序--診断学を学ぶ人のために

 診断学,これはいかなる専門分野に進もうとも,医師となるものにとって基本となる学問である.患者から正確な情報を聞きだすという技法,患者を診る正確な技法,これなしには診療は始らないし,始っても舵が思わぬ方向へ向いてしまう.ここは,教科書的には習得の困難な場合が少なくない分野ではあるが,一定の法則があるのも事実である.この法則に則って得られた正確なデータベースに立脚した検査計画なり,治療計画を立てることが,良医のミニマムな必要条件である.

 一方,最近は医学の進歩にともない実地診療の重要性がとみに強調されている.その影響か,国家試験でも実地の診療手技を問う問題も増加してきており,近い将来OSCEも導入されると聞く.

 実際の診療に役立つ診断学書が要求される所以である.本書をコンパクトなサイズにし,実地の使用に耐えるよう考慮していただいたのは実地の場で大いに活用戴きたいからである.

 本書では,診断学を学ぶ人の理解を深めるための工夫をいくつか施した.まず,各項目の前に,行動目標をたて,何を読み取るかを知ったうえで,読み進んでいただきたい.更に項目の最後にキーワードを付した.これは,各項目を読み終わって,重要な単語について理解できているかを確認するためである.また,将来の国家試験にも対応できるようOSCEについても概略触れた.

 本書が,手あかでよごれて病棟にある姿を見ることがあれば,これに勝る喜びはない.

 末筆になるが,本書の企画の段階から,真摯に御相談に乗っていただき的確なアドバイスも戴き,さらには編者の無理を聞いてくださった中外医学社荻野邦義氏には心より深謝したい.

      2000年12月

      編集者



目 次

§1 患者へのアプローチ: 病歴,現症の取り方  〈寺本民生〉

  1.初診時の視診  2

  2.問 診  3

  3.診 察  12

  4.問題点の整理  14

  5.仮の診断  15

  6.検査計画(初期計画)  16

  7.鑑別診断  20

  8.経過と治療計画  21

  9.カルテの記載  22

§2 診察法: 身体所見の取り方

I.全身所見・バイタルサイン 〈秋葉 隆〉 24

  1.診察の基本  24

  2.視診,触診,打診,聴診の手技の要点  27

  3.バイタルサインの取り方  28

   a.脈 拍  28

   b.血 圧  29

   c.呼吸状態  32

   d.体 温  33

  4.全身所見の取り方  35

   a.全身の概観  35

   b.精神状態の観察事項  36

   c.皮膚の所見  40

II.頭頸部所見 〈寺本民生〉 43

  1.頭頸部所見の取り方の基本  43

  2.頭部の診察  45

  3.顔面のみかた  47

  4.眼のみかた  49

  5.耳のみかた  55

  6.鼻のみかた  56

  7.口腔のみかた  57

  8.頸部のみかた  60

III.胸部所見

 A.胸部へのアプローチ 〈寺本民生〉 66

  ■胸部の診察手順  66

   a.視 診  67

   b.触 診  69

   c.打 診  70

   d.聴 診  72

 B.呼吸器系 〈永井厚志〉 74

  1.呼吸器系胸部所見の取り方の基本  74

  2.胸部の視診  76

  3.胸部の触診  80

  4.胸部の打診  82

  5.胸部の聴診  84

   a.連続性雑音(wheezes・rhonchi・stridor)  86

   b.不連続性雑音  87

   c.胸膜摩擦音  88

   d.声帯共鳴  88

 C.循環器系 〈三田村秀雄〉 90

  1.はじめに  90

  2.胸部,頸部以外の部位別診察  92

   a.顔  92

   b.目  92

   c.四肢・指・爪  92

   d.脈  93

  3.胸部,頸部の系統的診察  95

   a.視 診  95

   b.触 診  99

   c.打 診  102

   d.聴 診  104

  4.診察所見から機能を読む  121

   a.心臓の調律  121

   b.動脈圧  121

   c.静脈圧  122

   d.心臓の大きさ  122

   e.心臓の解剖学的異常や弁機能  122

   f.心臓の収縮機能  122

   g.心臓の拡張機能  122

   h.心筋虚血  122

IV.腹部所見 〈秋葉 隆〉 124

  1.腹部所見の取り方の基本と部位の記載法  124

  2.腹部の視診  126

  3.腹部の聴診  130

  4.腹部の触診,打診  131

   a.腹部の圧痛  131

   b.腹壁の緊張  132

   c.腹部臓器の触知  133

V.神経学的所見 〈水澤英洋〉 140

  1.神経系の診察の仕方  140

   a.問診のポイント  140

   b.診察のポイント  142

  2.意識障害  143

   a.意識障害の診断の進め方  143

   b.意識障害の評価  145

   c.意識障害患者の問診のポイント  147

   d.意識障害患者の診察のポイント  147

   e.診断確定への手順  149

  3.脳神経系  150

   a.脳神経の機能と障害ならびに主要疾患  150

   b.脳神経の診察の実際  158

  4.筋力低下と筋萎縮  159

   a.筋力を発揮する機構  159

   b.筋力の診察  162

   c.筋萎縮の診察  164

  5.筋トーヌス  166

   a.筋トーヌスとは  166

   b.筋トーヌスの亢進  166

   c.筋トーヌスの低下  167

  6.反射の異常  169

   a.腱反射(深部反射)  169

   b.病的反射  169

   c.表在反射  172

  7.感覚障害  174

  8.不随意運動  180

   a.不随意運動の定義とその分類  180

   b.不随意運動の診察のポイント  181

  9.小脳症候  183

  10.髄膜刺激症候  185

  11.失語・失行・失認  187

   a.失 語  187

   b.失 行  188

   c.失 認   189

  12.痴 呆  190

   a.痴呆の定義とその評価尺度  190

   b.痴呆患者の問診と診察のポイント  190

  13.起立・姿勢・歩行  195

   a.起立,姿勢,歩行の神経機構  195

   b.診察のポイント  195

§3 症候から検査へ 

  1.発熱・不明熱 〈伴 信太郎〉 198

  2.全身倦怠感 〈伴 信太郎〉 205

  3.肥満・体重減少 〈寺本民生〉 209

  4.貧 血 〈佐藤健夫,東原正明〉 214

  5.出血傾向 〈宮崎浩二,東原正明〉 218

  6.リンパ節腫脹 〈押味和夫〉 221

  7.発 疹 〈池澤善郎〉 224

  8.皮膚そう痒 〈池澤善郎〉 229

  9.色素異常 〈板橋 明〉 231

  10.多毛・脱毛 〈板橋 明〉 234

  11.意識障害・失神発作 〈谷川明代,黒岩義之〉 237

  12.痙 攣 〈谷川明代,黒岩義之〉 242

  13.不随意運動・運動失調 〈眞野行生,中室卓也〉 246

  14.視力障害・視野異常 〈眞野行生,中室卓也〉 250

  15.めまい 〈水野正浩〉 253

  16.頭 痛 〈浅野賀雄,島津邦男〉 258

  17.麻 痺 〈若山吉弘〉 262

  18.知覚異常 〈若山吉弘〉 266

  19.筋力低下・筋萎縮・筋肉痛 〈石原傳幸〉 270

  20.関節痛・関節腫脹 〈立花新太郎〉 273

  21.腰 痛 〈土方浩美〉 276

  22.呼吸困難 〈金澤 實〉 280

  23.咳と痰 〈金澤 實〉 284

  24.胸 水 〈長坂行雄〉 288

  25.胸 痛 〈藤井幹久,斎藤宗靖〉 293

  26.動悸・脈拍異常 〈加藤貴雄〉 296

  27.ショック 〈鈴木 忠〉 299

  28.チアノーゼ 〈長坂行雄〉 305

  29.浮 腫 〈鈴木洋通〉 308

  30.排尿異常 〈武内 巧,北村唯一〉 310

  31.食欲不振 〈馬場忠雄〉 313

  32.急性腹症・腹痛 〈山下圭輔,小西文雄〉 315

  33.便通異常・便秘・下痢 〈佐々木大輔〉 319

  34.腹部膨満 〈佐々木大輔〉 323

  35.腹部腫瘤 〈浅木 茂〉 327

  36.悪心・嘔吐 〈浅木 茂〉 331

  37.黄 疸 〈岡上 武,阪本善邦〉 333

  38.吐血・下血 〈房本英之〉 338

  39.腹 水 〈沖田 極,山下智省〉 343

  40.甲状腺腫 〈広松雄治〉 346

  41.眼球突出症 〈和泉元衛〉 350

  42.月経異常 〈酒井啓治,岩下光利,武田佳彦〉 355

§4 見落としのない診断のためのチェックリスト  〈寺本民生〉 357

附1.OSCEについて 〈藤森 新〉 367

附2.基準値一覧表 〈中井利昭〉 376

索 引  396