新しい顔ぶれの編集委員になってから3回目のAnnual Reviewの編集会議がまもなく開かれようとしている.この本の作成のスケジュールは慣例として12月頃に内容(トピック,執筆者)の試案作成,12月末または1月に編集会議で内容を決定し,執筆者への依頼を終え,7月末に原稿を受け,それからゲラ,校正,印刷,製本と進むことになっている.編集試案の段階ではトピックや執筆者の選定には,ちょうど腎臓学会総会が11月ないし12月にあるので(来年からは変更になるが),そこでの発表などが大いに参考になっている.

 ところで腎臓学会の内容も初期と随分異なってきたように思う.糸球体疾患,腎炎関係の演題がずっと主流であることは変化がないが,かつては相当多かった高血圧,腎不全,腎移植,透析などがそれぞれの専門学会が隆盛となるに伴いやや減少してきたこと,腎盂腎炎,泌尿器疾患,画像診断などが益々minorityになっていることなどが現象としてあげられる.

 わが国の腎臓学会は米国あるいは国際腎臓学会のそれよりややすそ野が広く,どれがmajorityということもなく,各分野が平等に扱われていたのである.このAnnual Review腎臓は昔の腎臓学会のようにmajority,minorityの区別なく関連領域を広く扱っていることが特徴で,この意味ではCurrent Opinion in Nephrology & Hypertensionなどの外国のreview誌とは趣を異にしているといえよう.とはいえ近年とみに盛んになった分子生物学的な手法が腎臓学会でも盛んになってきたことが傾向としてここ数年顕著であり,本書ではこの時代の進歩を反映させているが,その取扱い方が質量とも適当であるか読者の批判を待たねばならない.

 すでに述べたように,この1996年版は94年末に編集されたもので,実際の最先端の成果とは少なくとも1年のひらきがある.しかしreviewの目的は必ずしも最先端の成果を知るためばかりでなく,広く自分の専門関連の知見を追求することであるから,その目的は充分に達せられるし,95,94年版などとの重複は避けているので,古い本もその価値は失われていないと編者一同自負している次第である.本書を有効に活用されんことを期待して序言とする.

1996年1月

編集委員一同

長沢俊彦  河辺香月  伊藤克己  浅野 泰  遠藤 仁 編集 

著者

北村正敬  細山田真  遠藤 仁  竹内和久  阿部高明

高橋信行  佐藤武夫  大湊政之  内田信一  根東義明  

永野千代子 五十嵐裕  岩崎滋樹  吉村吾志夫 出浦照國  

吉田裕明  濱口明彦  疋田美穂  宮崎正信  原田孝司  

堺 秀人  永井 純  松浦克彦  奥田誠也  吉岡加寿夫  

小林正貴  小山哲夫  清水 章  山中宣昭  佐々木毅  

服部元史  斉藤喬雄  鈴木 仁  鈴木順造  武田理夫  

福岡利仁  山内 淳  坂本尚登  草野英二  平田恭信  

高見成洲  檜垣實男  荻原俊男  内山 聖  副島昭典  

鈴木道彦  野々口博史 冨田公夫  小出桂三  秋葉 隆  

峰島三千男 渡邊有三  山崎親雄  宇都宮幹子 川口良人  

雨宮 浩  河合達郎  星野智昭  太田和夫  高橋昌里  

吉岡俊正  角田由理  森 義則  市山 新  鈴木俊顕  

石川邦子  筧 善行  西沢 理  土谷 健  小松康宏  

奴田原紀久雄 東原英二 槇野博史  柏原直樹  川村哲也  

山木万里郎

目次

I.Basic Nephrology

1.糸球体への遺伝子導入 〈北村正敬〉1

培養糸球体細胞への遺伝子導入 糸球体への遺伝子導入

2.腎構成細胞の不死化 〈細山田真 遠藤 仁〉8

培養細胞における分裂寿命とがん遺伝子による不死化 腎構成細胞の不死化

3.腎プロスタノイド受容体 〈竹内和久 阿部高明 高橋信行〉14

トロンボキサン(TP)受容体 PGE受容体 その他のPG受容体

4.腎P-450依存性代謝産物とNaポンプ 〈佐藤武夫 大湊政之〉22

チトクロームP-450モノオキシゲナーゼシステムの概要 ネフロン内でのチトクロームP-450モノキシオゲナーゼシステムの分布 P-450MO代謝産物とNa-K-ATPaseの関係 腎臓のP-450MOシステム,Naポンプと高血圧との関連 これからの展望

5.腎のクロライドチャンネル 〈内田信一〉 28

腎臓におけるクロライドチャンネルとその役割 腎臓に存在するCIC型クロライドチャンネル その他の腎臓に存在するクロライドチャンネル 今後の展望

6.尿細管細胞の3次元培養 〈根東義明 永野千代子 五十嵐裕〉34

これまでの尿細管細胞機能検討技術の展開 細胞培養技術を用いた尿細管細胞機能の研究 3次元培養法を用いた尿細管細胞分化能の研究 尿中落下尿細管細胞培養系を用いたヒト尿細管細胞機能検討の試み

7.エンドセリン受容体と腎疾患 〈岩崎滋樹 吉村吾志夫 出浦照國〉39

エンドセリン受容体とそのサブタイプ 腎におけるエンドセリン受容体の分布とその機能 エンドセリン受容体に関する最近の知見

II.診断・画像診断

1.腎疾患における遺伝子診断の進歩 〈吉田裕明 濱口明彦 疋田美穂〉47

遺伝子腎疾患の遺伝子診断 多因子腎疾患の遺伝的背景

2.腎生検組織へのin situ hybridization techniqueの応用 〈宮崎正信 原田孝司 堺 秀人〉55

方法 腎生検標本を用いたISH報告例 ISHの応用

3.螺旋走査型CTによる腎の画像表示法 〈永井 純 松浦克彦〉62

腎腫瘤性病変の診断 腎血管の画像診断 その他の疾患映像法について

III.腎炎・ネフローゼ

1.糸球体腎炎とTGF-β 〈奥田誠也〉67

TGF-βの構造とシグナル伝達 腎におけるTGF-βの産生細胞 TGF-βと細胞外マトリックス 腎疾患とTGF-β TGF-β制御による糸球体腎炎の治療

2.糸球体腎炎とprotooncogene 〈吉岡加寿夫〉74

protooncogeneの機能と分類 protooncogeneと腎

3.スーパー抗原関連腎炎 〈小林正貴 小山哲夫〉79

スーパー抗原による抗原の認識機構およびT細胞活性化の機序 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌によるスーパー抗原関連腎炎 スーパー抗原関連腎炎の今後の検討項目 ブドウ球菌感染症としてのスーパー抗原関連腎炎の臨床病理学的特徴 その他のスーパー抗原の関与する腎疾患

4.腎炎のアポトーシス 〈清水 章 山中宣昭〉88

増殖性糸球体腎炎とアポトーシス メサンギウム細胞とアポトーシス 浸潤細胞とアポトーシス 糸球体内皮細胞とアポトーシス 上皮細胞とアポトーシス 糸球体障害とアポトーシス アポトーシス制御機構

5.ループス腎炎の発症機序 〈佐々木毅〉95

ループス腎症の発現に関与する因子 ループス腎症の発症機序

6.高脂血症(脂質代謝異常)による腎障害惹起メカニズム 〈服部元史 伊藤克己〉104

高脂血症(脂質代謝異常)による腎障害 動脈硬化病変との類似性  単球/マクロファージ メサンジウム細胞メサンジウムへの脂質沈着と酸化LDL コレステロール生合成中間代謝産物(イソプレン誘導体)

7.lipoprotein glomerulopathy その後 〈斉藤喬雄〉110

症例および臨床像 病理組織所見 脂質およびリポ蛋白所見 臨床経過と治療 成因

8.ウイルス感染による糸球体腎障害 〈鈴木 仁 鈴木順造〉117

腎障害の病因としてのウイルス ウイルス感染と腎障害

IV.間質・尿細管

1.尿細管障害とアポトーシス 〈武田理夫 福岡利仁〉123

アポトーシス検出法 腎生検標本におけるアポトーシス 腎疾患モデルにおけるアポトーシス

2.髄質浸透圧調節系の分子生物学 〈山内 淳〉127

オスモライトの種類とその蓄積および放出機構 遺伝子レベルでの解析と制御機構 浸透圧刺激の情報伝達機構 in vivoにおける発現とその制御

3.尿細管上皮の再生とHGF 〈坂本尚登〉134

HGFの作用 HGFの作用発現機序 HGF遺伝子の発現と尿細管上皮再生 HGFの産生調節因子 急性腎傷害とHGF 多発性嚢胞腎とHGF

4.尿細管輸送におけるphosphodiesterase 〈草野英二〉138

PDEアイソザイムのsuperfamily 腎のPDEアイソザイム AVP反応性細胞とPDEアイソザイム 遺伝性腎性尿崩症(NDI)マウスとPDEアイソザイム 副腎摘除とPDEアイソザイム

V.腎臓と高血圧

1.アドレノメジュリンの腎作用 〈平田恭信〉143

AMの腎機能への影響 AMのNOの遊離作用 AMの糸球体血行動態に及ぼす影響 AMによるNO遊離の細胞内機序

2.高血圧の遺伝子解析 〈高見成洲 檜垣實男 荻原俊男〉147

疾患遺伝子の解析法 高血圧モデルラットの遺伝子解析 ヒト本能性高血圧症の遺伝子解析 今後の展望

3.小児腎・泌尿器科疾患と高血圧 〈内山 聖〉153

カプトプリル投与の応用 超音波ドプラ法による腎動脈狭窄の診断 高血圧性緊急症の話題

VI.腎不全

1.急性腎不全治療の進歩 〈副島昭典 鈴木道彦 長澤俊彦〉156

ARFの治療と予後に関する臨床的検討 多臓器不全(MOF)に伴うARFの病態と治療 ARFに対する薬物治療 ARFモデルを用いた治療の研究と今後の課題

2.慢性腎不全における血管作動物質 〈野々口博史 冨田公夫〉163

慢性腎不全時の利尿物質 慢性腎不全時のCa調節 急性腎不全と血管作動性物質

3.保存期慢性腎不全対策の進歩 〈小出桂三〉169

慢性腎不全の診断(とくに高齢者の腎不全の診断) 保存期慢性腎不全の治療

4.二次性副甲状腺機能亢進症に対するパルス療法の限界と手術適応 〈秋葉 隆〉177

静注および経口パルス療法の効果 二次性副甲状腺機能亢進症に対するパルス療法の限界 二次性副甲状腺機能亢進症の手術適応

VII.血液浄化法

1.腹膜透析療法の技術的進歩 〈峰島三千男〉181

腹膜を介した輸送現象 リンパ管再吸収 適正透析 種々のPD その他

2.透析患者と肝炎ウイルス 〈渡邊有三 山崎親雄〉186

B型肝炎 C型肝炎

3.長期透析法と骨塩量 〈宇都宮幹子 川口良人〉191

骨塩とは何か 骨塩量の測定方法 骨塩量に影響する病態以外の偶発的あるいは生理的因子 透析療法と骨塩量

VIII.移植

1.異種移植 〈雨宮 浩〉199

異種抗原 異種超急性拒絶反応 遅延型異種拒絶反応 異種拒絶反応の治療

2.免疫トレランスの導入 〈河合達郎 星野智昭 太田和夫〉205

臨床での試み 中枢性トレランス 末梢性トレランス 低侵襲性プロトコールの開発

IX.小児科領域

1.体位性蛋白尿 〈高橋昌里〉210

尿蛋白の出現機構 尿蛋白の近位尿細管における再吸収 体位性蛋白尿の特徴 体位性尿蛋白の成因 展望

2.ネフローゼ症候群のステロイド感受性を規定する分子機構 理論的背景と最近の知見 〈吉岡俊正 角田由理〉218

グルココルチコイドの分子作用 グルココルチコイド応答性を規定する因子 ネフローゼ症候群のステロイド感受性に関する考察

3.小児神経因性膀胱治療の進歩 〈森 義則〉226

診断 保存的治療 手術療法

X.泌尿器科領域

1.原発性高蓚酸尿症 〈市山 新 鈴木俊顕 石川邦子〉232

蓚酸の生成機構とその抑制因子としてのSPT/AGTの役割 SPT/AGT遺伝子とPH1におけるその変異

2.腎腫瘍における多剤耐性のメンニスズム 〈筧 善行〉239

P糖蛋白質(Pgp)とMDR1遺伝子 グルタチオン(GSH)とグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST) MRP(multidrug resistance-associated protein) その他の多剤耐性関連蛋白と腎細胞癌での自然耐性 腎細胞癌における化学療法に未来はあるか?

3.尿失禁治療の進歩 〈西沢 理〉245

介護を主体とする排尿支援法 薬物療法 手術療法 その他

XI.電解質・酸塩基平衡

1.Na/K ATPaseの分子生物学 〈土谷 健〉250

Na/K ATPaseの基本構造と機能 腎におけるNa/K ATPase

2.腎とマグネシウム 〈小松康宏〉257

腎でのMg輸送 尿細管Mg輸送に影響を与える因子 腎性低Mg血症 Bartter症候群とGitelman症候群

3.原発性副甲状腺機能亢進症の電解質酸塩基平衡 〈奴田原紀久雄 東原英二〉264

近位尿細管におけるPTHの作用 太いヘレン上行脚におけるPTHの作用 遠位尿細管,皮質部集合管におけるPTHの作用 PTH,Pi,カルシウムと酸塩基平衡

XII.治療法

1.アンチセンス療法 〈槇野博史 柏原直樹〉268

アンチセンス療法の基礎 血管平滑筋細胞への応用 腎疾患への応用 今後の課題

2.新しい降圧薬 受容体拮抗薬を中心に 〈川村哲也〉274

アンジオテンシンII受容体拮抗薬 その他の受容体拮抗薬

3.新しい利尿薬 〈山木万里郎 浅野 泰〉281

V2受容体拮抗薬 ナトリウム(Na)利尿ペプチド 中性エンドペプチダーゼ(NEP)阻害薬 アデノシンA1受容体拮抗薬 キノリノンオキシムスルホン酸系化合物 その他の新しい利尿薬

索引 290