Annual Review血液学も12年目を迎え,1998年版を出版する事になった.

 1993年版から新しい編集陣によるAnnual Review血液学の刊行がおこなわれるようになったが,編集委員の方々の御尽力によって1998年度版も従来のAnnual Review血液学と同様に新しい興味あるテーマが数多くとりあげられ,研究や臨床の第一線にある専門の方々に執筆していただく事が出来た.このAnnual Review血液学はまさしく現在のわが国の血液学の研究者の実力を示しているといえよう.

 わが国には従来Annual Reviewの様なReview誌がなかった.その意味でこのシリーズが始まった事は画期的なことであり,そのためもあって創刊以来好評で毎年多くの方々に読んでいただいてきた.しかし反面Annual Reviewと名付けた以上一定の期間内に出版されないと間のぬけたものになってしまう.おかげさまで本年も従来と同じ様によいタイミングで1998年版を出版する事が出来た.1998年版の完成に御協力下さった各執筆者の先生方にこの場をかりて心から御礼を申し上げたい.

 本年版の内容も血液学の新しい進展を紹介する充実した内容のものとなっており,読者の方々からの御期待に充分答え得たと信じている.監修者として,今までの版と同様にこの1998年版が血液学に興味を持つ多くの方々に愛読していただける事を強く期待している.Annual Review血液学が世界の血液学の流れを示すReview誌となる事を期待して中外医学社からの刊行に協力させていただく様になってから12年もたった.あらためて今迄の編集委員の方々,執筆者の方々に感謝の言葉を捧げる次第である.

                      1997年12月

                               高久史麿

高久史麿  宮崎澄雄  斎藤英彦  溝口秀昭  坂田洋一 編集

著者

梅本有美  中畑龍俊  山口祐司  加藤俊一  山下孝之

三谷絹子  平井久丸  菅野 仁  寺村正尚  小田 慈

萬木 章  清野佳紀  石井榮一  江口真理子 横田昇平

泉二登志子 岡部實裕  宮城島拓人 直江知樹  北村邦朗

岡村精一  山田 尚  湯尾 明  崎山幸雄  北澤由美

小池健一  中村幸嗣  元吉和夫  大西一功  大野竜三

飯野四郎  大津智子  佐々木康綱 溝口秀昭  村岡健司

石井榮一  宮崎澄雄  小田 淳  池田康夫  鈴木宏治

出口 洋  嶋 緑倫  吉岡 章  浦野 元  武谷浩之

鈴木宏治  丸山征郎  窓岩清治  坂田洋一  宮田敏行

血液 1998 目 次

I.造血幹細胞

1.レプチンと造血  <梅本有美 中畑龍俊>   1

レプチン  レプチン受容体  レプチンの造血作用  今後の展望

2.SCL/TAL-1遺伝子と造血幹細胞  <山口祐司>   8

SCL/TAL-1遺伝子の構造  T-ALLにおけるt(1;14)(p33;q11)転座  SCL/TAL-1のcDNAおよび蛋白の構造  SCL/TAL-1の発現  SCL/TAL-1のジーンターゲッティング法による解析  SCL/TAL-1の造血系における役割  SCL/TAL-1の白血病発症への関与  造血系における転写因子の役割  今後の展望

3.子宮内幹細胞移植の現状と展望  <加藤俊一>  14

背景  子宮内幹細胞移植の原理  動物における移植モデル  手技  臨床例の報告  倫理的な問題点と今後の展望

II.赤血球系

1.Fanconi貧血の遺伝子異常  <山下孝之>   20

Fanconi貧血細胞の特徴  Fanconi貧血遺伝子のクローニング  Fanconi貧血遺伝子・蛋白質の構造とその異常  日本におけるFanconi貧血遺伝子異常の解析の現況   Fanconi貧血遺伝子産物の機能  Fanconi貧血における臨床表現型の多様性とその分子基盤

2.不応性貧血の遺伝子異常  <三谷絹子 平井久丸>   27

染色体異常に伴う遺伝子異常  染色体異常とは無関係な遺伝子変異  遺伝的不安定性  テロメラーゼ活性

3.ピルビン酸キナーゼ遺伝子の発現調節  <菅野 仁>   35

赤血球分化に伴うPKアイソザイムのスイッチング  R型PKプロモーターの構造と機能  トランスジェニックマウスを用いたin vivo 解析  5ォ上流域に存在する赤血球特異的エンハンサー  PK遺伝子の転写調節研究とPK異常症の治療法に関する今後の展望

4.再生不良性貧血における免疫学的機序と治療  <寺村正尚>   43

造血抑制因子による障害  自己反応性T細胞による造血抑制  ATGおよびCyA療法  lymphocytapheresis  シクロホスファミド大量療法

5.O157による溶血性尿毒症症候群の治療  <小田 慈 萬木 章 清野佳紀>   50

Verotoxin(ベロ毒素: VT)とその毒性,腎障害のメカニズム  1996年の本邦における腸管出血性大腸菌O157感染症の集団発生とその対応  新しい治療法の開発

III.白血球系

1.乳児白血病の病態とMLL遺伝子  <石井榮一 江口真理子>   64

乳児白血病の臨床像  乳児白血病におけるMLL遺伝子の関与  乳児白血病の病因とMLL遺伝子  MLL遺伝子再構成の検出方法  乳児白血病の治療と予後  今後の展望

2.FLT3/FLK2およびそのリガンドと白血病  <横田昇平>   75

FLT3受容体,リガンドの構造  FLT3, FLの機能  正常組織,白血病におけるFLT3,FLの発現  白血病におけるFLT3遺伝子のtandem duplication

3.白血病におけるmdr1遺伝子およびlrp遺伝子発現と予後  <泉二登志子>   82

mdr1遺伝子およびp-gp  lrp遺伝子およびLRP  今後の展望

4.チロシンキナーゼインヒビター研究の最近の進歩

  Ab1チロシンキナーゼインヒビターによる慢性骨髄性白血病の診断の可能性

             <岡部實裕 宮城島拓人>   84

チロシンキナーゼ阻害剤の種類と作用機序  PTK阻害剤のbcr/ablキナーゼ抑制とCML細胞に対する効果  Abl PTK阻害剤は臨床応用が可能か? 最近の動向と問題点

5.ヒ素による白血病治療: Delicious poison?  <直江知樹 北村邦朗>   97

ヒ素治療の背景と歴史  上海におけるヒ素治療成績   ヒ素の薬理動態  なぜヒ素がAPLに有効なのか?  ATRAのAPL細胞に対する分化誘導機序  ヒ素の分子標的

6.G-CSFレセプター異常と好中球減少症  <岡村精一>  104

G-CSFレセプターとその機能領域  G-CSFRを介するシグナル伝達の概略  重症先天性好中球減少症  SCNと白血病

IV.リンパ球系

1.がん遺伝子と細胞周期  <山田 尚>  111

細胞周期  情報伝達系と細胞周期  がん遺伝子と細胞周期  リンパ系腫瘍と細胞周期関連遺伝子

2.Jak3と免疫不全  <湯尾 明>  119

Jakキナーゼの構造と機能  免疫不全症候群と遺伝子異常  SCIDと遺伝子異常  Jak3の欠損とSCID  その他のIL-2関連ノックアウトマウス  Stat  Jak3のその他の役割  遺伝子治療の展望

3.アデノシンデアミナーゼ欠損症における遺伝子治療の経過  <崎山幸雄>  129

ADA欠損症とは  遺伝子治療臨床研究  問題点と今後の展望

4.血球貪食症候群と悪性リンパ腫  <北澤由美 小池健一>  136

HLHの診断基準  HLHと悪性リンパ腫の関連性  HLHの病態に関与するサイトカイン  HLHにおけるsoluble interleukin-2 receptor(sIL-2 R)の意義  新たな治療法の可能性

5.可溶性Fasリガンドと血液悪性疾患  <中村幸嗣 元吉和夫>  143

白血病・リンパ腫  慢性骨髄性白血病(CML)  多発性骨髄腫(MM)  血球貪食症候群

6.フルダラビンによるリンパ系腫瘍の治療  <大西一功 大野竜三>  150

マウス実験腫瘍およびヒト腫瘍に対する抗腫瘍効果  作用機序  ヒトでの動態  フルダラビンによる臨床試験成績

7.C型肝炎ウイルスと悪性リンパ腫  <飯野四郎>  157

C型肝炎ウイルス(HCV)と感染  クリオグロブリン(C)血症とHCV感染  リンパ腫とHCV感染  インターフェロン (IFN) 療法

8.造血器腫瘍に対する化学療法と劇症肝炎  <大津智子 佐々木康綱>  163

劇症肝炎とは  化学療法とB型劇症肝炎  化学療法とC型劇症肝炎  その他のウイルスによる劇症肝炎

V.血小板

1.トロンボポエチンの臨床応用  <溝口秀昭>  170

巨核球・血小板産生を刺激する因子  TPOの動物における作用  TPOの臨床応用  将来の展望

2.トロンボポエチンレセプター異常と血小板減少症

          <村岡健司 石井榮一 宮崎澄雄>  179

TPOとそのレセプター(c-Mpl)の発見  TPOの発現とその作用  トロンボポエチンレセプター(c-Mpl)の構造とシグナル伝達  

トロンボポエチンレセプター(c-Mpl)の異常と血小板減少

3.cyclooxygenaseと腸管ポリポーシス  <小田 淳 池田康夫>  189

大腸がん予防に関するNSAIDの効果  家族性大腸ポリポーシス(FAP)に対するNSAIDの効果  プロスタグランジン/トロンボキサン産生経路とシクロオキシゲナーゼ  FAPモデルマウスにおけるNSAIDの効果  NSAIDによるCOX阻害作用と抗大腸がん/ポリポーシス効果の関連性  NSAIDによるCOX阻害作用と抗大腸がん/ポリポーシス効果の関連性を支持しない報告  COX-1およびCOX-2ノックアウトマウス

4.アデノシンレセプターと血小板  <鈴木宏治 出口 洋>  196

アデノシンとAR  血小板凝集とAR  アデノシン誘導体の臨床応用の可能性

VI.凝固

1.凝固因子およびその制御因子のgene targetingによる新しい機能の解析

 a.第V因子および第VIII因子  <嶋 緑倫 吉岡 章>  203

第V因子および第VIII因子の構造と機能  第V因子のジーンターゲティング  第VIII因子のジーンターゲティング

 b.組織因子  <浦野 元 武谷浩之 鈴木宏治>  210

TF-VIIa因子相互作用  TF遺伝子の発現調節  組織因子の血液凝固以外における生物活性  TF遺伝子ノックアウト(KO)マウス

 c.トロンボモジュリンとトロンビン受容体  <丸山征郎>  219

トロンボモジュリン(thrmbomodulin,TM),最近の進歩  トロンビンとその受容体  トロンビン/TR-トロンボモジュリンの関係  第2のトロンビン受容体(PAR 3)

2.プラスミノゲン/フィブリノゲンの組織修復に果たす役割  <窓岩清治 坂田洋一>  226

創傷治癒機転  創傷治癒とプラスミノゲンアクチベータ-プラスミン系  新生血管内皮の形成とプラスミノゲンアクチベータ-プラスミン系  創傷治癒とマトリックスメタロプロテアーゼ

3.高ホモシステイン血症と血栓症  <宮田敏行>  237

ホモシステインの代謝  血中ホモシステイン濃度  高ホモシステイン血症の臨床症状  軽度な高ホモシステイン血症  高ホモシステイン血症と心血管系疾患  高ホモシステイン血症による血管傷害メカニズム

索 引    241