基礎から臨床に亘る幅広い腎臓学領域において,分子生物学的解析手法の応用は目ざましい.病因や病態が分子レベルで次々と解明されていく昨今,ともすればインパクト,インデックス偏重に走りがちな当世において,全ての先端腎臓学の情報を正確に熟知することは必ずしも容易なことではありません.もちろん,基礎医学なくして,優れた臨床は成り立たないことと理解できても,各研究分野での急速な研究成果の進展を全て理解することはできません.

 そこで編集にあたり,従来の基本的コンセプトを変更することなく,既刊号に対する諸兄からのご意見,ご忠告を参考にさせて頂きながら各項を選択し,執筆をお願いした先生方には基礎および臨床面での最新知見を相互交換できるように,筆者自身の研究成果を踏まえながら,簡潔明確にオーバービューして頂きました.編集者一同,本書が読者諸兄に十分満足して頂けるものと自負しておりますが,今後とも本書本来の使命が発揮できるよう皆様のご支援,ご指導をお願いする次第です.

1999年1月

編集者一同

長沢俊彦 河邊香月 伊藤克己 浅野 泰 遠藤 仁 編集

著者

長田道夫 竹中 優 長澤康行 今井圓裕 北中幸子

武山健一 村山明子 加藤茂明 馬嶋正隆 小林直人

坂井建雄 雨宮守正 浅野 泰 中島基雄 青柳一正

小磯謙吉 塚本雄介 高橋則尋 湯浅繁一 松尾裕英

岡村幹夫 城 謙輔 鈴木 亨 下條文武 栗岡英行

土肥和紘 上田志朗 武田理夫 遠藤 仁 四方賢一

槇野博史 金澤雅之 阿部圭志 神谷 敦 檜垣實男

荻原俊男 浦 信行 島本和明 前田憲志 副島昭典

長澤俊彦 松尾清一 森田良樹 水野正司 斎藤 明

深川雅史 風間順一郎 貴田岡正史 西山雅彦 金 成泰

山本千惠子 宮城盛淳 長谷川昭 大島伸一 山口 裕

野正貴予 松元 透 村上睦美 和田尚弘 高橋昌里

郡健二郎 藤田圭治 安井孝周 伊藤機一 八木靖二

中村 司 海老原功 市田公美 細谷龍男 細山田真

鶴岡秀一 安藤明利 遠藤真理子 小林正貴 室かおり

小山哲夫 柳沢克之 牧田善二 家永和治 森田 隆

腎臓1999 目 次

I.Basic Nephrology

 1.腎発生異常の分子機構  <長田道夫>  1

小さい腎臓: terminology  正常腎の形態発生  腎発生異常の考え方  遺伝子欠損動物にみられる腎発生異常  今後の方向性

 2.データベースを用いた腎特異的遺伝子のクローニング

   <竹中 優 長澤康行 今井圓裕>  8

ゲノムプロジェクト  発現遺伝子情報データベース  インターネットによる遺伝子情報データベースの利用

 3.ビタミンD1α水酸化酵素のクローニングとくる病

   <北中幸子 武山健一 村山明子 加藤茂明>  13

ビタミンDの生体内代謝と作用発現  1α水酸化酵素とその遺伝子クローニング  1α水酸化酵素の発現部位  1α水酸化酵素の活性調節  ビタミンD依存性くる病I型・II型  1α水酸化酵素はビタミンD依存性くる病I型の原因遺伝子である

 4.腎におけるCOX-2の発現分布と意義  <馬嶋正隆>  18

腎におけるアラキドン酸代謝  腎におけるCOX-2の発現と機能  今後の展望

 5.糸球体機能と足細胞podocyte  <小林直人 坂井建雄>  26

足細胞障害と糸球体硬化成立のモデル  足細胞特異的な分子,および興味深い蛋白  不死化された足細胞の培養系

 6.Na+/H+ antiporter  <雨宮守正 浅野 泰>  32

NHE1〜5  NHEと高血圧  NHEと糖尿病  NHEと腎臓  その他の話題  今後の展望

II.診断・画像診断

 1.新しい腎障害の尿中マーカー,ATP  <中島基雄 青柳一正 小磯謙吉>  39

ルシフェリン・ルシフェラーゼ法による尿中ATP量と尿中ATP分解活性の測定法  尿中ATP濃度と尿中のATP分解活性の正常値  制がん剤投与患者の尿中ATP濃度と尿中のATP分解活性

 2.PTH測定法  <塚本雄介>  43

測定法  非腎不全において血中濃度を左右する因子  腎不全における検討

 3.カラードプラ法  <高橋則尋 湯浅繁一 松尾裕英>  47

腎動静脈瘻  移植腎  泌尿器疾患  パワードプラ法  超音波造影剤  問題点  将来への展望

III.腎炎・ネフローゼ

 1.腎炎における血管新生  <岡村幹夫>  54

腎糸球体毛細血管の発生における血管形成と血管新生  腎炎における障害修復過程と血管新生の相同性  血管新生阻害薬療法  腎炎に対する血管新生阻害薬療法

 2.腎糸球体沈着症  <城 謙輔>  60

Korbetらのimmunotactoid glomerulopathy(ITG)の疾患概念  Alpersらのfibrillary glomerulonephritis(FGN)とimmunotactoid glomerulopathy(IT)の疾患概念  Korbetらのthe fibrillary glomerulopathies(FN)の疾患概念  familial lobular glomerulopathyおよびfibronectin-associated glomerulopathyとFGNとの関連  線維性構造物の成因について  今後の指針

 3.IgA腎症における病因抗原  <鈴木 亨 下條文武>  72

IgA腎症の発症機序(仮設)  IgA腎症の実験モデルの病因抗原  IgA腎症の病因抗原について   H. parainfluenzae菌体外膜抗原

 4.糖尿病性腎症におけるサイトカインネットワーク  <栗岡英行 土肥和紘>  78

TGF-β  その他のサイトカインと糖尿病性腎症

IV.間質・尿細管

 1.間質線維化の進展機構  <上田志朗>  85

腎尿細管・間質とは  間質線維化の原因疾患  間質の線維化

 2.有機カチオントランスポーター  <武田理夫 遠藤 仁>  94

生理学的および薬理学的検討により明らかにされた近位尿細管における有機カチオン輸送機構  OCTを介して排泄される内因性物質および薬物  OCT遺伝子ファミリー  OCTの病態生理学的意義

 3.発症進展における接着分子の役割  <四方賢一 槇野博史>  98

白血球浸潤のメカニズムと接着分子  間質への白血球浸潤のメカニズム  免疫グロブリンスーパーファミリー  セレクチン  その他の接着分子

V.腎臓と高血圧

 1.腎血管性高血圧  <金澤雅之 阿部圭志>  108

頻度,原因疾患,分類,病態  診断  治療  予後

 2.高血圧の分子生物学的診断  <神谷 敦 檜垣實男 荻原俊男>  114

遺伝子解析の方法論  遺伝性高血圧症の遺伝子解析  本態性高血圧症の遺伝子解析

 3.透析患者の高血圧  <浦 信行 島本和明>  120

透析患者の昇圧機構  血圧管理の実態と生命予後  降圧目標と薬物療法

VI.腎不全

 1.低蛋白療法の再評価  <前田憲志>  124

低蛋白食の指導・管理の実際  摂取エネルギーの推定

 2.腎不全合併多臓器不全  <副島昭典 長澤俊彦>  128

intensive care unit(ICU)と一般病棟での急性腎不全の患者背景の違い  炎症反応と急性腎不全  endothelin receptor antagonistとその薬理作用  透析膜の種類と急性腎不全例の予後  腎不全合併多臓器不全の治療

 3.腎不全進行と補体  <松尾清一 森田良樹 水野正司>  134

生体における補体成分C3の自然活性化(chick over)と補体制御因子  蛋白尿による尿細管間質障害と補体  補体による尿細管間質障害の機序  尿細管局所における補体成分の産生と腎障害

VII.血液浄化法

 1.在宅血液透析  <斎藤 明>  140

わが国における在宅血液透析の現状  欧米における在宅血液透析  本邦における今後の在宅血液透析

 2.腎性骨異栄養症(ROD)の観血的・非観血的診断法

   <深川雅史 風間順一郎 貴田岡正史>  146

骨病変の観血的診断  骨病変の非観血的診断  観血的・非観血的診断法の腎不全患者における適応と解釈  副甲状腺の画像診断とinterventionの進歩

 3.ヘパリンオステオポローシス  <西山雅彦>  154

妊娠時におけるヘパリンオステオポローシス  ヘパリンが骨代謝に与える影響  サイトカインに対するヘパリンの作用  接着因子とヘパリン  低分子量ヘパリンと通常ヘパリン

 4.次世代人工腎の展望  <金 成泰 山本千惠子>  160

クリアランス(単位時間あたりの除去効率)の改善  治療スケジュールの見直し  生体適合性の改善  透析液水質浄化  CAPDの課題と解決の方向性  次世代人工腎の展望

VIII.移 植

 1.プロトコールバイオプシー  <宮城盛淳 長谷川昭>  167

当教室におけるprotocol biopsyの実際  血流再開後1時間生検  急性拒絶反応  慢性拒絶反応  今後の課題

 2.臓器移植ネットワーク  <大島伸一>  171

臓器移植ネットワークの理念と役割  臓器移植ネットワークの業務  日本臓器移植ネットワークの歴史  日本臓器移植ネットワークの組織と臓器配分  現状の問題点

 3.移植腎における再発性腎症  <山口 裕>  175

再発性巣状糸球体硬化症  膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)の再発  移植後IgA腎症  移植後膜性腎症  全身性疾患による再発性腎症  代謝性遺伝性疾患の再発性腎症

IX.小児科領域

 1.腎尿路異常の診断  <野正貴予 松元 透>  182

カラードプラ法によるVUR診断  RI-VCGによる尿の腎内逆流診断法  3次元CT  MRIの応用  腎尿路系出血部位同定検査  3次元エコー

 2.学校検尿「将来の展望  <村上睦美>  191

生涯検尿  検尿の多項目化

 3.腎疾患を伴う先天性異常症  <和田尚弘 高橋昌里>  194

糖原病  リソソーム病

X.泌尿器科領域

 1.尿路結石の分子生物学  <郡健二郎 藤田圭治 安井孝周>  200

蓚酸カルシウム,燐酸カルシウムにおける分子生物学  シスチン尿症の原因遺伝子とその異常  尿路感染による尿路結石形成  2,8-ジハイドロキシアデニン結石における遺伝子異常  尿路結石の責任遺伝子同定への夢

 2.尿中細胞の観察  <伊藤機一 八木靖二>  207

尿中に出現する細胞  各細胞の出現状況

 3.嚢胞腎の分子生物学  <中村 司 海老原功>  212

etiology  pathogenesis  adverse factors to normal renal function  animal models of progressive polycystic kidney disease

XI.電解質・酸塩基平衡

 1.尿酸トランスポーター  <市田公美 細谷龍男 細山田真>  218

尿酸の生体内意義  尿酸の動態の種差  近位尿細管細胞における尿酸の輸送  腎臓における尿酸の動態  尿酸のトランスポーターのクローニング

 2.炭酸脱水酵素の局在と調節  <鶴岡秀一>  224

CAアイソザイムの局在と発現調節  CAアイソザイムにかかわるその他の話題

 3.肝不全における酸塩基平衡異常  <安藤明利 遠藤真理子>  230

肝障害時の酸塩基平衡異常  呼吸性酸塩基平衡異常  代謝性酸塩基平衡異常

XII.治療法

 1.IgA腎症の治療「ステロイド治療の限界  <小林正貴 室かおり 小山哲夫>  235

IgA腎症におけるステロイド療法の歴史  ステロイド療法のこれまでの報告  ステロイド療法の適応とその限界  今後のステロイド療法trialに望まれる点  現在進行中のステロイド療法におけるprospective controlled trial

 2.糖尿病性腎症とAGE阻害  <柳沢克之 牧田善二>  242

AGEと糖尿病性腎症  糖尿病性慢性合併症とAGE阻害  AGE阻害薬による糖尿病性腎症治療の可能性

 3.ラジカルスカベンジャー,NZ-419の腎作用  <家永和治>  247

慢性腎不全進展抑制物質  発見の経緯とヒトのクレアチニン代謝経路  NZ-419の腎作用

 4.排尿障害の薬物治療「最近の動向  <森田 隆>  252

神経因性膀胱  前立腺肥大症  腹圧性尿失禁  排尿障害治療に使用できる自律神経関連薬

索 引    259