Annual Review呼吸器は呼吸器専門医もしくは専門医を目指す医師を対象としたyear bookとして1986年に発刊され,1年1刊,毎年30から40編の総説をお届けしてきた.この間,IT化の進展に伴い,情報検索と論文の閲覧は医学雑誌の電子化のお陰をもってデスク上で瞬時に行えるようになった.このような医学情報の洪水ともいえるような状況の中で,専門医が必要とする真の情報を得ることは必ずしも容易ではなく,本書の存在意義もその辺りにある.

 Annual Review呼吸器2005は呼吸器領域を,「呼吸器系の生物学」,「疾患の病因と病態」,「診断の進歩」,「治療の進歩」という4つのセクションに分けて,基礎から臨床までそれぞれの第1人者に解説をお願いしている.「呼吸器系の生物学」を見ると,マクロファージの機能やFcレセプターのように古くて新しいテーマもあり,またプロテオミクスや肺の再生,SARSコロナウイルス,ナノテクノロジーといった全く新しいテーマもある.また「疾患の病因と病態」としては,喘息の末梢気道病変とCOPDの気道炎症のようにお互いを補完するようなテーマが並んでいたり,過換気後の低酸素血症やインフルエンザ肺炎のようにともすれば日常臨床で見逃されそうな大切なテーマが取り上げられている.さらに「診断の進歩」ではスパイロメトリーといった古典的機能診断法に加えて,今日的な画像診断,また遺伝子診断などが続いている.「治療の進歩」の項では,ガイドラインや大規模研究を踏まえてさらに前進しようとする治療法やその評価,さらには生物学的製剤や分子標的薬のような最新治療とその反省があげられており興味深いものがある.

 呼吸器病学は,感染症学,免疫・アレルギー学,腫瘍学,そして臨床生理学と多様な局面をもち,高齢化社会を迎えてますますニードの高い学問領域である.多くの若い医学徒がこの道を目指し,そして学びを深めていただきたいと切に望むものである.

 最後に,お忙しい研究,臨床,教育のなかで,多くの論文に目を通し,総説としておまとめいただいた執筆者に心より感謝を申しあげたいと思います.また青木滋社長と,編集担当の荻野邦義氏をはじめ関係の各位に深く感謝します.

  2005年1月

  編集者一同


[編集者]

工藤翔二   土屋了介   金沢 実   大田 健

[著者]

劉 世玉   藤田芳司   高橋恭子   羅 智靖

赤川清子   遠藤章太   中村 晃   高井俊行

阿部信二   吾妻安良太  工藤翔二   海老名雅仁

貫和敏博   光澤博昭   黒木由夫   加瀬哲男

上野晃憲   水島 裕   相沢久道   長瀬洋之

大田 健   青柴和徹   平野綱彦   山縣俊之

一ノ瀬正和  美濃口健治  陳 和夫   谷本高男

今関信夫   大河内康実  松原 修   藤島清太郎

高柳 昇   後藤明輝   深山正久   飛田 渉

三嶋理晃   新実彰男   堀之内宏久  藤本博之

小林紘一   前田隆樹   野間惠之   田中良一

大石和徳   冨岡治明   楠本昌彦   立石宇貴秀

稲垣 宏   玉置 淳   鈴川正之   津田富康

宮下修行   松島敏春   岡三喜男   天野宏一

宮澤輝臣   一瀬幸人   根来俊一


目次

I.呼吸器系の生物学

 1.ゲノミクスからプロテオミクスへ  <劉 世玉 藤田芳司>  1

    ファーマコゲノミクスへの実施ガイドラインの整備の必要性

    プロテオミクスの臨床への応用  バイオマーカーと診断精度の向上

    創薬におけるプロテオミクス

 2.遺伝子発現の調節機構  <高橋恭子 羅 智靖>  9

    高親和性IgE受容体(FcεRI)  α鎖の発現制御機構  β鎖の発現制御機構

 3.ヒト単球由来マクロファージの機能  <赤川清子>  17

    ヒト単球由来Mφのサイトカイン産生能および抗原提示機能

    ヒト単球由来Mφの活性酸素産生能およびそのスカベンジャー機能

    ヒト単球由来Mφおよび肺胞MφのHIV-1増殖制御機能

    ヒト単球由来Mφの結核菌増殖制御機能

 4.マスト細胞とFcレセプター  <遠藤章太 中村 晃 高井俊行>  26

    マスト細胞上のFcRの構造  I型アレルギーにおけるマスト細胞の機能調節とFcR

    自己免疫疾患におけるマスト細胞とFcγRの役割

 5.骨髄幹細胞と肺の再生  <阿部信二 吾妻安良太 工藤翔二>  33

    骨髄から肺へ  肺における幹細胞の検索  肺線維症の新しい考え方

 6.肺疾患とHGF  <海老名雅仁 貫和敏博>  39

    HGFと肺傷害  HGFと肺癌

 7.肺サーファクタントをめぐる最近の進歩  <光澤博昭 黒木由夫>  45

    肺サーファクタントの構造  肺コレクチンによる炎症制御と細菌貪食促進

    SP-Cの最近の知見  SP-Dノックアウトマウスと肺気腫

 8.SARSコロナウイルス  <加瀬哲男>  51

    コロナウイルスの形態とゲノム構造  コロナウイルスの細胞内増殖

    SARSコロナウイルスの起源  SARSコロナウイルスワクチン

    治療薬の候補と分子生物学的研究の成果

 9.医療におけるナノテクノロジー  <上野晃憲 水島 裕>  58

    ナノテクノロジーとは  医療分野におけるナノテクノロジーの研究動向

    ナノDDS製剤  薬物投与方法とナノDDS製剤  呼吸系におけるナノDDS製剤

II.疾患の病因と病態

 1.喘息の末梢気動病変  <相沢久道>  64

    末梢気道とは  気管支喘息における末梢気道の機能異常

    気管支喘息における末梢気道の炎症  治療への応用

 2.喘息とToll-like receptor  <長瀬洋之 大田 健>  73

    Toll-like receptorとそのリガンド  Toll-like receptorとTh1/Th2

    感染による喘息増悪とTLR  TLR多型と気管支喘息

 3.COPDの気道炎症  <青柴和徹>  79

    COPDにおけるサイトカインとケモカイン

    COPDの気道炎症に対する禁煙の効果  COPD治療薬の気道炎症に対する効果

    非可逆的気流制限を呈する気管支喘息とCOPDの相違

 4.呼気凝縮液による病態解明  <平野綱彦 山縣俊之 一ノ瀬正和>  85

    EBCの特徴と採取方法  EBC中のバイオマーカー

 5.睡眠呼吸障害の循環器への影響  <美濃口健治>  92

    睡眠時無呼吸症候群患者の予後  閉塞型睡眠時無呼吸症候群の循環器への急性効果

    閉塞型睡眠時無呼吸症候群の循環器へ与える慢性のメカニズム

    閉塞型睡眠時無呼吸症候群に関連した循環器疾患

 6.過換気と過換気後の低酸素血症  <陳 和夫>  99

    過換気後の低酸素血症  過換気後の呼吸と低酸素血症の原因

    呼吸調節上の問題  Hypocapniaの影響

 7.DADの概念をめぐって  <谷本高男 今関信夫 大河内康実 松原 修>  104

    ARDSとDADについて  DAD/ARDSの病因  DADの病理学的特徴

    DADの病理発生機序  肺胞基底膜の役割  DAD過程における細胞周期の制御

    新生血管形成の役割

 8.炎症性肺疾患とサイトカイン  <藤島清太郎>  111

    肺臓炎/肺線維症  サルコイドーシス  過敏性肺臓炎  ALI/ARDS

    各種炎症性肺疾患とCXCL8  炎症性肺疾患研究の今後

 9.インフルエンザ肺炎  <高柳 昇>  124

    インフルエンザ肺炎の歴史的考察

    高病原性鳥インフルエンザのヒトへの感染,特にインフルエンザ肺炎について

    インフルエンザ肺炎の危険因子・病型・診断・頻度  インフルエンザ肺炎の病理

    インフルエンザ肺炎の画像所見  インフルエンザ肺炎の治療

    インフルエンザ肺炎の予後,インフルエンザによる超過死亡

    インフルエンザ肺炎の予防

 10.じん肺における肺癌の合併─珪肺を中心として  <後藤明輝 深山正久>  133

    分子機構  病理学  疫学および行政的対応

III.診断の進歩

 1.スパイロメトリーの今日的意義  <飛田 渉>  139

    スパイロメトリーは呼吸器系への入力信号  ベネディクト−ロス型よりフロー型へ

    フローボリウム曲線の同時記録  スパイロメトリーの利用

    スパイロメトリーとCOPD  スパイロメトリーとダイナミックな気道閉塞現象

 2.機能的CT−air trappingの検出  <三嶋理晃 新実彰男>  145

    喘息におけるair trappingの検出

    フラクタル解析を用いたair trappingと気腫病変の鑑別  今後の課題と展望

 3.細径気管支鏡  <堀之内宏久 藤本博之 小林紘一>  152

    細径気管支鏡の用途  細径気管支鏡の使用領域

    診断に使用できる処置具について  診断の再現性について

    今後の細径気管支鏡の位置づけ

 4.特発性肺線維症のCT診断  <前田隆樹 野間惠之>  156

    病理学的背景  CT診断−画像所見−  CT診断−感度・特異度−

    画像と予後の関連についての検討

 5.呼吸器科医のための膠原病の診断─肺合併症を中心に─  <田中良一>  163

    膠原病の診断の進め方  膠原病に合併する肺病変

 6.SARSの診断学  <大石和徳>  173

    感染期間と感染様式  臨床症状  臨床ウイルス学的診断

 7.抗酸菌の細菌学的診断  <冨岡治明>  178

    臨床検体よりの抗酸菌の直接検出・同定法についての最近の知見

    抗酸菌の分類ならびに臨床分離抗酸菌の同定に関する最近の知見

 8.MRIと肺癌  <楠本昌彦 立石宇貴秀>  189

    肺腫瘤の質的診断  縦隔浸潤診断  胸壁浸潤診断

    縦隔・肺門リンパ節転移診断  遠隔転移診断 肺機能診断

 9.肺MALTリンパ腫の臨床病理学と特異的遺伝子異常  <稲垣 宏>  194

    概念および病名の変化  MALTリンパ腫  肺原発悪性リンパ腫

    肺MALTリンパ腫

IV.治療の進歩

 1.喘息治療の評価法  <玉置 淳>  200

    呼吸機能の評価  症状の評価  気道炎症の評価  QOLの評価

 2.低1回換気量による肺保護換気の現状と今後の課題  <鈴川正之>  207

    肺保護戦略のまとめ  LTVの有用性を示唆した研究

    “LTV”の問題点その1(LTVは本当にLTVか)

    LTVの問題点その2(LTVの内容は正しく理解されているか)

    LTVの問題点その3(LTVは肺保護戦略の1つにしか過ぎないはず)

    肺保護戦略の今後の課題  現時点での肺保護戦略の使い方

 3.サルコイドーシスの新しい治療ガイドライン  <津田富康>  213

    ステロイド局所療法  ステロイド全身治療の適応  一般的なステロイド治療法

    治療終了・中止の判定  経口ステロイド剤の投与効果  ステロイド薬以外の薬物

 4.市中肺炎のproとcon  <宮下修行 松島敏春 岡三喜男>  220

    細菌性肺炎と非定型肺炎を鑑別する価値があるか?  グラム染色は必要か?

    肺炎の重症度判定を変更するか?  薬剤名で抗菌薬を推奨するか?

    ニューキノロンを第一選択薬として推奨するか?

 5.生物学的製剤に伴う呼吸器感染症  <天野宏一>  226

    TNFの阻害と感染症  海外で報告された感染症

    日本におけるinfliximab(商品名レミケード)市販後調査の結果

 6.気道狭窄のステント療法: 特に気流制限に対するステント留置の生理学的検討

                        <宮澤輝臣>  231

    フロー−ボリューム曲線  チョークポイント

    気管気管支軟化症による機能的気道狭窄  肺癌における気道狭窄

    気管気管支結核における気道狭窄

 7.非小細胞肺癌術後化学療法の再評価  <一瀬幸人>  238

    プラチナ製剤を用いた術後補助化学療法  非プラチナ製剤を用いた術後補助化学療法

 8.イレッサィによる肺障害  <根来俊一>  244

    間質性肺炎/急性肺障害の発生数と頻度  発症例の臨床像と病理像

    行政および企業の対応

    日本肺癌学会「ゲフィチニブの適正使用検討委員会」のガイドライン

索引  250