ペースメーカー治療の大きな成功のためか,ペースメーカーはすでに完成したものになっており,もはや進歩・研究の余地はないという声さえ聞かれた.しかし,まだペースメーカーが完成したものとは思えない.設定の自動化,ペースメーカーのホルター機能などの診断機能の進歩,ペースメーカーによる心不全治療,ペースメーカーによる心房細動などの頻拍性不整脈の抑制など,最近のペースメーカー治療の進歩はめざましい.

 一方,ペースメーカーやICDの植込み手術やフォローは,医師であれば誰にでも容易にできるようになったので,逆に,ペースメーカー治療の修得をおろそかなものにしている危惧がある.

 ペースメーカー植込み適応自体がevidence-based medicineがいわれる以前のものであるので,実は充分なevidenceはなく,倫理的な理由からevidenceを求めること自体が不可能な状況である.そのため,これまで積み重ねられてきた経験も重要である.

 実際に使用するペースメーカー独自の特殊機能についてはそのマニュアルに習熟すべきである.本書には,ペースメーカー治療の基本的考え方と方法を記したいと思い,必要とされるペースメーカー治療の基礎から最新治療まで実用性を重視して解説したつもりである.本書が,少しでもペースメーカー治療の役にたてばと願っている.

  2004年1月

    石川利之


目次

第1章 ペースメーカーの基本  1

1.ペーシング刺激閾値  1

2.自動閾値設定と AutocaptureTM  2

3.センシング閾値  3

4.ペーシングモード  4

5.マグネットモード  5

6.心拍応答機能  6

7.抗頻拍ペーシング  6

8.ICHD コード  7

9.生理的ペーシングと非生理的ペーシング  7

10.ペースメーカー本体  7

 a.ジェネレイター  7

 b.電池  8

11.リード  8

 a.リードの種類  8

 b.Single lead VDD pacing  10

 c.Overlapping biphasic impulse(OLBI TM)  10

 d.リードトラブルとリードの構造  11

12.非生理的ペーシングとペースメーカー症候群  13

13.blanking period と refractory period  13

14.室房逆行性伝導とペースメーカー介在性頻拍  14

15.ECG イベント・マーカーTM  14

16.ペースメーカー自体のホルター心電図機能  16

17.ペースメーカーの特殊機能  16

第2章 ぺーシングと心血行動態  17

1.ペースメーカー側の問題  17

 a.心房心室協調性の有無  17

 b.心房ペーシングと心室ペーシング  21

 c.心拍応答性と心拍応答機能ペースメーカーのセンサー  21

 d.PQ時間の影響  23

 e.AV delayの至適化  24

 f.運動中の至適 AV delay  24

2.基礎心疾患の問題  26

3.ペーシング心拍数の設定  27

4.ペースメーカー植込みの運動耐容能の評価  28

第3章 ペースメーカーの心拍応答機能  31

1.ペースメーカーの心拍応答機能の設定  32

2.ペースメーカーの心拍応答機能のセンサー  32

 a.体動感知型センサー  33

 b.分時換気量感知型センサー  34

 c.QT感知型センサー  35

 d.Closed loop sensor(閉鎖回路センサー)  36

3.センサーの条件  37

4.Multisensor  38

5.心拍応答機能に対する考え方  40

6.心拍応答機能の今後の展開  41

第4章 ペースメーカー植込み疾患と適応  43

1.房室ブロック  43

 a.房室ブロックとペースメーカー  43

 b.ブロック部位とペースメーカーの植込み適応  53

 c.房室ブロックの電気生理学的検査(EPS)と薬物負荷  54

 d.補充収縮とブロック部位  58

 e.二枝ブロック  61

 f.運動誘発性房室ブロック  64

 g.房室ブロックと心室頻拍  66

 h.房室ブロックと原因疾患  68

 i.His 束内ブロック  69

 j.先天性房室ブロック  74

 k.房室ブロック診断のポイント  76

2.洞不全症候群  77

 a.洞不全症候群の診断  78

 b.薬理学的自律神経遮断と固有心拍数  79

 c.洞不全症候群の電気生理学的検査−洞機能回復時間  79

 d.洞不全症候群の電気生理学的検査−洞房伝導時間  83

 e.薬剤の影響  85

 f.神経調節性失神の鑑別  85

 g.洞不全症候群のペースメーカー植込み適応  85

 h.洞不全症候群のペースメーカー植込み適応決定のポイント  86

3.徐脈性心房細動  87

4.神経調節性失神  90

 a.神経調節性失神/血管迷走神経性失神/過敏性頸動脈洞症候群  90

 b.Head−up tilting test  92

5.抗頻拍ペーシング  92

6.新しい適応  92

第5章 ペースメーカーのモード決定

1.洞不全症候群におけるペースメーカーモードの選択  97

 a.ペーシングモードの選択の基本  97

 b.非生理的ペースメーカーの問題点  97

 c.心房ペースメーカー(AAI)の問題点  97

 d.心房心室ペースメーカー(DDD)の問題点  99

 e.心拍応答機能  100

 f.洞不全症候群におけるペーシングモード  100

2.房室ブロックにおけるペースメーカーモードの選択  100

 a.ペーシングモードの選択の基本  100

 b.房室ブロックを認める若年者における選択  101

 c.シングルリード VDD の問題点  101

第6章 ペースメーカーの植込み手技  103

1.リードの長さの選択  103

2.経静脈的心内膜電極の挿入  103

3.橈側腕頭皮静脈(cephalic vein)の cut down 法  104

4.外頸静脈 cut down 法  106

5.鎖骨下静脈穿刺法  106

6.胸郭外穿刺法  107

7.心室リードの留置  108

8.心房リードの留置  108

9.Screw−in リードの操作  109

10.左上大静脈遺残  109

11.我々のペースメーカー植込み手技  111

12.左室ペーシングの方法と手術手技  116

13.冠静脈洞リードの合併症  119

14.左房ペーシングの方法と手術手技  119

15.電池消耗とペースメーカー交換手術  122

 a.電池消耗のチェック  122

 b.ペースメーカーの交換手術  122

16.ペースメーカー手術の合併症  123

 a.気胸  123

 b.ペースメーカー感染  123

 c.リード穿孔  124

 d.鎖骨下静脈狭窄・閉塞,上大静脈症候群  125

 e.肺塞栓  125

 f.リードの抜去  126

第7章 ペースメーカーのフォローアップとトラブルシューティング  129

1.ペースメーカークリニック  129

 a.刺激閾値,センシング閾値の測定  129

 b.マグネット  129

 c.電池消耗のチェック  129

 d.抵抗値のチェック  130

 e.ペーシングの作動状況,ホルター機能のチェック  130

 f.パラメーターの設定  130

 g.心拍応答機能の設定  131

2.ペースメーカーのトラブルシューティング  131

 a.リードの dislodgment  131

 b.ペーシング不全  131

 c.抗不整脈薬の影響  132

 d.筋攣縮(muscle twitching)  134

 e.横隔膜刺激  134

 f.センシング不全  134

 g.P 波,T 波オーバーセンシング  135

 h.リードの断線とリークおよびリードインピーダンスの上昇と低下  135

 i.電池早期消耗  137

 j.非生理的ペーシングとペースメーカー症候群  137

 k.far field sensing と cross talks  138

 l.室房逆行性伝導とペースメーカー介在性頻拍  138

 m.refractory period と上限ペーシングレート  140

 n.Pseudo−fusion beat と pseudo−pseudo−fusion beat  142

 o.心房細動発生時の対応  143

 p.ペースメーカー自体のホルター心電図機能と問題  143

 q.Twiddler 症候群  144

 r.Runaway  144

第8章 ぺーシングによる心房細動の非薬物療法  147

1.心房細動に対する非薬物療法  147

2.ペースメーカー植込み症例における心房細動発生の予防  147

3.心房細動発生の積極的抑制  148

4.心房細動予防からみた心房の至適ペーシング心拍数  150

5.特殊なペーシングアルゴリズムを利用した心房細動発生の抑制  150

 a.Consistent atrial pacing(CAP)  151

 b.Atrial Pacing Preference(APP)  152

 c.Dynamic Atrial Overdrive(DAO)  152

 d.Aftherapy trial  153

6.心房細動予防からみた心房の至適ペーシング部位  153

7.特殊心房ペーシング部位へのリード植込み手技  157

8.特殊なペーシング部位を用いた場合の問題点  158

9.古典的ペースメーカー植込み適応のない症例における,

   ペースメーカーによる心房細動発生抑制の試み  160

10.ペーシング部位の選択の基本的考え方  161

11.心房細動に対する植込み型除細動器  161

12.ablate and pace  161

13.心房細動中の心室心拍数のスムージング  164

第9章 ぺーシングによる心室性不整脈の治療  169

1.ペーシングによる心室性不整脈の抑制の機序  169

2.overdrive pacing による QT 延長に伴う多型性心室頻拍の抑制  169

3.overdrive pacing による心室頻拍,心室細動の抑制  172

第10章 心不全におけるペーシング治療とbiventricular pacing  175

1.心不全に対するペーシング治療  175

2.心室ペーシングの不利益  175

3.重症心不全における壁運動の協調性の消失  175

4.ペーシング部位の問題  176

5.右室流出路ペーシング  177

6.Biventricular pacing  177

7.右室内の二点ペーシング(bi−focal pacing)  178

8.PQ 時間の影響  179

9.AV delay の至適化  179

10.Biventricular pacing が有効な症例,適応  181

11.左室ペーシング  183

12.古典的ペースメーカーの植込み適応のある症例における両室ペーシング  183

13.VV 間隔  188

14.慢性心房細動症例における両室ペーシング  190

15.Biventricular pacingの効果  190

16.Biventricular ICD の効果  192

17.Biventricular pacemaker の植込み方法  192

18.Biventricular pacing 設定上の問題  192

第11章 植込み型除細動器(JCD)  197

1.心室細動と ICD  197

2.心室頻拍の機序,電気生理学的検査による誘発と抗頻拍ペーシング  198

3.ICD システムの構造と機能  201

 a.ICD ショックリード  201

 b.ICD 本体  203

 c.ICD の機能  203

  1)除細動  203

  2)抗頻拍ペーシング  204

  3)抗徐拍ペーシング  207

  4)電気生理学的検査と心室細動誘発  207

 d.ICD における感知の問題  207

 e.ICD における頻拍認識の問題  208

 f.除細動の施行  209

 g.治療のプロトコール  210

 h.除細動の評価  212

 i.バックアップペーシングと徐脈に対するペーシング  212

4.ICD の適応と治療効果  212

 a.二次予防  212

 b.一次予防  213

5.特発性心室細動  218

6.ICD の植込み  220

 a.ICD の植込み手技  220

 b.心室細動の誘発と除細動試験  220

 c.手術合併症  222

7.ICD のフォローアップとトラブルシューティング  222

 a.キャパシタ(コンデンサ)のリフォーメーション  222

 b.リードの移動,損傷  223

 c.不適切作動  224

 d.抗不整脈薬の併用と問題点  227

 e.心室頻拍に対するカテーテル焼灼術と ICD  228

 f.QOL とメンタルケア  228

 g.Electrical storm  228

 h.電池消耗と交換  229

第12章 電磁波障害  233

1.電磁波障害(Electro−magnetic interference; EMI)とは  233

2.EMI により惹起される問題  234

 a.体に直接電流が流れる場合  235

  1)低周波治療器,低周波鍼通電治療  235

  2)体脂肪率計  235

  3)電気製品からの漏電  235

 b.体に磁力線が浴びさせられる場合  236

  1)MRI  236

  2)リニアモーター  236

  3)携帯電話  236

  4)電磁調理器,IH(Induction Heating)炊飯ジャー  237

  5)電気毛布,電子カーペット  237

  6)盗難予防装置,金属探知機  237

  7)マッサージ椅子,その他  237

 c.体に高圧電界が浴びせられる場合  237

3.EMI 対策  238

 a.ペースメーカーの EMI 防御機構  238

 b.双極リードの使用  238

 c.発生源からの距離  238

 d.直流除細動  238

 e.防御服  239

 f.EAS ステッカ  239

第13章 身体障害者認定,施設基準,保険償還,運転免許書および法律上の諸問題  241

1.身体障害者認定  241

2.ペースメーカーおよび ICD の移植術,交換術に関する施設基準  243

3.運転免許について  244

4.死後のペースメーカー取り外し  247

索引  249