Annual Review血液学も19年目を迎え,2005年版としてAnnual Review 2005を出版する事になった.

 1999年版から新しい編集陣によるAnnual Review血液学の刊行がおこなわれるようになった.編集委員の方々の御尽力によって,2005年版でも血液学のAnnual Reviewにふさわしい新しい興味あるテーマが数多くとりあげられ,その内容を研究や臨床の第一線にある専門の方々に解説していただく事ができた.2005年版でも従来の版と同様に新しい方々が執筆に加わっていただいた.またテーマとしても造血幹細胞微小環境(Niche),vCJDと輸血,再生不良性貧血の自己抗原kinectin,経口キレートによる鉄過剰症の治療,bisphosphonateとimatinibとの併用のCML細胞に対する効果,慢性血小板減少症におけるWASP遺伝子異常,など病態と関連する基礎のテーマから診断・治療に直接関係するテーマまで幅広い興味ある話題が紹介されている.私個人はこの中で再生不良性の自己抗原kinectinの話題に特に興味をもっている.再生不良性の発症に免疫学的な機序が関与している事が以前から推定されていたにも拘わらず,その詳細が不明であったからである.本年のテーマからも明らかなようにAnnual Review血液学はまさしくわが国に最新の血液学の情報を提供する最有力な手段であるといえよう.

 わが国には従来Annual ReviewのようなReview誌がなかった.その意味でこのシリーズが始まった事は画期的なことであり,そのためもあって創刊以来好評で毎年多くの方々に読んでいただいてきた.関係する方々のおかげで本年も従来と同じように,よいタイミングで2005年版を出版する事ができた.2005年版の完成に御協力下さった各執筆者の先生方にこの場をかりて心からの御礼を申し上げたい.

 本年版の内容も例年の版と同様,血液学の新しい進展を紹介する充実した内容のものとなっており,読者の方々からの御期待に充分答え得たと信じている.監修者として,いままでの版と同様にこの2005年版が血液学に興味をもつ多くの方々に愛読していただける事を強く期待している.Annual Review血液学が世界の血液学の流れを示すReview誌となる事を期待して中外医学社からの刊行に協力させていただくようになってから19年もたった.あらためて今までの編集委員の方々,執筆者の方々に感謝の言葉を捧げる次第である.

  2004年12月

   高久史麿


[編集者]

高久史麿   溝口秀昭   坂田洋一   金倉 譲

小島勢二

[著者]

新井文用   平尾 敦   須田年生   瀧原義宏

湯尾 明   神田善伸   久住英二   宮腰重三郎

谷口修一   大竹孝明   高後 裕   大賀正一

古賀友紀   原 寿郎   津久井和夫  平野直人

寺村正尚   西村純一   中尾眞二   原田浩徳

原田結花   中沢洋三   小池健一   松永卓也

川口浩史   中村和洋   小林正夫   松村 到

下田和哉   原田実根   伊藤良和   大屋敷一馬

木村晋也   黒田純也   前川 平   金倉 譲

菊地我子   堀田知光   清水一之   増田道彦

岡村隆光   小椋美知則  諸井将明   和田泰三

谷内江昭宏  尾崎由基男  桑名正隆   山本晃士

三室 淳


目次

I.幹細胞

 1.造血幹細胞の造血微小環境(Niche)

                   <新井文用 平尾 敦 須田年生>  1

    造血幹細胞のニッチ  ニッチにおける幹細胞の制御

 2.造血幹細胞の自己複製機構  <瀧原義宏>  11

    造血幹細胞の動態  造血幹細胞の動態制御を担う分子基盤

 3.ラミニンによるGM-CSFレセプターのシグナル伝達調節  <湯尾 明>  25

    2003年にProc Natl Acad Sci USAに発表された論文について

    好中球機能活性化と接着  ラミニン受容体  GM-CSFの作用機序

 4.固形腫瘍に対するミニ移植  <神田善伸>  35

    同種造血幹細胞移植とGVT効果

    固形腫瘍に対する強力な移植前処置を用いた同種造血幹細胞移植

    ドナーリンパ球輸注療法  ミニ移植の概念  固形腫瘍に対するミニ移植

    進行膵臓癌に対するミニ移植  固形腫瘍に対するミニ移植の今後の展望

 5.再生不良性貧血に対する臍帯血移植

                   <久住英二 宮腰重三郎 谷口修一>  44

    CBTと生着  CBTにおけるGVHD  成人におけるCBTの成績

    臍帯血ミニ移植の登場  SAAに対するCBT

II.赤血球系

 1.鉄代謝を制御するホルモン: ヘプシジン  <大竹孝明 高後 裕>  56

    ヘプシジンの発見  ヘプシジン遺伝子と蛋白構造  ヘプシジンの機能

    ヘプシジンの発現調節  ヘプシジンの疾患関連性  臨床検査・診断への応用

    治療への応用の可能性

 2.Blackfan-Diamond症候群の病態と治療

                   <大賀正一 古賀友紀 原 寿郎>  64

    疫学  病態  治療

 3.vCJDと輸血  <津久井和夫>  75

    BSEとvCJD  血液を介した感染  感染性と病原性

    検査システムとスクリーニングにおける問題点  治療

    危惧される今後の予測と課題

 4.自己免疫疾患としての再生不良性貧血  <平野直人>  86

    再生不良性貧血患者由来造血幹・前駆細胞の遺伝子発現解析

    再不貧患者にみられるPNH型血球の意義

    再不貧と相関を示すHLA-DR2,特にDR15対立遺伝子

    再不貧患者末梢血にみられるT細胞クローナリティの異常

    再不貧における標的自己抗原の同定  再不貧に対する免疫抑制療法

 5.真性多血症と低用量アスピリン療法  <寺村正尚>  94

    低用量アスピリン療法の血栓症予防効果  低用量アスピリン療法の安全性

    ECLAP studyの意義と問題点

 6.発作性夜間血色素尿症(PNH)に対する抗C5抗体による治療  <西村純一>  99

    PNHにおける溶血機序  ヒト化抗C5抗体  eculizumabによる臨床試験

    その他の補体阻害剤の開発

 7.経口鉄キレート剤による鉄過剰症の治療  <中尾眞二>  107

    輸血による鉄過剰症のメカニズム  鉄キレート剤による鉄除去療法の根拠

    鉄除去療法の実際と問題点  ヨーロッパで使用されている経口鉄キレート剤

    ICL670の開発

III.白血球系

 1.MDSにおけるAML1/RUNX1変異  <原田浩徳 原田結花>  113

    MDSにおける既知の分子異常  AML1/RUNX1と造血器疾患

    AML1/RUNX1の点突然変異とMDS  点突然変異によるAML1/RUNX1の機能異常

    AML1点変異造血幹細胞からのMDS/AML発症メカニズム

    新たな疾患単位の可能性

 2.先天性造血障害(Shwachman症候群,myelokathexis)における分子異常

                   <中沢洋三 小池健一>  123

    Shwachman-Diamond症候群(SDS)  Myelokathexis(WHIM症候群)

 3.急性骨髄性白血病の予後因子としての接着因子

         ─AMLにおけるVLA-4の発現と予後─  <松永卓也>  130

    CD56(NCAM)  CD62L(L-selectin)  CD44-6v  CD11b

    CXCR4  CD117/CD15  CD40/CD11a  VLA-4(α4β4-integrin)

 4.好中球エラスターゼと周期性好中球減少症/急性前骨髄性白血病

                   <川口浩史 中村和洋 小林正夫>  144

    好中球エラスターゼと周期性好中球減少症

    好中球エラスターゼと急性前骨髄性白血病

 5.Hyper eosinophic syndrome(HES)の病態と新たな治療:

         imatinib療法と抗IL-5抗体療法  <松村 到>  151

    特発性HESの診断について  HESの臨床像  HESの発症機構  治療

 6.骨髄線維症の新しい治療法─サリドマイドと造血幹細胞移植

                   <下田和哉 原田実根>  163

    サリドマイド  同種移植  骨髄非破壊的幹細胞移植(ミニ移植)

 7.MDS治療の国際的ガイドライン  <伊藤良和 大屋敷一馬>  170

    各ガイドラインの共通点  各ガイドラインの相違点

    現行ガイドラインを本邦の患者に適応する際の問題点

    本邦のガイドライン作成上の問題点  ガイドラインをどう利用すべきか

 8.Ras関連蛋白質シグナル伝達を標的とした造血器腫瘍の分子標的治療

                   <木村晋也 黒田純也 前川 平>  179

    Ras/Ras関連蛋白質の活性化機構とシグナル伝達

    造血器悪性腫瘍でのRasシグナルの重要性

    Ras/Ras関連蛋白質の活性化阻害による造血器腫瘍の治療戦略

    Ras/Ras関連蛋白質の下流シグナル伝達阻害による造血器腫瘍治療

    今後の展望

IV.リンパ系

 1.CLLの新たな予後推定因子ZAP-70  <金倉 譲>  190

    一般的な予後推定因子  CLL細胞の由来とIgVH遺伝子の体細胞変異

    IgVH遺伝子変異とCD38発現  CLLの新たな予後推定因子ZAP-70の発現と機能

    ZAP-70とCLLの予後及び他の因子との関係

 2.Hodgkin病の病態と治療  <菊地我子 堀田知光>  200

    ホジキンリンパ腫におけるPET検査  早期ホジキンリンパ腫の治療

    進行期ホジキンリンパ腫の治療  ホジキンリンパ腫の放射線療法

 3.多発性骨髄腫の新国際分類と治療指針  <清水一之>  207

    新国際分類  治療指針

 4.多発性骨髄腫における自家末梢血幹細胞移植とミニ移植  <増田道彦>  224

    多発性骨髄腫における自家造血幹細胞移植

    自家移植前処置として適当な方法はどれか

    多発性骨髄腫の自家移植は単回と複数回,どちらがよいか

    多発性骨髄腫に対する同種造血幹細胞移植

 5.中枢神経原発悪性リンパ腫の病態と治療  <岡村隆光>  230

    PCNSLの病理組織型と生物学的特徴  PCNSLの予後因子

    PCNSLの治療戦略  今後の展望

 6.治癒を目指した進行期濾胞性リンパ腫の治療─造血幹細胞移植の有用性─

                   <小椋美知則>  237

    初発進行期の濾胞性リンパ腫に対する自家造血幹細胞移植

    初発進行期の濾胞性リンパ腫に対する同種造血幹細胞移植

    再発進行期の濾胞性リンパ腫に対するAHSCT

    再発進行期の濾胞性リンパ腫に対するpurged APBSCT

    (特に,rituximabによるin vivo purged APBSCT)

    再発進行期の濾胞性リンパ腫に対する同種造血幹細胞移植

    (allo-HSCT)併用の大量化学療法

V.血小板

 1.新規血小板凝集メカニズム: 血小板膜糖蛋白質GP VIと血小板シグナリング

                   <諸井将明>  247

    GP VIの構造  GP VIとコラーゲンの反応  GP VIを介した血小板活性化反応

    GP VIの生理機能  GP VI欠損患者

 2.WASP遺伝子異常と慢性血小板減少症  <和田泰三 谷内江昭宏>  257

    WASPの構造と機能  WASP遺伝子異常による疾患

    WAS/XLTにおける血小板異常  慢性血小板減少症とWASP遺伝子異常

 3.血小板ADP受容体と抗血小板治療戦略  <尾崎由基男>  266

    P2Y12受容体  P2Y1受容体  P2X1受容体

VI.凝固・線溶系

 1.抗リン脂質抗体症候群─最近の進歩  <桑名正隆>  275

    APSの診断  抗リン脂質抗体の新しい検出法

    APSにおける過凝固状態の機序  APSの病因  APSの治療

 2.PAI-1と病態─最近の進歩  <山本晃士>  285

    心血管障害とPAI-1  心血管のリモデリングおよび線維化とPAI-1

    肥満,糖尿病とPAI-1  肺血症とPAI-1  ストレス起因性血栓症とPAI-1

    老化に伴う血栓傾向とPAI-1  VODとPAI-1

 3.血友病遺伝子治療─最近の進歩  <三室 淳>  295

    血友病A遺伝子治療  血友病B遺伝子治療  インヒビターに対する免疫寛容療法

索引  303