「頭頸部」は小さな領域ながら複雑な解剖,機能,そして多彩な病理を有し,多くの放射線科医および臨床医にとって画像診断を難しく感じさせている.放射線科レジデントはその習熟のために多大な労力と時間を費やし,また,頭頸部領域の各専門外科のレジデントも外科的解剖と放射線解剖の統合,適切な検査の選択と画像所見の理解に苦労している.

 本書はそのタイトル通り,日常診療でのマニュアルおよび簡便な参照資料となるべく書かれた.執筆にあたり,よく遭遇する疾患を網羅し,これまでやや難解に思われていた頭頸部画像診断をより身近なものと感じられるよう,そして画像診断で何がどこまでわかり,どのような疾患でより有用かが理解できるよう努力した.解剖別にそれぞれの領域での正常解剖,撮像方法について述べたのち,代表的疾患の典型的な画像と読影のポイント,画像診断時に知っておくべき知識,そして鑑別診断およびチェックリストを記載した.これらは日々,放射線科および耳鼻咽喉科頭頸部外科のレジデント,フェローおよび学生に繰り返し教えているものである.日常遭遇する機会の多い疾患を中心に収録したが,頻度は低くとも特徴的な画像所見から質的診断が可能なもの,異常所見と間違ってはいけない正常変異や治療後の変化,そして,多くの教科書で記載されていなくとも診断のカギとなるポイントをできるだけ盛り込んだ.

 放射線科および各診療科のレジデントが忙しい日常診療の中で短時間に多くの症例に触れ,頭頸部画像診断のエッセンスを吸収できるよう企画されたが,結果として,コンサイスではあるが,多くの内容を含む本に仕上がり,頭頸部診療に携わる全ての人に役立てる一冊となった.頭頸部画像診断の機会がそれほど多くない一般放射線科医,あるいは長年この領域の診療に携わってきた各専門外科医にとっても,代表的な疾患の画像所見を整理し,個々の疾患でどのような検査が有用かを理解する手助けになるだろう.紙面の都合,細部まで触れられなかったものもあるが,それについては成書を参照していただきたい.

 症例はどれも日々の診療で経験してきたものである.診断に苦労した症例も少なくなく,一例一例そのときの様子が思い起こされ,書き進めるにつれ,これまでいかに多くのことを放射線科や他の診療科の同僚およびレジデントの先生方,そして患者さんから学ばせていただいたかを痛感した.本書を通じて,できるだけ多くの人が頭頸部画像診断に親しみを感じ,さらなる診断能力の向上により,患者さんに貢献できるよう願っている.

  2004年4月

    ボストン大学医学部ボストンメディカルセンター

    放射線科助教授 酒井 修

    Osamu Sakai, MD, PhD

    Assistant Professor

    Department of Radiology

    Boston Medical Center

    Boston University School of Medicine


目次

I.正常解剖

1章 側頭骨

 1.CT−外耳道上縁レベル(横断)

 2.CT−卵円窓レベル(横断)

 3.CT−内耳道レベル(横断)

 4.CT−蝸牛レベル(冠状断)

 5.CT−卵円窓レベル(冠状断)

 6.CT−正円窓レベル(冠状断)

2章 頭蓋底

 1.CT−翼口蓋窩レベル(横断)

 2.CT−下眼窩裂レベル(横断)

 3.CT−上眼窩裂レベル(横断)

 4.MRI−上咽頭レベル(横断)

 5.MRI−翼口蓋窩レベル(横断)

 6.MRI−下眼窩裂レベル(横断)

 7.MRI−卵円孔レベル(冠状断)

3章 眼窩・副鼻腔

 1.CT−眼球・鼻涙管レベル(冠状断)

 2.CT−球後部・自然孔レベル(冠状断)

 3.CT−眼窩先端部レベル(冠状断)

 4.MRI−上眼静脈レベル(横断)

 5.MRI−視神経レベル(横断)

 6.MRI−上眼窩裂レベル(横断)

 7.MRI−眼球レベル(冠状断)

 8.MRI−球後部レベル(冠状断)

 9.MRI−視神経レベル(斜矢状断)

4章 舌骨上頸部

 1.MRI−上咽頭レベル(横断)

 2.MRI−茎状突起下顎トンネルレベル(横断)

 3.MRI−口腔底レベル(横断)

5章 中咽頭・口腔

 1.MRI−冠状断

 2.MRI−冠状断(やや後方)

 3.MRI−矢状断

6章 下咽頭・喉頭

 1.MRI−声門上レベル(横断)

 2.MRI−声門レベル(横断)

 3.MRI−声門下レベル(横断)

 4.MRI−冠状断

 5.MRI−矢状断(正中)

 6.MRI−矢状断(やや外側)

7章 舌骨下頸部

 1.MRI−声門レベル(横断)

 2.MRI−甲状腺レベル(横断)

 3.MRI−胸郭入口部レベル(横断)

II.撮像法

 1.側頭骨

 2.頭蓋底

 3.眼窩

 4.副鼻腔

 5.頸部

 6.顎骨・顎関節

● 部位別T・N分類の要約

III.症例

1章 側頭骨

 1.迷路出血

 2.前庭水管拡張症

 3.蝸牛軸低形成

 4.サルコイドーシス,Heerfordt症候群

 5.内耳道脂肪腫

 6.耳硬化症

 7.蝸牛神経鞘腫

 8.内頸動脈異所性走行,アブミ骨動脈遺残

 9.傍神経節腫−鼓室糸球

 10.傍神経節腫−頸静脈糸球

 11.鼓室硬化症

 12.骨化性迷路炎

 13.急性中耳炎

 14.慢性中耳炎

 15.真珠腫

 16.真珠腫−先天性真珠腫

 17.真珠腫−半規管瘻孔

 18.真珠腫−鼓室天蓋破壊

 19.側頭骨骨折

 20.外耳道閉鎖

 21.聴神経腫瘍

 22.顔面神経麻痺

2章 頭蓋底

 1.線維性骨異形成

 2.頸静脈孔の神経鞘腫

 3.コレステリン肉芽腫

 4.小脳橋角部髄膜腫

 5.血液疾患に伴う骨髄の異常信号

 6.三叉神経神経鞘腫

 7.脊索腫

 8.軟骨肉腫

 9.脳脊髄液腔播種

 10.錐体骨の非対称含気

 11.サルコイドーシス

 12.下垂体腺腫

 13.頭蓋咽頭腫

 14.錐体尖炎

 15.類表皮腫

 16.頭瘤(髄膜瘤,脳瘤)

 17.Paget病

3章 鼻腔・副鼻腔

 1.粘液瘤

 2.高蛋白貯留嚢胞

 3.術後性上顎嚢胞

 4.鼻腔悪性黒色腫

 5.洞後鼻孔ポリープ

 6.鼻中隔彎曲

 7.中鼻甲介の逆巻き

 8.Haller蜂巣

 9.Wegener肉芽腫症

 10.急性副鼻腔炎

 11.concha bullosa

 12.上顎癌(扁平上皮癌)

 13.アスペルギールス性副鼻腔炎

 14.副鼻腔骨腫

 15.腺様嚢胞癌

 16.悪性リンパ腫

 17.無気性副鼻腔

 18.若年性血管線維腫

 19.嗅神経芽細胞腫

 20.Kallman症候群

4章 眼窩

 1.眼窩吹き抜け骨折

 2.眼窩神経鞘腫

 3.甲状腺眼症(Graves病)

 4.滑車の石灰化

 5.紙様板骨欠損

 6.化粧品による金属アーチファクト

 7.眼窩血管腫

 8.視神経膠腫

 9.視神経鞘髄膜腫

 10.視神経炎

 11.視神経周囲炎

 12.特発性眼窩炎症,眼窩炎症性偽腫瘍

 13.頸動脈海綿静脈洞瘻

 14.類皮嚢腫/類表皮腫

 15.眼窩悪性リンパ腫

5章 眼球

 1.眼球勞

 2.網膜剥離に対する治療に伴う人工物

 3.無水晶体眼,人工水晶体

 4.強膜の石灰化

 5.ドルーゼ

 6.転移性脈絡膜腫瘍

 7.網膜芽細胞腫

 8.ぶどう膜悪性黒色腫

 9.網膜および脈絡膜剥離

 10.強膜炎/強膜周囲炎

 11.眼球外傷

 12.一次硝子体過形成遺残

 13.Coats病

 14.コロボーマ,朝顔症候群

6章 舌骨上頸部

 1.アデノイド

 2.Tornwaldt嚢胞

 3.上咽頭癌

 4.悪性リンパ腫

 5.HIV陽性患者でのアデノイドの腫大

 6.アミロイドーシス/アミロイドーマ

 7.咽後膿瘍

 8.動静脈奇形

 9.リンパ管腫,リンパ管血管奇形

 10.静脈リンパ管血管奇形

 11.咀嚼筋間隙感染症/膿瘍

 12.咬筋血管腫

 13.血管外皮細胞腫

 14.良性咬筋肥大症

 15.木村氏病

 16.鰓嚢胞

 17.傍神経節腫

 18.神経鞘腫

 19.神経線維腫

 20.頸動脈瘤

 21.咽頭後頸動脈・内頸動脈内側偏位

7章 唾液腺

 1.Warthin腫瘍

 2.耳下腺多形腺腫

 3.腺様嚢胞癌

 4.腺房細胞癌

 5.耳下腺腺癌

 6.耳下腺血管腫

 7.耳下腺脂肪腫

 8.耳下腺リンパ管腫

 9.悪性リンパ腫

 10.Sjogren症候群

 11.唾石症

 12.サルコイドーシス

 13.HIVに関連する耳下腺リンパ上皮性病変

8章 口腔・中咽頭

 1.舌甲状腺,異所性甲状腺

 2.舌扁平上皮癌

 3.歯肉扁平上皮癌

 4.舌血管腫

 5.舌脱神経萎縮

 6.腺様嚢胞癌

 7.類皮嚢腫/類表皮腫

 8.ガマ腫

 9.悪性リンパ腫

 10.中咽頭扁平上皮癌,扁桃扁平上皮癌

 11.口蓋多形腺腫

 12.蔓状神経線維腫,神経線維腫症I型

 13.扁桃周囲膿瘍

9章 顎骨

 1.静止性骨空洞, Stafne嚢胞

 2.鼻口蓋嚢胞

 3.顎関節症

 4.下顎骨骨肉腫

 5.エナメル上皮腫

 6.歯根肉芽腫

 7.歯根嚢胞

 8.含歯性(濾胞)嚢胞

 9.歯原性角化嚢胞

 10.二分顎関節突起

 11.外骨症

 12.滑膜骨軟骨症

 13.慢性関節リウマチ

10章 喉頭・下咽頭

 1.喉頭癌

 2.喉頭瘤,嚢状嚢腫

 3.急性喉頭蓋炎

 4.反回神経麻痺,声帯麻痺

 5.喉頭・気管乳頭腫

 6.喉頭浮腫

 7.喉頭神経鞘腫

 8.下咽頭癌

 9.軟骨肉腫

 10.甲状軟骨転移性腫瘍

11章 舌骨下頸部

 1.甲状舌管嚢胞

 2.類皮嚢腫

 3.梨状窩瘻に伴う急性化膿性甲状腺炎

 4.二次性副甲状腺機能亢進症

 5.甲状腺悪性リンパ腫

 6.甲状腺癌

 7.壊死を伴う転移リンパ節

 8.結核性リンパ節炎

 9.悪性リンパ腫

 10.キャッスルマン病

 11.内頸静脈血栓症

 12.内頸静脈の左右差,不均一濃染および異常信号

 13.大動脈炎症候群,高安病

 14.脂肪腫

 15.マデルング病

索引