序
Annual Review血液学も16年目を迎え,2002年版としてAnnual Review 2002を出版する事になった.
1999年版から新しい編集陣によるAnnual Review血液学の刊行がおこなわれるようになった.編集委員の方々の御尽力によって,2002年版でも血液学のAnnual Reviewにふさわしい新しい興味あるテーマが数多くとりあげられ,その内容を研究や臨床の第一線にある専門の方々に解説していただく事ができた.2002年版でも従来の版と同様に新しい方々が執筆に加わっていただいた.またテーマとしても造血幹細胞の不死化とNotch遺伝子,マストセルの分化調節,樹状細胞の分化,のような基礎的な問題から,臍帯血移植,発作性夜間血色素尿症の日米比較,DNAチップによる悪性リンパ腫の解析,ヒストンアセチル化阻害薬,ピロリ菌感染症と特発性血小板減少症など,臨床と関係の深い問題まで幅広いテーマが数多く紹介されている.Annual Review血液学はまさしくわが国に最新の血液学の情報を提供する最有力な手段であるといえよう.
わが国には従来Annual ReviewのようなReview誌がなかった.その意味でこのシリーズが始まった事は画期的なことであり,そのためもあって創刊以来好評で毎年多くの方々に読んでいただいてきた.おかげさまで本年も従来と同じように,よいタイミングで2002年版を出版する事ができた.2002年版の完成に御協力下さった各執筆者の先生方にこの場をかりて心から御礼申し上げたい.
本年版の内容も例年の版と同様,血液学の新しい進展を紹介する充実した内容のものとなっており,読者の方々からの御期待に充分答え得たと信じている.監修者として,いままでの版と同様にこの2002年版が血液学に興味をもつ多くの方々に愛読していただける事を強く期待している.Annual Review血液学が世界の血液学の流れを示すReview誌となる事を期待して中外医学社からの刊行に協力させていただくようになってから16年もたった.あらためて今までの編集委員の方々,執筆者の方々に感謝の言葉を捧げる次第である.
2001年12月
高久史麿
[編集者]
高久史麿 溝口秀昭 小宮山 淳 坂田洋一 金倉 譲
[著者]
下村泰三 須田年生 平松英文 中畑龍俊 須藤和寛
中内啓光 千葉 滋 加藤剛二 大月哲也 小澤敬也
西村純一 金倉 譲 中条達也 中尾眞二 中島 修
山本雅之 新谷泰成 峯石 真 北村幸彦 実宝智子
森井英一 朝長万左男 唐渡雅行 大屋敷一馬 岡村 孝
仁保喜之 門脇則光 間野博行 飛内賢正 加藤俊一
石井直人 宮川義隆 池田康夫 国島伸治 齋藤英彦
寺村正尚 矢冨 裕 高橋芳右 木谷照夫 黒澤晋一郎
石黒和博 小嶋哲人 三室 淳 新井盛夫 宮田敏行
朝倉英策 御舘靖雄 水谷朋恵
目 次
I.幹細胞
1.造血幹細胞の可塑性と再生医療への応用 <下村泰三 須田年生> 1
造血幹細胞は本当に多様な細胞に分化しうるのか?
分化した細胞が組織の再建に貢献しうるのか?
2.NOD/SCID/γc-/-マウスを用いたヒト造血幹細胞の解析 <平松英文 中畑龍俊> 7
ヒト造血幹細胞アッセイモデル 従来のモデルの問題点
新たなヒト造血幹細胞アッセイモデルNOD/SCID/γc-/-マウス
3.加齢による造血幹細胞の変化 <須藤和寛 中内啓光> 14
造血幹細胞 テロメア 考察
4.Notch遺伝子と造血幹細胞の増幅 <千葉 滋> 22
Notch蛋白質の構造 個体発生におけるNotchシグナルの重要性
造血幹細胞・未熟造血前駆細胞の分化抑制,増幅,不死化とNotch
Notchと白血病およびその他の腫瘍 リンパ系前駆細胞におけるNotch
Notchを介する細胞内シグナル Notchは分化を抑制するのか?促進するのか?
5.臍帯血移植の現状と展望 <加藤剛二> 29
国内における臍帯血バンクの設立の過程とその運営 臍帯血移植の成績
臍帯血移植および臍帯血バンクの将来
II.赤血球系
1.Fanconi貧血の新しい分類と病態 <大月哲也 小澤敬也> 35
Fanconi貧血の新しい相補性分類
高等真核細胞におけるDNA2本鎖架橋に対する修復機構
FANCD2のクローニングとその機能解析 BRCA1とDNA修復
FA蛋白質群とDNAとの関連
2.発作性夜間ヘモグロビン尿症の日米比較 <西村純一 金倉 譲> 42
対象と方法 結果 考察・結論
3.再生不良性貧血におけるテロメア <中条達也 中尾眞二> 50
加齢によるテロメアの短縮 腫瘍細胞におけるテロメアの短縮
血液細胞におけるテロメレース 移植後のテロメア短縮 再生不良性貧血の病態
先天性の造血障害とテロメア 再生不良性貧血におけるテロメア
テロメア長の短縮と悪性腫瘍の発生
4.X染色体連鎖型鉄芽球性貧血モデルおよび鉄代謝異常関連遺伝子改変動物の
分子生物学的解析 <中島 修 山本雅之> 59
ヘム生合成系酵素遺伝子の改変動物 細胞内鉄輸送・貯蔵系因子の遺伝子改変マウス
5.骨髄非破壊的幹細胞移植による難治性貧血の治療 <新谷泰成 峯石 真> 67
難治性貧血 骨髄非破壊的幹細胞移植 難治性貧血に対する骨髄非破壊的移植
III.白血球系
1.mi転写因子(MITF)によるマスト細胞の分化調節 <北村幸彦 実宝智子 森井英一> 71
mi/miマウスの異常 mi遺伝子座によりコードされる転写因子
MITFの標的遺伝子 mi-MITFの阻害効果 他の転写因子との協調作用
2.新WHO分類の意義--特に造血組織の腫瘍の分類-- <朝長万左男> 79
新WHO分類の全体構成 各疾患グループの特徴 新WHO分類の意義
新WHO分類の用い方
3.ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤による白血病治療 <唐渡雅行> 86
ヒストンのアセチル化と脱アセチル化 HDACと白血病 HDAC阻害剤
HDAC阻害剤による分化誘導療法 HDAC阻害剤の白血病治療の臨床応用
HDAC阻害剤による免疫修飾作用および血管新生抑制作用
HDAC阻害剤による白血病治療の可能性
4.骨髄異形成症候群の重症度分類と治療指針 <大屋敷一馬> 99
IPSSとMDS2000分類 MDS患者の重症度と治療方針 今後の展望
5.骨髄線維症の病態と治療 <岡村 孝 仁保喜之> 106
病態 治療
IV.リンパ系
1.樹状細胞の発生,分化,機能 <門脇則光> 112
骨髄系DCとリンパ系DC DCの一生 DCの成熟を誘導する因子
異なるTヘルパー反応を誘導するDC 抑制性T細胞あるいはトレランスを誘導するDC
疾患の病態におけるDC
2.DNAチップによる悪性リンパ腫の解析 <間野博行> 121
DNAチップと発現プロファイル Hodgkin病 非Hodgkinリンパ腫
3.マントル細胞リンパ腫の治療 <飛内賢正> 128
疾患単位としてのMCLの認識とMCLの診断 MCLの臨床的特徴 MCLの治療
4.先天性免疫不全症に対する骨髄非破壊的造血幹細胞移植 <加藤俊一> 137
Amroliaらの報告 Horwitzらの報告
5.先天性免疫不全症の遺伝子治療 <石井直人> 143
先天性免疫不全症とは なぜ先天性免疫不全症が遺伝子治療のよい標的なのか?
ADA欠損症 X連鎖重症複合免疫不全症(XSCID,SCID-X1)
遺伝子治療が行われるであろう免疫不全症
V.血小板
1.トロンボポエチンとトロンボポエチンレセプターの異常症 <宮川義隆 池田康夫> 150
トロンボポエチン遺伝子の翻訳亢進によって起こる家族性血小板増多症
先天性無巨核球性血小板減少症の遺伝子異常
2.May-Hegglin anomalyにおけるMYH9遺伝子異常--白血球封入体を伴う
巨大血小板性血小板減少症 <国島伸治 齋藤英彦> 157
白血球封入体を伴う巨大血小板性血小板減少症
ポジショナルクローニングによる原因遺伝子の同定 NMMHCA蛋白の細胞内局在
3.特発性血小板減少性紫斑病に対するHelicobacter pylori(H.pylori)除菌療法
<寺村正尚> 166
ITPに対するH.pylori除菌療法の成績 H.pylori除菌が有効であるメカニズム
難治性ITPに有効な薬剤の作用機序もH.pylori除菌が関連している?
4.ヘパリン起因性血小板減少症 <矢冨 裕> 170
HITとは HITの発症機序 HITの病態 HITの診断 HITの治療
5.後天性von Willebrand病--病態生理と治療-- <高橋芳右> 178
vWFの構造と機能 AvWDの基礎疾患 AvWDの臨床症状(出血症状)
AvWDの凝血学的検査所見 AvWDの発症機序 AvWDの診断
AvWDの治療 今後の問題点
6.溶血性尿毒症症候群の発症と抗菌剤 <木谷照夫> 189
腸管出血性大腸菌感染症の臨床像 VTの産生,障害作用ならびに体内移行
EHEC感染動物モデルでの抗菌剤投与 臨床例における抗菌剤投与とHUS発生
保菌者への抗菌剤投薬 HUSの治療
VI.凝固・線溶系
1.血管内皮プロテインCレセプタと血栓症 <黒澤晋一郎> 196
血管内皮プロテインCレセプタの構造 EPCRの機能 可溶性EPCR
重症敗血症に活性化プロテインC投与 霊長類の敗血症動物実験
可溶性EPCRと好中球の反応 EPCR変異と血栓症
2.凝固制御因子のノックアウトマウス <石黒和博 小嶋哲人> 203
トロンボモジュリンノックアウトマウス プロテインCノックアウトマウス
TFPI(tissue factor pathway inhibitor)ノックアウトマウス
アンチトロンビンノックアウトマウス
3.血友病の遺伝子治療 <三室 淳> 207
血友病遺伝子治療のクリニカルエンドポイント 血友病遺伝子治療の戦略
血友病遺伝子治療の臨床治験 血友病遺伝子治療の臨床治験の考察と今後の展望
4.血友病のインヒビター--最近の進歩 <新井盛夫> 215
インヒビターの性状と阻害動態に関する知見 インヒビターの臨床医学的知見
5.凝固因子過剰と血栓症--静脈血栓症の危険因子としての血中凝固因子量
<宮田敏行> 229
VIII因子 XI因子 IX因子 X因子 フィブリノーゲンとVII因子
TAFI(thrombin activatable fibrinolysis inhibitor)
6.組織因子と敗血症 <朝倉英策 御舘靖雄 水谷朋恵> 234
敗血症における炎症反応と凝固線溶 敗血症と活性化プロテインC
敗血症とDIC,組織因子,アンチトロンビン 敗血症とTFPI
敗血症,LPS,一酸化窒素と組織因子 LPS誘発DICモデルと組織因子誘発DICモデル
索 引 245