序
Annual Review腎臓シリーズも多くの方々に支えられて,今回11冊目を刊行することができたことを編集者一同心から感謝申し上げる.
創刊以来,本誌の目的は腎臓病学のトピックスを広く基礎・臨床の両面から的確に紹介することである.そのため,編集者一同その責任の重大性を認識し,読者の期待に応えるべくアンテナを広く世界に向けておくことが責務と考え,今後も努力していく所存である.
最近,腎臓学を専門とする本邦研究者の国際舞台での活躍が目覚ましい.例えば,毎年ホットでシビアなディスカッションが展開されるアメリカ腎臓会議(96年度の演題採択率は約75%)において,本邦研究者による多数の基礎的・臨床的研究成果が注目を集め,そしてKidney Internationalなどの一流ジャーナルには,本邦研究者による優れた論文が多数掲載されている.本年はシドニーで国際腎臓会議が開催されるが,本邦研究者の一層の活躍が期待される.
最後に,多忙な研究,臨床の合間をぬって本書に御執筆下さった諸先生方に心から御礼申し上げると共に,本書が読者の方々の研究と臨床に少しでもお役に立てば幸いである.本書が一層充実するように,今後とも本書への暖かいご支援をお願いし序の結びとさせて頂く.
1997年年頭
編者一同
長沢俊彦 河辺香月 伊藤克己 浅野 泰 遠藤 仁 編集
著者
山田剛久 寺田典生 今井圓裕 松原光伸 瓜生康平
海津嘉蔵 佐渡義一 梶谷文彦 山本徳則 岩本典子
吉岡俊正 伊藤喜久 池田健次 熊田博光 武曾恵理
杉崎徹三 藤乗嗣泰 Viviane Bremer 木村健二郎
松本紘一 白土 公 秋岡祐子 山口 裕 白髪宏司
副島昭典 三宅伸之 長澤俊彦 小川裕二 高橋文彦
菊池健次郎 今井 潤 阿部文明 山田 薫 後藤淳郎
東原英二 奴田原紀久雄 杉山 敏 宮田敏男 前田憲志
塚本雄介 安藤康宏 浅野 泰 竹沢真吾 秋澤忠男
佐藤良和 佐々木信博 安藤康宏 平野 宏 平賀聖悟
田島 惇 石川 晃 田村康一 平岡政弘 五十嵐隆
伊藤克己 川口 洋 松本哲朗 執印太郎 矢尾正祐
正井基之 伊藤晴夫 佐々木成 金井直明 吉川徳茂
川村哲也
目 次
I.Basic Nephrology
1.腎細胞における細胞周期 〈山田剛久 寺田典生〉 1
腎臓領域における細胞周期に関するこれまでの報告例 細胞周期とサイクリン,サイクリン依存性キナーゼ(cdk)およびcdk抑制因子 腎臓領域におけるG1サイクリンおよびその関連遺伝子に関する研究
2.HVJ-リポソームによる腎への遺伝子導入 〈今井圓裕〉 6
HVJ-リポソーム法 HVJ-リポソームを用いた腎への遺伝子導入 HVJ-リポソーム法を使った糸球体腎炎に対する治療法 将来の方向性
3.Calcium sensing receptorの構造と機能 〈松原光伸〉 12
CaRの構造と遺伝子上の異常 腎とCaR
4.自然発症糖尿病ラット(OLETF)の病態 〈瓜生康平 海津嘉蔵〉 18
OLETFにおける肥満,耐糖能障害 OLETFの腎障害について 糖尿病性腎症モデルとしての意義
5.Goodpasture症候群の原因抗原 〈佐渡義一〉 22
Goodpasture抗原と腎炎惹起性抗原 IV型コラーゲンと糸球体基底膜 Goodpasture症候群の腎炎のモデル 抗GBM抗体腎炎の診断
II.診断・画像診断
1.腎内in vivo微小循環画像 〈梶谷文彦 山本徳則〉 28
高速度CCD生体顕微鏡システム 薬剤に対する腎微小血管の応答 腎微小血管血流速度
2.電子スピン共鳴法の腎臓病学での応用 〈岩本典子 吉岡俊正〉 33
ESR法の原理 ESRを用いたラジカル種の検出 ESR法による腎疾患の研究,臨床における応用について
3.尿蛋白プロフィルによる病態検査診断 〈伊藤喜久〉 41
尿中蛋白プロフィル 尿蛋白成分測定の標準化について
III.腎炎・ネフローゼ
1.C型肝炎ウイルスと糸球体病変 〈池田健次 熊田博光〉 46
C型肝炎ウイルス感染と腎疾患の疫学 クリオグロブリン血症と膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN) 他の慢性糸球体腎炎とHCVとの関連 HCVのウイルス学的・病理学的側面 治療
2.IgA 腎症の動物モデル 〈武曾恵理〉 52
誘発実験モデル 自然発症IgA腎症モデル
3.実験的ANCA関連腎炎 〈杉崎徹三〉 57
4.糸球体腎炎におけるNOの役割 〈藤乗嗣泰 Viviane Bremer 木村健二郎〉 61
実験腎炎におけるNO産生増加 NOの細胞障害機序 腎炎におけるNO産生抑制の影響 糸球体内細胞浸潤に対するNOの役割 NOの腎保護作用 高血圧性腎硬化症とNO ネフローゼ症候群の高脂血症とNO 腎不全とNO 腎炎治療におけるNO合成酵素調節の将来性
5.糸球体障害とインターロイキン 〈松本紘一〉 68
IgA腎症とインターロイキン IgM腎症とインターロイキン 膜性増殖性糸球体腎炎とインターロイキン 半月体形成性腎炎とインターロイキン リポイドネフローゼとインターロイキン メサンギウム細胞(MC)とインターロイキン 腎炎モデルとインターロイキン
6.糸球体上皮細胞障害 〈白土 公〉 74
実験モデルでのGEC障害と糸球体硬化 basic fibroblast growth factor (bFGF) とGEC障害 GECの形質変換 まとめ
IV.間質・尿細管
1.Atubular glomeruliと尿細管間質病変 〈秋岡祐子 山口 裕〉 79
Atubular glomeruli: 最近の知見 糸球体-尿細管不連続の成因と間質障害 サイクロスポリン腎症における尿細管間質病変とAtubular glomeruli
2.間質病変とユロポンティン(オステオポンティン)の役割 〈白髪宏司〉 84
ユロポンティンとオステオポンティン 尿細管間質病変の重要性 腎でのUPNの発現 間質病変におけるUPNの役割 これからの展望
3.腎でのヘム関連酵素の役割 〈副島昭典 三宅伸之 長澤俊彦〉 91
腎におけるheme oxygenaseの誘導とその病態に果たす役割 熱ショック蛋白と急性腎不全
V.腎臓と高血圧
1.腎性高血圧とインスリン抵抗性 〈小川裕二 高橋文彦 菊池健次郎〉 97
腎実質性高血圧症とインスリン抵抗性 腎血管性高血圧症とインスリン抵抗性 糖尿病(NIDDM)性腎障害と高血圧
2.自由行動下,家庭血圧と腎機能障害 〈今井 潤 阿部文明〉 100
腎疾患における血圧異常
3.高血圧とウアバイン様物質 〈山田 薫 後藤淳郎〉 107
EDLFの本体 OLCの産生部位 OLCの生理作用および病態生理学的意義の検討
VI.腎不全
1.多発性嚢胞腎と腎不全 〈東原英二 奴田原紀久雄〉 115
分類 遺伝子異常 疫学 ADPKDの臨床上の特徴(ARPKDについては省略) その他の異常
2.透析アミロイドーシスとAGEs 〈杉山 敏 宮田敏男 前田憲志〉 120
メイラード反応とAGEs 沈着アミロイド中のAGEsの証明 AGEs化β2Mの構造 β2Mの病態生理学的意義 腎不全とAGEs
3.Adynamic bone 〈塚本雄介〉 127
adynamic boneの定義と診断 無形成骨の発生頻度 病因論 無形成骨と至適PTH濃度 無形成骨の病態生理学的検討 病的な意義
4.透析患者の体液量評価法 〈安藤康宏 浅野 泰〉 132
ドライウェイト(dry weight, DW)設定のための検査法 透析中の循環血液量モニター
VII.血液浄化法
1.on line HDFの今日の展開 〈竹沢真吾〉 139
on line HDF push & pull HDF 透析液エンドトキシン対策
2.high performance membrane の再評価 〈秋澤忠男 佐藤良和〉 144
膜性能の向上 HPMの臨床効果
3.Guillain-Barr誌ヌ候群と血液浄化法 〈佐々木信博 安藤康宏〉 151
Guillain-Barr誌ヌ候群 GBS 関連疾患
4.CAPDと腹膜硬化症 〈平野 宏〉 156
SPは非特異的腹膜炎か 腹膜蛋白のglycationとSPの発生機序 腹膜硬化は腹膜コラーゲンのゼラチン化である 腹膜生検以外の早期診断法はないか 予防と対策について 実験的研究
VIII.移 植
1.各国における腎移植ネットワーク 〈平賀聖悟〉 162
わが国の腎移植ネットワークの現状 諸外国の臓器移植ネットワーク
2.腎移植と悪性腫瘍 〈田島 惇 石川 晃〉 170
わが国におけるレシピエントの発癌
米におけるレシピエントの発癌 発癌の危険因子 癌の既往を有する患者への移植
3.免疫抑制剤: FK506とCsAの作用機構 〈田村康一〉 175
T cell活性化のメカニズム 免疫抑制の分子機構 免疫抑制以外の作用
IX.小児科領域
1.超音波検査による膀胱尿管逆流(VUR)の診断 〈平岡政弘〉 184
超音波検査によるVUR の診断法 VURの超音波診断法の意義と適応(今後の動向)
2.Dent病とクロライドチャンネル異常 〈五十嵐隆〉 187
Dent病とは Dent病の責任遺伝子とその構造 Dent病とその類縁疾患におけるCLCN5遺伝子の異常 特発性尿細管性蛋白尿症の臨床像 特発性尿細管性蛋白尿症におけるCLCN5遺伝子の異常 CLCN5の異常は特発性尿細管性蛋白尿症にみられる諸症状を説明できるか?
3.小児腎不全における発育障害と成長ホルモン療法 〈伊藤克己 川口 洋〉 194
成長障害の病態 慢性腎不全における成長ホルモン(growth hormone: GH)系の動態 成長障害に対するGH療法
X.泌尿器科領域
1.腎盂腎炎とサイトカイン 〈松本哲朗〉 202
尿路感染症に関与するサイトカイン 尿路感染症におけるサイトカインの産生 尿路におけるサイトカイン産生細胞 実験尿路感染症における解析
2.von Hippel-Lindau(VHL)病遺伝子:腎細胞癌とVHL病の発症に関る癌抑制遺伝子 〈執印太郎 矢尾正祐〉 206
VHL病遺伝子の単離の過程 VHL病遺伝子の異常で発症する2つの疾患とその病態 VHL病と腎細胞癌におけるVHL遺伝子異常の特徴とその意味 遺伝子解析によるVHL病の早期診断と治療の必要性
3.尿路結石の食事療法 〈正井基之 伊藤晴夫〉 212
結石の成因 結石形成の危険因子 結石再発の予防のための食事療法
XI.電解質・酸塩基平衡
1.Liddle症候群 〈佐々木成〉 218
上皮型Naチャネル Liddle症候群 偽性低アルドステロン症
2.プロスタグランジントランスポーターとそのスーパーファミリー 〈金井直明〉 224
プロスタグランジントランスポーターの同定 プロスタグランジントランスポーターの構造,特性,局在 プロスタグランジントランスポーターの予想される役割 ヒトのプロスタグランジントランスポーター プロスタグランジントランスポーター研究の現状 プロスタグランジントランスポーターのスーパーファミリー
XII.治療法
1.ネフローゼ症候群のシクロスポリン療法 〈吉川徳茂〉 230
ステロイド依存性ネフローゼ症候群のシクロスポリン治療 ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群のシクロスポリン治療 副作用 ネフローゼ症候群におけるシクロスポリン治療のガイドライン
2.ACE阻害薬の長期投与効果 〈川村哲也〉 236
ACE阻害薬の長期投与による腎血管保護作用 ACE阻害薬の腎・血管保護作用の機序
索 引 243