過去の輸血副作用を反省し,今,私たちは世界一安全な輸血療法を実現しています.しかし,この複雑化した血液製剤の適応や輸血の注意点をすべて記憶しておく事は難しいものです.そこで,実践的な輸血療法を簡潔に書いた携行できる本(ポケットブック)が必要と思い,中外医学社のお勧めによりこの「輸血・細胞治療マニュアル」を著しました.
 この本の特徴は輸血療法について時系列で記載してあることです.つまり,輸血直前の準備から,検査,輸血,確認,輸血数カ月後の検査の順に医療行為に沿って記述しています.また,時系列から外れる用語は単語を□で囲って欄外にフットノートとして示し,専門的事項は後のページに基礎・解説としてまとめてあります.これらは,リンク先をクリックするとジャンプするインターネットWeb形式に似ていて便利です.
 最近,輸血医療に関していくつかの改正がありました.2005年(平成17年)には「血液製剤の使用指針」が改訂され,2006年には輸血管理料が認められ,輸血学会も輸血・細胞治療学会へと発展し,2007年には白血球除去新血液製剤が供給され始めました.この本ではこれらの新しい事項にも対応しています.
 輸血の安全性は高まっていますが,患者さんやご家族から「輸血への不安」が消えていないのが現状です.これは,断片的な知識や過去の事例に対する報道が繰り返し行われているのが一因かもしれません.この不安を解消するためには,医療スタッフこそが最新の知識を身に付け,また,輸血のリスクと安全性を正しく理解しておくことが大切です.その際に,この本が役に立つ事を願っています.

2007年4月

埼玉医科大学総合医療センター
輸血・細胞治療部 准教授 大久保光夫


目次

 1.この本の特徴と使い方
 2.2007年供給開始新製剤と旧製剤の比較及び対応
 3.注意点

第1章 輸血と輸血検査実施の判断
 1─1.輸血のトリアージtriage
 1─2.輸血および輸血前検査が必要な患者群
 1─3.輸血前検査を実施しておく患者群
 1─4.血液型検査を実施しておく患者群
 1─5.自己血輸血が選択できる患者群
 1─6.輸血を拒否する患者
 1─7.外来での輸血

第2章 緊急輸血
 2─1.緊急O型輸血
 2─2.ノークロス(マッチ)輸血
 2─3.生理食塩水法交差適合試験

第3章 輸血前検査
 3─1.血液型検査法
 3─1─1.ABO式血液型判定
 3─1─2.Rh式血液型 試験管法
 3─2.赤血球不規則抗体検査
 3─3.交差適合試験
 3─4.夜間の輸血検査

第4章 輸血開始
 4─1.準備
 4─2.輸血の説明と同意
 4─3.確認と輸血開始
 4─4.確認と観察および記録
 4─5.輸血の効果判定

第5章 輸血製剤の使用指針と効果
 5─1.赤血球製剤
 5─1─1.全血製剤
 5─1─2.濃赤(RCC)
 5─2.新鮮凍結血漿(FFP)
 5─3.血小板製剤
 5─4.アルブミン製剤
 5─5.血漿分画製剤
 5─6.2005年改訂 血液製剤使用ガイドラインの要点
 5─7.血液製剤の添付文書概要

第6章 輸血事故の防止
 6─1.輸血事故の現状
 6─2.輸血事故防止策
 6─2─1.輸血全般における防止策
 6─2─2.ABO型違い輸血副作用発生時の対策
 6─3.リスクマネージメント

第7章 副作用と対策
 7─1.即時型および急性の副作用
 7─2.感染症
 7─3.溶血
 7─4.免疫反応

第8章 輸血後の検査
 8─1.輸血前後の感染症検査
 8─2.遡及調査
 8─3.赤血球同種抗体検査

第9章 輸血療法手技
 9─1.採血手技
 9─2.自己血輸血
 9─2─1.貯血式自己血
 9─2─2.産科の自己血輸血
 9─3.交換輸血と血漿交換
 9─4.院内製剤

第10章 小児の輸血の注意点

第11章 細胞治療
 11─1.HLAとその検査
 11─2.骨髄採取・濃縮
 11─3.末梢血幹細胞採取
 11─4.活性化T細胞療法

基礎・解説
 1.輸血管理料認定施設基準への対策
 2.血液製剤の薬価,輸血に関する検査料と手技料
 3.不規則抗体検査の意味
 4.抗グロブリン法,クームステストの意味
 5.血液型が異なる輸血が行われる場合
 6.母児免疫による病態
 7.ウインドウピリオド
 8.TRALI
 9.GVHD
 10.輸血に関する同意書の説明文(見本)
 11.輸血に関して近年改訂された事項

文献
索引


図表の内容/構成による便利な目次

1. 輸血・細胞治療のマニュアルが記載してある図表
 図1 輸血療法の概要
 表8 緊急O型輸血のマニュアル
 図5 血液型検査の準備
 図6 オモテ検査
 図7 ウラ検査
 図8 RhD血液型検査
 図9 赤血球不規則抗体スクリーニング検査法
 図10 交差適合試験準備
 図11 交差適合試験(主試験の生理食塩水法とブロメリン法)
 表13 輸血部夜間マニュアルI(時間外輸血検査概要)
 表14 輸血部夜間マニュアルII(時間外輸血業務概要)
 表15 輸血部夜間マニュアルIII(検査陽性時の対応概要)
 表16 医師の輸血準備と対応事項
 表17 輸血開始から終了まで看護師の役割
 表18 輸血開始から終了まで輸血部門(検査)技師の役割
 表19 輸血前に把握すべき事項
 表21 輸血同意書説明内容
 表22 血漿分画製剤の使用に関する説明内容
 図13 輸血開始
 表40 急性溶血副作用対策マニュアル
 表44 急性溶血副作用対策マニュアル
 表50 院内洗浄血小板準備品リスト
 表51 院内洗浄血小板の作成手順例
 図17 クームステスト(抗グロブリン法)

2.輸血・細胞治療の対処法・ノウハウが記載してある図表
 表2 白血球除去済み新製剤への対応
 図4 輸血を望まない患者の理由と対処
 表6 外来での輸血の問題点と対策/準備
 表9 ABO式血液型誤判定─主な失敗原因と対処法
 表11 交差適合試験失敗原因例と対処法
 表12 輸血の24時間体制の現状・問題点・対策
 表27 赤血球製剤輸血の問題点
 表29 FFP輸血の問題点
 表32 血小板輸血の問題点
 表38 身近な輸血事故のインシデント例
 表39 事故予防対策
 表46 遡及調査
 表52 小児輸血の注意点
 表56 輸血管理料取得までの道筋

3.輸血・細胞治療の適応・ガイドラインが記載してある図表
 図2 出血量と輸液と輸血量の関係
 表4 輸血検査および輸血実施の判断基準例
 図3 緊急性に応じた交差適合試験の選択
 図12 出血量と輸液と輸血量の関係
 表23 輸血の効果判定
 図14 出血量と輸液と輸血量の関係
 表26 輸血検査および輸血実施の判断基準例
 表28 FFPの輸血
 表30 血小板輸血
 表31 濃厚血小板輸血開始の基準血小板数
 図15 出血量と輸液と輸血量の関係
 表34 第VIII因子製剤
 表35 静注用人免疫グロブリン製剤(日赤ポリグロビンN注5%)IVIG
 表36 抗HBs人免疫グロブリン HBIG
 表37 血液製剤添付文書の注意事項抜粋
 表47 自己血輸血の適応実例と貯血量
 表48 血漿交換の主な適応症あるいは病態
 図16 前日CD34値と翌日のCD34陽性細胞の採取実数
 表55 輸血管理料施設基準(概要)

4.輸血・細胞治療に関する各種一覧表
 表1 主な輸血用血液製剤名
 表3 輸血前検査一覧とその意味
 表5 輸血後感染症頻度
 表7 輸血検査にかかる時間(例)
 表10 主な血液型の頻度(ABO,Rh以外)
 表20 輸血検査にかかる時間(例)
 表24 血液製剤一覧
 表25 血液製剤保存液/添加物組成一覧
 表33 アルブミン製剤一覧
 表41 輸血管理電子システム データベース内容例
 表42 日赤血液センターに報告された輸血副作用
 表43 輸血後感染症リスク(頻度)予想
 表45 献血問診と献血後の情報管理
 表49 院内調製血液製剤一覧と現状
 表53 主な細胞治療
 表54 高度先進医療として承認されている細胞治療
 表57 輸血製剤の薬価,輸血に関する検査料と手技料
 表58 輸血に関して近年改訂された事項