序
内分泌・代謝学の広さについては編者一同いつも悩まされている.またその進歩の早さについても編集会議の度に息が切れる感じがする.編者の一部が入れ替わり,新しい気持ちで考えたテーマはいかがであったろうか?気になるところである.代謝,糖尿病,内分泌の基本骨格は変えなかったが,トピックスには編者達が是非知りたい,また書いていただきたい方に書いていただいたつもりである.非常に新しいテーマばかりではないが,臨床的に重要な課題であり1997年の臨床に欠くべからざる知識である.
基本骨格の部分は各筆者に思い切って書いていただいたが,その書き方は,丹念に文献を拾って書く方法と,自分でストーリーを作ってそれに則ってまとめられる方もある.これは扱う論文を1996年のみに限らなくすることで,翌年カバーしていただくようにした.
1997年の本号が単に過去を振り返るのみの書物ではなく,それを踏台にして本当に1997年の内分泌・代謝学の発展を見つめる書となっていると読者に受け取っていただければ幸いである.
多くの筆者はお忙しいところを快く引き受けて下さった.1996年の十分の論文を集めるためぎりぎりまで執筆を引き伸ばされた方もあり,皆さん極めて熱を込めて書いて下さった.編者一同感謝をすると共に,また一部の方には来年も書いていただくことをお願い申し上げたい.
1997年はフィンランドで国際糖尿病学連合の会議があるので,糖尿病学で新しい展開があるかもしれない.学問の進歩に期待の持てる1997年となるであろう.
1996年12月
編者一同
金澤康徳 田中孝司 武谷雄二 山田信博 編集
著者
石橋 俊 時田章史 安田和基 門脇 孝 中井継彦
小林哲郎 増田一裕 石田 均 清野 裕 吉村泰典
久慈直昭 菅沼信彦 小杉眞司 森 徹 宮森 勇
小原孝男 日下部きよ子 田中孝司 鳥海正明 篠原義政
荻野良郎 武城英明 斎藤 康 木下 誠 寺本民生
藤森 新 衛藤義勝 池上博司 荻原俊男 富永真琴
関川 暁 小林 正 岸川秀樹 和氣仲庸 七里元亮
豊田隆謙 渥美義仁 磯貝 庄 多田久也 日高秀樹
篠崎一哉 橋本浩三 高尾俊弘 牧野晋也 後藤公宣
蘆田健二 名和田新 高須信行 村松正明 平井愛山
田村 泰 平田結喜緒 沖 隆 橋爪潔志 増本伸之
田坂慶一 三宅 侃 神崎秀陽 安田勝彦 松原高史
山路 徹 石橋みゆき 山田正信 森 昌朋 遠藤登代志
宮内 昭 田中俊一 関原久彦 宗 友厚 安田圭吾
鈴木洋通 野城孝夫 三浦幸雄 高 栄哲 並木幹夫
丸尾 猛 松尾博哉 岩動孝一郎
目 次
I.トピックス
A.代 謝
1.高脂血症の遺伝子治療 〈石橋 俊〉 1
家族性高コレステロール血症(FH)の遺伝子治療 LDLレセプターの遺伝子導入法 LDLレセプター以外の遺伝子操作による遺伝子治療
2.ビタミンD受容体と骨粗鬆症 〈時田章史〉 8
ビタミンD受容体遺伝子多型 VDR遺伝子多型の骨密度への影響をめぐる賛否両論 日本人におけるビタミンD受容体遺伝子多型と骨密度 骨粗鬆症におけるビタミンD受容体遺伝子多型の意義
B.糖尿病
1.糖尿病発症遺伝子 〈安田和基 門脇 孝〉 13
IDDM発症遺伝子 NIDDMの発症遺伝子 今後の研究の方向
2.シンドロームX 〈中井継彦〉 21
syndrome Xの病因 脂質代謝異常とインスリン抵抗性 syndrome Xと高血圧 syndrome Xと冠動脈硬化症
3.Slowly progressive IDDM 〈小林哲郎〉 27
Slowly progressive IDDMの特徴 SPIDDM における病態 SPIDDMと遺伝因子 SPIDDMにおける残存β細胞と糖尿病性合併症 Slowly progressive IDDMの進展予知とその予防 本邦および諸外国におけるSPIDDM
4.インスリン感受性増強剤 〈増田一裕 石田 均 清野 裕〉 36
tro(ノスカール)(CS-045:三共)とpio(AD4833,U-72107:武田) その他のインスリン感受性増強剤の臨床 動物実験での成績
C.内分泌
1.卵胞発育の調節因子 〈吉村泰典 久慈直昭〉 41
卵胞の形成と発育 卵胞発育における卵巣内局所因子 卵胞閉鎖とアポトーシス
2.LH構造異常症 〈菅沼信彦〉 50
LHおよびLH遺伝子の構造 LHβ鎖におけるTrp8→ArgとIle15→ThrによるLH構造異常 LHβ鎖におけるGlu54→ArgによるLH構造異常
3.家族性思春期早発症 〈小杉眞司 森 徹〉 54
臨床像 LH/CG受容体活性化型変異の同定 現在までに同定されたLH/CG受容体活性化型変異 GenotypeとPhenotypeとの関係 日本人症例 他の受容体活性化型変異による疾患 活性化型変異の検索と受容体活性化機構の解析
4.Preclinical Cushing症候群 〈宮森 勇〉 62
Pre-CSの臨床像 Pre-CSの内分泌学的検査成績 副腎ホルモン産生異常症調査研究班の全国実態調査 非機能性副腎腺腫の遠隔成績 Pre-CSの手術症例(自験例および全国集計成績) 今後の問題点
5.原発性副甲状腺機能亢進症のMIBIによる部位診断検査
〈小原孝男 日下部きよ子〉 68
副甲状腺へのMIBIの集積機序 201TlClに比べたMIBIの利点 MIBIによる副甲状腺部位診断の方法 MIBIの診断率 副甲状腺部位診断の経済性
6.ソマトスタチン受容体シンチグラムによる内分泌腫瘍の局在診断
〈田中孝司 鳥海正明 篠原義政 荻野良郎〉 74
放射性octreotideの開発 撮像条件,薬物動態など 膵腫瘍 Carcinoid 下垂体腫瘍 異所性ACTH産生腫瘍 褐色細胞腫など 甲状腺癌 Basedow病眼症
II.代 謝
1.高脂血症
a.成因・病態 〈武城英明 斎藤 康〉 85
高脂血症モデルマウスと動脈硬化 LDL受容体遺伝子ファミリー HDL受容体
b.治 療 〈木下 誠 寺本民生〉 91
動脈硬化予防試験(prevention study) 薬物療法 食事療法 遺伝子治療 ホルモン補充療法hormone replacement therapy (HRT) 抗酸化作用 血管内皮機能 その他
2.プリン代謝異常 〈藤森 新〉 97
プリン代謝の酵素異常 痛風,高尿酸血症 腎性低尿酸血症と急性腎不全
3.先天代謝異常症 〈衛藤義勝〉 102
アミノ酸代謝異常症 糖代謝異常症 リピドーシス ムコ多糖症 Wilson 病の遺伝子異常 ペルオキシゾーム病 神経疾患
III.糖尿病
1.成 因
a.成 因 〈池上博司 荻原俊男〉 108
IDDMの成因 NIDDMの成因
b.疫 学 〈富永真琴 関川 暁〉 112
IDDMの疫学 NIDDMの疫学
2.病 態 〈小林 正〉 117
インスリン分泌に関する病態 インスリン作用に関する病態
3.治 療
a.食事療法,運動療法 〈岸川秀樹 和氣仲庸 七里元亮〉 122
食事療法 運動療法
b.薬物療法 〈豊田隆謙〉 127
糖尿病治療薬の概要 糖尿病の薬物療法のまとめ
4.合併症
a.神 経 〈渥美義仁〉 132
糖尿病性神経障害の臨床 糖尿病性神経障害の検査 末梢神経障害の治療 自律神経障害
b.腎 症 〈磯貝 庄 多田久也〉 136
腎症の遺伝子 成因 病態 治療(進展防止)
c.動脈硬化 〈日高秀樹 篠崎一哉〉 141
疫学研究 臨床研究 実験的研究
IV.内分泌
A.総 論
1.作用機序
a.ペプチドホルモン 〈橋本浩三 高尾俊弘 牧野晋也〉 146
G蛋白 サイトカイン受容体ファミリーとその細胞内遺伝子伝達系 最近発見されたペプチドホルモンの作用
b.ステロイドホルモン 〈後藤公宣 蘆田健二 名和田 新〉 152
ステロイドホルモン受容体 Heat shock protein クロマチン構造と転写制御 ステロイドホルモン受容体と他の転写因子との結合 ノックアウトマウスからの知見
c.甲状腺ホルモン 〈高須信行〉 159
甲状腺ホルモン作用機序 甲状腺ホルモンと心臓
2.サイトカインと成長因子 〈村松正明〉 168
サイトカイン 成長因子 TGF-βファミリー
3.プロスタノイド 〈平井愛山 田村 泰〉 172
プロスタノイドの生合成酵素および受容体のノックアウトマウスに関する話題 中枢神経系におけるプロスタノイドの最近の話題:beta-trace protein の同定 ホルモンによるプロスタノイド受容体の調節 骨代謝とプロスタノイドに関する話題 アラキドン酸のヨード化代謝産物による甲状腺細胞の増殖抑制 ホルモン分泌におけるアラキドン酸代謝産物の役割
4.Na利尿ホルモン 〈平田結喜緒〉 178
ANPとBNP遺伝子の転写調節 生体内におけるANPの役割
B.各 論
1.視床下部-下垂体
a.ACTHとCRH 〈沖 隆〉 183
CRH,ACTH分泌調節 CRF受容体 CRF結合蛋白(CRF-BP) Urocortin Corticotropin-Release-Inhibiting-Factor(CRIF) Cushing病
b.TSHとTRH 〈橋爪潔志〉 189
甲状腺ホルモンのnegative feedback調節におけるTRH 下垂体におけるTRHの産生調節 甲状腺ホルモン分泌のnegative feedback調節におけるTRH受容体の意義 TRH受容体の構造と機能 TSH分泌細胞とカルシトニン関連ペプチド PulsatileとContinuous のTSH分泌 TSH分子の構造と機能 TSHの作用とその機序
c.ゴナドトロピンとGnRH 〈増本伸之 田坂慶一 三宅 侃〉 197
GnRH合成,分泌調整 GnRHとシグナル伝達 LHとFSH その他のゴナドトロフ調節因子
d.プロラクチン 〈神崎秀陽 安田勝彦 松原高史〉 203
視床下部-下垂体でのPRL合成・分泌調節 下垂体以外でのPRL合成・分泌調節 PRL受容体(PRL-R) PRLの作用 臨床研究
e.抗利尿ホルモン 〈山路 徹 石橋みゆき〉 208
バゾプレッシン受容体の構造と機能 バゾプレッシン受容体の異常 水チャンネルの機能調節 尿素トランスポーターについての知見 家族性中枢性尿崩症の病態生理 バゾプレッシンの分泌調節 臨床面の話題
2.甲状腺
a.甲状腺機能亢進症 〈山田正信 森 昌朋〉 220
バセドウ病,T細胞のTSHレセプター認識部位(エピトープ) 変異TSHレセプターに関する報告 バセドウ病モデル動物 脂肪組織にはTSHレセプターが発現している T4併用療法は有用か?
b.甲状腺機能低下症,甲状腺炎 〈遠藤登代志〉 224
甲状腺機能低下症,甲状腺炎とTPO 甲状腺機能低下症,甲状腺炎とTg 甲状腺機能低下症,甲状腺炎とT-cell, HLA 病因・増悪因子のトピックス ヨードと甲状腺疾患
c.甲状腺腫瘍 〈宮内 昭〉 229
放射線と甲状腺癌 RET/PTC癌遺伝子,p53癌抑制遺伝子 甲状腺癌の検査 甲状腺癌の治療 予後因子 多発性内分泌腫瘍症(MEN)2型と甲状腺髄様癌
3.副甲状腺ホルモン,カルチトニンと骨Ca代謝 〈村上健彦 山本通子〉 234
PTH/PTHrP Ca受容体 骨代謝
4.副腎皮質
a.副腎アンドロジェン 〈田中俊一 関原久彦〉 242
副腎アンドロジェンの代謝調節作用 インスリンによる副腎アンドロジェン産生調節 副腎アンドロジェンの免疫調節作用
b.糖質コルチコイド 〈宗 友厚 安田圭吾〉 247
糖質コルチコイドの作用 先天性副腎皮質低形成および過形成 副腎皮質機能低下症 副腎腫瘍
c.レニン-アンジオテンシン-アルドステロン 〈鈴木洋通〉 254
レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系と関連する疾患で最近遺伝子レベルでの異常が明らかにされた症候群について Ang II受容体を介した細胞内情報伝達 Ang IIと他の生理活性物質との関連 Ang II受容体の活性化部位についての知見 アンジオテンシン-(1-7) アンジオテンシノーゲンの遺伝子レベルでの調節について ACE多型性について 副腎関連に関する話題
5.副腎髄質 〈野城孝夫 三浦幸雄〉 259
褐色細胞腫 神経芽細胞腫
6.性 腺
a.男 子 〈高 栄哲 並木幹夫〉 264
性腺分化 精子形成 内分泌機能 最近のトピックス
b.女 子 〈丸尾 猛 松尾博哉〉 267
卵巣 子宮 胎盤
7.性分化・発達の異常 〈岩動孝一郎〉 273
SRYの機能 AMH(MIS)の機能 5α-reductase isozymesについて Aromatase ARとAIS その他
索 引 278