序
Annual Review血液学も21年目を迎え,2007年版としてAnnual Review 2007を出版する事になった.
1999年版から新しい編集陣によるAnnual Review血液学の刊行がおこなわれるようになった.編集委員の方々の御尽力によって,2007年版でも血液学のAnnual Reviewにふさわしい新しい興味あるテーマが数多くとりあげられ,その内容を研究や臨床の第一線にある専門の方々に解説していただく事ができた.その一部を御紹介すると,VEGFR1陽性骨髄前駆細胞と癌転移,ALL白血病幹細胞,発作性夜間ヘモグロビン尿症のクローン拡大の機序,骨髄増殖性疾患におけるJAK2遺伝子の変異,エトポシド,ミトキサントロンと二次性白血病,再発/難治性多発性骨髄腫に対するbortezomibの効果,miRNAと造血器腫瘍,アスピリン不応症,アンギオスタチンの最近の進展など,基礎,臨床の両方の観点から興味あるテーマが数多くとりあげられている.このようにAnnual Review血液学はまさしく最新の血液学の情報を血液学に興味をもつ人達に提供する最有力な手段である.
わが国には従来Annual ReviewのようなReview誌がなかった.その意味でこのシリーズが始まった事は画期的なことであり,そのためもあって創刊以来好評で毎年多くの方々に読んでいただいてきた.関係する方々のおかげで本年も従来と同じように,よいタイミングで2007年版を出版する事ができた.2007年版の完成に御協力下さった各執筆者の先生方にこの場をかりて心からの御礼を申し上げたい.
本年版の内容も例年の版と同様,血液学の新しい進展を紹介する充実した内容のものとなっており,読者の方々からの御期待に充分答え得たと信じている.最後に監修者として,いままでの版と同様にこの2007年版が血液学に興味をもつ多くの方々に愛読していただける事,またこのReviewを続ける事によって血液学に興味をもつ若い人達がふえる事を強く期待している.Annual Review血液学が世界の血液学の流れを示すReview誌となる事を期待して中外医学社からの刊行に協力させていただくようになってから20年以上たった.あらためて今までの編集委員の方々,執筆者の方々に感謝の言葉を捧げる次第である.
2006年12月
高久史麿
[編集者]
高久史麿 溝口秀昭 坂田洋一
金倉 譲 小島勢二
[著者]
大島久美 神田善伸 森島泰雄
宮本敏浩 赤司浩一 高倉伸幸
片山義雄 沖 将行 安藤 潔
小原 明 山下孝之 西村純一
金倉 譲 三谷絹子 松田 晃
陣内逸郎 朝長万左男 稲葉俊哉
矢ケ崎史治 陣内逸郎 中田慎一郎
勝木陽子 水谷修紀 岩崎浩己
赤司浩一 有信洋二郎 飯田真介
小川誠司 土田昌宏 鈴木律朗
塚崎邦弘 松岡雅雄 藤村欣吾
寺村正尚 大森 司 井上克枝
尾崎由基男 宮川義隆 池田康夫
三室 淳 嶋 緑倫 渥美達也
小林隆夫 野村昌作 窓岩清治
目次
I.造血幹細胞
1.急性GVHDに対する全リンパ節照射とATGによる予防 <大島久美 神田善伸>
GVHD発症のメカニズム GVL効果 TLIとATGを用いた急性GVHD予防
2.非血縁者間移植においてT細胞除去がGVHDとGVLに及ぼす影響 <森島泰雄>
日本におけるGVHD予防法の進歩
欧米におけるGVHD予防のためのT細胞除去法開発: HLA適合同胞間移植
T細胞除去法の改良 日本の非血縁者間移植とT細胞除去法
3.ALLにおける白血病幹細胞 <宮本敏浩 赤司浩一>
急性白血病・リンパ系腫瘍の新たなWHO分類の意義
ALLの白血病化の標的細胞 ALL発症に関与する遺伝子異常
4.VEGFR1陽性骨髄前駆細胞のがん転移における役割 <高倉伸幸>
造血幹/前駆細胞の動員,ホーミング
造血幹/前駆細胞と血管新生,血管安定化
VEGFR1陽性細胞のがんの転移先を決定する
5.造血系細胞のニッチからの遊離における交感神経系の役割 <片山義雄>
CgtノックアウトマウスにG-CSFを投与しても動員が起こらない
造血幹細胞は骨髄ではなく骨組織中に蓄積されたケモカインSDF-1により骨
髄内にとどまっている可能性が高い G-CSFは骨芽細胞の活動性を抑制する
交感神経からのシグナルが骨芽細胞活性を抑制し,造血幹細胞はニッチにと
どまれなくなる
6.骨髄幹細胞を用いた臓器・組織再生 <沖 将行 安藤 潔>
幹細胞: 可塑性と多能性 骨髄内に存在する幹細胞の種類
骨髄中の幹細胞からの組織再生
II.赤血球系
1.免疫抑制療法で治療された小児再生不良性貧血の長期予後 <小原 明>
再生不良性貧血の病態と長期観察の重要性
小児再生不良性貧血AA-92治療研究
treatment-failure free survivalと治療反応例の再発率
AA-92治療研究における6カ月治療反応性
初回免疫抑制療法に対して反応した症例の長期予後
初回免疫抑制療法無効例の予後 治療後に診断される染色体異常
免疫抑制療法を受けた小児のQOL
2.Fanconi貧血の病態の新たな展開 <山下孝之>
新しいFA遺伝子の同定 FA経路の制御と働き FA経路と臨床病態
3.発作性夜間ヘモグロビン尿症のクローン拡大の機序 <西村純一 金倉 譲>
微少PNHクローンの検出とその意義 PNHクローンの推移と臨床症状
PNHクローンの拡大機序
4.骨髄増殖性疾患におけるJAK2遺伝子の変異 <三谷絹子>
JAK-STATシグナル JAK2の遺伝子変異発見の経緯 JAK2遺伝子変異の頻度
JAK2遺伝子変異の臨床的意義
III.白血球系
1.骨髄異形成症候群の日独比較 <松田 晃 陣内逸郎 朝長万左男>
日独の形態学的診断の比較 FAB-RA症例の日独比較
2.7q欠失責任遺伝子候補の単離 <稲葉俊哉>
−7と7q−は等価か 責任遺伝子単離の努力(前世紀の研究のまとめ)
マイクロアレイCGH法とSNPアレイの出現
微小欠失検出に応用するためのシステムの改良
有望な7番欠失責任遺伝子候補の単離
3.CML細胞の体内動態: CMLに対するimatinibの継続投与の必要性
<矢ケ崎史治 陣内逸郎>
CMLのfour compartment model CML幹細胞のイマチニブ感受性
CMLにおける遺伝子不安定性 CML急性転化クローンの発生母地
イマチニブ投与中止は可能か
4.二次性白血病とその発症機構―特にエトポシドとミトキサントロンの関与―
<中田慎一郎 勝木陽子 水谷修紀>
薬剤曝露と二次性白血病 染色体転座の形成 融合遺伝子の機能と発癌
5.好酸球,好塩基球,肥満細胞の発生機構 <岩崎浩己 赤司浩一 有信洋二郎>
好酸球の分化経路と好酸球前駆細胞の純化同定
好酸球コミットメントを制御する転写因子
好酸球のtraffickingを制御するケモカイン
好酸球単独欠損マウス
特発性好酸球増多症候群(HES)とFIP1L1-PDGFRαキメラ遺伝子
好塩基球,肥満細胞の分化経路
好塩基球/肥満細胞前駆細胞の純化同定
好塩基球/肥満細胞分化を制御する転写因子 肥満細胞の新たな機能
全身性肥満細胞増多症(SM)と変異KIT(D816V)遺伝子
IV.リンパ球系
1.再発/難治性多発性骨髄腫に対するbortezomibの効果 <飯田真介>
ユビキチン・プロテアソームパスウェイとボルテゾミブの作用機序臨床第1相試験
骨髄腫に対する臨床第2相試験 骨髄腫に対する臨床第3相試験
再発・難治性骨髄腫に対する併用療法 未治療骨髄腫に対する臨床試験
新規薬剤の開発状況
2.miRNAと造血器腫瘍 <小川誠司>
短鎖RNAの生成とRNAiのメカニズム 発がんとmiRNA
CLLにおけるmiR15a/miR16-1遺伝子の欠失 miR15a/miR
16-1の標的遺伝子 リンパ系腫瘍におけるmiR-155/BIC遺伝子の異常
miRNAとその標的遺伝子 CLLにおけるmiRNAプロファイリング
3.小児のハイリスクALLに対する化学療法と同種造血幹細胞移植の役割
<土田昌宏>
小児VHR群ALLの定義
化学療法と移植の後方視的比較研究matched pair analysis
HLA一致同胞の有無(生物学的偶然性)による割付比較試験(genetic RCT)
Ph1染色体またはBCR-ABL陽性ALL MLL再構成陽性乳児ALL
再発ALL BFMグループのVHR群に対する移植適応
4.ATLL以外の末梢T細胞リンパ腫の遺伝子異常と予後因子 <鈴木律朗>
T細胞リンパ腫とその亜型の頻度 T細胞リンパ腫における染
色体転座と遺伝子異常 非特異型末梢T細胞リンパ腫における
t(5;9)(q33;q22)とITK-SYKのクローニング
今後の新たなキメラ遺伝子の同定される可能性
節性PTCL-Uにおける細胞傷害性分子の発現意義
ケモカイン受容体の発現によるT細胞リンパ腫の分類
T細胞リンパ腫における発現プロファイリング
5.成人T細胞性白血病・リンパ腫の治療の進歩 <塚崎邦弘>
indolent ATLLに対する治療法と長期予後
aggressive ATLLに対する併用化学療法の臨床試験
aggressive ATLLに対する造血幹細胞移植療法
ATLLに対する治療後の微少残存病変の評価
ATLLに対する新たな治療法の開発
6.成人T細胞白血病発がんの新たな分子機構 <松岡雅雄>
HTLV-I調節遺伝子群と細胞増殖 HTLV-Iは“がん”を起こすのか?
ATL細胞におけるHTLV-Iプロウイルスの存在様式
HTLV-Iプロウイルスマイナス鎖によりコードされるHBZ遺伝子
HTLV-I研究におけるHBZ遺伝子の意義
V.血小板系
1.特発性血小板減少性紫斑病(ITP): 治療の進歩 <藤村欣吾>
ITP治療に対する基本概念 本邦におけるITP治療ガイドラインについて
難治性ITPの治療
2.高リスク本態性血小板血症の治療―hydroxyureaかanagrelideか <寺村正尚>
ハイリスクETとは
HUとanagrelideの無作為比較試験の成績anagrelideかHUか?
3.アスピリン抵抗性(不応症) <大森 司>
アスピリンの薬理作用 アスピリン抵抗性の定義,診断
アスピリン抵抗性の機序,分類 アスピリン抵抗性の予後
4.新規血小板凝集メカニズム: 血小板膜糖蛋白CLEC-2と血小板シグナル
<井上克枝 尾崎由基男>
C-type lectin-like receptor 2(CLEC-2)
ロドサイチン刺激によるCLEC-2発現培養細胞の蛋白質チロシンリン酸化反応
CLEC-2による血小板活性化信号 CLEC-2によるSyk活性化メカニズム
コラーゲン惹起血小板凝集との差異 CLEC-2の生体内での役割は何か?
5.ヒト血小板増加薬開発の現況 <宮川義隆 池田康夫>
臨床開発品 前臨床開発品 対象疾患
VI.凝固線溶系
1.フィブリノゲン異常症と血栓症 <三室 淳>
フィブリノゲンの構造と機能 異常フィブリノゲン(血症)の定義と診断
遺伝子異常とフィブリノゲン異常症 フィブリノゲン異常症の症状
血栓傾向を示す異常フィブリノゲンの頻度
異常フィブリノゲンにおける血栓症発症メカニズム
γ鎖C末端に異常のあるフィブリノゲンと血栓症発症
2.血友病インヒビターの病態と治療 <嶋 緑倫>
インヒビターの発生要因について
インヒビターの新たな免疫学的アプローチ
インヒビター治療の新たな動向
3.抗リン脂質抗体症候群と血栓症 <渥美達也>
β2 GPIと抗β2 GPI抗体との相互作用
β2 GPIの機能とその修飾
抗リン脂質抗体による向血栓細胞の活性化とそのメカニズム
補体活性化のかかわり
4.習慣流産と凝固異常: 最近の進歩 <小林隆夫>
無フィブリノゲン血症 先天性第XIII因子欠損症 第XII因子欠乏症
アンチトロンビン欠乏症 プロテインC欠乏症 プロテインS欠乏症
factor V Leiden 抗リン脂質抗体症候群
5.マイクロパーティクルと血栓症 <野村昌作>
血小板由来MP(PDMP)とプロコアグラント活性
単球由来MP(MDMP)と組織因子 内皮細胞由来MP(EDMP)と血栓形成
6.抗血管新生物質: アンギオスタチンの最近の進歩 <窓岩清治>
アンギオスタチンの由来と構造 アンギオスタチンによる血管新生抑制機序
新規抗炎症因子としてのアンギオスタチン
索 引