Annual Review血液学も11年目を迎え,1997年版を出版する事になった.

 1993年版から新しい編集陣によるAnnual Review血液学の刊行がおこなわれるようになったが,編集委員の方々の御尽力によって1997年度版も従来のAnnual Review血液学と同様に新しい興味あるテーマが数多くとりあげられ,研究や臨床の第一線にある専門の方々に執筆していただく事が出来た.このAnnual Review血液学はまさしく現在のわが国の血液学の研究者の実力を示しているといえよう.

 わが国には従来Annual Reviewの様なReview誌がなかった.その意味でこのシリーズが始まった事は画期的なことであり,そのためもあって創刊以来好評で毎年多くの方々に読んでいただいてきた.しかし反面Annual Reviewと名付けた以上一定の期間内に出版されないと間のぬけたものになってしまう.おかげさまで本年も従来と同じ様によいタイミングで1997年版を出版する事が出来た.1997年版の完成に御協力下さった各執筆者の先生方にこの場をかりて心から御礼を申し上げたい.

 本年版の内容も血液学の新しい進展を紹介する充実した内容のものとなっており,読者の方々からの御期待に充分答え得たと信じている.監修者として,今までの版と同様にこの1997年版が血液学に興味を持つ多くの方々に愛読していただける事を強く期待している.Annual Review血液学が世界の血液学の流れを示すReview誌となる事を期待して中外医学社からの刊行に協力させていただく様になってから10年以上がたった.あらためて今迄の編集委員の方々,執筆者の方々に感謝の言葉を捧げる次第である.

                      1996年12月

                               高久史麿

高久史麿  宮崎澄雄  斎藤英彦  溝口秀昭  坂田洋一 編集

著者

中畑龍俊  久米晃啓  多田淳一  須田年生  平山文也  

小林正夫  豊嶋崇徳  原田実根  吉田弥太郎 中尾真二  

月本一郎  小原 明  木谷照夫  梶井英治  松村 到  

金倉 譲  内山 卓  湯尾 明  平野直人  平井久丸  

岡村精一  下田和哉  葛西正孝  塩田真美  森 茂郎  

陰山 克  長谷川稔  戸川 敦  仁保喜之  岡村 孝  

近藤直実  新井田要  二谷 武  宮脇利男  小田 淳  

池田康夫  寺村正尚  清水孝雄  田上憲次郎 諸井将明  

山崎鶴夫  福留健司  窓岩清治  坂田洋一  前川久登  

遠藤安行  大友和夫

目 次

I.造血幹細胞

1.soluble IL-6受容体による造血幹細胞の増幅と分化  <中畑龍俊>   1

IL-6受容体システム  ヒトCD34+細胞上のIL-6R, gp130の発現  sIL-6Rの造血前駆細胞の増殖・分化に対する作用  血球分化に対するサイトカインの作用  造血幹細胞/造血前駆細胞のex vivo増幅に対するsIL-6Rの作用  

2.CD34の構造,機能および臨床応用  <久米晃啓 多田淳一 須田年生>  10

構造  抗体のクラス分け  機能  臨床応用

3.flt3 リガンドの作用と臨床応用への可能性  <平山文也 小林正夫>  18

FLの造血幹/前駆細胞に対する作用  FLのリンパ球前駆細胞に対する作用  FLと KLとの機能的重複  臨床応用への可能性

4.同種造血幹細胞移植の現状と展望  <豊嶋崇徳 原田実根>  25

造血器悪性腫瘍における同種移植療法の位置づけ   非血縁者間移植  同種末梢血幹細胞移植(Allo-PBSCT)  臍帯血移植   造血幹細胞のex vivo増幅  HLA不適合移植,GVLに関する知見

II.赤血球系

1.骨髄異形成症候群における素因と誘因  <吉田弥太郎>  36

MDSの素因  MDSの誘因  治療誘発性MDS(t-MDS)からの

アプローチ  

2.再生不良性貧血におけるFas遺伝子の発現  <中尾真二>  43

再生不良性貧血における造血幹細胞の減少と細胞死  恒常的な造血調節におけるFas抗原の役割  誘導的造血におけるFas抗原の役割  再生不良性貧血患者骨髄造血前駆細胞上のFas抗原  再生不良性貧血患者における骨髄造血前駆細胞上のFas抗原発現亢進の意義  Fas陽性造血前駆細胞の割合が増えている原因  再生不良性貧血のin vivoモデルにおけるFas/Fasリガンド系の関与  今後の展望

3.再生不良性貧血からMDS/AMLへの移行  <月本一郎 小原 明>   51

再生不良性貧血からMDS/AMLへ移行した症例  MDS/AML移行への要因  MDS/AML移行例と7-monosomyの関係  MDS/AMLへの移行とG-CSFの関係  MDS/AML移行を防ぐための今後の方針

4.PIG-A遺伝子と発作性夜間血色素尿症  <木谷照夫>   59

PNHにみられるPIG-A遺伝子の異常  PNH細胞のoligoclonality  PNH細胞のclonal dominance  造血とGPI-APならびにPIG-A遺伝子  GPI-APの細胞間トランスファー  再生不良性貧血(AA)とPNH

5.Coombs試験陰性自己免疫性溶血性貧血の診断と治療  <梶井英治>   73

分類と病態  診断法  診断の現状  抗赤血球自己抗体の  特異性  治療

III.白血球系

1.白血病とトロンボポエチン  <松村 到 金倉 譲>   79

白血病細胞におけるc-mplの発現  TPOが白血病細胞の増殖に与える影響について  白血病細胞におけるTPOの発現  TPOによる白血病細胞の分化誘導について

2.ATL細胞の増殖機構  <内山 卓>   88

HTLV-Iの構造と機能  HTLV-I Taxと細胞分子の相互作用  HTLV-I感染細胞のin vitroにおける増殖  HTLV-I感染細胞のin vivoにおける増殖(造腫瘍性)  ATLと細胞接着分子

3.シグナル伝達阻害剤による白血病の治療  <湯尾 明>   97

細胞内刺激伝達とその特異的阻害剤  チロシンキナーゼ阻害剤  Cキナーゼ阻害剤  その他のシグナル伝達阻害剤の作用

4.白血病の免疫遺伝子治療  <平野直人 平井久丸>  107

B7 分子を用いた免疫遺伝子治療  genistein-抗CD19抗体を用いたbiotherapy  将来に向けて

5.G-CSFレセプターのシグナル伝達機構とその異常  <岡村精一 下田和哉>  114

G-CSFレセプター(G-CSFR)  G-CSFRを介するシグナル伝達  G-CSFRの異常による疾患  今後の展望

6.白血病および悪性リンパ腫の発症とTranslin  <葛西正孝>  130

染色体切断部位の塩基配列  Translin蛋白  Translin蛋白の細胞内分布  Translin蛋白複合体  今後の展望

IV.リンパ球系

1.未分化大細胞型リンパ腫におけるALK-NPM 融合遺伝子と病態 

                    <塩田真美 森 茂郎>  136

ALCLに特異的に発現するリン酸化蛋白質p80の同定  t(2 ; 5) を もつALCLの臨床病理学的意義  

2.リンパ腫の新分類,REAL分類の有用性  <塩田真美 森 茂郎>  142

REAL分類の特徴  REAL分類における項目立て  REAL分類各亜型について  REAL分類の臨床的有用性について

3.Helicobacter pylori感染と悪性リンパ腫  <陰山 克 長谷川稔>  151

H. pylori とその感染経路  胃癌とH. pylori  悪性リンパ腫とH. pylori  悪性リンパ腫の抗H. pylori 抗体陽性率  MALT リンパ腫とH. pylori  胃悪性リンパ腫の染色体異常  遺伝子タイプよりみたH. pylori  H. pylori 感染の診断  胃悪性リンパ腫の治療  今後の展望

4.多発性骨髄腫の治療戦略  <戸川 敦>  159

化学療法  インターフェロンα(IFN)  末梢血幹細胞移植  graft-versus myeloma効果  治療法の選択

5.アミロイドーシスの治療  <仁保喜之 岡村 孝>  169

分類  診断  臨床症状  治療  支持療法  予後

6.Ataxia telangiectasiaにおける悪性リンパ腫と白血病の発症  <近藤直実>  177

ATの概念と臨床  ATにおける悪性腫瘍,特に悪性リンパ腫と白血病の発症  ATの病因遺伝子  染色体の異常と悪性腫瘍の発症  放射線感受性・放射線抵抗性DNA合成と悪性腫瘍の発症およびATM遺伝子ノックアウトマウス

7.X連鎖性無γ-グロブリン血症の遺伝子診断  <新井田要 二谷 武 宮脇利男>  185

XLAとBtk  Btk遺伝子異常解析の実際  遺伝子診断における 注意点  BTKbaseと日本人症例におけるBtk遺伝子異常

V.血小板

1.トロンボポエチンのシグナル伝達と血小板機能  <小田 淳 池田康夫>  194

巨核球分化および増殖と血小板産生−TPO研究の歴史的背景  TPOcDNAのクローニング  ヒトTPO蛋白,cDNAおよびゲノムDNA構造  TPOmRNAの組織分布と転写制御  TPOのin vitroおよびin vivoにおける巨核球系造血作用  TPO受容体c-Mplとその下流にある情報伝達系  TPOによる血小板活性化  今後の展望

2.血小板産生における転写因子  <寺村正尚>  205

NF-E2  GATA-1  c-ski  E2F-1  Egr-1

3.血小板活性化因子受容体と病態  <清水孝雄>  211

日本人の4%がPAF分解酵素を欠損  PAF受容体過剰発現マウスにみられた特徴的所見

4.血小板無力症と血餅収縮  <田上憲次郎>  217

血小板無力症の概念の変遷  血餅収縮  血小板凝集と血餅収縮におけるαIIbβ3の役割のちがい

5.血小板粘着反応の分子機作−最近の進歩  <諸井将明>  228

静的な状態での血小板粘着反応  ずり応力下での粘着反応測定法  コラーゲンとの反応  von Willebrand因子(vWf)との反応   血管内における血小板粘着反応機構

VI.凝固

1.先天性プロテインS欠損症  <山崎鶴夫>  235

PSの抗凝固作用  先天性PS欠損症の分類  先天性PS欠損症の遺伝子解析  先天性PS欠損症の分子生物学的メカニズム  今後の展望

2.プロテインCレセプター  <福留健司>  243

プロテインC経路  プロテインCとプロテインSの細胞への結合  プロテインC/APCの血管内皮細胞への結合  プロテインCレセプターのクローニング  EPCR遺伝子産物の細胞表面での発現およびそのリガンド結合能  EPCRによるプロテインC活性化促進作用  プロテインC経路の抗炎症作用

3.フィブリン分子以外による二次線溶の制御  <窓岩清治 坂田洋一>  252

線溶反応の制御  TAFIの産生と構造  TAFIの機能  TAFIの臨床的意義  プロトロンビナーゼ  おわりに−残された問題と今後の展望

4.low density lipoprotein receptor related protein/α2 macroglobulin receptor  <前川久登>  258

LRP/α2MRの精製  LRP/α2MRの構造  LRP/α2MRの分布,発現  LRP/α2MRの機能  SEC receptor

5.Osler 病の血管異常  <遠藤安行 大友和夫>  268

病態生理  臨床症状と合併症  止血系所見  治療  今後の展望

索 引    273

Annual Review 血液 1996 目次    277