今回も,満足する形で本書をお手元におとどけすることが出来,編集者一同肩の荷をおろした様な気持になっているところである.

 1997年版は初年度版から数えて12冊目になる.人間でいえば小学校教育を了える年齢になったわけで,本書をわが子の様に手がけて来た私達編集者も,次の時代への発展にむけて気持も新たにしているところである.

 本書も漸く,読者の方のお持ちの書籍の中での占める位置が定着して来たものと思っている.本書の使命は,度々お伝えし又読者の方々が感じ取っておいでの様に,この方面の最新の情報,考え方を整理して読者のお手元におとどけすることにある.夥しい情報の中から項目を取捨選択し,本書の目的に最も適した方々に執筆をお願いしており,この点も読者の方々に御満足頂いているものと思っている.私達編集者は,必要な情報をIndex Medicusや医学中央雑誌を1頁1頁,時間をかけてめくり勉強をした世代であるが,この様にすると,自分が目的とした研究成果と同時にこの研究の周辺の研究,或いは偶々目にとまった全く無関係の研究成果にしばしば心を奪われ,これが又研究や心の糧になったものである.現代はコンピューターネットワークによって自分の目的とする情報だけが瞬く間に,夥しい数得られるわけであるが,これらの中から正しい情報を探し出すのに精一杯で,関連した情報に興味を示すゆとり等はないのが実情であろう.この様な情報の土石流にあえなく埋ってしまわないために私達がお手伝いさせて頂いているのが本書である.数多くの情報の中から今日的あるいはこれから光が当るであろう問題を拾い出し,この問題の解説に最も相応しい方に執筆をお願いしているのである.読者の方々は1997年版は勿論,初年度版からの11冊の中から必要な項目を見つけ出せば,必要な知識は勿論,関連した話題をも読むことが出来る.本書はこの様にさっと通読して頂くと同時に辞書の様にも使って頂けば極めて有用であることに気づかれるものと思う.本書の項目の中には同様のものが重複して出て来るものもあるが,これは年を経ても重要性に変化が無いか,又は考え方の視点が変って来ているものと理解して頂ければ良い.

 本書の様な性格の書籍は,1にも2にも執筆者によってその質が決まるものである.今迄にお願いした執筆者には勿論,1997年版の執筆をして下さった方々に心より御礼申し上げたい.本書も1997年版で12歳に成長したのをきっかけに,今後共読者の方々のために充実した内容のものをおとどけすべく,編集者一同一層の努力を重ねるつもりである.

                        1996年12月

                              編集者一同

杉本恒明  松本昭彦  杉下靖郎  門間和夫 編集

著者

日和田邦男 竹村元三  藤原久義  宮園浩平  宮内 卓  

杉下靖郎  後藤勝年  楽木宏実  荻原俊男  平田恭信  

吉田和代  宇都宮俊徳 松尾修三  嶽山陽一  植田竜仁  

萬屋 穣  相羽英彦  大滝英二  住吉徹哉  竹村 芳  

松沢佑次  関 顕   松森 昭  木原康樹  篠山重威  

横田充弘  野田明子  大宮一人  伊東春樹  小川 聡  

新 博次  比江嶋一昌 高橋長裕  松本万夫  山田裕一  

松尾博司  今井 潤  西山昭光  松岡博昭  高尾篤良  

森島正恵  松岡瑠美子 門間和夫  瀬口正史  佐地 勉  

長嶋正實  小川俊一  中西敏雄  井埜利博  里見元義  

赤木禎治  加藤裕久  横田通夫  小坂井嘉夫 岡田昌義  

林 一郎  細田泰之  松田 暉  野村文一  中島伸之  

尾本良三  井元清隆  近藤治郎  松本昭彦  江里健輔  

善甫宣哉  土田博光  石丸 新

目 次

I.内科領域

1.アンジオテンシン変換酵素の分子生物学 〈日和田邦男〉  1

ACEの分子構造  ACEの2つの活性中心の機能  ACE遺伝子の構造  ACEの発現調節  ACE遺伝子のノックアウト  ACE遺伝子多型と疾患

2.心筋細胞とアポトーシス 〈竹村元三 藤原久義〉  9

アポトーシス  心臓とアポトーシス  問題点と今後の課題

3.TGFβ(transforming growth factor-β) 〈宮園浩平〉  14

はじめに  血管内皮細胞のTGFβレセプター  TGFβの活性化と動脈硬化の関わり

4.エンドセリン受容体拮抗薬 〈宮内 卓 杉下靖郎 後藤勝年〉  18

ペプチド性ET受容体拮抗薬  非ペプチド性ET受容体拮抗薬  各種病態におけるET受容体拮抗薬の効果

5.アンジオテンシンII受容体拮抗薬 〈楽木宏実 荻原俊男〉  26

Ang II受容体の分類  AT1受容体拮抗薬の開発と分類  AT2受容体拮抗薬の開発  AT1受容体拮抗薬の降圧作用  AT1受容体拮抗薬の臓器保護作用  AT1受容体拮抗薬の代謝への影響

6.NO-その後- 〈平田恭信〉  32

心不全とNO  NO吸入療法  呼気中NO濃度の測定  NOS遺伝子の変異

7.精神ストレス負荷法 〈吉田和代 宇都宮俊徳 松尾修三〉  39

精神ストレス負荷法  精神ストレスの応用に関する話題

8.心筋梗塞急性期のintervention治療 〈嶽山陽一 植田竜仁 萬屋 穣 相羽英彦〉  44

CTにおける最近の進歩  AMI急性期におけるPTCA  AMIに対するstent治療  Intervention治療における今後の課題

9.ステント 〈大滝英二 住吉徹哉〉  53

歴史  一次再狭窄予防効果  二次再狭窄予防効果  ステント留置術の進歩  ステントの適応拡大  ステントの問題点  将来の展望

10.大規模介入試験-コレステロールの管理 〈竹村 芳 松沢佑次〉  62

一次予防の成績  二次予防の成績

11.血中脂質改善と冠動脈硬化退縮 〈関 顕〉  66

研究方法  研究成績の概略  血中脂質改善法と退縮効果  対象と退縮効果  観察期間と退縮効果  冠動脈狭窄度と退縮効果  血中脂質値と退縮効果

12.心不全と免疫機能 〈松森 昭〉  72

心不全,心筋疾患とサイトカイン  サイトカインと心機能  心不全,心筋症モデルにおけるサイトカイン  心不全の治療とサイトカイン  心肥大とサイトカイン  心不全におけるサイトカインとNO  心筋障害の病因とサイトカイン  心筋障害の予防,治療とサイトカイン

13.カルシウムセンシタイザーの臨床 〈木原康樹 篠山重威〉  78

細胞内Ca2+と心筋収縮  従来の強心薬とCa2+センシタイザー  Ca2+センシタイザーの種類と薬理作用  Ca2+センシタイザーの臨床評価

14.sleep apnea syndromeにおける循環動態 〈横田充弘 野田明子〉  83

無呼吸に伴う心拍および血圧変動  不整脈  高血圧症  心肥大  肺高血圧症  自律神経活動  虚血性心疾患,心不全  脳血管障害

15.筋力トレーニング 〈大宮一人 伊東春樹〉  90

冠動脈疾患患者における筋力トレーニング  MI回復期リハビリテーションにおける筋力トレーニング  方法と運動強度  患者の選択と禁忌  うっ血性心不全(CHF)患者の運動耐容能と骨格筋の関係  CHF治療としての筋力トレーニング  呼吸筋力のトレーニング

16.Sicilian Gambit 〈小川 聡〉  96

「Sicilian Gambit」の名称の由来  「Sicilian Gambit」発足の背景  Sicilian Gambitによる抗不整脈薬の新しい分類枠組み  Sicilian Gambitの概念による薬剤の選定

17.心房細動と塞栓症 〈新 博次〉  101

最近の大規模試験の成績  心房細動の塞栓症予防のためのガイドライン  塞栓症のリスクと予測因子  経食道心エコー図法(TEE)の有用性  除細動時の抗凝固療法  塞栓症防止に関する現在進行中の臨床試験

18.抗不整脈薬併用療法 〈比江嶋一昌〉  108

本邦における抗不整脈薬併用療法  抗不整脈薬併用療法のガイドライン  最近の併用療法例

19.成人先天性心疾患 〈高橋長裕〉  114

心房中隔欠損(ASD)  Fontan手術術後  先天性心疾患患者の妊娠・出産  成人先天性心疾患の外来フォロー

20.閉塞性肥大型心筋症のペースメーカー療法 〈松本万夫 山田裕一 松尾博司〉  120

左室流出路の閉塞のメカニズム  ペーシング療法の左室流出路圧較差軽減のメカニズム  心房心室の同期性の重要性  心室ペーシング部位の重要性  ペースメーカー植え込み後の長期経過  拡張能に対する効果  ペーシング療法の適応  薬剤の併用

21.家庭血圧の臨床的意義 〈今井 潤 西山昭光〉  126

家庭血圧の臨床的意義

22.高血圧とCa拮抗薬 〈松岡博昭〉  133

Ca拮抗薬の作用の特徴  Ca拮抗薬の利点  Ca拮抗薬の副作用  Ca拮抗薬に関する最近の話題

II.小児科領域

1.内臓逆位,錯位心の発生機序 〈高尾篤良 森島正恵〉  137

Xenopus  ヒト  Mouse  発生(胎生)早期左右非対称形成機序  内臓心房位異常モデル動物

2.QT延長症候群の分子遺伝学 〈松岡瑠美子〉  142

QT延長と先天性QT延長症候群  QT延長症候群の分子遺伝学  QT延長症候群の臨床像  日本人QT延長症候群における遺伝子解析

3.CATCH22の心奇形 〈門間和夫〉  147

先天性心疾患  CATCH22のFallot四徴症  CATCH22のFallot四徴症極型  総動脈幹症  B型大動脈弓離断症  心室中隔欠損  心内奇形のない大動脈弓奇形

4.双胎間輸血症候群の心合併症 〈瀬口正史〉  151

TTTSの病因  TTTSによる心不全  TTTSに合併する肺動脈狭窄

5.肺高血圧と肺血管作動物質 〈佐地 勉〉  156

内皮由来血管拡張因子(EDRF)  その他のPHにおける研究成果  PHにおける血管作動物質と治療への応用  遺伝子工学によるPH治療への導入

6.小児不整脈の長期予後 〈長嶋正實〉  162

先天性完全房室ブロック(CCAVB)  心室不整脈  WPW症候群(早期興奮症候群)  心房異所性頻拍(atrial ectopic tachy-cardia, AET)  QT延長

7.川崎病の心筋虚血の評価法 〈小川俊一〉  167

心筋シンチグラフィーを用いた方法  電気生理学を用いた方法  負荷心エコーを用いた方法

8.Blalock-Taussig短絡血管や動脈管に対する経皮的バルーン拡大術 〈中西敏雄〉  173

バルーン拡大術の意義  狭窄の機序,バルーン拡大術による狭窄解除の機序  PTAの手技  PTA成功,不成功-我々の経験-  合併症

9.純型肺動脈閉鎖のカテーテル穿孔・拡大術 〈井埜利博〉  176

純型肺動脈閉鎖症の解剖学的特徴と外科治療戦略との関係  バルーン肺動脈弁穿孔,拡大術の方法  現在までの閉鎖肺動脈弁穿孔,拡大術の成績と今後の展望

10.新生児の大動脈弁狭窄のバルーン拡大術 〈里見元義〉  180

診断  適応と管理  critical ASに対するバルーン拡大術の歴史  バルーン拡大術の成績  外科的治療とバルーン拡大術との比較

11.大動脈弁狭窄症のバルーン拡大後の成績 〈赤木禎治 加藤裕久〉  185

小児科領域における適応  バルーン拡大術後の長期予後  バルーン拡大術と外科治療の比較

III.心,血管外科領域

1.左心低形成症候群のstaged operationの成績 〈横田通夫〉  189

第一期手術(Norwood手術)  第二期手術(hemi-Fontan手術,bidirectional Glenn shunt)  Fontan手術  心臓移植  左心低形成症候群に対する手術後の遠隔成績

2.maze手術-その後の進歩 〈小坂井嘉夫〉  198

maze手術の原理についての最近の考え方  手術手技の改良

3.レーザーによる心筋内血管再生術 〈岡田昌義〉  203

心筋内血管再生術  心筋内血管再生術の手技  心筋内血管再生術後の組織学的所見  臨床への応用  世界における心筋内血管再生術の臨床応用とその成績  考察ならびに結語

4.冠状動脈バイパス術のグラフトの選択 〈林 一郎 細田泰之〉  210

動静脈グラフトの特性  各動脈グラフトの特性

5.肥大型心筋症の中隔切除術 〈松田 暉 野村文一〉  216

外科的治療の歴史的背景  中隔切除術(Morrow手術)  僧帽弁に対する手術  手術適応  中隔切除の遠隔成績  僧帽弁修復術の成績  手術手技に関する最近の報告  小児における成績  ペーシング治療

6.肺塞栓症の外科治療 〈中島伸之〉  222

急性肺塞栓症に対する外科治療  慢性肺血栓塞栓症に対する外科治療

7.急性大動脈解離治療における経食道超音波エコーの役割 〈尾本良三〉  228

急性大動脈解離におけるTEEの役割と他の画像診断法との関係  急性大動脈解離の早期血栓閉鎖型(または閉塞型)とTEEの役割  B型急性大動脈解離においてどのような場合に手術治療が選択されるか  TEEの3次元再構築は急性大動脈解離の治療で有用か

8.Stanford A型急性大動脈解離の外科治療:最近の進歩

               〈井元清隆 近藤治郎 松本昭彦〉  235

はじめに  術前,術中検査  手術手技の進歩

9.下肢動脈血行再建再手術成績 〈江里健輔 善甫宣哉〉  242

大腿-末梢動脈バイパス術の成績  グラフト不全の原因  再手術の適応  再手術のタイミング  再手術術式  再手術の成績  術後サーベイランス

10.急性深部静脈血栓症の外科治療 〈土田博光 石丸 新〉  251

治療法の選択  薬物療法  手術治療  肺塞栓症とその予防

索 引   256

Annual Review 循環器 1996 目次   261

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