1994年中外医学社から,「図解 血球--生理・病態・臨床」として,「赤血球」「白血球」「血小板--止血・凝固・線溶」の3分冊が刊行され,好評を得た.本書は,その新版として,その後の血液学の進歩も取り入れて全面的に改訂し,1冊にまとめたものである.

 本書の大きな特徴は,図表を多用し,その直下に解説を箇条的に加えることにより,とかく難解とされる血液学のエッセンスを理解し易くしたことにある.さらに随所に「メモ」や「トピックス」を挿入し,理解を深める助けとした.

 血液学は,血球3系統のほかに,血漿中の免疫グロブリンと凝固系因子(止血・血栓)を対象としている.本書では,これらの各領域について,基礎(血液の生理,ライフサイクル,形態,機能)と臨床(症候,検査,血液・造血器疾患,輸血・造血幹細胞移植)に分け,臨床についてはことに疾患の本態の理解のために病態生理に力点を置くように努めた.

 血液学は,古典的な形態学に始まり,近年は分子細胞生物学の進歩による遺伝子レベルの解析とその臨床への導入が進んでおり,その情報量は益々膨大なものとなっている.本書は,それらの中から最新の血液学の理解に必要最小限の情報を,できるだけ分かり易く簡潔に記載したつもりである.なお表紙の造血幹細胞とFISH法のカラー写真は,最近の血液学の進歩のシンボルとして選んだものである.

 本書が,医学生のための教科書としてのみならず,研修医,臨床医,コメディカル,さらに血液学に興味を持つ各分野の方々にとって,より高度の血液学専門書に進む上の手引きとしてお役に立つことを願っている.なお,読者諸氏のご批判をもとに,さらに工夫を加えて行きたいと考えているので,忌憚のないご意見をいただければ幸いである.

 最後に,制作に困難を伴った本書の出版に多大のご尽力をいただいた中外医学社の担当者に深甚の謝意を申し上げる.

  2000年11月

  編集者一同


目 次

1.血液の生理 1

 1.造血臓器 別所正美  2

    1.血球の個体発生  2

    2.造血臓器の構造と機能  2

 2.血球のライフサイクル  6

  A.血球の産生と調節…別所正美  6

    1.造血幹細胞  6

    2.造血幹細胞の増殖分化とその調節  6

    3.造血因子  8

    4.造血因子のレセプター  9

    5.血球の増殖と細胞周期  9

  B.赤血球系…別所正美 10

    1.赤血球系のライフサイクル 10

    2.EPOによる赤血球産生の調節 11

  C.顆粒球系,単球系…別所正美 12

    1.顆粒球系のライフサイクル 12

    2.好酸球系,好塩基球系 12

    3.単球・マクロファージ系のライフサイクル 13

    4.G-CSFとGM-CSFによる顆粒球・単球の産生調節 13

  D.リンパ球系…別所正美 15

    1.T細胞系のライフサイクル 15

    2.B細胞系のライフサイクル 16

    3.NK細胞系のライフサイクル 16

  E.血小板系…長澤俊郎 17

    1.血小板産生 17

    2.トロンボポエチン(TPO) 18

    3.血小板の寿命 18

 3.血球の形態 19

  A.血球の基本構造とその機能…古澤新平 19

    1.血球の基本構造 19

    2.細胞質 20

    3.核 20

  B.各血球系に共通した成熟にともなう形態変化…別所正美 21

  C.造血幹細胞…別所正美 21

  D.赤血球系…別所正美 22

  E.好中球系…別所正美 23

  F.好酸球系,好塩基球系,肥満細胞…別所正美 24

  G.単球系…別所正美 25

  H.リンパ球系…別所正美 26

  I.血小板系…長澤俊郎 27

    1.普通染色 27

    2.電 顕 27

 4.血液の機能28

  A.赤血球の機能…檀 和夫 28

    1.ヘモグロビン酸素解離曲線 28

    2.赤血球形態と変形態 29

  B.ヘモグロビンの合成・構造・機能・分解…檀 和夫 30

    1.ヘモグロビンの合成 30

    2.ヘモグロビンの構造 31

    3.ヘモグロビンの機能 31

    4.ヘモグロビンの分解 32

  C.鉄・ビタミンB↓12↓・葉酸の代謝…檀 和夫 33

    1.鉄の代謝 33

    2.ビタミンB↓12↓と葉酸の代謝 34

  D.白血球の機能…厨信一郎 36

    1.好中球 36

    2.好酸球 38

    3.好塩基球 38

    4.単球系細胞 39

    5.リンパ球 40

  E.免疫グロブリンの構造・合成・機能…檀 和夫 42

    1.免疫グロブリンの分子構造 42

    2.Bリンパ球の分化と免疫グロブリンの合成および遺伝子再構成 43

    3.免疫グロブリンの種類と機能 44

  F.血小板,凝固因子,線溶,血管壁と止血…長澤俊郎 45

    1.概 略 45

    2.血小板 46

    3.血液凝固 48

    4.線 溶 52

2.血液・造血器疾患の症候と検査53

 1.症候 54

  A.貧 血…檀 和夫 54

    1.貧血の自覚症状 54

    2.貧血の他覚所見 54

  B.発 熱…檀 和夫 55

    1.発熱の発生機序 55

    2.熱 型 55

    3.血液疾患と発熱 55

  C.リンパ節腫脹・脾腫…檀 和夫 56

    1.リンパ節腫脹 56

    2.脾 腫 57

  D.出血傾向・血栓傾向…長澤俊郎 58

    1.出血傾向(出血性素因) 58

    2.血栓傾向 59

 2.検査とその異常60

  A.血算(末梢血液検査)…廣澤信作 60

   A-1.赤血球系 61

    1.赤血球数,ヘモグロビン濃度,ヘマトクリット値,平均恒数 61

    2.赤血球形態 65

    3.網赤血球 66

   A-2.白血球系 66

    1.測定法 66

    2.異 常 66

     2-1) 白血球増加症 66

     2-2) 白血球減少症 68

     2-3) 未熟白血球の出現 69

     2-4) 好中球の形態異常 69

   A-3.血小板系 70

    1.測定法 70

    2.異 常 70

   A-4.汎血球減少症 71

    1.定 義 71

    2.発症機序 71

    3.成 因 72

    4.鑑別診断 72

  B.骨髄検査…廣澤信作 73

    1.骨髄穿刺 73

    2.骨髄生検 74

  C.特殊染色(細胞化学)…廣澤信作 75

    1.概 要 75

    2.ミエロペルオキシダーゼ 75

    3.エステラーゼ 75

    4.アルカリフォスファターゼ 76

    5.鉄 77

  D.免疫学的マーカー…廣澤信作 78

    1.概 要 78

    2.原 理 78

    3.CD分類 79

    4.正常血液の分化と免疫学的マーカー 79

    5.意 義 80

  E.染色体検査…廣澤信作 81

    1.概 要 81

    2.核型分析法 81

    3.正常染色体 81

    4.染色体異常の主な種類 82

    5.血液疾患における染色体異常の意義 82

    6.FISH法 83

  F.遺伝子検査…廣澤信作 84

    1.概 要 84

    2.検査法の種類 84

    3.意 義 84

  G.出血傾向・血栓傾向の検査法…長澤俊郎 88

    1.検査法の種類 88

    2.血小板系検査 88

    3.凝固系検査 89

    4.凝固線溶系の分子マーカー 90

    5.血管系検査 90

  H.画像検査…長澤俊郎 92

    1.概 要 92

    2.意 義 92

3.血液・造血器疾患の病態生理と臨床 95

 1.赤血球系疾患 檀 和夫 96

  A.鉄欠乏性貧血…96

  B.鉄芽球性貧血…99

    附 : ヘモクロマトーシス 100

  C.サラセミア…101

  D.異常ヘモグロビン症…103

  E.ポルフィリア…104

  F.巨赤芽球性貧血…105

  G.溶血性貧血…109

  H.遺伝性球状赤血球症…112

    附 : 遺伝性楕円赤血球症 113

  I.赤血球酵素異常症…114

  J.免疫性溶血性貧血…116

  K.発作性夜間血色素尿症…119

  L.赤血球破砕症候群…121

  M.再生不良性貧血…122

  N.赤芽球癆…125

  O.二次性貧血…127

 2.白血球系の非腫瘍性疾患129

  A.伝染性単核(球)症…古澤新平 129

  B.好中球機能異常症…斉藤憲治 132

  C.免疫不全症…斉藤憲治 134

 3.造血器腫瘍 別所正美 140

 4.白血病と骨髄異形成症候群 古澤新平 145

  A.急性白血病…145

  B.慢性骨髄性白血病…154

  C.慢性リンパ性白血病群…158

  D.成人T細胞白血病・リンパ腫…161

  E.骨髄異形成症候群…162

 5.その他の骨髄増殖性疾患 古澤新平 166

  A.赤血球増加症…166

  B.本態性血小板血症…170

  C.原発性骨髄線維症…172

 6.悪性リンパ腫 古澤新平 175

  A.悪性リンパ腫と類縁疾患…175

  B.Hodgkin病…179

  C.非Hodgkinリンパ腫…180

 7.組織球増殖症 182

  A.Langerhans細胞組織球症…厨信一郎 182

  B.血球貪食症候群…斉藤憲治 184

 8.血漿蛋白異常 古澤新平 186

  A.γ-グロブリン異常症(免疫グロブリン異常症)…186

  B.多発性骨髄腫…187

  C.原発性マクログロブリン血症…191

  D.その他のM蛋白血症…193

 9.出血傾向 長澤俊郎 195

  A.特発性血小板減少性紫斑病…195

  B.血栓性血小板減少性紫斑病…198

  C.血小板機能異常症…200

  D.血友病…203

  E.von Willebrand病…205

  F.ビタミンK欠乏症…207

  G.循環抗凝固因子…208

  H.播種性血管内凝固症候群…210

  I.血管性紫斑病…213

 10.血栓傾向 長澤俊郎 216

  A.血栓症…216

 11.薬剤による血液異常 長澤俊郎 218

  A.薬剤性造血障害…218

4.輸血と造血幹細胞移植 斉藤憲治 223

 1.輸 血224

  A.赤血球輸血と適合試験…224

  B.輸血療法…228

  C.輸血の副作用…231

 2.造血幹細胞移植 234

索 引…237

メモ,トピックス 目次

〈メモ〉アポトーシス 14

〈メモ〉樹状細胞 41

〈メモ〉G6PDの型によるクロナリティーの証明 115

〈メモ〉パルボウイルスB19 126

〈メモ〉慢性疾患の貧血 128

〈トピックス〉チロシンキナーゼ阻害剤による慢性骨髄性白血病の

       新しい治療法 144

〈メモ〉動物の進化と止血機構 171

〈トピックス〉胃MALTリンパ腫とヘリコバクター・ピロリ菌感染 181

〈メモ〉過粘稠度症候群 192

〈メモ〉血小板無力症の変遷から抗血小板薬の開発へ 202

〈メモ〉血小板とアスピリン 217

〈メモ〉手術時の血液準備法 227

〈メモ〉自己血輸血 233

〈メモ〉GVHDと移植片対白血病GVL 236