序
胸部X線写真のテキストや読影のための解説書は多く出版されています．そのほとんどは，正確な疾患診断をするために異常陰影を如何に詳細に観察するかに焦点があてられているようです．異常影を見逃すことなく，その詳細を検討することは読影力のトレ ーニングには不可欠です．しかし，多くの医師が直面する実際の診療の場で重要なことは，最終的に疾患を的確に診断し，その診断にしたが った最善の治療を行うことです．すなわち，異常影から疾患診断までのアプロ ーチが診療の質を上げるキ ーポイントであるとい っても過言ではありません．この過程では，一枚の胸部陰影から診断名を言い当てるのではなく，その陰影から如何に多くの疾患を考えられるかがまず重要なステ ップとなります．そこから，最も効果的な診断へのアプロ ーチを取捨選択することになるわけです．
以上の点を勘案し，本書では，専門医が至芸の技で読影するのではなく，診療に携わるすべての方が胸部写真にみられる異常影から誤りなく正確な診断が下せるようにと章の構成に配慮しました．肺の読影法に関する第1章では基本事項を簡潔に記載するにとどめ，続く異常影の章では始めにそのパタ ーンが採り上げられています．以降の各章では，この異常パタ ーンにしたが っていかなる疾患を考え，その診断をするための手順については理解が得られやすいようにフロ ーチ ャ ートを付し解説されています．さらに，個々の疾患の要点についても解説がなされています．
この本の利用の仕方は様々です．X線パタ ーンから疾患を整理・理解するために冒頭から読まれるのも良いでし ょうし，多忙な日常診療のなかでは診断のために異常影のパタ ーン解説のみを利用されることも実際的です．とかく難しく考えがちな胸部X線写真ですが，異常影をパタ ーン認識し単純化することが誤りなき疾患診断への到達法であるとの考えから作成された本書が，日常診療の即戦力となり役に立つことを著者らは念じてやみません．
最後に，本書の編集に多大なるご尽力をいただいた中外医学社小川孝志氏に深く感謝致します．
1999年9月
永井厚志
金沢 実
第1章 胸部X線・CT読影の基礎知識
A．胸部X線の読影法 〈鈴木裕子〉 2
A．読影の手順 2
1．撮影条件 2
2．骨，軟部組織 2
3．胸 郭 3
4．横隔膜 3
5．縦 隔 3
6．肺 門 3
7．気管，気管支 3
8．肺 野 4
B．読影のための知識−解剖と正常X線像 4
1．オリエンテーション 4
2．正常正面像・側面像 6
3．気管，気管支 6
4．肺葉，肺区域 6
5．肺 門 6
6．肺血管 7
B．CTの読影法 〈兼村俊範〉 9
A．CT検査の基本 9
1．胸部疾患におけるCT検査 9
2．造影検査 9
3．検査のポイント 10
4．画像表示 10
5．高分解能CT 10
6．ヘリカルCT 11
7．CTガイド下肺生検 12
B．CT検査の実際 12
1．胸部CTの解剖−縦隔 12
2．胸部CTの解剖−肺野 14
3．胸部CTの解剖−胸壁 17
第2章 胸部X線像のパターン提示
A．正常影 〈近藤光子〉 20
B．孤立性結節影 〈佐藤長人〉 22
C．多発性結節影 〈磯野一雄〉 24
D．網状影，蜂巣状陰影 〈石井章子〉 26
E．孤立性浸潤影 〈猶木克彦〉 28
F．多発性浸潤影 〈松宮晴子〉 30
G．無気肺 〈金沢 実〉 32
H．空洞・嚢胞状陰影 〈高柳 昇〉 34
I ．線状・帯状・管状・環状陰影 〈亀山伸吉〉 36
J．透過性亢進 〈井上 卓〉 38
K．肺門腫大影 〈青柴和徹〉 40
L．縦隔異常影 〈青柴和徹〉 42
M．石灰化陰影 〈茂木 充〉 44
N．気 胸 〈山脇 功〉 46
O．胸水，胸膜陰影 〈山脇 功〉 48
P．横隔膜異常影 〈生方幹夫〉 50
第3章 診断へのアプローチ 個々のパターンの解説
A．正常影 〈近藤光子〉 54
A．胸部X線所見 54
B．診断のアプローチ 55
C．正常影を示す主な疾患 57
1．気管支喘息 57
2．肺 癌 58
3．慢性閉塞性肺疾患
（肺気腫，慢性気管支炎） 60
4．急性および慢性肺血栓塞栓症 61
5．睡眠時無呼吸症候群（SAS） 63
6．過換気症候群 64
7．その他の疾患 64
B．孤立性結節影 〈佐藤長人〉 65
A．成因と特徴 65
1．腫瘍性疾患 66
2．炎症性疾患 66
3．血管性疾患 66
4．先天性疾患 66
5．肺外性疾患 66
B．胸部X線所見 66
1．過去の胸部X線像との比較 68
2．結節の大きさ 68
3．結節の辺縁 68
4．結節の内部性状 71
5．結節周囲の所見 71
6．その他随伴する所見 71
C．診断のアプローチ 73
D．孤立性結節影をきたす疾患 76
1．原発性肺癌 76
2．転移性肺腫瘍 79
3．過誤腫 79
4．硬化性血管腫 79
5．肺結核 82
6．肺膿瘍 82
7．肺真菌症 83
8．円形無気肺 83
9．器質化肺炎 83
10．肺硬塞 83
11．肺動静脈瘻 83
12．肺分画症 84
13．気管支閉鎖症 85
14．葉間胸水 85
C．多発性結節影 〈磯野一雄〉 86
A．成因と特徴 86
1．悪性腫瘍 86
2．良性腫瘍 87
3．炎症性疾患 87
B．胸部X線所見 88
1．悪性腫瘍の特徴 89
2．良性腫瘍の特徴 89
3．炎症性疾患 90
C．診断のアプローチ 91
D．多発性結節影をきたす疾患 94
1．転移性肺腫瘍 94
2．IVBAT 94
3．多発性動静脈奇形（AVM） 95
4．転移性肺平滑筋腫（BML） 95
5．若年性乳頭腫症 95
6．肺アミロイドーシス 95
7．肺結核 96
8．非定型抗酸菌症 96
9．肺クリプトコッカス症 96
10．肺包虫症 96
11．肺吸虫症 97
12．珪 肺 97
13．慢性ベリリウム肺 97
14．過敏性肺炎 97
15．リウマチ結節 98
16．気管支中心性肉芽腫症（BG） 98
17．アレルギー性肉芽腫性血管炎
（Churg−Strauss症候群） 98
18．Wegener肉芽腫症 98
19．リンパ腫様肉芽腫症（LYG） 99
20．サルコイドーシス 99
21．好酸球性肉芽腫症（EG） 99
D．網状影，蜂巣状陰影 〈石井章子〉 101
A．成因と特徴 101
B．胸部X線所見 101
1．特発性間質性肺炎（IIP） 101
2．膠原病性間質性肺炎（皮膚筋炎） 101
3．膠原病性間質性肺炎（強皮症） 103
4．サルコイドーシス 103
5．肺好酸球性肉芽腫症 103
6．肺過誤腫性脈管筋腫症 103
7．夏型過敏性肺炎 105
8．薬剤性間質性肺炎 105
9．アルミニウム肺 105
10．特発性形質細胞性リンパ腫 107
11．癌性リンパ管症 107
C．診断のアプローチ 109
D．網状影，蜂巣状陰影をきたす疾患 110
1．特発性間質性肺炎 110
2．膠原病性間質性肺炎 111
3．サルコイドーシス 111
4．肺好酸球性肉芽腫症 111
5．肺過誤腫性脈管筋腫症 112
6．過敏性肺炎 112
7．薬剤性間質性肺炎 113
8．じん肺 113
9．癌性リンパ管症 113
10．リンパ増殖性疾患 113
11．アミロイドーシス 113
12．特発性肺血鉄症 113
E．孤立性浸潤影 〈猶木克彦〉 114
A．成因と特徴 114
1．肺胞性パターン 115
2．肺胞性以外のパターン 116
3．パターン認識によるアプローチの限界 116
B．胸部X線所見 117
C．診断のアプローチ 123
D．孤立性浸潤影をきたす疾患 127
1．大葉性肺炎 127
2．気管支肺炎 127
3．肺膿瘍 127
4．肺結核，非定型抗酸菌症 128
5．異型肺炎（マイコプラズマ，クラミジア，レジオネラ） 128
6．肺真菌症，肺寄生虫症 129
7．閉塞性肺炎 129
8．吸引性肺炎 129
9．急性ループス肺炎 130
10．無気肺 130
11．閉塞性細気管支炎器質化肺炎（BOOP），慢性好酸球性肺炎 130
12．L喃fler症候群 130
13．アレルギー性気管支肺アスペルギルス症（ABPA） 130
14．Wegener肉芽腫症 131
15．肺胞上皮癌 131
16．リンパ腫，偽性リンパ腫 131
17．肺血栓塞栓症，肺梗塞 131
18．放射線肺臓炎 131
19．薬剤性肺傷害 132
F．多発性浸潤影 〈松宮晴子〉 133
A．成因と特徴 133
B．胸部X線所見 134
C．診断のアプローチ 134
D．多発性浸潤影をきたす疾患 135
1．感染症 135
2．腫瘍性疾患 139
3．その他 141
G．無気肺 〈金沢 実〉 147
A．成因と特徴 147
1．無気肺をきたす主な疾患 147
2．閉塞性無気肺 147
3．瘢痕性無気肺 147
4．受動性無気肺 147
5．微小無気肺 147
6．円形無気肺 149
B．胸部X線所見 150
1．無気肺に共通する胸部X線所見 150
2．右上葉無気肺 151
3．右中葉無気肺 151
4．右下葉無気肺 152
5．左上葉無気肺 155
6．左下葉無気肺 155
7．片肺の無気肺 157
C．診断のアプローチ 158
D．無気肺をきたす疾患 161
1．肺 癌 161
2．気管支拡張症 161
3．粘液塞栓／術後無気肺 161
4．気管支内異物 162
5．肺結核，気管支結核 162
6．肺良性腫瘍 162
7．肺 炎 163
8．その他の疾患 163
H．空洞・嚢胞状陰影 〈高柳 昇〉 164
A．成因と特徴 164
1．空洞・嚢胞状陰影をきたす主な疾患 164
2．肺感染症による空洞 165
3．肺腫瘍による空洞 166
4．じん肺による空洞 167
5．塞栓性疾患による空洞 167
6．自己免疫疾患による空洞 167
7．原因不明の疾患による空洞 167
8．先天性疾患による嚢胞状陰影 167
9．気道疾患による嚢胞状陰影 169
10．肺感染症に伴う嚢胞状陰影 171
11．原因不明の疾患に伴う嚢胞状陰影 171
12．外傷に伴う嚢胞状陰影 172
B．胸部X線所見 172
1．空 洞 172
2．嚢胞状陰影 173
C．診断のアプローチ 175
D．空洞・嚢胞状陰影をきたす疾患 177
1．肺膿瘍 177
2．放線菌症 177
3．ノカルジア症 178
4．肺結核，非定型抗酸菌症 178
5．真菌症 178
6．カリニ肺炎 181
7．寄生虫症 181
8．肺 癌 181
9．転移性肺腫瘍 181
10．悪性リンパ腫 181
11．気管支拡張症 182
12．ブラ，ブレブ 182
13．じん肺 182
14．敗血症性塞栓症 183
15．リウマチ結節 183
16．Wegener肉芽腫症 183
17．サルコイドーシス 183
18．好酸球性肉芽腫症 184
19．リンパ管筋腫症 184
20．アミロイドーシス 184
I．線状・帯状・管状・環状陰影 〈亀山伸吉〉 185
A．成因と特徴 185
1．線状・帯状・管状・環状陰影をきたす主な疾患 185
2．線状陰影 185
3．帯状陰影 186
4．管状陰影 187
5．環状陰影 187
B．胸部X線所見 187
1．artifacts 187
2．葉間裂溝の肥厚 188
3．縦隔気腫 188
4．板状無気肺 189
5．多発性ブラ 189
6．アスペルギローマ 191
7．肺 癌 191
8．心不全 192
9．中葉症候群 192
C．診断のアプローチ 193
D．線状・帯状・管状・環状陰影をきたす疾患 195
1．過剰裂溝 195
2．気 胸 195
3．縦隔気腫 195
4．縦隔ヘルニア 195
5．板状無気肺 196
6．肺 癌 196
7．肺結核 196
8．ブラおよび空洞性疾患 196
9．肺実質内の線維性瘢痕 196
10．気管支喘息，慢性気管支炎 197
11．気管支拡張症 197
12．septal lines 197
13．肺静脈還流異常 197
J．透過性亢進 〈井上 卓〉 199
A．成因と特徴 199
1．肺野透過性亢進の成因 199
2．両側肺内含気量増加 199
3．両側肺血流の低下 199
4．両側軟部組織の減少 201
5．片側肺内含気量の増加 201
6．片側肺血流の低下 201
7．肺外気量の増加 201
8．片側軟部組織の減少 201
B．胸部X線所見 201
1．撮影条件について 201
2．両側肺野透過性亢進 202
3．片側肺野透過性亢進 205
C．診断のアプローチ 210
D．透過性亢進をきたす疾患 212
1．慢性肺気腫 212
2．気管支喘息 214
3．閉塞性細気管支炎 214
4．肺血栓塞栓症 214
5．気 胸 215
6．Swyer−James症候群 215
7．気管・気管支の閉塞 215
K．肺門腫大影 〈青柴和徹〉 216
A．成因と特徴 216
B．胸部X線所見 217
1．肺門腫大を疑う胸部X線所見 217
2．血管性病変と腫瘤性病変の鑑別 217
3．肺高血圧症の胸部X線所見 218
4．肺門リンパ節腫大の胸部X線所見 220
C．診断のアプローチ 224
D．肺門腫大をきたす疾患 226
1．肺 癌 226
2．悪性リンパ腫 226
3．サルコイドーシス 226
4．初感染肺結核症 227
5．じん肺 227
6．肺高血圧症 227
L．縦隔異常影 〈青柴和徹〉 228
A．成因と特徴 228
B．胸部X線所見 229
1．縦隔病変の診断に有用なX線サイン 229
2．主な縦隔病変の胸部X線像 231
C．診断のアプローチ 236
D．縦隔病変をきたす疾患 238
1．縦隔腫瘍 238
2．縦隔腫瘍以外の縦隔病変 240
M．石灰化陰影 〈茂木 充〉 242
A．成因と特徴 242
1．異栄養性石灰化 242
2．腫瘍性石灰化 244
3．Ca代謝異常による異所性石灰化 244
4．原因不明の肺内石灰化 244
B．胸部X線所見 244
1．限局性肺内石灰化 244
2．びまん性肺内石灰化，多発小結節・微小結節影 248
3．気管・気管支の石灰化 250
4．胸膜の石灰化 250
5．リンパ節の石灰化 252
6．その他の縦隔の石灰化 252
C．診断のアプローチ 256
D．石灰化陰影をきたす疾患 257
1．結 核 257
2．過誤腫 258
3．原発性肺腫瘍 258
4．転移性肺腫瘍 258
5．珪 肺 258
6．アスベストーシス 259
7．異所性肺石灰化症 259
8．肺胞微石症 259
9．骨軟骨形成性気管気管支症 259
N．気 胸 〈山脇 功〉 260
A．成因と特徴 260
1．気胸をきたす主な疾患 260
2．緊張性気胸 261
3．水気胸 262
B．胸部X線所見 262
1．気胸に共通する胸部X線所見 262
2．癒着のない気胸 262
3．深呼気位での胸部X線所見 262
4．癒着を伴う気胸 264
5．仰臥位での胸部X線所見 264
6．再膨張性肺水腫 267
C．診断のアプローチ 267
D．気胸をきたす疾患 269
1．特発性自然気胸 269
2．続発性自然気胸 269
3．外傷性気胸 272
4．医原性気胸 272
5．月経随伴気胸 273
6．肺結核に合併する気胸 273
7．AIDSやカリニ肺炎に合併する気胸 274
O．胸水，胸膜陰影 〈山脇 功〉 275
A．成因と特徴 275
1．胸水貯留をきたす主な疾患 275
2．漏出性および滲出性胸水 275
3．血 胸 276
4．乳び胸 277
5．線維性胸膜肥厚 277
6．胸膜の腫瘍 278
7．apical cap 280
B．胸部X線所見 280
1．胸水に共通する胸部X線所見 280
2．胸水貯留の典型的所見 280
3．胸水貯留の非定型所見 281
C．診断のアプローチ 283
D．胸水，胸膜病変をきたす疾患 285
1．滲出性胸水を引き起こす疾患 285
2．漏出性胸水を引き起こす疾患 291
P．横隔膜異常影 〈生方幹夫〉 295
A．成因と特徴 295
1．横隔膜異常影をきたす主な疾患 295
2．両側性横隔膜下降 295
3．一側性横隔膜下降 295
4．両側性横隔膜挙上 295
5．一側性横隔膜挙上 296
6．局所的横隔膜挙上（横隔膜上腫瘤影を含む） 297
7．横隔膜下気腔 297
B．胸部X線所見 297
1．両側性横隔膜下降 298
2．一側性横隔膜下降 298
3．両側性横隔膜挙上 298
4．一側性横隔膜挙上 298
5．局所的横隔膜挙上 298
6．横隔膜下気腔 304
C．診断のアプローチ 305
D．横隔膜異常をきたす疾患 307
1．喘息と肺気腫 307
2．緊張性気胸 307
3．肺線維症 307
4．横隔神経麻痺 308
5．食道裂孔ヘルニア 308
6．外傷性横隔膜ヘルニア 308
索引 309