透析療法はまさに日進月歩の世界であり,常に新しい情報を正確に入手していかないと情勢から遅れてしまうといっても過言ではない.透析医は腎機能のない患者の全科にわたるprimary care doctorである.全領域の新しい情報を原典(original paper)からとりこむことはできない.新しい情報を「臨床透析」や「腎と透析」などの雑誌から入手することはできるが,雑誌という限られた紙数では情報の片寄りや断片化が起こることは避け得ない.そのため透析 update的な新刊本が情報提供の役目を荷う.

 こういった本はややもすると2つの盲点を持つ傾向にある.ひとつは情報提供といいながら綜説的になり既知の知識を長々と述べるという問題である.これでは新しめの教科書になってしまう.もうひとつは,新しい情報を網羅しようとするとどうしても筆者が多くなる.その時筆者の選定が当を得ないと,情報の確度や解説内容にバラツキがでて安定した情報提供書にならないということである.

 本書を企画するに当り,上に述べたような問題書にならぬよう気を配った.新しい情報として32項目に亙る多数のテーマを選択した.そのいずれもが既知の知識の長々とした解説にならないよう一定の枚数に納まるようにした.筆者もそれぞれの分野の専門家であり,かつわかりやすい解説で定評のある医師を中心とした.内容では,心合併症,アミロイドーシス,透析膜の選択など基本的な事柄は当然とりあげるものの,持続的血液浄化療法,CAPDと腹膜硬化症,院内感染,HIVといった問題を加えた.さらに知っておきたいものとして透析器の再使用,DRG/PPS,移植成績,そして臓器移植ネットワークの動きなどを加え幅広い知識を提供するよう心がけたつもりである.

 この「透析療法new wave」が透析療法の最前線で患者さんのために腎不全と闘っている諸兄に何らかの役に立つことを願っている.

  1999年5月

丸茂文昭


目 次

1 透析導入時期の判断〈前田益孝,椎貝達夫〉  1

 A.透析導入基準の推移…  1

 B.医学的検討…  3

  1.疫学的検討…  3

  2.臨床症状から…  4

 C.医療経済的検討…  5

 D.患者のQOLからの検討…  6

2 blood access―最近の話題〈天野 泉〉  8

 A.留置カテーテル…  8

  1.jugular vein留置カテーテル…  8

  2.permanent accessとしての留置カテーテル…  8

 B.人工血管… 10

  1.PTFEグラフト… 11

  2.Thoratecポリウレタングラフト… 12

3 高リン血症の対策〈安藤亮一〉 14

 A.透析患者における高P血症の病因的意義… 15

  1.二次性副甲状腺機能亢進症… 15

  2.異所性石灰化… 15

 B.高P血症の対策… 16

  1.食事中のP制限… 16

  2.透析によるP除去… 16

  3.P吸着薬の必要性… 16

 C.P吸着薬… 16

  1.Ca製剤… 16

  2.アルミニウム(Al)製剤… 18

  3.マグネシウム(Mg)製剤… 19

  4.新しいP吸着薬… 19

 D.P吸着薬投与上の注意… 20

4 透析膜の選択〈内藤秀宗〉 23

 A.現在の血液透析膜… 24

 B.高物質透過性透析の限界… 24

 C.新しい治療モードでの血液透析濾過器… 27

 D.高物質透過性膜の使用上の注意すべき症例… 28

 E.生体適合性… 28

5 透析処方とその評価〈秋葉 隆,田村博之,島村治子〉 31

 A.治療法の選択,治療時間とその頻度… 32

  1.治療法(modality)の選択… 32

  2.治療頻度… 33

  3.透析時間… 33

 B.透析量とそれを規定する因子… 33

  1.透析量… 33

  2.血流量と再循環量… 34

  3.透析液流量… 35

6 透析患者の凝固異常・出血傾向と抗凝固法の選択〈松井則明〉 37

 A.透析患者の血液凝固能… 37

 B.透析患者の出血傾向… 37

 C.出血傾向を有する透析患者の抗凝固療法… 38

 D.透析器残血の原因と対処法… 40

7 栄養障害〈佐中 孜〉 44

 A.成 因… 44

  1.蛋白代謝異常… 44

  2.エネルギー代謝異常… 46

  3.透析療法による体外喪失… 46

 B.評 価… 47

  1.身体計測… 47

  2.SGA… 48

  3.食事調査と蛋白異化率… 48

  4.臨床所見(検査所見)… 48

  5.身体構成成分の測定… 49

 C.改善策… 50

8 透析と酸化ストレス〈旭 浩一,宮田敏男〉 52

 A.生体におけるレドックス調節… 52

 B.慢性腎不全ならびに透析療法におけるレドックス異常… 53

 C.酸化ストレスと病態―カルボニルストレスと長期透析合併症… 53

  1.腎不全におけるAGEsの蓄積… 54

  2.酸化ストレスとAGEs―腎不全におけるカルボニルストレス… 54

  3.長期透析合併症とカルボニルストレス… 55

  4.カルボニルストレスの病態生理学的役割… 55

 D.治療への展望… 56

  1.レドックス調節療法… 56

  2.カルボニル消去剤… 57

9 透析とサイトカイン〈木野恭子,牧田東陽,秋澤忠男〉 60

 A.血漿サイトカイン濃度… 61

 B.単核球のサイトカイン産生… 61

 C.透析液中のサイトカイン誘導刺激の伝達… 62

 D.エンドトキシンによるサイトカイン産生機構… 62

 E.サイトカイン抑制蛋白… 64

 F.CAPD患者とサイトカイン… 64

10 透析アミロイドーシス〈本間則行,下条文武〉 69

 A.透析アミロイドーシスの成因… 69

  1.β2‐M分子の問題… 69

  2.アミロイドシャペロン… 71

 B.透析アミロイドーシスの治療… 73

  1.β2‐M吸着器の効果… 73

  2.少量ステロイド治療の成績… 74

  3.腎移植の効果に対する相反する見解… 75

  4.非侵襲的整形外科治療… 76

11 エリスロポエチンをめぐる話題〈秋元 哲,草野英二,浅野 泰〉 79

 A.rHuEpo使用と高血圧… 79

  1.血圧上昇の頻度およびその特徴… 79

  2.高血圧の発症機序… 80

 B.rHuEpo療法における目標Hct値… 82

  1.目標Hct値設定の背景… 82

  2.Hct改善の至適目標値… 82

  3.rHuEpo不応症の原因および診断手順… 83

  4.rHuEpoの投与経路に関する問題… 85

12 透析患者の心合併症〈羽根田 俊,平山智也,赤坂和美,菊池健次郎〉 90

 A.心機能障害の成因… 90

  1.高血圧性心肥大および糖尿病心… 91

  2.虚血性心疾患… 92

  3.貧 血… 93

  4.ブラッドアクセス… 93

  5.心嚢液貯留および心外膜炎… 93

  6.Ca・P代謝異常(心弁膜石灰化)… 93

  7.カルニチン(脂肪酸)代謝異常… 94

 B.透析時の心機能の変化… 94

 C.予防と治療… 94

  1.治療の原則… 94

  2.体液量・体内Na量の管理… 95

  3.除水方法の適正化… 95

  4.心不全の薬物治療… 96

  5.高血圧の治療… 96

  6.虚血性心疾患の治療… 96

  7.貧血の治療… 96

  8.心嚢液貯留および心外膜炎の治療… 96

  9.心臓弁膜石灰化の予防… 96

13 透析患者の不整脈〈家坂義人〉 98

 A.不整脈発生の背景… 98

 B.不整脈の種類と出現頻度… 98

 C.治療の原則および適応… 99

 D.抗不整脈薬の作用および分類… 99

 E.薬物治療のガイドライン… 101

  1.心室性期外収縮… 102

  2.心房性期外収縮… 102

  3.心房細動… 102

  4.心室頻拍… 103

 F.非薬物治療… 103

  1.ペースメーカー… 103

  2.カテーテルアブレーション… 104

14 透析患者の脳血管障害〈平方秀樹〉 107

 A.慢性透析患者の脳循環動態の特徴と透析の影響… 107

  1.脳循環動態… 107

  2.血液透析の影響… 108

  3.透析期間の影響… 108

 B.脳血管障害の概念・分類… 109

 C.慢性透析患者における脳卒中の頻度… 110

 D.成因および危険因子… 111

  1.是正不可能な因子… 111

  2.是正可能な因子… 111

 E.脳卒中急性期の管理… 112

  1.急性期の透析方法… 112

  2.外科的療法の適応… 112

 F.脳卒中慢性期の管理… 112

  1.脳卒中慢性期の症候… 112

  2.脳血管障害の再発予防… 113

  3.リハビリテーション… 114

 G.予 後… 114

15 透析患者の動脈硬化〈湯川 進,宗 正敏,大谷晴久,山田陽一〉 116

 A.高血圧と動脈硬化… 116

  1.透析患者における高血圧… 117

  2.高血圧と心血管疾患… 117

  3.透析療法と高血圧… 118

  4.高血圧と動脈硬化病変… 118

  5.腎不全時の降圧療法… 119

 B.脂質代謝異常と動脈硬化… 119

  1.臨床成績… 119

  2.基礎的研究… 120

  3.透析患者における動脈硬化進展機序… 121

  4.透析患者の血清脂質異常の治療… 121

 C.Ca・P代謝異常と動脈硬化… 123

16 糖尿病性腎症による透析患者の臨床的な特徴と対策〈原 茂子〉 125

 A.糖尿病性腎症腎不全の進展とその対策… 125

  1.血糖・血圧管理… 125

  2.水・電解質管理… 127

  3.脂質代謝障害… 127

  4.蛋白制限… 129

  5.rhEpoは糖尿病腎不全の進展を抑制するか?… 129

 B.糖尿病性腎症の特殊性と対策… 130

  1.透析導入時の病態… 130

  2.眼科的合併症… 130

  3.糖・脂質代謝障害… 130

  4.マクロアンギオパチーの管理… 131

  5.糖尿病性腎症の予後と遺伝因子… 132

  6.Ca・P代謝,電解質異常… 133

 C.no return point… 133

17 透析骨症の評価〈栗原 怜,小野田教高〉 136

 A.骨生検組織所見による分類… 136

 B.骨生検に代わる診断法の進歩… 136

  1.高回転骨の評価… 138

  2.低回転骨… 142

 C.各組織型発生頻度の変遷… 143

 D.アミロイド骨・関節症… 143

  1.画像診断… 143

18 透析患者の上皮小体(副甲状腺)機能亢進症の治療とその選択〈冨永芳博〉 147

 A.腎性上皮小体機能亢進症の発症機序と病態… 147

 B.腎性上皮小体機能亢進症の治療… 148

  1.i‐PTH<300pg/ml,またはHS‐PTH<30ng/mlまでの治療… 149

  2.高度な腎性上皮小体機能亢進症(i‐PTH>300pg/mlまたはHS‐PTH>30ng/ml)… 149

 C.高度な2HPTに対する期待される新しい治療法… 153

19 透析患者の副甲状腺機能低下症〈衣笠えり子,里見明代,新倉一彦〉 156

 A.透析患者における至適PTH濃度… 156

 B.Hypoの頻度… 157

 C.Hypoの病因… 158

  1.全国調査からの検討… 158

  2.副甲状腺の機能異常… 158

  3.VD受容体(VDR)遺伝子多型… 159

 D.Hypoの臨床像… 159

  1.無形成骨… 159

  2.高Ca血症,高P血症,異所性石灰化… 160

  3.その他… 160

 E.Hypoの治療… 160

  1.Al除去療法… 160

  2.低Ca透析… 160

 F.Hypo治療の将来… 161

20 持続的血液浄化療法―その適応と実際〈塚本 功,中元秀友,山下芳久,鈴木洋通〉 164

 A.持続血液浄化療法の利点と欠点… 164

 B.CBPの分類と特徴… 165

 C.CBPの適応… 165

 D.CBPの施行方法と注意点… 166

  1.blood access… 166

  2.hemofilterとhemodialyzer… 168

  3.console… 169

  4.抗凝固薬… 169

  5.透析液,置換液… 170

 E.CBPの実際… 171

 F.endotoxin吸着療法(PMX)とCBP… 171

 G.心血管疾患とCBP… 172

  1.経皮的心肺補助施行患者でのCBP… 172

  2.維持透析患者における開心術後… 172

  3.心・大血管手術後に発症した急性腎不全症例… 172

21 腹膜透析―出口部感染の予防と治療〈中本雅彦〉 176

 A.出口部感染の予防… 176

  1.出口部のケア… 176

  2.CAPDカテーテル… 177

 B.出口部感染の治療… 180

 C.トンネル感染の治療… 180

22 限外濾過不全と腹膜硬化症〈久保 仁〉 183

 A.限外濾過不全の定義と分類… 183

  1.UFFの分類… 183

  2.腹膜炎時の一過性UFF… 184

 B.PDの継続と限外濾過不全… 184

 C.腹膜透析継続による腹膜の組織学的変化… 185

 D.UFFの原因… 186

  1.酸性透析液の影響… 187

  2.ブドウ糖の影響… 187

 E.硬化性被嚢性腹膜炎… 187

 F.今後の展望… 189

23 腹膜透析液の最近の進歩〈樋口千恵子,二瓶 宏〉 192

 A.ポリグルコース透析液… 192

 B.アミノ酸透析液… 194

 C.重曹透析液… 195

 D.その他の透析液… 196

  1.低Na透析液… 196

  2.グリコサミノグリカン… 196

  3.腹膜細胞を含む透析液… 197

24 透析患者のウイルス性肝炎―その対策と意義〈佐藤千史〉 200

 A.B型肝炎ウイルス… 200

  1.ウイルスの概要と最近の知見… 200

  2.感染経路と頻度… 201

  3.病態と予後… 201

  4.治療と対策… 202

 B.C型肝炎ウイルス… 202

  1.概要と最近の知見… 202

  2.感染頻度… 203

  3.感染経路… 203

  4.病態と予後… 204

  5.治療と対策… 205

 C.その他のウイルス… 207

25 透析における(MRSAなどの)院内感染対策の現況〈三宅千恵,河野 茂,原田孝司〉 209

 A.感染症と微生物… 209

 B.感染経路… 210

 C.手指消毒… 211

 D.消毒および滅菌… 212

 E.透析室におけるMRSA感染対策… 213

 F.結 核… 215

 G.人権擁護… 216

26 HIV感染透析患者への対応〈齊藤 博〉 217

 A.HIV感染症の疫学… 217

 B.HIV感染症の臨床… 218

  1.臨床経過… 218

  2.検査法… 218

  3.AIDSの診断… 219

  4.治療法… 219

 C.HIV腎症… 220

  1.疫 学… 220

  2.診 断… 220

  3.病態生理… 220

  4.治 療… 220

  5.予 後… 221

 D.院内感染予防の立場から… 221

  1.感染経路… 221

  2.疫 学… 221

  3.感染力… 221

  4.HIV感染者の透析と医療事故の予防… 221

  5.公務災害の適用について… 222

 E.HIV医療事故のマニュアル… 223

  1.米国公衆衛生局の勧告… 223

  2.東京都HIV感染防止の予防服用マニュアル… 223

27 透析とコンピュータ〈田部井 薫〉 228

 A.透析医療にコンピュータを導入する意義… 228

 B.パーソナルコンピュータ導入の場合… 229

  1.パーソナルコンピュータを導入する目的… 229

  2.パーソナルコンピュータを導入する時の注意点… 229

  3.コンピュータを導入する時の問題点とその対応… 231

 C.中央監視システム… 231

  1.中央監視装置の概要と導入の意義… 232

  2.中央監視装置導入の問題点… 233

 D.緊急時,災害時の透析医療とコンピュータ… 233

 E.コンピュータネットワークの今後の可能性… 234

28 透析器の再使用〈鈴木正司〉 235

 A.再使用の現況… 235

  1.再使用の始まり… 235

  2.再使用の広まり… 236

 B.透析器再生の実態… 236

  1.洗浄・滅菌… 236

 C.再使用と透析器の性能… 236

  1.性能が劣化する… 236

  2.影響は少ない… 237

 D.再使用と生体適合性… 237

  1.生体非適合性現象の軽減… 237

  2.初回使用症候群はすでに激減している… 237

 E.再使用と安全性,副作用… 238

  1.安全とする見解… 238

  2.危険とする見解… 238

 F.再使用と生存率… 238

  1.米国の生存率は欧州,日本より低い… 238

  2.透析時間と生存率… 238

  3.再使用と生存率… 239

 G.再使用と医療経済,医療廃棄物… 240

  1.医療費の節減効果… 240

  2.廃棄物の減少… 241

29 透析とDRG/PPS〈山崎親雄〉 243

 A.出来高払いと定額払い… 243

  1.出来高払いと定額払いの比較… 243

  2.透析と定額払い… 245

  3.米国の透析医費定額払い… 245

 B.DRG/PPS… 246

  1.DRG/PPSとは… 246

  2.諸外国におけるDRG研究… 246

  3.日本版DRG/PPSの試行… 247

30 透析療法の臨床成績〈中井 滋〉 250

 A.わが国の透析患者の現況… 250

 B.血液透析患者の至適透析条件… 251

  1.Kt/V… 251

  2.透析時間… 252

  3.(Kt/V)/t… 253

  4.至適透析条件についてのまとめ… 254

 C.栄養指標と生命予後… 254

  1.標準化蛋白異化率… 254

  2.透析前血清アルブミン濃度… 255

  3.%クレアチニン産生速度… 255

  4.血清アルブミン濃度と%クレアチニン産生速度の関係… 257

31 腎移植―本邦の成績〈仲谷達也,岸本武利〉 259

 A.腎移植件数… 259

  1.年間腎移植件数… 259

  2.生体・献腎別移植件数… 260

 B.生体腎移植… 261

  1.親子間移植… 261

  2.夫婦および非血縁ドナー… 261

  3.高齢者ドナー… 262

  4.生体腎移植生存・生着率… 262

 C.献腎移植(死体腎移植)… 262

  1.献腎移植ドナー… 262

  2.献腎摘出術… 263

  3.献腎移植レシピエントの選択… 263

  4.献腎移植後の血液透析… 264

  5.献腎移植生存・生着率… 264

32 日本臓器移植ネットワークの現状と課題〈飯野靖彦〉 266

 A.日本臓器移植ネットワーク設立の経緯… 266

 B.ネットワークになって変わった点… 266

 C.ネットワークの組織… 267

 D.献腎移植の現状… 268

 E.今後の課題… 268

  1.組織に関して… 268

  2.献腎移植数の地域差と登録者数… 269

  3.ドナー適応基準… 269

  4.レシピエント選択基準… 270

  5.小児のドナー… 270

  6.脳死判定… 270

索 引… 273