Annual Review血液学も20年目を迎え,2006年版としてAnnual Review 2006を出版する事になった.
 1999年版から新しい編集陣によるAnnual Review血液学の刊行がおこなわれるようになった.編集委員の方々の御尽力によって,2006年版でも血液学のAnnual Reviewにふさわしい新しい興味あるテーマが数多くとりあげられ,その内容を研究や臨床の第一線にある専門の方々に解説していただく事ができた.2006年版でも従来の版と同様に新しい方々が執筆に加わっていただいた.またテーマとしても2006年版では成人に対する臍帯血移植,白血病性幹細胞,エリスロポエチンの新たな臨床応用,再生不良性貧血とDRS-1蛋白,MDSに対するlenalidomideの有用性,急性白血病におけるnucleophosminの変異,リンパ腫に対する131I-tositumomabの臨床効果,Bcl-6によるリンパ腫発生機構,トロンボポエチン受容体の変化と家族性血小板増多症など,タイトルを見ただけでその内容の詳細を知りたいと意欲がかりたてられる項目が目白押しである.このようにAnnual Review血液学はまさしく最新の血液学の情報を血液学に興味をもつ人達に提供する最有力な手段である.
 わが国には従来Annual ReviewのようなReview誌がなかった.その意味でこのシリーズが始まった事は画期的なことであり,そのためもあって創刊以来好評で毎年多くの方々に読んでいただいてきた.関係する方々のおかげで本年も従来と同じように,よいタイミングで2006年版を出版する事ができた.2006年版の完成に御協力下さった各執筆者の先生方にこの場をかりて心からの御礼を申し上げたい.
 本年版の内容も例年の版と同様,血液学の新しい進展を紹介する充実した内容のものとなっており,読者の方々からの御期待に充分答え得たと信じている.監修者として,いままでの版と同様にこの2006年版が血液学に興味をもつ多くの方々に愛読していただける事,またこのReviewを続ける事によって血液学に興味をもつ若い人達がふえる事を強く期待している.Annual Review血液学が世界の血液学の流れを示すReview誌となる事を期待して中外医学社からの刊行に協力させていただくようになってから20年もたった.あらためて今までの編集委員の方々,執筆者の方々に感謝の言葉を捧げる次第である.

2005年12月
高久史麿


[編集者]

高久史麿   溝口秀昭   坂田洋一
金倉 譲   小島勢路二

[執筆者]

森島泰雄   高橋 聡   宮本敏浩
赤司浩一   平尾 敦   山口博樹
松村 到   金倉 譲   西村純一
中尾眞二   生田克哉   鳥本悦宏
高後 裕   後藤明彦   大屋敷一馬
木村晋也   前川 平   畠 清彦
間野博行   熊野 孝   角光晴子
下田和哉   薄井紀子   飛内賢正
堀田知光   志関雅幸   泉二登志子
大津山賢一郎 河野道生   金兼弘和
上田育代   石井榮一   大野仁嗣
小松弘和   丁 建民   飯田真介
上田龍三   国島伸治   野上恵嗣
嶋 緑倫   小松則夫   西川政勝
森木隆典   岡本貴行   鈴木宏治
宮田敏行   木村利奈   窓岩清治


目次

I.造血幹細胞
 1.同種造血幹細胞移植におけるHLA適合の必要性 <森島泰雄>…1
   HLA適合同胞間移植   血縁者間HLA不適合移植   非血縁者間骨髄移植
   HLA-C不適合症例におけるNK細胞受容体不適合の影響
 2.成人に対する臍帯血移植の位置づけ <高橋 聡>…8
   成人に対する臍帯血移植の現状   臍帯血移植(骨髄移植との比較)
   移植臍帯血の選択に関する留意点   複数臍帯血移植
   臍帯血を用いたreduced intensity stem cell transplantation(RIST)
   (ミニ移植)   その他の生着不全・遅延を克服するための様々な試み
 3.白血病幹細胞の特性 <宮本敏浩 赤司浩一>…19
   ヒト造血細胞・白血病細胞のアッセイ系   白血病幹細胞の表面抗原
   白血病細胞中のside population分画   白血病幹細胞の機能的不均一性
   白血病幹細胞の起源   慢性骨髄性白血病における白血病幹細胞
   転写因子の白血病発症への関与   白血病幹細胞の自己複製能
   白血病幹細胞のニッチは存在するか?
 4.造血幹細胞の自己複製能における細胞周期制御分子の役割 <平尾 敦>…42
   幹細胞の細胞周期   細胞周期制御因子の造血幹細胞における役割

II.赤血球系
 1.テロメラーゼ複合体遺伝子異常と骨髄不全症 <山口博樹>…48
   dyskeratosis congenita(DKC)におけるテロメラーゼ複合体遺伝子異常
   DKC1遺伝子異常   TERC遺伝子異常   TERT遺伝子異常
 2.エリスロポエチン及びその変異体の新たな臨床応用 <松村 到 金倉 譲>…56
   EPOの産生細胞とEPO受容体(EPOR)の発現細胞
   EPORの構造及び細胞内シグナル伝達   EPO/EPORの欠損マウス
   造血系以外の細胞に対するEPOの作用   EPOによる脳梗塞治療の臨床成績
   造血系に影響しないEPO変異体の開発
 3.発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)
            --日米の比較と最近の進歩 <西村純一>…64
   PNHの臨床病歴と自然歴の日米比較   PNH国際診断基準と本邦診断基準
   PNHの病態解析─PNHクローン拡大機序   PNHの治療─ヒト化抗C5抗体(eculizumab)
 4.再生不良性貧血の自己抗原DRS-1 <中尾眞二>…73
   SEREX法によって同定された再生不良性貧血の自己抗原候補
   DRS-1の同定   DRS-1特異的T細胞の存在
   DRS-1特異的CD4陽性T細胞の機能
 5.鉄代謝関連分子の同定とその機能 <生田克哉 鳥本悦宏 高後 裕>…80
   生体内での鉄動態
   トランスフェリンとトランスフェリン受容体1(transferrin, transferrin receptor 1: TfR1)
   トランスフェリン受容体2(transferrin receptor 2: TfR2)
   DMT1(divalent metal transporter 1)   Ferroportin 1
   Hemojuvelin(HJV)   ヘプシジン(hepcidin)

III.白血球系
 1.低悪性度MDSに対するlenalidomideの有用性 <後藤明彦 大屋敷一馬>…89
   骨髄異形成症候群の病態生理と新たな治療ターゲット
   サリドマイドおよびそのアナログlenalidomide
   lenalidomideによるMDSの治療   5q−症候群とlenalidomide
 2.イマチニブ以後の白血病に対する分子標的療法薬 <木村晋也 前川 平>…99
   Ablチロシンキナーゼ阻害剤
   Ablチロシンキナーゼ阻害剤以外の白血病に対する新たな分子標的治療薬
   分子標的治療薬の問題点
 3.Mylotargの急性骨髄性白血病における有用性 <畠 清彦>…114
   開発のコンセプト   標的分子   構造と作用機序   臨床試験の成績
   海外での添付文書上の記載から   Mylotargを併用した化学療法について
 4.マイクロアレイ解析による急性骨髄性白血病の予後因子の同定
                       <間野博行>…124
   予後予測法の開発−Over view
   急性骨髄性白血病(AML)での応用--単核球を用いて
   急性骨髄性白血病(AML)での応用--純化細胞を用いて
 5.正常核型の急性骨髄性白血病にみられるnucleophosminの遺伝子変異
               <熊野 孝 角光晴子 下田和哉>…131
   nucleophosminとは   NPMが関与する血液疾患
   急性骨髄性白血病におけるnucleophosminの遺伝子変異
   およびそれに伴う局在の変化   NPM遺伝子変異が白血化に及ぼす影響

IV.リンパ球系
 1.Ph陽性急性リンパ性白血病に対する治療戦略 <薄井紀子>…139
   Ph+ALLの概要と従来の治療成績   imatinibを用いたPh+ALLの治療法
   Ph+ALLに対するimatinibとAllo-SCT療法
   imatinibで変わるPh+ALLの治療戦略
 2.B細胞リンパ腫のRI標識抗体療法:未治療濾胞性リンパ腫に対する
             131I-tositumomabの臨床効果 <飛内賢正>…148
   抗体療法の標的抗原   Radioimmunotherapy(RIT)の基本原理
   再発・再燃B-NHLに対する通常量の抗CD20
   radioimmuno-conjugatesの臨床試験
   未治療FLに対する131I-tositumomabの第II相試験
   RIT施行例における治療関連白血病と遅発性骨髄毒性
   AHSCTを併用したRIT   我が国でのRITの臨床開発
 3.濾胞性リンパ腫に対する国際予後指標(FLIPI) <堀田知光>…156
   濾胞性リンパ腫の予後指標作成のための国際共同研究
   FLIPIの妥当性の検証   FLIPIの応用   FLIPIの問題点
 4.マントルセルリンパ腫の治療戦略 <志関雅幸 泉二登志子>…162
   MCLに対する治療法   MCLの治療戦略
 5.アミロイドーシスの診断・治療ガイドライン
                  <大津山賢一郎 河野道生>…170
   アミロイドーシスの分類   ALアミロイドーシス
   ALアミロイドーシスの診断   ALアミロイドーシスにおける検査
   ALアミロイドーシスの治療
 6.Hemophagocytic lymphohistiocytosisにおけるパーフォリン遺伝子異常
               <金兼弘和 上田育代 石井榮一>…178
   HLHとは   HLHにおけるパーフォリン遺伝子異常
   パーフォリン異常によるその他の疾患
   A91VおよびN252Sはpolymorphismかdisease-causing mutationか?
 7.Bcl-6によるリンパ腫発生機構とペプチドによる活性制御 <大野仁嗣>…188
   Bcl-6の標的遺伝子   ペプチドによるBcl-6の活性制御
   Bcl-6のアセチル化による機能抑制
   BCL6転座による悪性リンパ腫マウスモデル

V.血小板系
 1.トロンボポエチン受容体c-MPL遺伝子の活性型変異による家族性血小板血症
             <小松弘和 丁 建民 飯田真介 上田龍三>…196
   家族性血小板血症(FET)とトロンボポエチン(TPO)
   c-MPLと血液疾患   家族性血小板血症(FET)とc-MPL変異
   活性型変異Asn505はいかに細胞内シグナルを活性化するのか
 2.遺伝性血小板減少症の遺伝子異常 <国島伸治>…205
   遺伝性血小板減少症の分類   小型血小板性血小板減少症
   正常大血小板性血小板減少症   巨大血小板性血小板減少症
 3.静脈血栓症のリスク評価 <野上恵嗣 嶋 緑倫>…213
   静脈血栓の誘因からみたリスクファクター   抗リン脂質抗体症候群
   静脈血栓塞栓症のリスクファクターとその強度の評価
 4.トロンボポエチン以外の血小板増加因子 <小松則夫>…220
   TPOと中和抗体   TPO以外の血小板産生を刺激するサイトカイン
   新しい組み換え蛋白の開発   低分子化合物の開発
   ミニ抗体アゴニストの開発
 5.血小板・凝固因子の癌転移における役割 <西川政勝>…229
   腫瘍細胞のもつprocoagulant(凝固原)活性と癌の転移
   癌細胞による血小板の凝集と放出反応
   血小板・凝固系が関与する腫瘍細胞の接着と転移
   血小板・凝固系と血管新生(angiogenesis)
   血小板/フィブリン塊と腫瘍免疫   抗血栓薬とヒト癌の予後

VI.凝固線溶系
 1.常染色体劣性凝固因子欠損症・異常症─病態と治療 <森木隆典>…238
   フィブリノーゲン欠損症・異常症
   第II因子(プロトロンビン)欠損症・異常症   第V因子欠損症・異常症
   第VII因子欠損症・異常症   第X因子欠損症・異常症
   第XI因子欠損症・異常症   第XII因子欠損症・異常症   その他
 2.組織因子をめぐる最近の話題 <岡本貴行 鈴木宏治>…248
   血液凝固反応と炎症反応   血液中を循環するTF
   外因性血液凝固反応とPAR
   TF-VIIa因子複合体に誘導される細胞内シグナル伝達
   TF-VIIa複合体によるPAR-2の活性化
   TFの細胞内ドメインのリン酸化と機能
   血管新生におけるTFの細胞内ドメインの機能
   細胞遊走におけるTFの役割   TFと癌の進展
 3.ワーファリン標的酵素ビタミンKエポキシド還元酵素のクローニングと
           ワーファリン用量の最適化 <宮田敏行 木村利奈>…259
   ビタミンKサイクル   VKORC1   GGCX
   ワーファリン感受性とVKORC1遺伝子多型
 4.血栓溶解反応低下と血栓症 <窓岩清治>…266
   PAI-1と血栓症   組織型プラスミノゲンアクチベーター(t-PA)と血栓症
   thrombin activatable fibrinolysis inhibitor(TAFI)と血栓症
   プラスミノゲンと血栓症
   グローバルテストによる血栓溶解反応の評価と静脈血栓症との関連

索引…273