序
Annual Review血液学も14年目を迎え,2000年版としてAnnual Review 2000を出版する事になった.
1999年版から新しい編集陣によるAnnual Review血液学の刊行がおこなわれるようになった.編集委員の方々の御尽力によって,2000年版も従来のAnnual Review血液学と同様に新しい興味あるテーマが数多くとりあげられ,研究や臨床の第一線にある専門の方々に執筆していただく事が出来た.2000年版では執筆陣に初めて加わっていただく方々が多いが,癌抑制遺伝子ARFと白血病,生下時の小児白血病,サルを用いた遺伝子治療モデル,TTPの病態など従来の版と同様に新しいテーマが数多く紹介されており,Annual Review血液学は21世紀を迎えようとしているわが国の血液学の研究者の実力を示しているといえよう.
わが国には従来Annual Reviewの様なReview誌がなかった.その意味でこのシリーズが始まった事は画期的なことであり,そのためもあって創刊以来好評で毎年多くの方々に読んでいただいてきた.おかげさまで本年も従来と同じ様によいタイミングで2000年版を出版する事が出来た.2000年版の完成に御協力下さった各執筆者の先生方にこの場をかりて心から御礼を申し上げたい.
本年版の内容も血液学の新しい進展を紹介する充実した内容のものとなっており,読者の方々からの御期待に充分答え得たと信じている.監修者として,今までの版と同様にこの2000年版が血液学に興味を持つ多くの方々に愛読していただける事を強く期待している.Annual Review血液学が世界の血液学の流れを示すReview誌となる事を期待して中外医学社からの刊行に協力させていただく様になってから14年もたった.あらためて今迄の編集委員の方々,執筆者の方々に感謝の言葉を捧げる次第である.
1999年12月
高久史麿
高久史磨 溝口秀昭 小宮山淳 坂田洋一 金倉 譲 編集
著者
須田年生 赤司浩一 前川 平 石井武文 安藤 潔
金丸幸代 河野嘉文 峯岸直子 山本雅之 松村 到
金倉 譲 浦部晶夫 寺村正尚 矢部みはる 上條岳彦
小池健一 中沢洋三 小宮山淳 水谷修紀 岡村 孝
徳永康信 仁保喜之 花園 豊 岩部弘治 溝口秀昭
町田詩子 東條有伸 大野竜三 小寺良尚 渡邊 大
塚田 聡 伯耆原祥 上松一永 待井隆志 山口充洋
小椋美知則 飛内賢正 三輪哲義 矢冨 裕 尾崎由基男
末廣 謙 窓岩清治 坂田洋一 冨山佳昭 宮田敏行
岡嶋研二 丸山征郎 渡辺清明 嶋 緑倫 岡 章
目 次
I.造血幹細胞
1.造血発生と血管新生 <須田年生> 1
造血および血管新生におけるTIE2/アンジオポエチンの作用 Ephs 造血細胞・血管内皮細胞の両方に発現される分子 造血細胞と血管内皮細胞の共通祖先細胞としてのヘマンジオブラスト
2.造血幹細胞からのリンパ球分化 <赤司浩一> 8
自己再生能からみた造血幹細胞の分類 造血前駆細胞研究の進歩 造血幹細胞からリンパ球系共通前駆細胞への分化 リンパ球分化の対極としての骨髄系細胞への分化 分化決定における転写因子の役割 コミットメントモデルの現況
3.ケモカインによる造血の制御 <前川 平 石井武文> 21
ケモカインSDF-1/PBSFとそのレセプターCXCR4の同定
遺伝子欠損マウスの表現型 造血細胞に発現するCXR4の意義
4.臍帯血幹細胞の増幅と遺伝子導入 <安藤 潔> 31
臍帯血幹細胞の特徴 臍帯血前駆細胞・幹細胞の増幅
臍帯血幹細胞への遺伝子導入
5.純化CD34陽性細胞移植の現状 <金丸幸代 河野嘉文> 39
末梢血CD34陽性細胞の動員・採取と純化 純化末梢血CD34
陽性細胞移植術 純化の対象はCD34陽性細胞でよいか?
新しい展開
II.赤血球系
1.赤血球産生と転写因子 <峯岸直子 山本雅之> 47
LCRの発見 クロマチン構造と転写 遺伝子の境界構造 LCRによる転写活性化のメカニズム 発生に伴う遺伝子発現制御は何が決めているか? 転写制御領域の新しい研究法 遺伝子発現制御領域の種を越えた保存性
2.Diamond-Blackfan症候群の遺伝子異常 <松村 到 金倉 譲> 58
DBAの病態解析 DBAの遺伝子異常 今後の展望
3.ATG不応の再生不良性貧血の治療 <浦部晶夫> 64
重症度による治療方法の選択 ATG,シクロスポリン,G-CSF三者併用療法 高齢者に対する免疫抑制療法 中等症に対する免疫抑制療法の選択 ATGの再投与 ATG不応例の対策
4.骨髄異形成症候群(不応性貧血)の免疫抑制療法 <寺村正尚> 70
CyA療法 ATG/ALG療法 メチルプレドニゾロン大量療法 シクロホスファミド大量療法
5.Fanconi貧血の造血幹細胞移植療法 <矢部みはる> 76
Fanconi貧血の診断 ドナーの選択と移植時期の決定 HLA 一致同胞間移植 alternative donorよりの造血幹細胞移植 白血化FAの造血幹細胞移植 移植後の二次性発癌
III.白血球系
1.癌抑制遺伝子ARFと白血病 <上條岳彦 小池健一 中沢洋三 小宮山淳> 84
9p21部位の遺伝子変異と血液系悪性腫瘍 ARFのクローニング ノックアウトマウスによる解析 ARFの腫瘍抑制のメカニズム 今後の展望
2.小児白血病は生下時に存在する <水谷修紀> 94
小児白血病は胎児期に始まる 小児白血病起源の研究から 原因究明の研究へ
3.原発性骨髄線維症の病態と予後 <岡村 孝 徳永康信 仁保喜之> 103
骨髄線維症の病因病態 原発性慢性骨髄線維症の臨床病態および予後 原発性慢性骨髄線維症の治療
4.サルを用いた遺伝子治療モデル <花園 豊> 112
サルを用いた遺伝子治療研究 造血幹細胞遺伝子治療とは? なぜサルの実験が必要か?─造血幹細胞遺伝子導入効率の種差 造血幹細胞遺伝子治療のモデル実験 ヒト造血幹細胞の遺伝子導入効率の改善のために 今後の展開
5.Biphenotypic acute leukemiaの診断と治療 <岩部弘治 溝口秀昭> 122
biphenotypic acute leukemia(BAL)とは BALおよび関連疾患の頻度と臨床的な特徴 BALの染色体異常と遺伝子異常 BALおよび関連疾患の治療
6.白血病および悪性リンパ腫の免疫療法─mini-transplantの意義
<町田詩子 東條有伸> 130
mini-transplant─発想の始点 mini-BMT─実際のステップ 動物実験モデル 各施設におけるregimenとその成績
7.急性前骨髄球性白血病の亜砒酸治療 <大野竜三> 137
中国における砒素化合物による急性前骨髄球性白血病の治療 日本における亜砒酸治療の試み 米国での亜砒酸治療 浜松医大における急性前骨髄球性白血病の亜砒酸治療 亜砒酸の作用機序 亜砒酸治療の毒性
8.HLAのDNAタイピングによる骨髄移植成績の改善 <小寺良尚> 142
解析対象 方法 DNAタイピングの結果 grade III,IVの 急性GVHD発症頻度に及ぼす影響 生存率に及ぼす影響 再発に及ぼす影響 海外の成績との乖離について
IV.リンパ球系
1.BtkとB細胞分化 <渡邊 大 塚田 聡> 148
Btkの機能とXLAにおける変異 B細胞抗原受容体のシグナル 伝達 B細胞分化におけるBtkの役割
2.X連鎖リンパ増殖性症候群(Duncan病)とSLAM/SAP <伯耆原祥 上松一永> 155
X連鎖リンパ増殖性症候群 signaling lymphocytic activation molecule(SLAM)
3.多クローン性B細胞増多症 <待井隆志 山口充洋> 165
慢性多クローン性B細胞増多症 B細胞増多症の病因
4.リンパ系腫瘍におけるMRD検索の進歩 <小椋美知則> 172
急性リンパ性白血病(ALL) 非Hodgkinリンパ腫 骨髄腫
5.抗CD20抗体によるB細胞リンパ腫の治療 <飛内賢正> 179
mAb療法の原理と治療研究の変遷 マウス/ヒトキメラ抗体の利点 米国におけるマウス/ヒトキメラ型抗CD20抗体(rituximab,IDEC-C2B8)の臨床開発 我が国におけるrituximab(IDEC-C2B8)の臨床開発 キメラ化抗CD20抗体(rituximab)の将来性
6.多発性骨髄腫に対する末梢血造血幹細胞移植を用いた治療法 <三輪哲義> 186
末梢血幹細胞移植と化学療法との比較 自家末梢血幹細胞移植に向けての末梢血幹細胞採取 多発性骨髄腫に対する通常の自家末梢血幹細胞移植の治療成績 多発性骨髄腫に対する通常の自家末梢血幹細胞移植後の再発 パージング処理自家末梢血幹細胞移植 その他の自家末梢血幹細胞移植後再発予防対策 自家末梢血幹細胞移植のその他の諸問題 自家末梢血幹細胞移植の予後因子 多発性骨髄腫に対する同種末梢血幹細胞移植 末梢血幹細胞移植時の微小残存病変 現状での総括と今後の課題
V.血小板
1.リゾリン脂質と血小板 <矢冨 裕 尾崎由基男> 204
LPA Sph-1-P リゾリン脂質受容体としてのEdgファミリー
2.骨髄移植後の血栓性細血管障害: 成因と治療の最近の進歩 <末廣 謙> 211
BMT-TMAの成因 BMT-TMAの診断・病態の把握 BMT-TMAの治療
3.明らかになった血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)の病態
─von Willebrand因子cleaving proteaseの役割 <窓岩清治 坂田洋一> 218
von Willebrand factorの構造と機能 TTPの発症機序
4.血小板無力症─インテグリンαIIbβ3異常症 <冨山佳昭> 223
インテグリンの構造 血小板無力症の分子異常 実験的血小板無力症の作製 今後の展望
VI.凝固
1.血栓症と遺伝子多型 <宮田敏行> 231
フィブリノーゲンβ鎖 凝固第VII因子 プラスミノーゲン活性化因子阻害因子-1(PAI-1) 血小板糖蛋白質IIIa プラスミノーゲン メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素(MTHFR)
2.可溶性フィブリンモノマーと血栓準備状態 <岡嶋研二> 240
これまでに開発された可溶性フィブリンの測定法とその臨床応用 これまでの可溶性フィブリン測定における問題点 今後の課題
3.凝固線溶系とSIRS(systemic inflammatory response syndrome) <丸山征郎> 246
SIRSとはどのような病態か?─その概念と整理 SIRSとMOF,その他の病態との関連 SIRSの発症機構と病態生理 凝固線溶系とSIRS
4.止血血栓領域における診断と検査の進歩 <渡辺清明> 252
血小板関連検査 凝固線溶関連検査
5.血友病インヒビター症例の治療─最近の考え方 <嶋 緑倫 岡 章> 259
インヒビターの疫学に関する研究成果 最近のインヒビター治療の話題 インヒビター治療における最近のトピックス 遺伝子治療とインヒビター
索 引 266