序
Annual Review血液学も15年目を迎え,2001年版としてAnnual Review 2001を出版する事になった.
1999年版から新しい編集陣によるAnnual Review血液学の刊行がおこなわれるようになった.編集委員の方々の御尽力によって,2001年版では新しい世紀を迎える血液学のAnnual Reviewにふさわしい新しい興味あるテーマが数多くとりあげられ,その内容を研究や臨床の第一線にある専門の方々に解説していただく事ができた.2001年版では執筆陣に初めて加わっていただく方々が多いが,造血幹細胞の由来,Fanconi貧血の分子病態,DNAチップによる白血病・類縁疾患の分析,二次顆粒球減少症とC/EBPε遺伝子,サリドマイドによる多発性骨髄腫の治療,虚血性臓器障害の遺伝子治療など,従来の版と同様に新しいテーマが数多く紹介されている.Annual Review血液学はまさしくわが国に最新の血液学の情報を提供する最有力な手段であるといえよう.
わが国には従来Annual ReviewのようなReview誌がなかった.その意味でこのシリーズが始まった事は画期的なことであり,そのためもあって創刊以来好評で毎年多くの方々に読んでいただいてきた.おかげさまで本年も従来と同じように,よいタイミングで2001年版を出版する事ができた.2001年版の完成に御協力下さった各執筆者の先生方にこの場をかりて心から御礼申し上げたい.
本年版の内容も例年の版と同様,血液学の新しい進展を紹介する充実した内容のものとなっており,読者の方々からの御期待に充分答え得たと信じている.監修者として,いままでの版と同様にこの2001年版が血液学に興味をもつ多くの方々に愛読していただける事を強く期待している.Annual Review血液学が世界の血液学の流れを示すReview誌となる事を期待して中外医学社からの刊行に協力させていただくようになってから15年もたった.あらためて今までの編集委員の方々,執筆者の方々に感謝の言葉を捧げる次第である.
2000年12月
高久史麿
[編集者]
高久史磨 溝口秀昭 小宮山 淳 坂田洋一 金倉 譲
[著者]
澤田賢一 仲野 徹 寺村正尚 池原 進 原田実根
小澤敬也 中尾眞二 大月哲也 高後 裕 鳥本悦宏
藤本佳範 小島勢二 間野博行 直江知樹 塩原正明
小宮山淳 北林一生 高橋強志 平井久丸 大野竜三
真木一茂 烏山 一 稲葉俊哉 犬飼岳史 谷内江昭宏
瀬戸加大 森 直樹 西本憲弘 中原瑛子 吉崎和幸
半田 誠 西川政勝 円城寺慶一 宮田茂樹 中川和憲
居石克夫 山角健介 上之園芳一 山本晃士 中川 克
辻 肇 佐藤靖史 石井秀美
目 次
I.造血幹細胞
1.造血幹細胞のホーミングのメカニズム <澤田賢一> 1
造血幹細胞のhomingに関与する接着分子群 造血幹細胞のhomingのメカニズム
造血幹細胞の動員と接着分子 homing分子と病態
2.神経・骨格筋の細胞から血液細胞への『分化』
--幹細胞は分化転換するか?-- <仲野 徹> 14
細胞分化情報のリセット 神経幹細胞から血液細胞への分化
骨格筋サテライト細胞から血液細胞への分化 幹細胞は分化転換するのか?
3.造血幹細胞に由来する肝細胞 <寺村正尚> 21
ラットにおける検討 マウスにおける検討 ヒトにおける検討
4.自己免疫疾患の造血幹細胞移植による治療 <池原 進> 26
モデル動物を用いた自己免疫疾患の治療 BMTによるヒト自己免疫疾患の治療
5.末梢血幹細胞移植の得失 <原田実根> 32
PBSCの動員・採取 自己PBSCT 同種PBSCT
6.造血幹細胞を用いた遺伝子治療の進歩 <小澤敬也> 43
X-SCIDに対する造血幹細胞遺伝子治療
造血幹細胞遺伝子治療のためのテクノロジーの開発
霊長類のサルを用いた遺伝子治療前臨床研究
II.赤血球系
1.再生不良性貧血および不応性貧血におけるPNHクローンの意義 <中尾眞二> 49
健常者におけるPNH顆粒球の存在 再生不良性貧血におけるPNH顆粒球
PNH顆粒球増加のメカニズム MDSにおけるPNH顆粒球の増加
PNH顆粒球を検出することの臨床的意義
2.Fanconi貧血の分子病態 <大月哲也> 56
Fanconi貧血における細胞レベルでの異常 Fanconi貧血遺伝子のクローニング
FANCCノックアウトマウスの病態 Fanconi貧血遺伝子産物の機能
Fanconi貧血C群患者の遺伝子治療の現状
3.鉄代謝とその異常の分子機構 <高後 裕 鳥本悦宏 藤本佳範> 63
トランスフェリン,トランスフェリン受容体 Iron regulatory protein(IRP)/aconitase
HFE L-およびH-フェリチン 細胞膜の鉄イオントランスポーター
赤芽球における細胞内鉄代謝
4.小児再生不良性貧血の治療と長期予後 <小島勢二> 72
小児再生不良性貧血に対する免疫抑制療法 小児再生不良性貧血の長期予後
III.白血球系
1.DNAチップによる白血病および類縁疾患の分析 <間野博行> 78
DNAチップ・DNAアレイとは DNAチップを用いた造血器悪性腫瘍の新たな診断法
これからのDNAチップ解析
2.白血病の素因研究: “Nature,Nurture,or Both?” <直江知樹> 85
白血病の素因はあるか? 乳児白血病における環境因子と白血病素因
ベンゼン中毒による血液腫瘍の場合 治療関連二次性白血病の場合
de novo白血病ではどうか?
3.好中球二次顆粒欠損症とC/EBPε遺伝子 <塩原正明 小宮山淳> 91
好中球二次顆粒欠損症の病態生理 C/EBPεとその異常
好中球二次顆粒欠損症とC/EBPε
4.白血病における染色体転座とヒストンアセチル化の制御 <北林一生> 100
ヒストンのアセチル化と転写制御
AML1-MTG8(ETO)融合蛋白質の作用における脱アセチル化酵素の関与
急性前骨髄球性白血病(APL)におけるヒストン脱アセチル化酵素の関与
白血病で生じる融合ヒストンアセチル化酵素
5.造血器腫瘍のワクチン療法 <高橋強志 平井久丸> 109
同種免疫療法 細胞療法
6.BCR/ABLチロシンキナーゼ阻害薬STI 571による慢性骨髄性白血病の治療 <大野竜三> 114
慢性骨髄性白血病の治療の現況 BCR/ABLとチロシンキナーゼ
チロシンキナーゼ阻害薬STI 571
STI 571の慢性期の慢性骨髄性白血病を対象にした臨床第一相研究
STI 571の急性転化期の慢性骨髄性白血病ならびにPh染色体陽性急性リンパ性白血病を対象にした臨床第一相研究
STI 571の有害反応 STI 571療法の今後の課題
レチノイン酸による分化誘導療法とSTI 571の共通点 STI 571が教えているもの
IV.リンパ球系
1.B細胞の初期分化と転写因子 <真木一茂 烏山 一> 121
造血幹細胞からリンパ球系細胞への分化制御 FB細胞分化の分子機構
2.E2Aとリンパ性白血病 <稲葉俊哉 犬飼岳史> 130
E2Aの正常リンパ球における機能 T細胞白血病との関連
E2AキメラとB前駆細胞白血病
3.Omenn症候群におけるRAG遺伝子異常 <谷内江昭宏> 136
RAGの構造と機能 RAG遺伝子異常による免疫不全症
B-SCIDならびにOmenn症候群における免疫異常
Omenn症候群と類似した症状を示す免疫不全症
4.MALTリンパ腫の病態 <瀬戸加大> 144
MALTリンパ腫の免疫病理学的特徴
MALTリンパ腫の染色体異常と転座関連遺伝子の単離 これからの問題点
5.サリドマイドの復活--難治性多発性骨髄腫などの治療-- <森 直樹> 152
多発性骨髄腫 その他の血液疾患 GVHD その他の疾患
6.ヒト型化抗IL-6レセプター抗体によるCastleman病の治療 <西本憲弘 中原瑛子 吉崎和幸> 158
Castleman病とIL-6異常産生 IL-6阻害によるCastleman病の治療
V.血小板
1.Bernard-Soulier症候群とGP Ib/IX複合体の解析: 最近の進歩 <半田 誠> 165
GP Ibβ異常とBSS BSSのマウスモデル GP Ib/IX複合体の新規リガンド
シグナル分子としてのGP Ib/IX複合体の働き
2.Thrombospondinと血管新生 <西川政勝> 172
Thrombospondinの分子構造と機能domain TSP-1とTSP-2のノックアウトマウス
粘着蛋白としてのTSP-1 ヒト腫瘍組織におけるTSP-1の局在とその受容体
血管新生(angiogenesis)とTSP-1
3.ecto-ATPDase/CD39欠損と止血・凝固制御異常 <円城寺慶一> 179
歴史 血小板凝集とプリン受容体 ecto-ATPDase/CD39の構造と機能
血栓止血機構とecto-ATPDase/CD39の関係 抗血小板薬としてのADP分解酵素
4.先天性凝集能異常血小板の血流存在下における動態 <宮田茂樹> 189
血流存在下における血小板機能
各種先天性凝集異常血小板の血流存在下における動態
流動状況下における血小板血栓形成過程
VI.凝固・線溶系
1.組織因子(TF)およびそのインヒビタTFPIの血管構築に果たす役割 <中川和憲 居石克夫> 208
血管形成におけるTFおよびTFPIの役割 VIIa/TFによるシグナル伝達機構
障害修復反応による血管の再構築でのTFおよびTFPIの役割
2.異常フィブリノゲンと血栓症 <山角健介 上之園芳一> 216
正常Fbgの構造と機能 Fbgの分子異常
3.肥満と血栓症−線溶系とのかかわり <山本晃士> 223
線溶系におけるPAI-1の役割--血栓症への関与-- ヒト肥満者におけるPAI-1の発現
脂肪組織(脂肪細胞)におけるPAI-1,TFの発現変化とその意義
肥満マウスにおけるPAI-1,TFおよびTGF-βの発現とその意義
肥満マウスにおけるPAI-1発現とTNF-αの関与
4.静脈血栓症のリスクファクター <中川 克 辻 肇> 231
先天的危険因子 後天的危険因子
5.VEGFおよびangiopoietinの遺伝子導入による虚血性臓器障害の治療 <佐藤靖史> 241
血管新生の調節因子 血管新生と動脈形成 遺伝子治療による血管新生療法
「アンジオポエチンはよい血管を作る」
6.トロンボモジュリン--臨床的意義 <石井秀美> 247
トロンボモジュリン(TM)の機能 血漿可溶性TMの臨床検査意義
索 引 257