double-balloon法） 145
iii）Single-guide, two-wire法 148
iv）Single-guide, two-wireを用いた交互拡張法 149
b）完全閉塞病変 149
i）冠動脈造影からみた病変の難度 149
ii）システムの選択 149
iii）左右冠動脈同時造影 149
iv）ガイドカテーテルの操作 151
v）ガイドワイヤーの操作 151
vi）バルーンカテーテルの操作 152
vii）経過観察 154
c）びまん性病変 154
D．前後療法 154
1．術前投薬 154
2．PTCA術中投薬 155
3．術後投与 155
E．PTCAの合併症 155
1．PTCA合併症の頻度 155
2．急性冠閉塞 156
a）冠動脈解離 156
i）冠動脈解離の頻度 156
ii）冠動脈解離の分類 156
3．急性冠閉塞に対する処置 157
4．バルーン開大時の虚血による合併症 157
5．出 血 158
6．冠動脈穿孔 159
F．ハイリスク症例とsupported PTCA 161
1．ハイリスク症例とは 161
2．Supported PTCA 161
G．PTCAによる拡張機序とPTCA後再狭窄の機序 161
1．拡張機序 161
2．PTCA後の再狭窄 162
a）残存プラークとリコイル 163
b）早期血栓の役割 163
c）新生内膜の増殖とリモデリング 163
H．New Devices ＜藤井謙司＞ 164
1．ステント 165
a）適 応 165
b）種 類 168
c）手 技 174
i）器具の選択 174
ii）ステント植え込みの実際 174
iii）併用薬物療法 177
d）成 績 182
i）初期成績 182
ii）遠隔成績 182
e）ステントに特有な合併症とその対策 183
i）ステントの脱落 183
ii）亜急性血栓性閉塞 184
f）Vein-coated stent 184
g）ステント植え込み後の再狭窄 185
i）ステント内再狭窄の機序 185
ii）ステント内再狭窄への対応 185
h）代表症例 188
i）Multi-Link ステント 186
ii）NIR ステント 188
iii) Radius ステント 190
2．Directional coronary atherectomy（DCA） 190
a）DCAのシステム 190
b）適 応 190
c）手 技 192
i）器具の選択 192
ii）DCAの方法 194
iii）血管内エコー法との併用 194
d）成 績 198
i）初期成績 198
ii）遠隔成績 198
e）代表症例 198
3．Transluminal Extraction Catheter（TEC） 198
a）構造と適応 198
b）手 技 200
i）器具の選択 200
ii）TECの方法 201
c）成 績 202
i）初期成績 202
ii）遠隔成績 202
d）代表症例 202
4．ロータブレーター 202
a）構造と適応 202
b）手 技 206
i）器具の選択 206
ii）ロータブレーターの方法 207
c）成 績 208
i）初期成績 208
ii）遠隔成績 208
d）合併症とその対処 208
i）穿 孔 208
ii）Slow flow, no flow 208
e）代表症例 209
5．Cutting balloon angioplasty（CBA） 209
a）CBAカテーテルの構造と拡張効果 209
b）適 応 210
c）CBAカテーテルの方法 210
d）成 績 211
e）代表症例 211
6．Local drug delivery 211
9．急性心筋虚血のPTCA
A．急性心筋虚血における心臓カテーテル冠動脈造影の手技 216
B．心臓カテーテル，冠動脈造影検査による急性心筋虚血の診断 217
1．急性心筋虚血の冠動脈造影像 217
2．冠動脈造影による他の疾患との鑑別診断 218
C．急性期の冠再疎通療法の適応 218
D．冠動脈内血栓溶解療法（ICT） 219
1．血栓溶解薬 219
2．線溶現象 219
3．手 技 219
4．線溶薬による合併症 220
E．急性心筋虚血に対するprimary PTCAの手技 222
1．冠動脈造影の読み方 222
2．ガイドワイヤーの操作 222
3．バルーンカテーテルの操作 223
F．急性心筋虚血に対する再疎通療法の成績 224
1．血栓溶解療法 224
2．血栓溶解療法に引き続くPTCA 225
3．急性心筋虚血に対するprimary PTCA 226
a）初期成績 226
b）慢性期の成績 226
c）合併症 226
10．血管内超音波法
A．血管内エコー法 ＜田内 潤＞ 229
1．原理・装置 229
2．画像のコントロール 229
3．血管内エコー法のアーチファクト 230
4．操作・画像収集と表示 232
5．病変部位と参照部位の定義 232
6．定量的計測 233
7．定性的計測 239
8．特殊な解析方法 243
9．血管内エコー法の報告書 244
B．ワイヤー型ドプラ血流計 ＜南都伸介＞ 244
1．機器構成 245
2．準備方法 245
3．使用方法 246
付録 インターベンシ ョンに関連する多施設共同研究ならびに類似研究 251
索引 263