序
Annual Review血液学も13年目を迎え,1999年版を出版する事になった.
1999年版から新しい編集陣によるAnnual Review血液学の刊行がおこなわれるようになった.編集委員の方々の御尽力によって,1999年度版も従来のAnnual Review血液学と同様に新しい興味あるテーマが数多くとりあげられ,研究や臨床の第一線にある専門の方々に執筆していただく事が出来た.1999年度版では臍帯血幹細胞移植,MDSの国際予後因子分析,SCID/NODマウスによる白血病病態の解析,HHV8とリンパ系腫瘍,血小板増加症とトロンボポエチン受容体など新しいテーマが数多く紹介されており,Annual Review血液学はまさしく現在のわが国の血液学の研究者の実力を示しているといえよう.
わが国には従来Annual Reviewの様なReview誌がなかった.その意味でこのシリーズが始まった事は画期的なことであり,そのためもあって創刊以来好評で毎年多くの方々に読んでいただいてきた.おかげさまで本年も従来と同じ様によいタイミングで1999年版を出版する事が出来た.1999年版の完成に御協力下さった各執筆者の先生方にこの場をかりて心から御礼を申し上げたい.
本年版の内容も血液学の新しい進展を紹介する充実した内容のものとなっており,読者の方々からの御期待に充分答え得たと信じている.監修者として,今までの版と同様にこの1999年版が血液学に興味を持つ多くの方々に愛読していただける事を強く期待している.Annual Review血液学が世界の血液学の流れを示すReview誌となる事を期待して中外医学社からの刊行に協力させていただく様になってから13年もたった.あらためて今迄の編集委員の方々,執筆者の方々に感謝の言葉を捧げる次第である.
1998年12月
高久史麿
高久史磨 溝口秀昭 小宮山 淳 坂田洋一 金倉 譲 編集
著者
加藤剛二 小寺良尚 小澤敬也 秋山政晴 山田 修
仲野 徹 増田道彦 山下孝之 梶井英治 八幡義人
神崎暁郎 浦部晶夫 大屋敷一馬 池田和真 原田実根
木崎昌弘 村手 隆 内田俊樹 斎藤俊樹 平井久丸
安井耕三 堀内房成 金丸昭久 飛内賢正 堀 利行
内山 卓 和田眞紀夫 河野道生 小川誠司 鈴木律朗
中村栄男 上田龍三 松村 到 金倉 譲 尾崎由基男
鈴木英紀 藤村吉博 千谷晃一 辻 肇 川合陽子
北島 勲 重清俊雄 小林 浩
血液1999 目 次
I.造血幹細胞
1.臍帯血幹細胞移植 <加藤剛二 小寺良尚> 1
臍帯血幹細胞移植の現況 臍帯血バンク 臍帯血幹細胞移植の造血細胞移植における位置付け 臍帯血バンクと骨髄バンクの関係
2.造血幹細胞への遺伝子導入の現状 <小澤敬也> 10
造血幹細胞を標的とした遺伝子治療臨床研究の現状 造血幹細胞への遺伝子導入法と問題点 新しい展開
3.造血幹細胞のテロメアと幹細胞移植 <秋山政晴 山田 修> 17
テロメア テロメレース テロメアおよびテロメレース活性の測定 血液細胞のテロメアとテロメレース 化学療法後のテロメア 移植後のテロメア
4.造血システムの発生と分化 <仲野 徹> 25
造血システムの初期発生 造血幹細胞の発生 白血病の染色体転座部位に存在する遺伝子の機能
II.赤血球系
1.赤芽球癆における胸腺腫の意義 <増田道彦> 32
胸腺腫と赤芽球癆 LGL白血病と赤芽球癆 胸腺腫,赤芽球癆,LDGLの関係
2.Fanconi貧血の原因遺伝子の機能の解明 <山下孝之> 38
Fanconi貧血遺伝子は少なくとも8つ存在する FAA遺伝子異常の解析 Fanconi貧血におけるモザイク(mosaicism)の分子機構と臨床的意義 Fanconi貧血遺伝子とinterferonの作用 FAAとFACの局在と相互作用 FAAのリン酸化とその意義
3.温式自己免疫性溶血性貧血の自己抗原 <梶井英治> 45
Rhポリペプチドの分離 Rhポリペプチドの構造 赤血球膜とRhコンプレックス Rhポリペプチドの機能 抗Rhスクリーニング用パネルセルの作製
4.遺伝性球状赤血球症の遺伝子解析 <八幡義人 神崎暁郎> 50
本症赤血球の膜蛋白異常 病因としての膜蛋白関連遺伝子異常
III.白血球系
1.慢性骨髄性白血病のインターフェロン療法「シタラビンとの併用療法の評価
<浦部晶夫> 60
IFN療法「最近までの知見 Ara-Cの有効性についての背景 IFN療法にAra-C少量療法を加えることの有効性
2.骨髄異形成症候群の国際予後因子分析「International Prognostic Scoring System
<大屋敷一馬> 66
MDSスコアリングシステムの歴史的背景 IPSS作成の経過 IPSSの目指すもの IPSSにおける個々の因子の意義 IPSSの実際 IPSSの今後
3.高リスク群のMDSに対する自家造血幹細胞移植 <池田和真 原田実根> 74
MDSにおける正常造血幹細胞の存在 MDSにおける正常造血前駆細胞の末梢血への動員 MDSに対する自家造血幹細胞移植の治療成績
4.白血病細胞のレチノイン酸耐性機構「レチノイン酸受容体とhistone deacetylase
<木崎昌弘> 79
ATRAによるAPL治療の現況 APLの発症とATRAの分子作用機構 ATRA耐性の分子機構 ヒストンアセチル化を介した転写制御とATRA耐性機構
5.骨髄異形成症候群とp15INK4B遺伝子のメチル化 <村手 隆 内田俊樹> 89
遺伝子メチル化をめぐる近年の動向 癌におけるDNAメチル化の異常 固形癌におけるcyclin dependent kinase (CDK) inhbitor p16およびp15の異常 造血器腫瘍におけるp15,p16遺伝子異常 骨髄異形成症候群におけるp15INK4Bのメチル化
6.SCID/NODマウスによる白血病病態の解析 <斎藤俊樹 平井久丸> 97
モデルマウス全体のながれとSCID/NODマウスの開発 急性リンパ性白血病(ALL) 急性骨髄性白血病(AML) 慢性骨髄性白血病(CML) その他の白血病〔若年性CML(JCML),慢性リンパ性白血病(CLL)〕
7.好中球機能亢進と疾患 <安井耕三> 106
エンドトキシンショック ベーチェット病 その他の疾患
IV.リンパ球系
1.バーキットリンパ腫とL3白血病の治療「予後の著しい改善
<堀内房成 金丸昭久> 113
GMALLグループの成績 その他のグループの成績 我が国でのB-ALL治療の現状
2.悪性リンパ腫のREAL分類と予後 <飛内賢正> 119
Working Formulation(WF) REAL分類
3.成人T細胞白血病リンパ腫とOX40/gp34システム <堀 利行 内山 卓> 130
ATL細胞の臓器浸潤と細胞接着 ATL細胞の接着に関与する未知の接着分子の探索 OX40とそのリガンドgp34 OX40/gp34システムの機能 ATLにおけるOX40の発現異常 OX40の細胞内シグナル伝達
4.慢性リンパ性白血病における新しい遺伝子異常 <和田眞紀夫> 137
染色体分析によるCLLに特異的な染色体異常 分子生物学的解析法によるCLLの遺伝子異常 13q14欠失領域の解析とLeu1,Leu2遺伝子のクローニング
5.HHV8とリンパ系腫瘍 <河野道生> 145
HHV8(KSHV)とは HHV8の産生するサイトカイン
Castlemanユs diseaseでのHHV8感染 骨髄腫でのHHV8感染
骨髄腫患者の骨髄ストローマ細胞へのKSHV感染についての反論
6.急性リンパ性白血病とp16 <小川誠司> 151
p16遺伝子の同定と単離 p16の機能 癌抑制遺伝子としてのp16遺伝子 悪性腫瘍におけるp16遺伝子の不活化とその様式 p19ARF
7.CD3−CD56+白血病/リンパ腫の特徴 <鈴木律朗 中村栄男 上田龍三> 167
Nasal and nasal-type NK cell lymphoma Aggressive NK cell leukemia Blastic NK cell lymphoma/leukemia Myeloid/NK cell precursor acute leukemia Myeloid/NK cell acute leukemia
V.血小板
1.血小板増加症とトロンボポエチン受容体 <松村 到 金倉 譲> 173
ET患者における血清中TPO濃度 ET患者血小板におけるc-mplの発現 ET患者血小板におけるTPOシグナル 家族性血小板増加症におけるTPO遺伝子の異常
2.抗血小板剤「新しい展開 <尾崎由基男> 178
抗血小板剤の必要性と適応 抗血小板剤の種類と特徴
3.血小板活性化のシグナルとαIIbβ3インテグリンの“inside-out”
および“outside-in”シグナル <鈴木英紀> 186
血小板活性化(形態変化,放出反応)のシグナル
αIIbβ3とシグナル伝達
4.von Willebrand病:病態生理と治療の新しい展開 <藤村吉博 千谷晃一> 197
vWF vWD
VI.凝固
1.抗凝固薬の展望 <辻 肇> 206
ビタミンK拮抗薬 未分画(標準)および低分子ヘパリン
トロンビン阻害薬 Xa阻害薬 活性化プロテインC(APC) 組織因子系阻害薬
2.抗リン脂質抗体症候群「病態と治療の最近の進歩 <川合陽子> 215
抗リン脂質抗体症候群(APS)の病態
抗リン脂質抗体症候群(APS)の臨床
3.サイトカインと血栓症 <北島 勲> 225
炎症性サイトカインによる血管内皮細胞と血小板の活性化 炎症性サイトカインによる外因系凝固因子活性化機構 TNF-αによるTF発現の分子機構 サイトカインネットワーク活性化とDIC発症 静脈血栓症とサイトカイン 遺伝子操作マウスを用いたサイトカインと血栓症の関連に関する研究
4.ヒスチジンリッチグリコプロテインと血栓症 <重清俊雄> 236
家族性HRG増加症 先天性HRG欠乏症
5.癌と線溶 <小林 浩> 242
癌浸潤,転移の成立過程 転移抑制のための試み 現在開発,治験中の薬剤
索 引 253