2003年の厚生労働省統計によると,日本における糖尿病患者数は予備軍も含めて1620万人と,5年前に比べさらに増加している.糖尿病の診療は数千名の専門医,多くの一般臨床医,そして患者の療養指導に当たるメディカルスタッフに委ねられている.糖尿病の療養指導に当たっては広く最新の知識を身につけておく必要があるが,体系的な勉強はなかなか難しいし,また現場で浮かんだ疑問をどう調べてもわからないという経験を,皆さん多くされているのではないかと思う.本書はそんな読者のニーズに答えるべくして生まれたもので,糖尿病に関する最新の知識を身につけ,より効果的な糖尿病療養指導を実践できるように企画した.
 本書の構成だが,まず糖尿病療養指導を始める際の基本項目をまとめた.ここだけは一通り熟読をお勧めする.そして糖尿病の病態・疫学・診断に関する基礎知識に関する疑問,糖尿病の検査・治療に関する疑問と続く.こうした質問を患者から受けたとしても,あなたはもう説明に困ることはない.これからが療養指導の現場での疑問となる.食事療法を指導する際の疑問25項目を見ていただきたい.あなたはこれらの疑問に正しく答えられるであろうか.自信のないあなた,熟読をお勧めする.運動療法の指導,薬物療法の指導(経口血糖降下薬,インスリン治療)へと読み進めてもらえばあなたの療養指導スキルアップ間違いなしである.ここから切り口が変わる.ライフステージ,スタイル別の糖尿病療養指導のコツでは,患者の背景に応じた対応を学んでいただきたい.イベントに対応した生活指導では,皆と一緒に鍋物を食べる,結婚式に出るときにどうしたらよいかといった日常生活でよく遭遇する疑問に答えることにした.そして最後に,現場でいろいろ工夫してもうまくいかない,様々な問題を抱えた患者へのアプローチを,それぞれの専門家にご解説いただいた.
 専門医・一般臨床医とともに療養指導の現場に立つすべてのメディカルスタッフが,糖尿病患者の長期予後とQOLを改善する診療を心がけていただくことを切望する.あなたの大切な患者の療養指導に本書が少しでもお役に立てば幸いである.

2007年 4月
寺内 康夫


目次

A.糖尿病療養指導
 1.糖尿病療養指導士の役割とは? 〈羽倉稜子〉
 2.患者のライフスタイルを上手に聞き取りたいのですが? 〈下田ゆかり〉
 3.アナムネーゼを上手にとるにはどうしたらよいでしょうか? 〈西澤由美子〉
 4.行動変化ステージモデルとはどんなものですか? 〈石井 均〉
 5.合併症が重症化してきたときの心理的ケアは
   どうすればいいのでしょうか? 〈石井 均〉
 6.カウンセリングの方法を知りたいのですが? 〈土方ふじ子〉
 7.糖尿病教室をはじめたいのですが? 〈坂根直樹〉

B.糖尿病の病態・疫学・診断に関する知識
 1.糖尿病ってどんな病気ですか? 〈鍵本伸二,清野 裕〉
 2.糖尿病患者の数は? 今後どうなるのでしょうか? 〈伊藤千賀子〉
 3.膵臓,膵β細胞,インスリン分泌のことをわかりやすく
   説明するにはどうしたらいいですか? 〈今井淳太,片桐秀樹〉
 4.インスリンで血糖値がコントロールされる仕組みをわかりやすく
   説明するにはどうしたらいいですか? 〈高橋和眞,佐藤 譲〉
 5.糖尿病と肥満の関係は? 〈宮崎 滋〉
 6.糖尿病と内臓脂肪との関係は? 〈岡内幸義,船橋 徹〉
 7.糖尿病の診断をどう進めていくべきでしょうか? 〈浅野昭道,小泉順二〉
 8.糖尿病の病型分類・病期分類って何でしょう? 〈高橋まゆみ,寺内康夫〉

C.糖尿病の検査・治療に関する知識
 1.血糖値(空腹時・食後),グリコヘモグロビン(HbA1C),
   グリコアルブミン:どのような検査で,何がわかるのでしょうか?
                        〈平田昭彦,富永真琴〉
 2.インスリン値,Cペプチド:どのような検査で
,    何がわかるのでしょうか? 〈安藤敏子,寺内康夫〉
 3.尿検査(尿糖,尿タンパク,潜血尿):どのような検査で,
   何がわかるのでしょうか? 〈八馬慶子,寺内康夫〉
 4.GTT:どのような検査で,何がわかるのでしょうか? 〈吉田洋子〉
 5.振動覚・圧触覚検査,神経伝導速度:どのような検査で,
   何がわかるのでしょうか? 〈中村二郎〉
 6.腎機能検査:どのような検査で,何がわかるのでしょうか? 〈羽田勝計〉
 7.心電図:どのような検査で,何がわかるのでしょうか?
                    〈小菅雅美,木村一雄〉
 8.腹部超音波検査:どのような検査で,何がわかるのでしょうか?                            〈松江寛人〉
 9.心臓超音波検査:どのような検査で,何がわかるのでしょうか?
                     〈代田浩之,宮崎彩記子〉
 10.頸動脈エコー検査:どのような検査で,何がわかるのでしょうか?
                       〈山崎義光〉
 11.脈波検査:どのような検査で,何がわかるのでしょうか?
                   〈坪内博孝,井口登與志〉

D.食事療法を指導する
 1.食事療法がなぜ大切なのでしょうか? 〈本田佳子〉
 2.指示エネルギーはどうやって決められるのでしょう? 〈立川倶子〉
 3.食品交換表を効果的に説明したいのですが? 〈本田佳子〉
 4.食事日記を書くことは効果的なのでしょうか? 〈本田佳子〉
 5.食事療法の効果的な指導法とは? 〈立川倶子〉
 6.肥満者への食事指導のコツとは? 〈別當憲子〉
 7.満足できる食事のとり方とは? 〈別當憲子〉
 8.間食や夜食の摂り方,分食の指導について 〈島田 薫〉
 9.上手に外食を食べてもらうためには? 〈島田 薫〉
 10.アルコールと上手に付き合っていくには? 〈田中美紗子〉
 11.食物繊維の上手な摂り方とは? 〈三瓶タミ子〉
 12.低エネルギーで美味しい料理作りのコツ 〈穴倉弘枝〉
 13.コレステロール・中性脂肪・尿酸値が高い人の食事とは? 〈本田佳子〉
 14.塩分制限をうまく行うための工夫はありますか? 〈市川和子〉
 15.タンパク制限をうまく行う工夫はありますか? 〈市川和子〉
 16.カリウム制限の方法を知りたいのですが? 〈市川和子〉
 17.低血糖予防のための分食や補食について知りたいのですが? 〈羽倉稜子〉
 18.人工甘味料を使ってもよいのでしょうか? 〈土江節子〉
 19.健康食品(健康補助食品,保健機能食品サプリメント)とは
    何ですか? 〈佐藤智英〉
 20.宅配・レトルト・冷凍食品などの活用法を教えてください 〈佐藤智英〉
 21.カーボカウンティング法とは何ですか? 〈佐藤智英〉
 22.フードピラミッドとは何ですか? 〈島田 薫〉
 23.単身赴任者の食事で注意することは何ですか? 〈土江節子〉
 24.夜勤勤務者の食事はどうすればよいのでしょうか? 〈田中美紗子〉
 25.食事療法をやる気にさせるにはどうすればよいですか? 〈立川倶子〉

E.運動療法を指導する
 1.運動療法はなぜ大切なのでしょうか? 〈佐藤祐造,玉川達雄〉
 2.運動療法をやる気にさせるにはどうしたらよいでしょうか? 〈清野弘明〉
 3.激しい運動療法をするインスリン治療者にはどう対処したら
   よいでしょうか? 〈清野弘明〉

F.薬物療法を指導する(経口血糖降下薬)
 1.経口血糖降下薬をどう使い分けるべきでしょうか?
   ─インスリン分泌促進薬とインスリン抵抗性改善薬─ 〈下田将司,加来浩平〉
 2.SU薬ってどんな薬ですか? 〈山内俊一〉
 3.グリニド薬ってどんな薬ですか? 〈駒津光久,相澤 徹〉
 4.α-グルコシダーゼ阻害薬ってどんな薬ですか? 〈加藤浩之,田中 逸〉
 5.ビグアナイド薬ってどんな薬ですか? 〈関根信夫〉
 6.チアゾリジンってどんな薬ですか? 〈高橋和眞,佐藤 譲〉
 7.安心感を与える服薬指導法を知りたいのですが?
   ─低血糖のことが心配な患者さんへの説明も併せて─ 〈宇佐美 勝〉
 8.シックデイ時,経口血糖降下薬はどうすればよいでしょうか? 〈朝倉俊成〉
 9.血糖値を変動させる併用薬を知りたいのですが? 〈朝倉俊成〉

G.薬物療法を指導する(インスリン療法)
 1.インスリン療法開始のポイントとは? 〈三浦順之助,岩本安彦〉
 2.インスリン製剤の特徴とは? 〈三浦順之助,岩本安彦〉
 3.インスリン自己注射をどう指導すればいいでしょうか? 〈杉田和枝〉
 4.血糖自己測定をどう指導すればいいでしょうか? 〈杉田和枝〉
 5.インスリンポンプ療法(CSII)とは何ですか? 〈内潟安子〉
 6.インスリン自己注射に対する患者心理はどのようなものですか?
                      〈吉岡成人〉
 7.自己注射を拒絶する患者にはどう対処すべきでしょうか? 〈吉岡成人〉
 8.シックデイ時,インスリン投与量はどうやって決めるのでしょうか?
                  〈渡部ちづる,森 保道〉
 9.血糖の変動が激しい場合,どうすればよいでしょうか? 〈丸山太郎〉
 10.無自覚低血糖が起こった場合,どうすればよいでしょうか? 〈丸山太郎〉

H.ライフステージ,スタイル別の糖尿病療養指導のコツ
 1.小児期における療養指導のコツとは? 〈佐々木 望〉
 2.思春期における療養指導のコツとは? 〈内潟安子〉
 3.妊婦への療養指導のコツとは? 〈佐中眞由実〉
 4.外食が多い人への療養指導のコツとは? 〈穴倉弘枝〉
 5.食事時間がきわめて不規則な人への療養指導のコツとは?
                   〈相磯嘉孝,江田美幸〉
 6.フットケアが必要な人への療養指導のコツとは? 〈西澤由美子〉
 7.オーラルケアが必要な人への療養指導のコツとは? 〈柴崎貞二〉

I.イベントに対応した生活指導
 1.皆と一緒に食事をする時は?
   ─すき焼き,しゃぶしゃぶ,おでん,鍋物,焼肉など─ 〈三瓶タミ子〉
 2.いつもと違う食事をする時は?
   ─結婚式,バイキング料理,フルコース(和・洋・中)など─ 〈穴倉弘枝〉
 3.海外旅行に出かけるときは? 〈中村圭吾,森 保道〉

J.様々な問題を抱えた患者へのアプローチ
 1.血糖コントロール不良患者にはどう対処すればよいでしょうか?
                      〈渡辺鈴子〉
 2.なかなかやせられない患者にどう対応すべきでしょうか? 〈吉松博信〉
 3.糖尿病昏睡を繰り返す患者にはどう対処すればよいでしょうか?
                      〈山下滋雄〉
 4.足の痛みやしびれを強く訴える神経障害患者には
   どう対処すればよいでしょうか? 〈中村二郎〉
 5.進行糖尿病網膜症のため視力低下をきたした患者には
   どう対処すればよいでしょうか? 〈高橋 広〉
 6.糖尿病性腎症が進んで透析導入が近い患者には
   どう対処すればよいでしょうか? 〈海津嘉蔵〉
 7.心機能の低下した患者にはどう対処すればよいでしょうか?
                〈小島 論,代田浩之〉
 8.脳血管障害後遺症のある患者にはどう対処すればよいでしょうか?
                 〈白井直子,田中 逸〉
 9.足壊疽の既往歴のある患者にはどう対処すればよいでしょうか?
                       〈新城孝道〉
 10.アルコール問題をもつ患者にはどう対処すればよいでしょうか?
                       〈中埜幸治〉
 11.摂食障害,食行動異常をもつ患者にはどう対応すればよいでしょうか?
                        〈吉松博信〉
 12.不眠・うつ状態の患者にはどう対処すればよいでしょうか?
                       〈内山 真〉
 13.認知症合併患者にはどう対処すればよいのでしょうか? 〈小田原俊成〉
 14.民間療法を次々と試す患者にはどう対処すればよいでしょうか?
                      〈葛葉 守,中野玲子〉
 15.マスメディアに踊らされる患者にはどう対処すればよいでしょうか?
                         〈菅澤 源〉
 16.独居の高齢者にはどう対応すればよいでしょうか? 〈菅澤 源〉
 17.治療中断者にはどう対処すればよいでしょうか? 〈山下滋雄〉

K.社会的なフォロー
 1.日本糖尿病協会の療養指導活動 〈堀田裕子,清野 裕〉
 2.患者会の意義と実際の活動はどのようなものですか? 〈山下滋雄〉
 3.サマーキャンプはどのようなものですか? 〈丸山太郎〉

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