いよいよ21世紀を迎えたこととなり,感慨深いものがある.人が勝手に定めた年号であり,人や地球の連続する流れの一点に過ぎず,何ら意味するところはないと主張するむきもあるが,それはそれとして,誕生日や暦,はたまた干支にしても,一つの流れの区切りとして用いられている以上,1000年に1度のミレニアムを超えたことを実感し,過去を振り返り,今後を予測することに意義を持たせてもよいと思われる.

 ちょうど一世紀前,すなわち1901年1月2日に報知新聞が「20世紀の予言」としていくつかの事項の予言を行っている.100年後の今,それを読みなおしてみると驚くほど当っているものがある.例えば,「無線電話は世界諸国に連絡して,東京に在るものが倫敦(ロンドン),紐育(ニューヨーク)にいる友人と自由に対話することを得べし」とあり,必ずしも無線ではないが既に実現している.また,「東京にいながら電気力によりて欧州の戦雲の状況を早取写真とすることを得べく,しかも天然色……」は,現在のTV上で現実のものとなっている.鉄道の速力では「東京神戸間は2時間半を要し,……」と予言されたが,ほぼそれに近くなっており,21世紀には目標を達成し,さらに短縮されていよう.交通面では,「少なくとも80日間を要した世界一周は,20世紀末には7日を要すれば足る」とあるが,現在のジェット機(当時は,まだチェッペリン式空中船の時代)では2日もかからず,予言以上に発達したものもある.「写真電話により遠距離にある品物を鑑定し,かつ売買の契約を整え……」とあるが,方法こそ違っても最近インターネット上で可能となっている.

 もっとも予言通りにはなっていないものもある.「気象上の観測術進歩して天災来たらんとすることは1ヶ月以前に予測するを得べく……」とあるが,台風の予測はできるようになったものの,地震についてはまだお手上げの状態である.「サハラの大砂漠は漸次沃野に化す」は残念ながら逆方向に進んでいる.一方,予言が実現しなくてよかったものもある.例えば「阿弗利加の原野に到るも獅子,虎,鰐魚等の野獣を見ることを能わず」がある.その方向に進みはしたものの,何とか人の力で抑止策がとられている.また「人の身体は6尺(180cm)以上に達する」とあるが,これも実現しなくてよかったように思われる.

 こうしてみると,100年たった今でも,かなり的をえた予言を当時行ったことに感心はするが,全く予想していなかったこともあげられる.即ち,原子力や宇宙開発,コンピューター社会などは予期されていなかった.医学・医療の現在の進歩もほとんど予測されていなかった分野といえる.

 さて,この間の医学の進歩には目覚しいものがあり,近年の進歩は過速度的でさえある.読者諸氏も21世紀の年頭にあたり今後100年を予測してみては如何であろう.

  2001年1月

  編集者一同


[編集者]

伊藤克己  浅野 泰  遠藤 仁  御手洗哲也 東原英二

[著者]

高橋孝宗  平野景太  高橋景子  金井好克  河原克雅

竹村尚志  竹中 優  貝森淳哉  長澤康行  今井圓裕

河内 裕  田村和哉  本多正徳  古瀬 信  有村義宏

長澤俊彦  上條敦子  木村健二郎 西山博之  筧 善行

小川 修  三村俊英  山縣邦弘  小山哲夫  鈴木 亨

今井裕一  小山雄太  大橋隆治  山中宣昭  和田健彦

南学正臣  鈴木隆之  浦 信行  林 晃一  小澤裕理

藤原啓二  藤村昭夫  上田典司  藤垣嘉秀  菱田 明

丹羽利充  阿部信一  竹澤真吾  中山昌明  春口洋昭

太田和夫  服部元史  伊藤克己  両角國男  武田朝美

竹内 意  松野 剛  田中紀章  中西浩一  William E. Sweeny

Ellis D. Avner      飯島一誠  吉川徳茂  柿崎秀宏

小柳知彦  樋野興夫  福田智一  溝口研一  井上秀樹

町田健治  野々口博史 冨田公夫  武田理夫  遠藤 仁

木下英親  丸山弘樹  樋口 昇  下条文武


目 次

I.Basic Nephrology

 1.糸球体血管形成の分子機構  <高橋孝宗 平野景太 高橋景子>  1

   糸球体血管発生の各段階とそれにたずさわる分子  成体における血管新生・再生機構

   糸球体血管構造の維持機構  内因性血管新生抑制物質の発見

   糸球体障害と血管内皮細胞動態

 2.アミノ酸トランスポーター  <金井好克>  13

   近位尿細管におけるアミノ酸の再吸収を担当するアミノ酸輸送系

   ヘテロダイマー型アミノ酸トランスポーター

   近位尿細管におけるアミノ酸再吸収の分子機序

   新たに同定された他のアミノ酸トランスポーター

 3.Epithelial Na+channel(上皮型Na+チャネル)  <河原克雅 竹村尚志>  21

   ENaCの局在とNA・溶液輸送  ENaCのクローニング  ENaCの分子構造

   ENaCの機能ドメイン  新しいサブユニットδ  ENaCの活性および発現調節

   アルドステロンによる調節  CAP1とチャネル活性  ENaCと遺伝子疾患

 4.レーザーマイクロダイセクション法によるin vivo遺伝子発現定量とその応用

  <竹中 優 貝森淳哉 長澤康行 今井圓裕>  30

   レーザーを用いたマイクロダイセクション法

   腎組織標本よりレーザーマイクロダイセクション法を用い回収した糸球体あるいは尿細管における遺伝子発現の定量法の確立と応用

   腎生検組織を用いた遺伝子定量とアレイテクノロジーの臨床応用の可能性

 5.nephrinと蛋白尿発症の分子機構  <河内 裕>  34

   nephrin分子の構造,局在  nephrin分子の機能  スリット膜の分子構造

II.診断・画像診断

 1.腎疾患の画像診断--最近の進歩  <田村和哉 本多正徳 古瀬 信>  40

   CT  MRI

 2.ANCA測定の標準化  <有村義宏 長澤俊彦>  47

   ANCA測定の歴史  ANCA測定の標準化  ANCA測定のガイドラインと試薬の改良

   本邦におけるANCA測定の現況

 3.尿中肝臓型fatty acid binding protein(L-FABP)の意義  <上條敦子 木村健二郎>  53

   脂肪酸による間質尿細管障害の発症  脂肪酸代謝を促進するL-FABP

   尿中L-FABPの臨床的意義

 4.膀胱腫瘍の尿中マーカー  <西山博之 筧 善行 小川 修>  58

   膀胱腫瘍の診断のための尿中マーカー  再発/悪性進展を規定する尿中マーカー

III.腎炎・ネフローゼ

 1.糸球体腎炎と接着因子--FAKを中心として--  <三村俊英>  62

   接着分子の分類  接着分子の炎症局所における役割  糸球体腎炎における接着分子

 2.わが国における急速進行性糸球体腎炎  <山縣邦弘 小山哲夫>  68

   RPGNの原疾患別頻度  RPGNの臨床症状と検査所見  

   RPGNの重症度と予後  RPGNの治療法

 3.IgA腎症と扁桃  <鈴木 亨>  75

   扁桃における抗原提示  IgA腎症における扁桃の関与  扁桃摘出術の適応

   IgA腎症における扁桃摘出の治療効果  扁桃リンパ球のHPに対する免疫応答

 4.造血幹細胞移植後の腎障害  <今井裕一 小山雄太>  81

   HCTの具体的方法と問題点  HCT全体の予後  HCT関連腎症  今後の課題

IV.間質・尿細管

 1.腎障害の進展とperitubular capillary  <大橋隆治 山中宣昭>  88

   間質病変におけるPTCの役割  PTC injuryと間質障害

 2.蛋白尿による間質障害と補体制御因子  <和田健彦 南学正臣>  94

   腎機能障害と尿細間・間質障害  蛋白尿はそれ自身が尿細管・間質障害をもたらす

   補体系の異常と尿細管・間質障害  蛋白尿減少による臨床的効果

 3.萎縮尿細管による間質線維化の誘導  <鈴木隆之>  100

   萎縮尿細管の形態的変化  尿細管上皮細胞を傷害(活性化)する因子

   傷害(活性化)尿細管が間質の線維化を誘導するメカニズム

   萎縮尿細管は間質の線維化を誘導するか?

V.腎臓と血圧

 1.腎カリクレイン・キニン系と血圧調節  <浦 信行>  106

   腎kallikrein-kinin系の生理的役割  腎kallikrein-kinin系と高血圧

   遺伝子治療の可能性

 2.腎障害時の降圧目標  <林 晃一 小澤裕理 藤原啓二>  111

   腎障害における腎微小循環調節  腎障害における降圧療法

 3.高血圧の時間治療  <藤村昭夫>  116

   血圧日内変動と心血管疾患  各種降圧薬の時間治療学的特徴

   アスピリンの時間治療学的特徴

VI.腎不全

 1.エンドヌクレアーゼによる急性尿細管障害の発症と進展機序  <上田典司>  122

   細胞死とエンドヌクレアーゼ  エンドヌクレアーゼ活性化を伴う尿細管障害

   尿細管細胞におけるエンドヌクレアーゼの局在

   尿細管のエンドヌクレアーゼを制御するメディエーター

 2.急性腎不全に対する上皮細胞再生促進療法  <藤垣嘉秀 菱田 明>  130

   細胞障害の軽減  アポトーシスの制御  増殖促進因子

   遠位尿細管における遺伝子制御  問題点と今後の展望

 3.腎不全の進行とインドキシル硫酸  <丹羽利充>  136

   インドキシル硫酸の代謝  インドキシル硫酸投与による腎不全の進行促進

   経口吸着剤療法とインドキシル硫酸  低タンパク食療法とインドキシル硫酸

   腎不全進行速度と尿中インドキシル硫酸排泄量との関連

   腎不全進行機序としてのタンパク代謝物説

 4.腎不全患者の妊娠管理  <阿部信一>  142

   腎機能低下剤(慢性腎不全例)の妊娠の現況

   腎機能低下例(慢性腎不全例)の妊娠管理  透析患者の妊娠

VII.血液浄化法

 1.透析効率の評価  <竹澤真吾>  147

   ダイアライザー側からみた効率評価  生体側からみた効率評価

 2.新しい腹膜透析液  <中山昌明>  153

   A two-chambered bag systemによる中性透析液  Icodextrin透析液

   アミノ酸含有透析液

 3.Vasculer accessに関する最近の進歩  <春口洋昭 太田和夫>  161

   interventional radiologyによる治療の進歩  内膜肥厚  vascular access機能の評価

   画像診断の進歩  透析用人工血管の現状  tunneled cuffed catheter

 4.難治性ネフローゼ症候群に対する血液浄化療法  <服部元史 伊藤克己>  168

   原発性FSGSの移植後再発と血液浄化療法  原発性FSGSの蛋白尿惹起液性因子

   原発性FSGS(native kidney)に対する血液浄化療法

VIII.移植

 1.移植腎病理  <両角國男 武田朝美 竹内 意>  173

   国際移植腎病理診断分類について  拒絶反応の病態に基づく分類

   ABO血液型不適合腎移植後急性拒絶反応の病理診断分類

   Protocol biopsyからの移植腎評価について  新しい急性・慢性拒絶反応診断指標について

 2.腎移植後の感染症  <松野 剛 田中紀章>  184

   Cytomegalovirus感染症  Epstein-Barr Virus感染症  結核症

IX.小児科領域

 1.小児の多発性嚢胞腎  <中西浩一 William E. Sweeny Ellis D. Avner>  189

   PKDの分子,細胞病態生理  常染色体優性多発性嚢胞腎

   常染色体劣性多発性嚢胞腎  PKD上皮細胞異常の修飾: 新しい疾患特異的治療

 2.Alport症候群の最近の知見  <飯島一誠 吉川徳茂>  196

   Alport症候群とは  IV型コラーゲン遺伝子病としてのAlport症候群  Alport症候群の治療

 3.VURの内視鏡治療の現況  <柿崎秀宏 小柳知彦>  201

   注入物質  内視鏡的注入療法の成績  今後の展望

X.泌尿器科領域

 1.腎癌の動物モデル(Ekerラット)--ポストゲノム時代への視座: 遺伝子型,表現型,演出型--

  <樋野興夫 福田智一>  207

   遺伝子型,表現型,演出型の定義の必要性  癌病理学の温故知新

   発癌研究の目標--ある年齢以前の癌死をなくす--  疾患モデルを用いた発癌研究の理念

   遺伝性腎癌(Eker)ラットの歴史  遺伝性腎癌ラットの病態

   腎癌の修飾遺伝子の存在  遺伝性腎癌ラットの臨床への応用と展望

 2.シスチン尿症の原因遺伝子  <溝口研一>  214

   タイプIシスチン尿症の原因遺伝子r-BAT  非タイプIシスチン尿症の原因遺伝子bo, +AT

XI.電解質・酸塩基平衡

 1.水,電解質輸送体遺伝子の発現制御について  <井上秀樹 町田健治 野々口博史 冨田公夫>  219

   cation/CI--共輸送体  Na+/H+交換輸送体  アクアポリンファミリー

XII.治療法

 1.腎における薬物相互作用の分子機構  <武田理夫 遠藤 仁>  229

   OATにおける薬物相互作用  PGPにおける薬物相互作用

 2.無症候性腎結石の取り扱い  <木下英親>  233

   無症候性腎結石について  無症候性腎結石の自然史  健診から診断された無症候性腎結石

   無症候性腎結石の診断と評価  無症候性腎結石の治療

 3.透析アミロイドーシスによる関節症の治療  <丸山弘樹 樋口 昇 下条文武>  240

   β2-Mの除去  透析液の純度  少量副腎皮質ステロイド薬  腎移植

   整形外科治療  明日につながる基礎研究

索 引  247