5版の序

 本書も改訂を重ね,このたび第5版として装いも新たに再登場することになった.初版が出てからすでに14年の歳月が経過しようとしている.この間に透析患者数は53,017名から154,413名へと約3倍に増加し,また技術面でも多くの改良工夫がなされ,新たな知識が集積されてきた.それに伴って本書も厚みを増している.

 今回,改訂ないし追加した主な点はダイアライザーの機能別分類,副甲状腺機能低下に由来する骨病変の治療,手術時に必要となる麻酔薬,その他各種薬剤の追加などであり,これらの項目をみても最近の進歩のあとが窺える.

 振り返ってみると本書が出て以来,次々と新しい治療モードが開発され,それに伴って習得すべき知識や技術が複雑多岐にわたってきた.新しく配転や就職などで透析治療に携わるようになったスタッフにとっては大変な負担になることと思われる.またこの治療の特徴として患者も長期にわたる体験から一家言をもっていることが多く,新しくこのチームに加わったスタッフを悩ますことも多い.このような状況において何より大切なことはまず正しい基礎的な知識の習得であろう.

 本書が初心者には実地の手引書として,また経験者には知識を整理するメモとして役立つことを願っている.

 

1997年4月

東京駅前の新オフィスにて  

太田和夫

 確かに20年ほど前は血液透析といえば,まだ実験に近い極めて特殊技術であった.これが10年ほど前には確立した腎不全の治療として一般的に認知されるようになり,さらに現在では臨床医学に携わるものにとって身につけなければならない必須の知識となってきている.この間の治療技術の発展をふり返るとき,黎明期よりともに歩んだ者の一人として今昔の感に耐えない.

 現在わが国においては約50,000人の透析患者がおり,なお年間5,000人程度の増加を続けている.これらの透析患者の発症から安定した透析生活に入るまでのmedical journeyを考えてみると,そこには多くの医師との接触があり,後から考えてみるとあのときこのような処置をしておいて欲しかったと思うことも稀ではない.

 このように増加してきた透析患者は当然のことながら腎臓に直接関係のない各種の疾患にかかり,それぞれの専門家の治療を受ける頻度も急激に増加してきているが,しかしこれらの患者の治療にあたっては,薬剤の投与一つをとってみても代謝経路を考えて薬を選び,量を調節なるなど配慮しなければならない問題が多い.

 本書は腎疾患そのものを治療する場合に,また腎疾患を伴った患者の一般的な治療を行う場合に必要な事項を簡単にまとめ,知識の整理に役立てると同時に実地診療に生かされればと考え編集したものである.分担してくれた緒氏は東京女子医大腎臓病総合医療センターにおいて,日夜腎疾患の治療に取り組んでいる専門家中の専門家といえる人達である.本書が読まれ,患者の治療に生かされることを祈ってやまない.

1983年8月

晩夏の朝 太田和夫","目 次


1. 慢性腎不全の病態と診断  1

    1. 慢性腎不全の病期と腎機能  2

    2. 慢性腎不全の病期と水-電解質異常  3

    3. 慢性腎不全の病期と臨床症状  4

    4. 慢性腎不全の原因  5

    5. 透析療法導入患者の原疾患  6

    6. わが国における慢性透析患者の推移  7

    7. 尿毒症の増悪原因  8

    8. 尿毒症の毒素と症状  10

2. 慢性腎不全の治療  11

    1. 治療原則  12

    2. 血液浄化法の種類  13

    3. 透析療法の導入基準  15

    4. 糖尿病による慢性腎不全の場合の

      透析療法導入参考基準  16

    5. 膠原病による慢性腎不全の場合の

      透析療法導入参考基準  17

    6. 重症患者における血液浄化法の選択基準  18

    7. 透析療法導入時の看護上の注意点  19

3. 急性腎不全  21

    1. 分 類  22

    2. 原 因  23

    3. 鑑別診断  24

    4. 治療原則  26

    5. 透析療法の適応基準  27

    6. 薬物中毒  28

4. 血液透析の方法  31

    1. 血液透析に必要な物品  32

    2. ダイアライザの仕様と性能  34

    3. ダイアライザの生体適合性のチェックポイント  36

    4. ダイアライザ選択のガイドライン  37

    5. 糖尿病性腎不全における透析方法選択のガイドライン  38

    6. 人工腎臓の安全装置の種類  39

    7. プライミング時の確認事項と対策  40

    8. 透析開始時の確認事項と対策−装置  41

    9. 透析開始時の確認事項と対策−患者  42

   10. 透析中のチェック項目−装置  44

   11. 透析中のチェック項目−患者  45

   12. 透析終了時のチェック項目−装置および手技  46

   13. 透析終了時のチェック項目−患者  47

   14. 粉末薬剤を用いた透析液の組成  48

   15. 濃厚透析液の種類と組成  49

   16. 透析液の電解質濃度を変える方法  50

   17. 重曹透析液の種類と組成  51

   18. mEq, mOsmの計算法  52

   19. ダイアライザのクリアランス,ダイアリザンスおよび除去率  53

   20. ダイアライザの限外濾過率(UFR)の求め方  54

   21. 透析中の事故と対策  56

5. 血液濾過法  61

    1. 血液濾過法の適応  62

    2. 血液濾過フィルターの種類  63

    3. 濾過型人工腎臓用補充液の組成  64

    4. 持続的血液濾過法の適応疾患  66

    5. 持続的血液濾過法に必要な装置  67

    6. 持続的血液濾過用フィルターの種類と特徴  68

    7. 持続的緩徐式血液濾過用補充液の組成  69

    8. 持続的血液濾過法の抗凝固法  70

6. ブラッドアクセス  71

    1. ブラッドアクセスの分類  72

    2. 作製すべきブラッドアクセスの選択基準  73

    3. ブラッドアクセス手術に必要な器具  74

    4. シャント手術を成功させるための条件  76

    5. シャント血管造影の方法(内シャント)  77

    6. シャント流量の測定法  78

    7. 穿刺のコツ  79

    8. シャントトラブルを防ぐための

      チェック項目ならびに対策  80

    9. 外シャント血栓除去術に必要な器具  81

   10. 透析用留置カテーテルの種類  82

     

7. 抗凝固薬  83

    1. 抗凝固薬の種類・作用時間・使用方法  84

    2. ヘパリンの投与法  85

8. 腹膜潅流の方法  87

    1. 腹膜潅流法の適応  88

    2. 腹膜潅流の禁忌  89

    3. 腹膜潅流に必要な物品  90

    4. 腹腔穿刺の方法  92

    5. CAPDカテーテル挿入術  93

    6. 潅流液の種類と組成  95

    7. 潅流液の電解質組成の調整法  97

    8. 潅流液の浸透圧の調整法  98

    9. 滅菌装置  99

   10. 腹膜潅流における腹膜クリアランスの求め方  100

   11. 腹膜潅流における糖吸収量  101

   12. 腹膜潅流における糖濃度と予想除水量  102

   13. CAPDにおけるurea kinetics  103

   14. インスリンの腹腔内投与法  104

   15. 腹膜潅流操作に際しての注意事項  105

   16. 注液時・排液時の注意  106

   17. 腹膜潅流中のチェック項目  107

   18. 腹膜潅流中の事故と対策  108

   19. 腹膜炎の診断基準(特に慢性腹膜潅流時)  109

   20. 腹膜炎の対策  110

   21. 出口部感染の対策  112

 

9. その他の血液浄化法  115

    1. 血液吸着の適応  116

    2. 血液吸着用カラムの種類  117

    3. 血漿交換療法の効果が期待される疾患  118

    4. 血漿交換療法の種類  120

    5. 血漿交換療法用置換液の種類  121

10. 慢性透析患者の検査  123

    1. 定期検査の種類と頻度  124

    2. 血液生化学検査の正常値

      および透析患者の平均値  125

    3. 心胸郭比の求め方  127

    4. 骨のX線所見  128

    5. 基準体重の決め方  129

    6. 尿素窒素出現量  130

    7. 心理テストの種類  131

11. 慢性透析患者の合併症とその対策  133

    1. 心不全の原因と対策  134

    2. 高血圧対策  135

    3. 透析低血圧の原因と対策  138

    4. 不整脈とその治療  139

    5. ペーシングの適応  141

    6. digitalis製剤の血中動態と使い方  142

    7. 高K血症の症状と治療  143

    8. 血液電解質の異常および治療方針  144

    9. 心肺蘇生のABC  145

   10. 貧 血  146

   11. 出血の原因と部位,対策  148

   12. 消化管出血時の原因と対策  149

   13. 血 尿  150

   14. 発 熱  151

   15. 感染症  152

   16. 頭 痛  153

   17. 空気塞栓症  154

   18. 脳循環障害  155

   19. 中枢神経障害  156

   20. 意識障害レベルの評価法  158

   21. 末梢神経障害  159

   22. 手根管症候群  160

   23. TINEL sign  161

   24. 眼底出血  162

   25. red eyes  163

   26. 腎性骨異栄養症の原因と対策  164

   27. アルミニウム骨症の診断

      デフェロキサミン負荷試験−簡易法  165

   28. 悪性腫瘍の発生部位と頻度  166

12. 薬剤投与上の注意  167

    1. 主な化学療法剤の透析患者における使用上の注意点  168

    2. 代表的な薬剤の腎不全時の半減期および使用上の注意点  169

    3. ストレプトマイシン,カナマイシンの投与法  170

    4. 薬剤の投与量の求め方  171

13. 手術患者の注意  173

    1. 術前管理における一般的注意  174

    2. 術後管理における一般的注意  175

    3. 麻酔法および麻酔薬の選択  176

    4. 二次性上皮小体機能亢進症に対する治療方法 −外科的治療法  177

    5. 二次性上皮小体機能亢進症に対する治療方法 −内科的上皮小体摘除術  179

    6. 尿毒症性心外膜炎に対する治療方法  180

    7. 尿毒症性心外膜炎に対する外科的処置  181

14. 経静脈高カロリー法  183

    1. 経静脈高カロリー法に必要な物品  184

    2. 静脈カテーテル挿入部位とその長所,短所  185

    3. 鎖骨下静脈の穿刺法  186

    4. 静脈カテーテルの種類  187

    5. 鎖骨下静脈カテーテルの穿刺法  188

    6. カテーテル挿入・留置に伴う合併症と対策  189

    7. 高カロリー輸液の処方例  190

    8. 管理上の問題点  191

    9. 合併症と対策  192

15.食事療法  193

    1. 食品の栄養素  194

    2. エネルギーの適正化  202

    3. 腎不全の程度と食事療法  203

    4. 栄養状態の診かた  204

     

16. 小児透析  205

    1. 小児血液透析の特殊性,注意点  206

    2. 小児の透析導入基準  207

    3. ブラッドアクセスの部位 (内シャント,外シャント)  208

    4. ダイアライザ,回路の選択  209

    5. 小児用ダイアライザ  210

    6. 血液透析の条件設定  211

    7. 小児の腹膜透析の注意点  212

    8. 栄 養  213