改訂6版の序

 「心電図トレーニング」は長年にわたり多くの読者のご支持を得ることが出来て,著者として嬉しい限りです.時代とともにその内容も少しずつ追加あるいは改正して,第5版までの改訂版が既に出ております.本書の本来の目的は,医学生や研修医のみならず,より多くの分野の方々のお役に立つように,心電図の入門書のスタンダードを作ることでした.しかし,振り返ってみますと,改訂するたびに少しずつ難しい記述が増えたように思われます.そこで今回の改定では,思い切って不要なものは削除し,初心者向きに図を増やして以前よりも分かりやすい構成にし,また新しい所見も追加して内容の充実をはかりました.また本書が心電図の教科書として広く受け入れられている点を考えると,用語一つにしてもおろそかに出来ません.そこで今回は,本書の用語を,心電図に関するものは日本心電学会用語集,その他は日本循環器学会用語集を中心とし,一部は日本内科学会用語集より引用して書き改めました.またあらゆる分野の読者を想定して,主な用語の英文とその発音をカナで表示しました.

 今や心電図は一部の専門家のものではなく,医療に関連する全ての人々が利用する重要な検査法となっています.本書がより多くの分野の方々に利用され,役立つことを願っております.

 本書の好評な理由の中には,図が綺麗で内容が豊富な割りに,値段が安いということがあげられると思います.良書を世に広くということを目指して努力を惜しまない中外医学社の荻野邦義氏と,青木三千雄社長に敬意を表するものであります.

 最後に,我が親愛なる日本大学医学部内科学講座内科2部門の面々の,日頃の協力に感謝致します.

  2002年3月 春浅く,佳き日に

    著 者

初版の序

 私が心電図を教える数多くの機会,すなわち医学部の学生の講義をはじめ医師会の先生方の講習会,ナースの教育,臨床検査技師国家試験の指定講習会などの経験を通じて特に感じるのは,せっかく心電図の基礎的理論や診断基準を覚えても,波形自体に対する馴れがないために実際の心電図をみても判読ができない方々が少なくないことである.そこで初心者が実地に心電図の判読ができるようにトレーニングするためには,まず心電図の波形の変化を視覚的に判別できることが先決と考えている.

 本書がまず波形に馴れるためのトレーニングを最初の項に入れ,また全体を通じて心電図の図中に少しオーバーなぐらい波形を記号で明示したのも以上の理由からである.

 さらに本書の特色は,説明に用いた心電図と全く同じものを,説明を除去してトレーニング用として別の頁に載せたことである.これは従来の成書が心電図の図中に説明があり,それで判読のトレーニングをしようとすると,今後はその説明が目ざわりになり,説明抜きの同じ心電図が練習用にあれば便利であると思ったからである.そして本書をくり返し読むことにより,かなり高度な心電図の判読も可能となることを期待した.

 また本書では心電図判読に際して実地に問題となりそうなことを注意すべき点としてそれぞれの項目で述べ,さらに心電図モニターに関しても記述し,単なる心電図のトレーニングのみでなく,ベッドサイドでも役立つように心がけた.

 本書が初心者向きの心電図判読のトレーニングを目的としたために電気生理学的な理論的背景については最小限度の記載にとどめ,挿図の説明も思い切って初心者向きに模式化するように努めた.したがって本書を読まれた後でより深い理論的な問題について勉強したいと思ったときには,その読者は,ひと通りの心電図の判読力が身についたことを意味し,学術的な心電図の解説書へのステップアップすることをおすすめする.

 本書が心電図の判読力をつようと心がける実地医家の先生方・研修医・医学生はもとより,ナースや臨床検査技師など多くの方々に広く役立つものとなれば幸いである.

 本書の出版に際して,日本大学第2内科波多野道信主任教授に深く感謝するとともに,第2内科心臓研究班の諸兄,日本大学板橋病院循環機能検査室の諸女史,関連各部門のナース諸女史に感謝いたします.

 また本書の出版の機会を与えて下さった中外医学社の青木三千雄社長,および荻野邦義氏,森本俊子女史の御努力と御支援に感謝したします.

1980年1月

著者


目 次

第I部 心電図判読に必要な基本的知識とそのトレーニング

1 心電図の波形になれるためのトレーニング… 2

   A 心電図の波形とその意味は?… 2

   B 心電図の基線とは?… 3

   C P波とT波の形にはどんなものがあるでしょう?… 4

   D QRSの各波形の命名は?… 5

   E QRSの波形にはどんなものがあるでしょう?… 7

   F STの形にはどんなものがみられるでしょう?… 9

   G 心電図の波形の実例について… 11

2 心電図波形の計測のためのトレーニング… 21

   A 心電図の波形の幅は何を表わし,どう計測するのでしょう?… 21

   B 心電図の波形の高さや深さは何を表わし,どう計測するのでしょう?… 23

3 心電図の基本知識のトレーニング… 27

   A 心電図の誘導法とは?… 27

   B 心電図はなぜ12個の誘導が必要なのでしょうか?… 33

   C 心電図波形の成り立ちの要点は?… 34

   D 心臓の興奮と各誘導の関係は?… 36

   E 12誘導心電図の波形の成り立ちは?… 38

   F CCU,ICU,ハイケアー室での患者観察用心電図の誘導は?… 43

   G 心電図の電極と誘導コードは?… 45

4 正常心電図についてのトレーニング… 48

   A 肢誘導ではどの誘導にどんな波形が記録されるでしょうか?… 48

   B 胸部誘導の正常の波形は?… 52

   C 心電図の横軸(時間)の計測とその正常値について… 56

   D 心電図の縦軸の計測(ミリボルト)とその正常値について… 63

5 心電図波形の横軸(時間)に変化のあるもの… 65

   A P波の幅に異常がみられるときは,何を考えたらよいでしょうか?… 65

   B PR時間に異常がみられるときは,何を考えたらよいでしょうか?… 68

   C QRS幅が増大したときは,何を考えたらよいでしょうか?… 71

   D QT時間(間隔)が変化したときは,何を考えたらよいでしょうか?… 74

6 心電図の縦軸(mV)に変化のあるもの… 75

   A P波の高さが変化したときは,何を考えたらよいでしょうか?… 75

   B QRSの振幅に変化がおこったときは,何を考えたらよいでしょうか?… 76

   C T波の振幅が変化したときは,何を考えたらよいでしょうか?… 77

   D U波の振幅が変化したときは,何を考えたらよいでしょうか?… 78

7 電気軸とは?… 79

   A 電気軸はどのように表現されるでしょうか?… 79

   B 肢誘導から電気軸はどのように計算されるのでしょうか?… 80

   C 電気軸のおおよその見当を速やかに判断するには?… 82

   D 電気軸の臨床的評価は?… 84

   E 時計(針)式回転と反時計(針)式回転とは?… 87

第II部 不整脈の心電図判読のトレーニング

心電図のチェックポイント… 98

  不整脈の心電図のトレーニング… 99

1 洞結節の刺激(興奮)生成異常の心電図は?…103

   A 洞頻脈の心電図は?…103

   B 洞徐脈の心電図は?…105

   C 洞不整脈の心電図は?…107

2 移動性ペースメーカーの心電図は?…111

3 異所性刺激(興奮)生成異常の心電図は?…113

3-1 能動的刺激生成異常とは?…113

   A 期外収縮の心電図は?…115

   B 上室期外収縮の心電図は?…116

   C 心室期外収縮の心電図は?…121

   D 心房細動とは?…130

   E 心房粗動とは?…134

   F (発作性)上室頻拍とは?…138

   G 心室頻拍とは?…143

   H Torsades de Pointesとは?…148

   I 心室細動とは?…150

3-2 受動的刺激(興奮)生成異常とは?…157

   A 補充収縮・補充調律とは?…158

4 興奮伝導異常とは?…162

   A 洞房ブロックとは?…163

   B 洞不全症候群とは?…168

   C 房室ブロックとは?…169

5 人工ペースメーカーの心電図とは?…182

   A 人工ペースメーカーの心電図所見は?…182

   B 人工ペースメーカー使用中の患者さんに対する注意事項…192

6 その他の不整脈…198

   A 房室解離とは?…198

   B 副収縮とは?…201

第III部 異常心電図判読のトレーニング

1 心室内伝導異常の心電図のトレーニング…206

   A 右脚ブロックとは?…207

   B 左脚ブロックとは?…209

   C 左脚分枝ブロックとは?…212

   D 2(束)枝ブロックとは?…215

2 早期興奮症候群の心電図のトレーニング…220

   A WPW症候群とは?…220

   B LGL症候群とは?…228

   C 非典型的WPW症候群とは?…238

3 心筋梗塞の心電図のトレーニング…241

   A 心筋梗塞に特徴的な波形とは?…241

   B 心筋梗塞の部位診断はどのように行われるのでしょうか?…244

   C 心筋梗塞の発病後の時期を心電図でどのように判断できるでしょうか?…254

   D 心筋梗塞とまぎらわしい心電図所見を呈するものは?…256

   E 心筋梗塞の不整脈監視の要点は?…257

4 狭心症の心電図のトレーニング…268

   A 労作性狭心症の心電図は?…268

   B 安静時狭心症の心電図は?…270

   C 無症候性心筋虚血…272

5 運動負荷心電図のトレーニング…276

   A 運動負荷心電図はどのようなときに行われるのでしょうか?…276

   B マスター2階段試験とは?…277

   C トレッドミル運動負荷試験とは?…282

   D エルゴメーター運動負荷試験とは?…288

6 STやT波の変化のトレーニング…289

   A ST低下を示す主なものは?…290

   B ST上昇を示す主なものは?…292

   C 陰性T波または平低化T波をみるものは?…293

   D 増高または尖鋭化したT波を示すものは?…295

7 電解質平衡異常の心電図のトレーニング…301

   A 高カリウム血症の心電図は?…301

   B 低カリウム血症の心電図は?…308

   C 高カルシウム血症および低カルシウム血症の心電図は?…313

8 QT延長症候群の心電図のトレーニング…325

9 左室肥大の心電図のトレーニング…330

10 右室肥大の心電図のトレーニング…334

11 左房負荷の心電図のトレーニング…350

12 右房負荷の心電図のトレーニング…353

13 陰性U波の心電図のトレーニング…357

14 心膜炎の心電図のトレーニング…362

15 心筋炎と心筋症の心電図のトレーニング…366

   A 心筋炎の心電図は?…366

   B 心筋症の心電図は?…367

16 強心配糖体およびそれに関連した心電図所見のトレーニング…374

17 特異的な波形を示す心電図のトレーニング…380

   A 催不整脈性右室心筋症の心電図は?…380

   B BRUGADA症候群の心電図は?…382

   C 低体温の心電図は?…385

   A 不整脈の薬物療法…393

   B 非薬物療法…398

   C 不整脈の危険性と治療の要点は?…399

   D ミネソタコード…403

索引…405