はじめに

 この本ができるきっかけとなったのは,平成11年(1999年)に日本腎臓学会と日本透析医学会がジョイントで行ったKidney Weekの特別シンポジウムにおいて,私が行った「わかりやすい腎臓の構造と機能の基礎」と題する講演でした.あえてこのような題でシンポジウムが企画されるということは,お医者さん,看護婦さん,テクニシャンなど,常日頃から医療にたずさわるスタッフさえ,何となく腎臓はわかりにくいぞと薄々感じていることの反映かとも思われます.そこでとにかくわかりやすく聴衆に聞いてもらう企画ということでしたので,そのように知恵を絞って講演を組み立てました.そのかいあってか,思いがけずも多くの方に私の話を聞いて頂け私も喜んでおりましたところ,さらに思いがけないことには,同年9月の日本醫事新報に新潟大学の清水不二雄先生がお載せになった学会印象記の中で,随分と私の講演をほめて下さったのです.こんなにほめて頂けることも他には結婚式くらいで,一生の間にそう何度もないと思いますので,ちょっと気恥ずかしいのですが清水先生の文章を引用させて頂きたいと思います.

 「わかりやすいシリーズのトップバッターに恥じず,理解が深いほどわかりやすくかみくだいて他人に説明できることを実地に証明されたような適材適所の講議ではあったが,奥田先生にはやはりあの最先端のキラキラした話が似合うと思ったのは筆者だけであろうか.」

 このいささかほめられすぎの一文が中外医学社の編集の目に止まり,私が出版という形で今一度,腎の構造と機能につきわかりやすくまとめるというテーマに取り組ませて頂くということになった次第です.そしてせっかく機会を頂きましたので,ここにはもう少し専門的な知識や,清水先生がおっしゃっていたような「最先端のキラキラ光るような話」も,私の力の及ぶ範囲で取り入れようと試みた所存です.それらは本文とは独立した形で主にSide-noteとして付け加えました.

 わかりやすく,それでいて高度な知識も入った腎臓の構造と機能,という試みがうまくいきましたものやら,皆様の御判断に委ねたいと存じます.

 平成12年(2000年)4月

著者



目 次

第1章 腎臓はなぜ必要か  1

第2章 腎の血管系  5

第3章 ネフロンの構造と機能−その特徴について  8

第4章 腎における水・ナトリウム代謝  14

 A.水代謝の調節  14

 B.Na代謝の調節  22

 C.Na濃度の調節  25

第5章 体液量調節機構としての腎  27

 A.体液とは何か  27

 B.糸球体における濾過の調節機構  29

  1.糸球体および傍糸球体装置の微細構造  29

  2.糸球体における濾過の決定因子  31

  3.輸入細血管による糸球体内圧の調節  32

  4.輸入細血管の収縮性の調節  34

 C.尿細管における体液量の調節  38

 D.まとめ  40

第6章 カリウム代謝調節  44

第7章 酸塩基平衡調節と腎  52

第8章 カルシウム・リン代謝調節と腎  58

第9章 内分泌器官としての腎  63

 A.ビタミンD  63

 B.エリスロポエチン  64

第10章 高血圧と腎  68

おわりに  73

参考文献  74

索 引  76

side note

  腎内の血流の分布  7

  糸球体における蛋白の濾過  12

  physical factorとglomerulotubular balance  16

  Henleの上行脚太い部の再吸収  17

  腎間質の浸透圧濃度勾配の形成  19

  集合尿細管の水に対する透過性  21

  傍糸球体装置は両生類から  30

  糸球体における濾過  33

  尿細管糸球体フィードバックの刺激伝達系  39

  アンギオテンシンIIの糸球体血行動態に及ぼす効果  42

  皮質集合尿細管の特殊性  47

  アルドステロンの作用機構  48

  甘草の働き  49

  Bartter症候群とLiddle症候群  50

  低K血症とアルカローシス  57

  Ca sensing protein(Ca receptor)  60

  接合尿細管部におけるCa再吸収  61

  低酸素血症によるエリスロポエチン産生のメカニズム  67

  食塩と高血圧  71

  高血圧発症ラットにおけるメサンギウム細胞の機能的異常  72