序
医学の進歩は目覚ましく，新しい情報が次々と発信されています．このような情報化時代における教科書の役割は，当然以前とは異なったものになります．できるだけ完全なものになるように，多くの情報を詰め込もうとすると，執筆に時間がかかり，本が完成した時には内容が古いものになっている可能性が高いでしょう．また，たくさんの知識，技術を習得しなければならない医学生，研修医が求めるのはコンパクトな教科書であり，分厚い教科書ではないと考えられます．今日の教科書に求められるのは普遍的，基本的情報を簡潔にまとめ，呈示することであると考えます．細かい，最新の情報は現在では容易にインターネットで収集することができ，教科書がそのような役割を担う必要はありませんし，担うことは困難です．
図解消化器内科学テキストは上記のような考えのもとに編集し，診療の現場で実際に医学教育に携わっている先生に執筆をお願いしたものです．このテキストでは，消化器病学において医学生，研修医に必要なコアとなる事項が図表を多く使用し，記述は短くし，短時間で理解できるように書かれています．更に，情報が欲しい時には，他の専門雑誌あるいはインターネットで情報を集めて頂ければよいと考えました．
本書は，非常に多くのことを学ぶ必要のある多忙な医学生，研修医の方々に，消化器病学のコアを学ぶテキストとして利用して頂ければ，編集者・執筆者一同の喜びです．
最後に，本書の出版に多大な御尽力を頂いた中外医学社の担当者に深謝します．
2006年6月
井廻道夫
日比紀文
目次
1．総論
I 消化器の構造と機能 ＜相磯貞和＞ 2
II 主要症候とその疾患 22
A．腹痛を来たす急性腹症
1．腹痛の原因疾患とその鑑別 ＜永田博司＞
2．急性腹症診断のフローチャート ＜太田良雄＞
B．消化管出血（吐血・下血）
1．上部消化管出血の原因疾患 ＜鈴木秀和＞
2．下部消化管出血の原因疾患 ＜上野文昭＞
3．出血性ショックの重症度分類とその対応 ＜今枝博之＞
C．イレウス ＜高橋賢一＞
D．腸の機能とその異常（下痢・便秘） ＜辻川知之＞
E．消化吸収機構とその異常 ＜都築義和＞
F．嚥下障害 ＜森下鉄夫＞
G．肝疾患の症候
1．黄疸 ＜藤田尚己＞
2．腹水 ＜福井 博＞
3．肝性脳症 ＜森脇久隆＞
4．門脈圧亢進症 ＜福井 博＞
III 身体所見の取り方 ＜福本陽平＞ 74
IV 検査方法 81
A．検体検査
1．便検査 ＜都築義和＞
2．肝機能検査・肝炎ウイルスマーカー ＜岡上 武＞
3．胆道疾患の検査 ＜安部井誠人＞
4．膵疾患の検査 ＜田中滋城＞
5．腫瘍マーカー ＜青柳 豊＞
6．遺伝子診断 ＜松田康伸＞
B．消化管の検査
1．食道・胃・十二指腸造影 ＜大須賀香絵＞
2．食道・胃・十二指腸内視鏡 ＜榊 信廣＞
3．小腸・大腸X線造影 ＜鈴木和代＞
4．小腸内視鏡検査 ＜砂田圭二郎＞
5．大腸内視鏡 ＜岩男 泰＞
6．カプセル内視鏡 ＜中野道子＞
C．肝胆膵の画像診断
1．超音波検査 ＜井上達夫＞
2．CT ＜古賀久雄＞
3．MRI（MRCPも含む） ＜本杉宇太郎＞
4．ERCP ＜大井 至＞
5．超音波内視鏡検査 ＜三好広尚＞
6．血管造影 ＜小林 聡＞
7．腹腔鏡検査・肝生検 ＜橋本悦子＞
D．FDG-PET ＜樋口一郎＞
2．各 論
I 食道疾患 172
1．胃食道逆流症，逆流性食道炎，食道裂孔ヘルニア ＜森山一郎＞
2．Barrett食道・Barrett腺癌 ＜森山一郎＞
3．食道アカラシア ＜小澤壯治＞
4．食道・胃静脈瘤 ＜北川雄光＞
5．食道癌（早期癌） ＜北川雄光＞
6．食道癌（進行癌） ＜佐藤道夫＞
II 胃・十二指腸 210
1．胃炎―Sydney system― ＜鈴木秀和＞
2．好酸球性胃腸炎 ＜吉川敏一＞
3．胃・十二指腸潰瘍−含除菌ガイドライン ＜塩田星児＞
4．出血性潰瘍の内視鏡的治療 ＜今枝博之＞
5．胃癌 ＜田中史生＞
6．Helicobacter pyloriによる発癌 ＜浅香正博＞
7．胃粘膜腫瘍・GIST ＜山田雅弘＞
8．胃MALT lymphoma ＜千葉 勉＞
III 小腸・大腸・肛門 248
1．カルチノイド腫瘍 ＜松下光伸＞
2．蛋白漏出性胃腸症 ＜三浦総一郎＞
3．Crohn病 ＜平井郁仁＞
4．潰瘍性大腸炎 ＜久保田大輔＞
5．腸管型Beh稿t病・単純性潰瘍 ＜上野文昭＞
6．腸結核 ＜平井郁仁＞
7．感染性腸炎・虚血性腸炎・腸管循環障害 ＜五十嵐正広＞
8．虫垂炎・憩室性疾患 ＜前田耕太郎＞
9．過敏性腸症候群 ＜本郷道夫＞
10．大腸ポリープ・大腸ポリポーシス ＜檜沢一興＞
11．大腸癌 ＜大谷剛正＞
12．痔瘻・痔核 ＜後藤友彦＞
IV 薬物性消化管障害 ＜遠藤 豊＞ 304
薬剤性食道炎
その他の薬剤関連食道疾患
非ステロイド性抗炎症薬による胃十二指腸潰瘍
その他の薬剤性上部消化管障害
薬剤性下部消化管障害
偽膜性腸炎
急性出血性腸炎
MRSA腸炎
その他の薬剤性下部消化管障害
V 全身疾患からの消化管病変 ＜松本誉之＞ 308
悪性貧血
アレルギー性紫斑病
アミロイドーシス
膠原病に伴う腸病変
GVHD
VI 肝疾患 312
1．ウイルス肝炎 ＜竹原徹郎＞
2．劇症肝炎 ＜持田 智＞
3．肝硬変 ＜坪内博仁＞
4．自己免疫性肝炎 ＜恩地森一＞
5．原発性胆汁性肝硬変 ＜堀池典生＞
6．原発性硬化性胆管炎 ＜滝川 一＞
7．アルコール性肝障害 ＜堀江義則＞
8．薬物性肝障害 ＜滝川一＞
9．脂肪肝・非アルコール性脂肪肝炎 ＜西原利治＞
10．体質性黄疸・肝内胆汁うっ滞 ＜小林由直＞
12．肝寄生虫疾患 ＜斉藤浩之＞
13．血管性病変（Budd-Chiari症候群を含む） ＜村脇義和＞
14．先天性肝線維症 ＜村脇義和＞
15．肝嚢胞 ＜佐々木勝己＞
16．肝腫瘍 ＜荒井邦明＞
VII 胆道疾患 385
1．先天性胆道疾患 ＜石原 慎＞
2．胆石症 ＜正田純一＞
3．胆道感染症 ＜田妻 進＞
4．胆嚢線筋腫症・胆嚢ポリープ ＜吉田 正＞
5．胆道腫瘍 ＜大内田次郎＞
VIII 膵疾患 407
1．膵管形成異常 ＜大井 至＞
2．急性膵炎・重症急性膵炎 ＜下瀬川徹＞
3．慢性膵炎・膵石症 ＜田原純子＞
4．自己免疫性膵炎 ＜田中滋城＞
5．膵嚢胞 ＜杉山政則＞
6．膵癌 ＜杉山政則＞
IX 腹膜疾患 ＜広石和正＞ 432
索引 437