第2版の序

 本書は,慢性透析療法に携わる透析スタッフに,最小必要限の実務的作業上の知識と周辺知識を習得していただくために企画されたものである.小型ながら,できるだけ必要事項を盛り込み簡明な記述を心掛けた.

 しかし,透析医療が今日直面する課題は極めて広範囲にわたり,その取捨選択には困難が伴った.初版は多くの透析スタッフの方々に活用していただく幸運を得たが,この度,改訂第2版を刊行する機会を得たので若干の事項を追加し,関連する資料を添えることにした.改訂版でも臨床の場で直ちに必要な技術や知識を主体にしており,個々の詳細については巻末に掲げた文献の一読をお勧めしたい.

 透析医療に従事するスタッフは,専門性に立脚しつつ,本療法が抱える社会性と人間性に関わる諸課題に対応し得る能力が問われるものである.日々の研鑚が広い範囲に及ばなければならないことを心に深く刻んでおきたい.現在透析医療を取り巻く問題には,1)チーム医療,2)患者の高齢化,3)高齢患者の透析導入,4)高騰化する医療費問題,5)終末期医療などの難問が控えている.

 むろん,6)主として医学・医術上の課題も少なく,透析医療の現場を預かる者は,まず,今日可能な限り最良の「透析治療」を患者に与えうる正確で安全な技量の習得に努めるべきであろう.透析療法は現代医療が抱え込んでいる課題を全て内蔵しているといってよい.したがって,本療法の可否は将来的にすべての臨床領域に影響を与えうるものとも考えられ,透析スタッフの担う責務の大きいことを自覚しておきたい.

             2001年2月

  日鋼記念病院 院長 大平 整爾

初版の序

 透析療法は今や全国に普及し,きわめて一般的な腎不全治療法となっている.

 慢性透析を継続する患者数は未だにプラトーには達せず,増加の一途を辿っている現況を認識いたしたい.透析療法を必要とする基礎疾患の変貌や高齢透析者の増加などに,近年の透析医療の特徴の一端を垣間見ることができる.透析医療はチーム医療を要する典型的な医療分野の一つであり,医師・看護婦・技師・栄養士・薬剤師・MSW・ボランティア等々の緊密な連携が欠かせない.私共はこの療法を社会的な見地からも検討しなおす時期にきていることをも痛感するが,本書は透析治療の根本をなすごく一般的だが重要な基礎的知識と技術などに的を絞った.慢性腎不全を病む方々に対して安定した透析技術を提供することが,透析療法のまず第一歩であると考えるからである.

 在宅血液透析が保険上認可され,また一つ新しい波が透析医療に押し寄せている.在宅医療は患者と介護者とが自主的に行う治療であるが,この人々に十分で不安のない教育と実技を与えることも私共透析スタッフの大きな責務の一つであろう.

 その意味でも,幅広く正確な知識と実技能力を個々の透析関係者が身につけなければならないと痛感する.

    1998年4月

   日鋼記念病院 院長 大平 整爾 


目 次

§1.腎機能代行療法の現況

 A.急性血液浄化法 …  1

 B.慢性血液浄化法 …  2

 C.腎臓移植 …  3

§2.血液浄化療法に携わる医療従事者5

 A.関係する医療スタッフ …  5

 B.透析医療におけるチーム医療 …  6

§3.医の倫理と透析におけるインフォームド コンセント  7

§4.腎機能代行療法を要する病態  10

§5.各種の血液浄化法とその原理  14

 A.血液透析とその変法 … 14

  1.血液透析 … 14

   a)拡散 … 15

   b)限外濾過 … 15

   c)浸透圧および吸着 … 16

  2.血液濾過 … 17

  3.血液透析濾過 … 18

  4.直接血液灌流型β<下後添>2<添終>‐ミクログロブリン吸着器 … 19

 B.腹膜透析 … 21

§6.透析液組成と水処理  23

§7.透析療法の効果判定  26

 A.症候論 … 26

 B.溶質の推移 … 27

 C.適正透析 … 31

  血液透析 … 31

§8.血液透析用ブラッド アクセス  37

 A.ブラッド アクセスの意味と種類 … 37

  1.外シャント … 38

  2.内シャント … 39

   a)単純吻合 … 39

   b)血管移植法 … 41

  3.非シャント … 42

   a)穿刺法 … 42

   b)動脈表在化法 … 42

   c)ジャンピング グラフト法 … 42

   d)血管内カテーテル留置 … 42

 B.内シャントの作製法 … 45

  1.内シャント作製の時期 … 45

  2.内シャント作製の実際 … 46

   a)術前の説明・同意と検査 … 46

   b)術前準備 … 47

   c)皮膚切開(皮切) … 49

   d)血管の剥離 … 49

   e)吻合の準備と吻合法 … 50

   f)術後の管理と処置 … 54

   g)内シャント作製の基本 … 55

 C.内シャントの使用法 … 56

  1.穿刺針 … 56

  2.皮膚消毒 … 56

  3.穿刺部位 … 56

  4.穿刺操作 … 57

  5.血流量不足と静脈圧上昇 … 58

 D.内シャントの形態と機能の把握 … 59

 E.内シャントその他の開存率 … 61

   1.年齢と性 … 61

   2.糖尿病性腎不全 … 62

   3.非定型的内シャントの増加 … 62

 F.内シャントの合併症対策 … 63

§9.腹膜透析用ペリトネーアル アクセス  68

 A.CAPD用カテーテル … 68

 B.CAPDカテーテル挿入の手技 … 70

  1.腹腔内の局所解剖 … 70

  2.術前の準備 … 70

  3.麻 酔 … 70

  4.術野の消毒 … 71

  5.皮膚切開 … 71

  6.腹腔内操作 … 72

  7.閉腹操作 … 72

 C.腹腔内への液注入量の調整 … 75

§10.抗凝固剤の種類とその使用法  76

 A.ヘパリン … 77

 B.低分子量ヘパリン … 77

 C.メシル酸ナファモスタット(MN) … 78

§11.血液透析の実際  80

 A.開始の時期決定 … 80

 B.体外循環(HD)の準備 … 80

 C.患者の入室 … 82

 D.穿刺と血液回路への接続 … 82

 E.血液透析の開始 … 84

 F.血液透析中の患者観察とケア … 84

  1.血圧の変動 … 85

  2.頻 脈 … 86

  3.呼 吸 … 87

  4.発 熱 … 87

  5.疼 痛 … 87

  6.そう痒感 … 87

  7.不均衡症候群 … 88

 G.血液透析中に起こりうる事故 … 89

  1.透析液 … 90

  2.血液漏出(リーク) … 90

  3.ブラッド アクセス … 90

  4.空気混入 … 91

  5.針刺し事故および血液汚染物との接触 … 91

 H.返血操作と透析の終了 … 92

 I.基準体重の設定 … 93

 J.心胸比(CTR)の算出での注意点 … 94

§12.腹膜透析の実際  101

 A.患者の選択 … 101

  患者の積極性 … 101

 B.患者教育 … 101

  1.導入前教育 … 102

  2.導入後教育 … 102

 C.CAPD開始の時期 … 103

 D.CAPD用透析液の種類 … 103

 E.バッグ交換システム … 104

  1.接続システム … 104

  2.バッグフリーシステム … 107

  3.APD(autoperitoneal dialysis:自動腹膜透析)… 108

 F.バッグ交換手技の実際 … 108

 G.透析量 … 111

 H.カテーテル ケア … 112

 I.CAPDにおける食事のポイント … 112

 J.CAPD療法の問題点・合併症 … 113

  1.腹膜炎 … 114

  2.出口部/トンネル感染症 … 114

  3.透析量の不足 … 115

  4.低栄養 … 116

  5.限外濾過不全 … 116

  6.体液過剰 … 117

  7.低回転骨 … 117

  8.脂質代謝異常 … 117

  9.硬化性腹膜炎または硬化性被嚢性腹膜炎 … 119

  10.患者および介護者の負担 … 120

  11.使用物品の廃棄処分 … 120

  12.腹膜機能の検査法 … 121

§13.透析患者の合併症と治療概論  124

 A.合併症を生む基盤 … 124

 B.具体的な合併症 … 125

§14.透析患者と薬剤投与  131

§15.透析室の運営・管理  133

 A.「血液透析」業務 … 133

 B.感染対策 … 134

 C.患者・家族への指導 … 135

 D.症例検討など院内勉強会と院外活動 … 136

 E.透析チームの心身管理 … 136

§16.透析患者のデータ整理と管理  138

文 献  139

索 引  143