序
Annual Review血液学も18年目を迎え,2004年版としてAnnual Review 2004を出版する事になった.
1999年版から新しい編集陣によるAnnual Review血液学の刊行がおこなわれるようになった.編集委員の方々の御尽力によって,2004年版でも血液学のAnnual Reviewにふさわしい新しい興味あるテーマが数多くとりあげられ,その内容を研究や臨床の第一線にある専門の方々に解説していただく事ができた.2004年版でも従来の版と同様に新しい方々が執筆に加わっていただいた.またテーマとしても骨髄細胞局注による末梢動脈閉塞の治療,骨髄異形成症候群の発症とミトコンドリアチトクロームC遺伝子変異,骨髄線維症と治療の進歩(低容量サリドマイドなど),GATA-1変異によるDown症候群患者の急性巨核芽球性白血病,Pelger-Huet anomalyにおける遺伝子異常,肥満細胞増加症とc-kit遺伝子・STI 571に対する反応性,プロテアソーム阻害薬による多発性骨髄腫の治療,SV40と非ホジキンリンパ腫,多発性骨髄腫と関連疾患の遺伝子発現プロファイル,出番を待つ抗血小板薬,トロンビンレセプターと血栓形成,CD40Lによる動脈血栓の安定化など,病態と関連する基礎のテーマから診断・治療に直接関係するテーマまで幅広く紹介されている.Annual Review血液学はまさしくわが国に最新の血液学の情報を提供する最有力な手段であるといえよう.
わが国には従来Annual ReviewのようなReview誌がなかった.その意味でこのシリーズが始まった事は画期的なことであり,そのためもあって創刊以来好評で毎年多くの方々に読んでいただいてきた.関係する方々のおかげで本年も従来と同じように,よいタイミングで2004年版を出版する事ができた.2004年版の完成に御協力下さった各執筆者の先生方にこの場をかりて心からの御礼を申し上げたい.
本年版の内容も例年の版と同様,血液学の新しい進展を紹介する充実した内容のものとなっており,読者の方々からの御期待に充分答え得たと信じている.監修者として,いままでの版と同様にこの2004年版が血液学に興味をもつ多くの方々に愛読していただける事を強く期待している.Annual Review血液学が世界の血液学の流れを示すReview誌となる事を期待して中外医学社からの刊行に協力させていただくようになってから18年もたった.あらためて今までの編集委員の方々,執筆者の方々に感謝の言葉を捧げる次第である.
2003年12月
高久史麿
[編集者]
高久文麿 溝口秀昭 小宮山淳 坂田洋一 金倉 譲
[著者]
松井圭司 島田和幸 大保和之 須田年生 小澤敬也
大沢匡毅 中尾眞二 津野寛和 高橋孝喜 谷口俊恭
伊藤 満 通山 薫 下田和哉 原田実根 寺村正尚
直江知樹 小林祥子 溝口秀昭 湯尾 明 北村幸彦
森井英一 木崎昌弘 石川秀明 河野道生 畠 清彦
小林幸夫 間野博行 村井政子 松島綱治 小田 淳
中山 章 藤田博美 半田 誠 矢冨 裕 丸山征郎
冨山佳昭 窓岩清治 浦野 元 白幡 聡 鎌田春彦
鈴木宏治 辻 肇 出口 洋
目次
I.幹細胞
1.骨髄細胞局注による末梢動脈疾患の治療 <松井圭司 島田和幸> 1
血管新生療法の背景と方法 血管新生悪玉説 炎症と創傷治癒
活性酸素と血管新生 血管新生は末梢動脈疾患の自然経過を改善させるか?
2.胚性幹細胞と成体幹細胞の再生医学への応用 <大保和之 須田年生> 9
ES細胞 成体幹細胞 再生医療へのシミュレーション 分化転換
3.遺伝子治療の新たな課題──白血病発症 <小澤敬也> 18
造血幹細胞遺伝子治療臨床研究の実施状況
X-SCIDに対する造血幹細胞遺伝子治療における白血病の発生
造血幹細胞遺伝子治療の今後の安全対策
ウイルスベクターによる遺伝子導入のその他の問題点
4.幹細胞制御の分子基盤 <大沢匡毅> 26
幹細胞制御と幹細胞ニッチ 幹細胞制御の分子機構
DNAアレイを用いた幹細胞制御機構の解明
II.赤血球系
1.再生不良性貧血における幹細胞移植 <中尾眞二> 37
再生不良性貧血に対する造血幹細胞移植の現状 移植の新しい試み 今後の動向
2.輸血関連急性肺傷害 <津野寛和 高橋孝喜> 45
疾患概念 発症機序 臨床像 検査 疫学 治療と予後 予防と対策
3.Fanconi貧血成因解析の新たな展開 <谷口俊恭> 53
Fanconi貧血の原因遺伝子 Fanconi anemia/BRCA pathway 腫瘍とFanconi貧血
4.骨髄異形成症候群の発症とミトコンドリアチトクロームC遺伝子変異
<伊藤 満 通山 薫> 63
ミトコンドリア,チトクロームCとアポトーシスの関連
チトクロームC関連遺伝子変異による疾患 チトクロームC関連遺伝子変異とMDS
amifostineとアポトーシス阻害,MDS治療への応用
III.白血球系
1.骨髄線維症と治療の進歩 <下田和哉 原田実根> 68
原発性骨髄線維症の予後 化学療法 脾臓摘出,放射線照射 造血幹細胞移植術
2.慢性骨髄単球性白血病の病態と治療 <寺村正尚> 78
CMMLの病態 CMMLに対する治療
3.急性白血病に対する新たな分子標的療法:次の一手? <直江知樹> 83
新たな標的分子と薬剤の探索 イマチニブの適応拡大
ファルネシルトランスフェラーゼ(FT)阻害剤 FLT3キナーゼ阻害剤
カリケアマイシン結合抗CD33モノクローナル抗体(ゲムツズマブ・オゾガミシン,CMA-676)
CDK阻害剤 エピジェネティクスを標的とする治療法の開発
4.GATA-1変異によるダウン症候群患者の急性巨核芽球性白血病
<小林祥子 溝口秀昭> 95
GATA-1 ダウン症に併発する血液疾患 DS-AMKLにおけるGATA-1変異
TMDにおけるGATA-1変異 21染色体での候補遺伝子
5.Pelger-Huet anomalyにおける遺伝子異常 <湯尾 明> 102
Pelger-Huet anomalyについて Pelger-Huet anomalyの原因遺伝子の解明
LBR遺伝子異常症の異なる側面 lamin B receptorについて
核膜,核ラミナの構造とそれを構成する分子
核ラミナを構成する他の蛋白の遺伝子異常と疾患
細胞分化研究における,核形態変化の解析と核ラミナ
6.肥満細胞増加症,c-kit遺伝子異常,STI 571 <北村幸彦 森井英一> 111
肥満細胞の分化と肥満細胞欠損マウス 肥満細胞増殖症 ヒト肥満細胞増加症の分類
KITの阻害剤としてのSTI571 肥満細胞増加症,慢性骨髄性白血病とGISTの比較
IV.リンパ系
1.多発性骨髄腫のサリドマイド療法─その後の展開 <木崎昌弘> 118
サリドマイドの作用機構 サリドマイドの至適投与量
サリドマイドとデキサメタゾン,抗がん剤との併用療法
幹細胞移植失敗例に対してサリドマイドは有効か? 骨髄腫の初期治療としてのサリドマイド
サリドマイドによる有害事象 新しいサリドマイド誘導体 サリドマイドの効果予測
2.プロテアソーム阻害薬による多発性骨髄腫の治療 <石川秀明 河野道生> 127
骨髄腫細胞の増殖・生存機構 多発性骨髄腫の治療薬
プロテアソーム阻害薬と多発性骨髄腫
3.リツキサンの新しい臨床応用 <畠 清彦> 136
抗体療法の原理について 抗体療法の有害事象について 抗体療法における問題点
Salvage療法としてのrituximab 移植との併用 その他の疾患
in vivo purging 現在行われている臨床試験について
4.SV40と悪性リンパ腫 <小林幸夫> 151
SV40とは 悪性腫瘍とSV40 中皮腫とSV40 骨腫瘍および脳腫瘍とSV40
ワクチン接種との関連 悪性リンパ腫とSV40陽性率
5.多発性骨髄腫と関連疾患の遺伝子発現プロファイル <間野博行> 156
遺伝子発現プロファイル CD138陽性分画を用いた比較
多発性骨髄腫の解析 形質細胞の分化様式
6.急性GVHD発症のしくみ <村井政子 松島綱治> 165
造血幹細胞の免疫学的制御(拒絶・生着,GVHD,GVT)
ドナーT細胞による組織傷害機序 ドナーCTL分化の場はどこ? 腸管の重要性
V.血小板
1.出番を待つ抗血小板薬 <小田 淳 中山 章 藤田博美> 173
ADPに関連する薬物 トロンビン受容体拮抗薬 Aspirinの話題
経口GPIIb/IIIa拮抗薬開発の終焉?
その他の膜糖蛋白─膜糖蛋白GPIb/IX複合体,GPIVなどの抗血小板薬標的としての可能性
食物中の「抗血小板薬」
2.COXインヒビターによる血栓制御とその不応症 <半田 誠> 182
COX-2インヒビター(コキシブ)と血栓症 アスピリン抵抗性
アスピリンとCOXアイソエンザイム
3.血小板と動脈硬化 <矢冨 裕> 191
動脈硬化と血管内皮細胞傷害 血管内皮細胞─血小板クロストーク
血小板由来動脈硬化関連メディエーター
4.トロンビン受容体と血栓形成 <丸山征郎> 200
トロンビン受容体の構造 トロンビン受容体(PAR-1)の機能とそのシグナル伝達
APC/EPCR/PAR-1システムによるPAR-1の活性化と内皮細胞保護,炎症制御
トロンビン受容体(PAR-1)と病態
5.CD40-CD40Lシステムと動脈血栓形成 <冨山佳昭> 208
CD40-CD40L系 血管内皮とCD40-CD40L系 血小板とCD40L
動脈硬化とCD40-CD40L系 今後の展望
VI.凝固・線溶系
1.抗凝固薬および血栓溶解薬による肺血栓塞栓症の予防と治療 <窓岩清治> 214
抗凝固薬および抗血小板薬による肺血栓塞栓症の予防
抗凝固薬による肺血栓塞栓症の治療 血栓溶解薬による肺血栓塞栓症の治療
2.小児の血栓症 <浦野 元 白幡 聡> 223
小児の血栓症 新生児血栓症 その他の小児血栓症
3.抗凝固因子による敗血症治療の試み <鎌田春彦 鈴木宏治> 234
敗血症の発症機序 敗血症の治療 生理的抗凝固因子を用いたDICと敗血症の治療
ヘパリン類を用いたDICと敗血症の治療
合成プロテアーゼインヒビターを用いたDICと敗血症の治療
4.ヘパリンコファクターII─その生理的意義,最近の進歩─ <辻 肇> 245
HC-IIの構造と機能 生理機能 先天性HC-II欠損症
後天性HC-II欠損症 新規抗血栓薬の開発
5.凝固反応と糖脂質 <出口 洋> 252
スフィンゴ脂質の合成・代謝系 糖脂質機能と臨床的意義
その他のスフィンゴ脂質の機能 生体膜でのスフィンゴ脂質
索引 261