序
Annual Review血液学も17年目を迎え,2003年版としてAnnual Review 2003を出版する事になった.
1999年版から新しい編集陣によるAnnual Review血液学の刊行がおこなわれるようになった.編集委員の方々の御尽力によって,2003年版でも血液学のAnnual Reviewにふさわしい新しい興味あるテーマが数多くとりあげられ,その内容を研究や臨床の第一線にある専門の方々に解説していただく事ができた.2003年版でも従来の版と同様に新しい方々が執筆に加わっていただいた.またテーマとしてもヒト骨髄間葉系幹細胞,赤芽球の脱核機序の新しい展開,PNH異常クローンの拡大メカニズム,STI 571の薬剤耐性機構,Artemisのリンパ球分化における役割,遺伝子発現プロファイルによるリンパ腫の予後予測,GPIbβ遺伝子異常とBernard-Soulier症候群・大血小板,GATA-1変異と家族性血小板減少症,高ホモシステイン血症と小胞体機能破綻,抗血管新生療法による腫瘍制御など,臨床と関係の深い問題まで幅広いテーマが数多く紹介されている.Annual Review血液学はまさしくわが国に最新の血液学の情報を提供する最有力な手段であるといえよう.
わが国には従来Annual ReviewのようなReview誌がなかった.その意味でこのシリーズが始まった事は画期的なことであり,そのためもあって創刊以来好評で毎年多くの方々に読んでいただいてきた.おかげさまで本年も従来と同じように,よいタイミングで2003年版を出版する事ができた.2003年版の完成に御協力下さった各執筆者の先生方にこの場をかりて心から御礼申し上げたい.
本年版の内容も例年の版と同様,血液学の新しい進展を紹介する充実した内容のものとなっており,読者の方々からの御期待に充分答え得たと信じている.監修者として,いままでの版と同様にこの2003年版が血液学に興味をもつ多くの方々に愛読していただける事を強く期待している.Annual Review血液学が世界の血液学の流れを示すReview誌となる事を期待して中外医学社からの刊行に協力させていただくようになってから17年もたった.あらためて今までの編集委員の方々,執筆者の方々に感謝の言葉を捧げる次第である.
2002年12月
高久史麿
[編集者]
高久文麿 溝口秀昭 小宮山淳 坂田洋一 金倉 譲
[著者]
片山直之 大石晃嗣 藤枝敦史 岡本士毅 原 孝彦
間野博行 安藤 潔 堀田知光 寺村正尚 川根公樹
福山英啓 長田重一 堀川健太郎 川口辰哉 中熊秀喜
井上徳光 脇本直樹 別所正美 大屋敷一馬 鈴木章敬
峯石 真 水木満佐央 上田周二 金倉 譲 野々山恵章
水谷修紀 竹下明裕 大野竜三 山口素子 中村栄男
瀬戸加大 小林法元 上松一永 小宮山淳 大野仁嗣
前迫善智 飛内賢正 神田善伸 高上洋一 石田文宏
藤村吉博 小松則夫 冨山佳昭 尾崎由基男 桑名正隆
池田康夫 和田英夫 岡林和弘 辻 肇 小亀浩市
一瀬白帝 浦野哲盟 永井信夫 山本清二 佐藤靖史
目 次
I.幹細胞
1.ヒト骨髄間葉系幹細胞 <片山直之 大石晃嗣 藤枝敦史> 1
ヒトMSC ヒト中胚葉系前駆細胞(mesodermal progenitor cell: MPC)
MPCは内胚葉系の肝細胞にも分化する
げっ歯類多能性成体前駆細胞(multipotent adult progenitor cell: MAPC)
造血微小環境を構成するストロマ前駆細胞としてのMSC
MSCへの遺伝子導入
2.造血幹細胞の発生をめぐって <岡本士毅 原 孝彦> 11
造血幹細胞の発生の時期と場所
血球血管共通前駆細胞ヘマンジオブラストとAGM領域
造血幹細胞発生を制御する遺伝子群 造血幹細胞の純化と検出
幹細胞の多分化能とその現状
3.造血幹細胞のゲノミクスとプロテオミクス <間野博行> 20
造血幹細胞のゲノミクス 造血幹細胞のプロテオミクス
4.増幅臍帯血幹細胞の移植─現状と課題─ <安藤 潔 堀田知光> 26
臍帯血幹細胞の体外増幅 中胚葉誘導・形態形成因子の幹細胞増幅活性
増幅幹細胞の分化能 複数臍帯血の移植
II.赤血球系
1.真性赤血球増加症の診断と治療 <寺村正尚> 36
PVの診断基準 診断の実状 治療方針 治療の実状
2.赤芽球の脱核機序の新しい展開 <川根公樹 福山英啓 長田重一> 42
現在までの知見と未解決の問題点 DNaseIIノックアウトマウスがもたらした知見
その他の報告 今後の展望
3.発作性夜間血色素尿症(PNH)における変異易発生の造血環境
<堀川健太郎 川口辰哉 中熊秀喜> 50
PNHクローンの特性 PNHにおける好変異環境 今後の展望
4.PNH異常クローンの拡大メカニズム <井上徳光> 58
PIG-Aの異常は必須であるが充分ではない
免疫的な機序によりGPI欠損細胞は選択的に増加する
GPI欠損細胞に第2の異常が起こりクローナルに拡大する
PNHにおける異常造血幹細胞のクローナルな拡大モデル
5.抗エリスロポエチン(EPO)抗体による赤芽球癆(PRCA) <脇本直樹 別所正美> 67
遺伝子組換えEPO製剤 後天性赤芽球癆
rhEPO投与によるPRCA発症の臨床経過 PRCAを惹起する抗EPO抗体の生物学的性状
抗EPO抗体によるPRCA発症の臨床的インパクト サイトカインに対する抗体産生
III.白血球系
1.ハイリスクMDSの治療の新しい方向: 現状と今後の展望 <大屋敷一馬 鈴木章敬> 74
ハイリスクMDSとは何か ハイリスクMDSの化学療法
ハイリスクMDSに対する造血幹細胞移植療法 治療指針 将来の展望
2.慢性骨髄性白血病の移植療法 <峯石 真> 80
慢性骨髄性白血病の病因に関して 慢性骨髄性白血病に対する同種造血幹細胞移植
インターフェロンの登場と移植との関わり
DLI(ドナーリンパ球輸注)のCMLにおける有用性
ミニ移植の登場とCMLにおける有用性 イマニチブの登場と治療戦略の変化
3.STI571の薬剤耐性機構 <水木満佐央 上田周二 金倉 譲> 86
STI耐性CML細胞株の検討 CML臨床例での耐性化機構の検討
c-Kit変異とSTI571 STI571耐性例に対する対策
4.WASP変異によるX染色体連鎖性好中球減少症 <野々山恵章 水谷修紀> 95
Wiskott-Aldrich症候群 WASPの構造と機能 XLNの原因遺伝子と疾患の表現型
XLNの原因遺伝子WASP同定 WASPの恒常的活性化がXLNを引き起こす
5.抗CD33抗体を用いたAML治療 <竹下明裕 大野竜三> 100
CD33抗原の特徴 非結合モノクローナル抗体
gemtuzumab ozogamicin(CMA676) 放射線同位元素結合モノクローナル抗体
IV.リンパ系
1.CD5陽性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の病態
<山口素子 中村栄男 瀬戸加大> 110
序論: CD5と正常B細胞 成熟B細胞腫瘍におけるCD5発現
CD5+DLBCLの臨床病理学的特徴 CD5+DLBCLの予後改善のために
2.Artemis: DNA修復・リンパ球分化における役割 <小林法元 上松一永 小宮山淳> 118
Artemis遺伝子の発見 Artemisの機能 リンパ球の分化における役割
3.遺伝子発現プロフィルによるリンパ腫の予後予測 <大野仁嗣 前迫善智> 124
DNAアレイ DNAアレイ解析の悪性リンパ腫診断への応用
遺伝子発現プロフィルに基づくDLBCLの新しいサブタイプ
DLBCLの遺伝子発現プロフィルと治療予後
4.抗CD20抗体(リツキシマブ)と化学療法の併用療法 <飛内賢正> 130
抗体療法の原理 キメラ抗体の利点 CD20抗原
米国におけるリツキシマブの臨床開発
我が国における低悪性度Bリンパ腫およびマントル細胞リンパ腫に対するリツキシマブの臨床開発
低悪性度Bリンパ腫に対するリツキシマブと化学療法の併用
中高悪性度Bリンパ腫に対するリツキシマブの有効性と化学療法との併用
マントル細胞リンパ腫に対するリツキシマブと化学療法の併用
5.多発性骨髄腫に対する自家造血幹細胞移植とミニ移植 <神田善伸 高上洋一> 138
多発性骨髄腫に対する通常の化学療法 造血幹細胞移植 自家造血幹細胞移植
自家造血幹細胞移植の成績を改善する試み 自家骨髄移植と同種骨髄移植 ミニ移植
V.血小板
1.GPIbβ遺伝子異常とBernard-Soulier症候群・大血小板 <石田文宏> 146
遺伝性大血小板性疾患の分類 GPIb/IX複合体とBSS
オンラインのデータベース GPIbβ遺伝子の変異 GPIbβの多型
口蓋帆・心・顔(Velocardiofacial)症候群/DiGeorge症候群と大血小板
GPIbαの異常によるmacrothrombocytopenia GPIb/IX異常と大血小板
モデルマウスにおける大血小板 GPIbβ分子の解析に関する最近の進歩
GPIb/IXと細胞骨格蛋白
2.TTPとADAMTS13変異 <藤村吉博> 153
TTP vs UL-VWFMs VWF-CP活性とそのIgG型インヒビター
Upshaw-Schulman症候群vs先天性TTP VWF-CP/ADAMTS13とその変異
今後の展望
3.GATA-1変異と家族性血小板減少症 <小松則夫> 163
GATA-1 FOG-1 GATA-1とFOG-1との相互作用
GATA-1のFOG-1結合部位の同定 GATA-1変異と家族性血小板減少症
4.トロンビンの血小板へのシグナル伝達 <冨山佳昭> 170
PARファミリー PARにおけるリガンド結合部位 ヒト血小板とPAR
マウス血小板とPAR 今後の展望
5.血小板による凝固反応加速機構 <尾崎由基男> 176
血液凝固反応 血液凝固反応の場としての細胞膜 血小板膜上での凝固反応の進展
向凝固蛋白を血小板膜に固定する役割をセロトニンが果たす?
血小板膜上の向凝固活性の発現機序 血小板マイクロパーティクル
活性化血小板膜の他の細胞系への作用
大量活性化第VII因子製剤の止血効果における血小板膜の関与
6.ITP: 診断の進歩 <桑名正隆 池田康夫> 183
骨髄検査 PAIgG 血小板特異自己抗体の検出
血小板特異抗体産生B細胞の検出 網状血小板比率 血清トロンボポエチン濃度
VI.凝固・線溶系
1.DIC: 最近の進歩 <和田英夫 岡林和弘> 190
病態 DICの診断 期待されるDICの治療薬
2.ヘパリン類似物質による血栓制御 <辻 肇> 198
ヘパリンおよびヘパリン類似物質 ヘパリンの作用機序 合成ヘパリン
3.高ホモシステイン血症と小胞体機能破綻 <小亀浩市> 204
小胞体ストレスとは ホモシステインによる小胞体ストレス誘導はin vivoでも起こる
ホモシステインとアルツハイマー病 小胞体ストレスと酸化ストレス
4.リポプロテイン(a)と血栓症 <一瀬白帝> 212
Lp(a)の機能 アポ(a)の遺伝的多型性 急性相蛋白としてのLp(a)
虚血性心疾患でのLp(a)の臨床的意義 脳血管障害でのLp(a)の臨床的意義
他の動脈硬化性疾患でのLp(a)の臨床的意義 動脈硬化の性差とLp(a)
加齢とLp(a) 予防と治療の面からみたLp(a)
5.神経系に果たす組織型プラスミノーゲンアクチベータの役割
<浦野哲盟 永井信夫 山本清二> 223
組織型プラスミノーゲンアクチベータ(tPA)と神経活動 神経の可塑性とtPA
神経細胞死 脳の発達
6.腫瘍血管新生と抗血管新生療法による腫瘍制御 <佐藤靖史> 229
血管新生の調節因子 血管新生のプロセス 腫瘍血管新生の特徴 抗血管新生療法
索 引 237