推薦文

 Despite their frequency, managing fluid−electrolyte and acid−base disorders continue to challenge generalists and subspecialists in all countries. The need continues for textbooks that clearly articulate the principles that underlie these disorders and then translate them into meaningful, practical approaches to patient care. Drs. Shibagaki and Fukagawa are two well−trained nephrologists who not only possess great understanding of the field, but also have the talent to transmit the material to a wide audience.
 I am very pleased to recommend Drs. Yugo Shibagaki and Masafumi Fukagawa and to congratulate them for their efforts to publish their textbook on electrolytes, acid−base and fluid therapy.
 Yugo Shibagaki is a former clinical fellow of Nephrology at Henry Ford Hospital in Michigan, USA, where I was the division head. The pathophysiology and management of disorders of fluids, electrolytes and acid−base metabolism were major topics of interest during our seminars, conferences and daily discussions with the fellows. Dr. Shibagaki was extremely diligent, dedicated and knowledgeable and ranked among the very top of our trainees. He clearly demonstrated a firm grasp of the information, was able to apply it to patient care and he was an excellent speaker at our conferences.
 I am well acquainted with Masafumi Fukagawa. I have met him at numerous international meetings and spent much time with him during my trips to Japan. Because of his abilities and talent I was very pleased to recommend him as the International, Asian−Pacific Editor for the American Society of Nephrology<CODE NUM=00D5>s new journal: The Clinical Journal of the ASN(CJASN). Dr. Fukagawa has demonstrated ability as a well−published investigator and is widely recognized as an excellent educator of young doctors. His skills make him a perfect partner for Dr. Shibagaki in this project.
 I understand that few solid textbooks focused on electrolyte and acid−base disorders are currently available in Japanese. This textbook should give readers a good grasp of what is taught about electrolyte and acid−base in the USA.

 June 7, 2005

Robert G. Narins, M. D.
Director, Postgraduate Education,
American Society of Nephrology


推薦文

 腎臓の最も重要な役割は体液の量と組成の「恒常性」維持であり,腎臓機能とその調節が正常に保たれないと,体液量の異常や水電解質代謝異常が生ずる.だからこそ腎臓内科医がこの分野をカバーする専門家として研鑽を求められるのは当然のことといえよう.
 わが国では,最近でこそ診療科を問わず卒前・卒後教育で電解質異常の診断と治療の基本的なことを身に付けるべきであると主張されているが,それらを基礎生理学から病態生理学に基づいて正確に理解し,臨床に応用し,また教育指導できる,充分な教育を受けた専門家の数は少ない.その養成カリキュラムもまだ充分に確立しているとはいえない.
 柴垣,深川の両氏は,私も関係していた施設で,私が長い米国生活から帰国し,この分野のきちんとしたトレーニングを指導させていただいた専門家たちの仲間である.柴垣氏は,電解質異常と教育の大家である盟友Narins教授(私とは1970年からのペンシルヴァニア大学時代からの知己,その後UCLAでは数年間だが一緒に教育にかかわった)のもとで,さらに研鑽を積んで来た.この本は,教育でも定評のある深川氏の支援・指導をうけて,柴垣氏の米国での臨床経験をもとにまとめたものであり,米国の腎臓内科専門医の電解質教育の水準を示した,初めての参考書と言えよう.
 本書を,病態生理とエビデンスに基づいた教育とコンサルテーションが行なえる専門家をめざす腎臓内科医だけでなく,基本を身に付けた上でさらに上を目指したい若い医師の諸君に推薦したいと思う.

2005年5月
黒川 清


監修のことば

 水電解質異常や輸液の問題は,どの科の患者にも生ずる頻度の高い異常であるが,それにもかかわらず,理論にもとづいたきちんとした教育が限られた施設でしか行われていない分野である.
 私が内科の研修後入ることになった東大分院内科の腎臓研究室では,UCLAから帰ってきたばかりの黒川清助教授(当時)を中心に,電解質に関するディスカッションも毎日熱心に行なっているような場所であった.当時の内科は総合内科であったことも幸いし,私自身も,熱心で優秀な先輩,同僚,後輩医師たちとともに,多彩な疾患をもつ多数患者の電解質異常について検討していた日々を,きのうのことのように思い出す.しかし,腎臓の専門医が集まる施設でも,この分野が充分に研修できるところは,いまだに限られているのではないだろうか.
 私が第一内科に移ったはるか後に,この研究室に入って来た優秀な後輩の一人が柴垣先生であった.彼は,その後,臨床で米国留学し,水電解質と移植の勉強をしてきたと聞いていたので,現在私のいる神戸大学の腎臓内科の卒前カリキュラムを組むに当たって手伝っていただいた.その際に米国の専門教育の話をしていく中で,彼が米国での経験を文章にしつつあることを知り,ぜひ完成して出版したら良いのではないかと勧めたのが,この本ができるきっかけである.実際は,彼が原案を書き,わたしが修正意見を出すことをくりかえして完成にこぎつけた.
 さて,内容をみていただくとわかると思うが,きちんとした教育をうけていないと経験にたよりがちなこの分野を,理論とエビデンスによってわかりやすくまとめている,わかりやすいと言っても,初心者向けではなく,その上のレベルである.したがって,腎臓を専門にすることに決めて研修を始め,その中で研修医等を指導する立場になる医師や,この分野に強い興味があるが近くに相談できる相手のいない医師などが,主な対象である.私自身も,なるほどこのように教えればわかりやすいのかと,目からうろこが落ちるような場面も多々あったことを告白したい.
 もう一つ内容をみて気づくのは,水・ナトリウム代謝の部分がきわめて大きな比率を占めていることである.これは,教科書では最初の方に出てくるものの,理解が非常にむずかしい分野であるために,みっちりと教えられていることの反映だと考えられるので,あえてそのままにしてある.これに比べると少なく見える他の分野も,原案より少し強化してある.将来改訂する機会があれば,この辺はさらに良くする用意はあるので,読者諸氏の声を歓迎したい.
 この本により,さらに水電解質の知識を深めた医師が,それを臨床に活用するだけでなく,若い医師にわかりやすく教えるようになり,この分野に興味を持つ人が増えてくれることが,われわれの唯一の望みである.

2005年 神戸にて
深川雅史




 水電解質・輸液は難しいとの声に応えるように,最近はいくつものレジデント向けの水電解質・輸液のテキストが巷に出回るようになった.これらの多くは大変よく書けていて,最初に学ぶには非常にとっつきやすい.しかし,この初級者向けのレベルを卒業した人の好奇心をさらに満足させるようなテキストはあまり見かけない気がする.私も研修医時代,常にこのような本を探していた.その中でHalperin&Goldsteinの「Fluid, Electrolyte, and Acid−Base Physiology:A Problem−Based Approach」とScribnerの「Fluid & Electrolyte Balance」が私にとって唯一,好奇心をくすぐられる名著であったと思う.
 私は父が約45年前に米国で臨床留学をし,まさにそのScribner博士の下で水電解質を学んで来たこともあり,是非,自分も米国で学びたいと思っていた.そんな中,現在に至るまで大変お世話になっている日本学術会議会長の黒川清先生や現在の上司である藤田敏郎先生のお陰もあって,アメリカ腎臓学会の教育担当ディレクターで水電解質教育のエキスパートでもあるRobert G. Narins先生の下で臨床研修を積むことができたのである.私にとっては,毎日が非常に勉強になる日々であり,日本で解決せずにいくつも抱えていた疑問が次々に氷解し,さらに理解を深めることができる喜びを感じたのを今も覚えている.米国では,かなり偉い先生にも気軽に質問できる雰囲気がある.visiting professor制度により,教科書や論文で名前を知っている先生が目の前で講義をしてくれることも度々でその度に多くの疑問をぶつけることができた.是非,ここで学んだ多くの事を本として還元したいという気持ちが強くなっていた.
 この度,私の研究室の先輩であり,尊敬する神戸大学医学部助教授深川雅史先生のご理解とご協力の下にこのテキストを出版できることを大変大きな喜びに感じている.深川先生にはこの本をレビューし,修正して頂く労をお願いしたが,先生のお力でかなり満足のいくものができたと自負している.又,中外医学社の秀島悟氏,荻野邦義氏にはこの本の企画・編集で大変ご苦労を頂いた.中外医学社の方々は父の本も担当された方であり,縁というものを強く感じているが,改めてここに感謝の気持ちを表したい.
 最後にこの本を私の医者としての目標でもあり,最も尊敬する父,昌功に捧げたい.
2005年5月
柴垣有吾


目次
第1章 体液恒常性維持のメカニズム  1
  A.腎臓の構造と尿生成  1
  B.腎臓と体液恒常性維持(人はどの位水を飲むことができる?)  2
  C.体液の組成と分布  3
    1.体液の体内分布  3
    2.年齢・性別・肥満度による体液量の変化  3
    3.体液を構成する溶質とその量・濃度の関係  4
  D.体液恒常性維持のメカニズム  6

第2章 水代謝・ナトリウム代謝異常の診断と治療  7
  A.水・ナトリウム代謝と体液の生理  7
    1.体液移動の原則  7
    2.浸透圧(osmolality)と
            張度(tonicity=effective osmolality)の違い  8
    3.血漿浸透圧・張度と膠質浸透圧の違い  10
    4.自由水(free water/electrolyte−free water)とは何か?  11
    5.尿における張度と自由水の概念  13
    6.細胞外液量・細胞内液量とナトリウム・水の関係  15
  B.ナトリウムバランス調節系(細胞外液量調節系)の生理  16
  C.ナトリウムバランス調節系(細胞外液量調節系)の異常  19
    1.ナトリウム過剰(浮腫性疾患)の病態生理  19
    2.浮腫形成の仕組み  19
    3.浮腫・胸腹水の治療  21
    4.利尿薬の使い方  23
    5.ナトリウム欠乏(脱水症)  29
  D.水バランス調節系の生理  37
    1.尿の希釈・濃縮機構  39
    2.尿希釈の仕組み  39
    3.尿濃縮の仕組み  40
  E.水バランス調節系の異常(低ナトリウム血症,高ナトリウム血症)  41
    1.溶質と水の関係  41
    2.低ナトリウム血症の病態生理  42
    3.低ナトリウム血症の鑑別診断  43
    4.SIADH(Syndrome of Inappropriate Secretion of ADH:
            不適切ADH分泌症候群)  46
    5.低張性低ナトリウム血症の症状  51
    6.低ナトリウム血症の治療を始める前に  52
    7.低ナトリウム血症治療の実際  54
    8.高ナトリウム血症の病態生理  60
    9.高ナトリウム血症の鑑別診断  61
    10.高ナトリウム血症の症状  63
    11.高ナトリウム血症の治療  63
    12.多尿性疾患  65

第3章 カリウム代謝異常の診断と治療  71
  A.カリウム代謝の生理  71
    1.カリウムの分布  71
    2.カリウムの代謝のオーバービュー  71
    3.細胞内外のカリウム濃度調節(カリウムの急性調節機構)  72
    4.腎におけるカリウム排泄の調節(カリウムの慢性調節機構)  73
    5.カリウム代謝の検査  75
    6.カリウム代謝異常における症状・所見  76
  B.カリウム代謝の異常  79
    1.高カリウム血症  79
    2.低カリウム血症  89

第4章 酸塩基平衡異常の診断と治療  97
  A.酸塩基平衡の生理  97
    1.酸塩基とは  97
    2.酸の産生  98
    3.緩衝系(バッファー)とは何か?  99
    4.腎での酸排泄の仕組み  101
    5.腎における酸排泄調節機構  105
  B.血液ガスの読み方  106
    1.血液ガスの基礎知識  106
    2.血液ガスの読み方の実際  111
  C.酸塩基平衡異常の原因  120
    1.代謝性アシドーシス  120
    2.代謝性アルカローシス  129
    3.呼吸性アシドーシスと呼吸性アルカローシス  132
  D.代謝性酸塩基平衡異常の治療(一般論)  139
    1.代謝性アシドーシスの治療  139
    2.代謝性アルカローシスの治療  143

第5章 カルシウム・リン・マグネシウム代謝異常の診断と治療  147
  A.カルシウム代謝の生理  147
    1.カルシウムの出納  147
    2.腸管でのカルシウム吸収機構  147
    3.腎でのカルシウム排泄機構  148
    4.イオン化カルシウム  148
    5.血清カルシウム濃度の調節機構  149
  B.高カルシウム血症  153
    1.高カルシウム血症の発現機序と原因疾患  153
    2.高カルシウム血症の診断  155
    3.高カルシウム血症の症状  156
    4.高カルシウム血症の治療  157
  C.低カルシウム血症  158
    1.低カルシウム血症の発現機序と原因疾患  158
    2.低カルシウム血症の診断  160
    3.低カルシウム血症の症状  160
    4.低カルシウム血症の治療  161
  D.リン代謝の生理  163
    1.リンの出納  163
    2.腸管でのリン吸収機構  163
    3.腎でのリン排泄機構  163
    4.血清リン濃度の調節機構  165
  E.高リン血症  166
    1.高リン血症の発現機序と原因疾患  166
    2.高リン血症の診断  167
    3.高リン血症の症状  167
    4.高リン血症の治療  167
  F.低リン血症  168
    1.低リン血症の発現機序と原因疾患  168
    2.低リン血症の診断  169
    3.低リン血症の症状  169
    4.低リン血症の治療  169
  G.マグネシウム代謝の生理  170
    1.マグネシウムの出納  170
    2.血清マグネシウム濃度の調節機構  170
  H.高マグネシウム血症  171
    1.高マグネシウム血症の症状・所見  171
    2.高マグネシウム血症の原因  172
    3.高マグネシウム血症の治療  172
  I.低マグネシウム血症  172
    1.低マグネシウム血症の症状・所見  172
    2.低マグネシウム血症の診断  173
    3.低マグネシウム血症の治療  176

第6章 輸液(水電解質輸液)の基本  179
  A.体液バランスの維持のための輸液  179
  B.体液バランスの是正のための輸液  180
    1.どこに(where)足りないのか  180
    2.何が(what)足りないのか?  181
    3.どれ位(how much)足りないのか?  182
    4.脱水症の治療  183
  C.輸液製剤の種類と特徴  184
  D.高齢者への輸液の注意点  187
    1.加齢による腎機能・水電解質バランス調節機構の変化  187
    2.高齢者における安全な輸液とは(Talbotの安全輸液理論)  187
  E.外来での輸液の適応とその注意点  188
    1.脱水症(水,ナトリウムの補充)  189
    2.低カリウム血症(カリウムの補充)  190
  F.輸液をする前にもう一度考えよう  191

索引  193