はじめに
臨床検査は疾患の診断・病態・治療・予後推定の定量的評価手段として欠くことができない.臨床検査は,医学を科学的学問体系に発展させた基盤をなしてきたといえる.腎臓は,体内老廃物の排泄,酸塩基平衡の調節といった機能とともに,ビタミンD3の活性化,エリスロポエチンの産生やレニン分泌など,内分泌的代謝機能を果たしている.したがって,末期腎不全に陥ると,内部環境の恒常性維持機構の破綻と種々の代謝障害により,全身のさまざまな病態異常をきたす.
透析患者ではほとんど無尿の状態であり,透析治療は腎の働きの一部を代行するにすぎないので,多くの病態異常を抱えながら,生命の危険性と隣り合わせに生存しているのである.そして,透析治療の長期化に伴いいろいろな特有な合併症も起こってくる.したがって,透析療法を安定して継続するためには,危険な病態異常を早期に捉えて予防と治療管理を行うことが大切である.一方では,透析患者における検査の基準値が健常者とは著しく異なることを理解しておかなければならない.そのため,透析治療に携わる者には広い臨床検査の知識が要求される.
本書は,透析患者に日常汎用されている項目はもちろん,特殊なものでも透析治療に重要と思われる検査項目を取り上げ,その解釈ならびに治療管理における意義を理解していただく目的で企画された.経験と熟練を要するといわれる透析治療とその臨床検査の意義の修得に,本書がいささかでもお役に立つことを期待したい.最後に,多忙ななかご執筆いただいた諸先生に厚くお礼申し上げる次第である.
1999年4月
下条文武
目 次
総 論 <下条文武> 1
1.血液・凝固線溶系
1.赤血球(RBC),ヘモグロビン(Hb),ヘマトクリット(Ht) <下条文武,白崎有正> 4
2.血小板(Plt) <大澤源吾> 6
3.白血球(WBC),白血球百分率 <大澤源吾> 8
4.プロトロンビン時間(PT),活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT) <大澤源吾> 10
5.アンチトロンビンV(ATV),ヘパリンコファクターU(HCU) <海津嘉蔵> 12
6.トロンボモジュリン(TM) <海津嘉蔵> 14
7.フィブリノーゲン,FDP <海津嘉蔵> 16
2.電解質,金属
1.ナトリウム(Na),クロール(Cl) <鈴木洋通> 19
2.カリウム(K) <鈴木洋通> 22
3.マグネシウム(Mg) <下条文武,井村敏雄> 24
4.鉄(Fe) <中澤了一> 26
5.アルミニウム(Al) <鈴木正司> 28
6.亜鉛(Zn) <大和田滋,小原康伸> 30
7.カルシウム(Ca),リン(P) <塚本雄介> 32
3.蛋白質,他
1.尿素窒素(BUN),Kt/V <木村玄次郎> 35
2.血清総蛋白,蛋白分画,アルブミン <中西 健,高光義博> 38
3.クレアチニン <北本康則,冨田公夫> 40
4.尿 酸 <北本康則,冨田公夫> 42
5.フェリチン <高光義博,中西 健> 45
6.β2-microglobulin(β2-m) <下条文武> 48
7.不飽和鉄結合能(UIBC),総鉄結合能(TIBC) <秋澤忠男> 50
8.アンモニア <椿原美治> 52
9.トランスフェリン,トランスフェリンレセプター <小篠 榮,鈴木利昭> 55
10.ヒアルロン酸 <小篠 榮> 58
11.ミオグロビン,ミオシン軽鎖 <椿原美治> 60
12.遊離アミノ酸 <佐中 孜> 62
13.トロポニンT(TnT) <杉本英弘,下条文武> 67
14.カルニチン <丹羽利充> 70
15.AGEペプチド <丹羽利充> 72
16.ホモシステイン <中西 健,高光義博> 74
17.サイトカイン <佐中 孜> 76
18.セロトニン <鈴木正司> 79
4.脂質
1.総コレステロール <山門 実> 82
2.HDLコレステロール <山門 実> 85
3.アポリポ蛋白(Apo) <井村敏雄,下条文武> 88
4.リポプロテイン(a)〔Lp(a)〕 <嶋田章弘,下条文武> 90
5.中性脂肪,トリグリセリド <山門 実> 92
6.CETP遺伝子 <木村秀樹> 95
5.糖代謝
1.血 糖 <鈴木芳樹> 98
2.フルクトサミン <木村秀樹> 100
3.抗GAD抗体 <羽田勝計> 102
4.1, 5AG(1, 5-アンヒドログルシトール) <羽田勝計> 104
5.HbA1,HbA1c <木村秀樹> 106
6.インスリン <鈴木芳樹> 109
7.C-ペプチド <鈴木芳樹> 112
6.酵素
1.GOT,GPT <白鳥勝子> 115
2.LAP,γ-GTP <白鳥勝子> 118
3.アルカリフォスファターゼ(ALP)アイソザイム <中澤了一> 120
4.酸性フォスファターゼ(ACP),酒石酸抵抗性酸性フォスファターゼ(TRACP) <中澤了一> 122
5.LDH,LDHアイソザイム <白鳥勝子> 124
6.コリンエステラーゼ(ChE) <鈴木 亨> 127
7.アミラーゼ,アミラーゼアイソザイム <頼岡徳在,正木崇生> 130
8.クレアチンキナーゼ(CK),CKアイソザイム <頼岡徳在,正木崇生> 132
9.ZTT,TTT <和栗暢生,青柳 豊> 134
10.ビリルビン <黒岩 敬,青柳 豊> 136
11.ACE遺伝子多型 <木村秀樹> 138
7.免疫
1.免疫グロブリン(IgG・A・M・D) <中野正明> 140
2.血清補体価(CH50) <鈴木 亨> 142
3.抗核抗体(ANA) <原 茂子> 145
4.抗カルジオライピン抗体 <中野正明> 148
5.サイトカイン <秋澤忠男> 150
6.抗好中球細胞質抗体(ANCA) <吉原 堅,原 茂子> 152
8.ウイルス,細菌感染症
1.B型肝炎ウイルス <古市賢吾,横山 仁> 155
2.C型肝炎ウイルス/HCV抗体 <瀬川知香子,横山 仁> 158
3.抗酸菌核酸同定 <五十嵐謙一> 160
4.HIV/HTLV-1 <五十嵐謙一> 162
5.C型肝炎ウイルスRNA解析 <清水美保,横山 仁> 165
6.サイトメガロウイルス感染症の遺伝子診断 <五十嵐謙一> 168
7.mecA(MRSA)遺伝子解析 <五十嵐謙一> 170
8.(1→3)-β-Dグルカン <荒木英雄> 173
9.Helicobacter pylori IgG抗体 <荒木英雄> 176
9.内分泌
1.レニン,アルドステロン <田部井 薫> 179
2.心房性Na利尿ペプチド(ANP),脳性Na利尿ペプチド(BNP) <増永義則,草野英二> 182
3.成長ホルモン <森田有津子,三木隆己> 184
4.抗利尿ホルモン <増永義則,草野英二> 186
5.プロラクチン <田部井 薫> 188
6.テストステロン <柳 秀高,横山啓太郎> 191
7.黄体形成ホルモン(LH),卵胞刺激ホルモン(FSH) <鈴木 亨> 194
8.副甲状腺ホルモン(C-PTH,HS-PTH,intact-PTH) <惠 以盛> 197
9.副甲状腺ホルモン関連蛋白(PTHrP) <森田有津子,三木隆己> 200
10.1, 25(OH)2 ビタミンD3 <衣笠えり子,酒井貞子> 202
11.ビタミンD受容体遺伝子多型 <塚本雄介> 205
12.オステオカルシン <衣笠えり子,酒井貞子> 208
13.カルシトニン <衣笠えり子,酒井貞子> 211
14.甲状腺刺激ホルモン(TSH),甲状腺ホルモン(T3,T4) <荒木英雄,松田哲久,宮崎良一> 214
15.ガストリン <惠 以盛> 216
10.血清検査
1.CRP <山田俊幸> 218
2.SAA <山田俊幸> 220
3.赤血球沈降速度(ESR) <田部井 薫> 222
4.リウマトイド因子 <中野正明> 224
5.Coombs 試験 <大和田 滋,薄井智彦> 226
6.ASO,ASK <吉田和清> 228
7.ツベルクリン反応 <甲田 豊> 229
8.HLA検査 <吉田和清> 232
11.腫瘍マーカー
1.AFP(alpha-fetoprotein) <青柳 豊> 233
2.CEA <横山啓太郎> 236
3.CA19-9 <横山啓太郎> 238
12.画像検査
1.骨 <井上聖士> 241
2.胸部単純X線写真,心胸郭比(CTR) <甲田 豊> 244
3.腎 <甲田 豊> 246
4.心 <赤坂和美,羽根田 俊,菊池健次郎> 248
5.関 節 <谷澤龍彦> 251
6.副甲状腺 <井上聖士> 254
13.生理機能検査,その他
1.心電図検査 <羽根田 俊,赤坂和美,菊池健次郎> 257
2.末梢神経伝導速度,正中神経運動潜時 <浜田敏彦,下条文武> 260
3.関節滑膜生検 <谷澤龍彦> 262
4.骨生検 <惠 以盛> 264
5.骨塩量定量 <鈴木正司> 268
略語一覧 271
索 引 275