序
今年も多くの方々のご協力により,Annual Review 免疫 2004が刊行された.すばらしいレビューにより構成されており,各執筆者に心より感謝申し上げる.
本書は1年に一度のレビュー誌であるため,免疫学の進歩をできるだけ多くの領域からとりあげるのが基本で,そのためレビュー数は今年も36に達した.しかし,この1年間の免疫学の進歩がすべて本書にもりこまれたわけではもちろんない.海外滞在中あるいは海外から最近帰国された研究者にも原稿を依頼し,留学先での先端研究もレビューしてもらっているが,基本的には国内研究者が中心になり各自の関連領域の進歩を記しているわけであり,従ってわが国で比較的盛んな研究に片寄りがちであるのは否めない.海外では,たとえばNKをはじめとするキラー細胞上のKIRの研究は自然免疫の潮流が加わり相当に進んでいるし,メモリーT細胞もわが国は研究ポピュレーションも決して多くはなく,一部を除き進んでいる領域とはいえない.細胞内での抗原プロセシングの研究も日本では勝負あったかのような錯覚を起こすほど免疫学会総会でも演題は少なくなっている.しかし,海外では大きなヒットが次々ととばされている.SLEをDC病ととらえる動きも斬新である.編者のひとりの専門領域は腫瘍免疫であるが,胎盤の免疫エスケープ機構がヒト腫瘍免疫不応答性にも関係する鮮やかな研究がなされた.
いずれにしても,後追いでない,斬新なアイデアの研究を高く推奨し,グラントをつけ,評価するシステムをわが国でも確固なものとしないと,アジアだけでも中国や韓国が猛追してきている.本書にはこの1年間のわが国の免疫学の斬新な研究成果が多数紹介されているが,来年以降もそのような新たなパラダイムを免疫学にもたらしたレビューを多数紹介していきたいと考えている.
2003年11月
編者一同
[編集者]
奥村 康 平野俊夫 佐藤昇志
[著者]
岩渕和也 木村元子 中山俊憲 富永眞一 穂積勝人
押川清孝 中山敬一 水田龍信 國澤 純 佐原弘益
山本雅裕 竹田 潔 審良静男 稲葉カヨ 稲葉宗夫
島岡猛士 米原 伸 大越 靖 四本克己 渋谷 彰
鈴木 学 久松理一 Daniel K. Podolsky 白鳥行大
荒瀬 尚 清野研一郎 谷口 克 浅尾裕信 高柳 広
吉村昭彦 花田俊勝 盛 裕之 金城市子 神村洋介
東 みゆき 岩井佳子 中村哲也 山崎元美 大島 茂
渡辺 守 徳久剛史 京泉誠之 楠 洋一郎 大原高秋
笠原善仁 樗木俊聡 瀬谷 司 上堀淳二 赤澤 隆
松本美佐子 光山正雄 小出幸夫 永田 年 鳥越俊彦
明田克之 珠玖 洋 西川博嘉 俵 功 佐々木 茂
中山一郎 今井浩三 田村保明 今井章仁 佐藤昇志
和田芳直 善本知広 中西憲司 山中 昇 戸川彰久
西山千春
目次
I.T細胞
1.innate T cellsの免疫生物学 <岩渕和也> 1
H-2M3拘束性iT細胞 CD1d拘束性NKT細胞 MR1拘束性iT細胞
2.Th1/Th2細胞分化とポリコーム群遺伝子 <木村元子 中山俊憲> 9
細胞の分化と維持 ポリコーム群遺伝子産物による転写制御
ポリコーム群遺伝子による免疫系細胞の分化制御
3.ST2遺伝子産物のTh2細胞を介する免疫機構との関わり <富永眞一> 17
ST2遺伝子の発見の経緯 受容体型ST2遺伝子産物ST2Lの発見
ST2遺伝子のTh2細胞での特異的発現 インターロイキン1受容体クラスター
Th2細胞の機能とST2遺伝子産物の関連 治療への応用の試み
4.T細胞初期分化とNotch <穂積勝人> 26
Notchシグナル Notchシグナルと造血幹細胞の増幅
リンパ球分化環境におけるNotchシグナル Notchシグナル制御分子の役割
II.B細胞
1.PKC-δ遺伝子欠損マウスにおけるB細胞の過剰増殖と自己免疫疾患 <押川清孝 中山敬一> 35
PKCの歴史的発見 PKCファミリーの構造と性質
PKC-δノックアウトマウスにおけるBリンパ球の過剰増殖 Bリンパ球でのIL-6の異常産生
PKC-δノックアウトマウスにおける自己免疫疾患 ヒトの疾患との関わり
2.ポリアミン(スペルミジン)によるRNA/DNA結合の形成と免疫グロブリンクラススイッチ <水田龍信> 42
免疫グロブリンと遺伝子組換え クラススイッチ組換え領域の構造
クラススイッチ制御因子 germline transcriptの意義 スペルミジンの機能
AIDの発見 クラススイッチ組換えのモデル 残された問題点
III.MHC,抗原処理提示機構
1.MHC class I拘束性抗原提示機構における細胞質内プロセッシングと小胞体内プロセッシング <國澤 純> 51
抗原プロセッシングの概略 抗原は何処から?
エピトープ前駆体の産生−細胞質内における抗原プロセッシング−
エピトープ/MHC I複合体の産生−小胞体内における抗原プロセッシング−
2.MHC class IIによる内在性抗原処理提示機構 <佐原弘益> 59
MHC class II-associated invariant chain(Ii)の役割
MHC IIの抗原提示におけるDM/DOの役割 内在性MHC II拘束性抗原の処理,提示機構
IV.自然免疫,マクロファージ・抗原提示細胞
1.アダプター分子により多様性を付与されたTLRシグナル伝達機構
−TIRAPとTRIFのTLRシグナルにおける役割について− <山本雅裕 竹田 潔 審良静男> 66
TLRの細胞内シグナル伝達経路の概観 MyD88依存的経路とMyD88非依存的経路
第2のアダプター分子TIRAPの役割 第3のアダプター: TRIFの同定
TIRドメインを有するアダプター分子群と多様なTLRシグナル伝達機構
2.DCによるT細胞免疫応答の制御 <稲葉カヨ 稲葉宗夫> 77
DCによるT細胞応答の偏向 トレランスにおけるDCの関与
3.スカベンジャー受容体活性を有するケモカインSR-PSOX/CXCL16と免疫系 <島岡猛士 米原 伸> 86
SR-PSOX/CXCL16の有するケモカイン活性
SR-PSOX/CXCL16の有するスカベンジャー受容体活性
ケモカイン活性とスカベンジャー受容体活性に必要なSR-PSOX/CXCL16の部位
4.MAIRファミリー分子と正と負の自然免疫制御 <大越 靖 四本克己 渋谷 彰> 93
paired activating and inhibitory receptorsの概観 MAIR分子
これまで報告されているpaired receptorsの機能 MAIRの機能
5.腸管上皮に発現するPRRs(pattern-recognition receptors)と炎症性腸疾患 <鈴木 学 久松理一 Daniel K. Podolsky> 103
腸管上皮細胞のLPSに対する応答性とPRRsの発現
腸管上皮細胞でのフラジェリン応答性とTLR5の発現 その他のTLRの腸管上皮細胞での発現と機能
Crohn病原因遺伝子としてのNOD2の腸管上皮細胞における発現と機能
V.NK,NKT
1.NK細胞レセプターによるサイトメガロウイルス感染細胞の認識機構 <白鳥行大 荒瀬 尚> 116
ペアー型NKレセプター ウイルスによるMHC class Iの発現抑制機構
ウイルスMHC class I類似分子による宿主免疫逃避機構
ウイルスによる活性化NKレセプターのリガンド発現抑制機構 ウイルス感染とNKレセプターの進化
2.iNKT細胞による自然免疫および獲得免疫応答の制御 <清野研一郎 谷口 克> 126
iNKT細胞の特徴 iNKT細胞の分類とサイトカイン産生・ケモカイン反応性
様々な病態におけるiNKT細胞の関与 iNKT細胞と他の免疫担当細胞との関係
VI.サイトカイン
1.IL-21受容体と免疫応答・調節機構 <浅尾裕信> 135
IL-21受容体とIL-21 IL-21受容体の発現
IL-21受容体における共通受容体γ鎖(γc鎖)の共有 IL-21受容体を介する情報伝達系
IL-21の機能 X-SCIDとIL-2情報伝達系
2.RANKLによる破骨細胞分化制御 <高柳 広> 143
骨代謝の多彩な制御メカニズム 破骨細胞分化の必須因子RANKLとM-CSF
RANKLの細胞内シグナル伝達 破骨細胞分化の転写プログラム
RANKLシグナルを統合する転写因子NFATc1 サイトカインによるRANKLシグナル制御
リウマチ骨破壊と破骨細胞 炎症性骨破壊とRANKL 活性化T細胞による破骨細胞分化抑制
IFN-γとRANKLシグナルのクロストーク 関節炎性骨破壊のメカニズム
IFN-βシグナル欠損による骨粗鬆症 IFN-βによるRANKLシグナル制御とc-Fos
3.SOCS1,SOCS3による炎症性シグナルの制御 <吉村昭彦 花田俊勝 盛 裕之 金城市子> 154
CIS/SOCSファミリー SOCS1とTLRシグナル制御 SOCS3によるTLRシグナル制御
VII.接着,共刺激分子,トラフィッキング,ホーミング
1.癌免疫治療と補助刺激分子 <神村洋介 東 みゆき> 161
補助刺激分子 癌免疫に関わる補助刺激分子 補助刺激制御癌免疫療法
癌免疫治療の新しい展開
2.抑制性共刺激分子PD-L1による免疫回避機構 <岩井佳子> 171
PD-1/PD-L1システムによる抗腫瘍免疫抑制機構
PD-1/PD-L1システムによる抗ウイルス免疫抑制機構
VIII.免疫組織
腸管上皮細胞におけるIL-7産生と粘膜免疫制御 <中村哲也 山崎元美 大島 茂 渡辺 守> 178
腸管上皮細胞におけるIL-7発現と腸管粘膜内リンパ球におけるIL-7R発現
粘膜IL-7機構とGALT形成 IL-7トランスジェニック(Tg)マウスにおける大腸炎の発症
IL-7R高発現T細胞を標的とした慢性大腸炎治療 腸管上皮細胞によるIL-7産生調節機構
IX.免疫記憶,免疫調節,寛容
1.免疫記憶リンパ球分化におけるBcl6機能の新知見 <徳久剛史> 185
BCl6の構造と機能 メモリーB細胞 メモリーT細胞
2.ヒトCD4メモリーT細胞サブセットとその機能 <京泉誠之 楠 洋一郎 大原高秋> 192
メモリーT細胞の分化 ヒトCD4メモリーT細胞サブセット
3.CD244とCD8記憶T細胞機能的分化 <笠原善仁> 202
CD244抗原: 発現の相違と機能的特徴 CD8+T細胞分化と細胞表面発現
CD244陽性CD8+T細胞のTCRレパートワ CD8+T細胞分化段階とTCR excision circle含有量
CD8+T細胞におけるCD244発現の意義
4.IL-15とCD8記憶T細胞の分化増殖 <樗木俊聡> 209
ナイーブCD8+T細胞の維持・活性化とIL-15 メモリーCD8+T細胞の維持とIL-15
X.感染と免疫
1.BCG細胞壁骨格(CWS)による樹状細胞活性化の分子機構 <瀬谷 司 上堀淳二 赤澤 隆 松本美佐子> 216
なぜいまBCG-CWSか? BCG-CWSはTLRを介して樹状細胞成熟化する
BCG-CWSはMyD88依存性にCTLを誘導する BCG-CWS/-PGNは特有の遺伝子群を発現変動する
樹状細胞はTLR非依存性にBCG-CWSを貪食する
2.listeriolysinによるTh1サイトカイン産生誘導 <光山正雄> 224
リステリアの病原因子としてのリステリオリシン リステリアの感染動態と宿主免疫応答
リステリオリシンによるサイトカイン誘導 LLOの実験的応用
3.Ag85分子DNAワクチンによる抗結核細胞性免疫の誘導 <小出幸夫 永田 年> 233
Ag85分子複合体 Ag85分子DNAワクチン Ag85ファミリー分子のT細胞エピトープ
DNAワクチンの接種法 DNAワクチンの効果増強
XI.腫瘍免疫,移植免疫
1.癌の免疫エスケープメカニズム <鳥越俊彦 明田克之> 244
抗原提示分子の発現低下 immunodominantな癌抗原の発現レベル低下
免疫細胞の細胞障害活性に対する抵抗性の獲得 免疫細胞に対する抑制作用の獲得
2.癌免疫調節機構 <珠玖 洋 西川博嘉 俵 功> 251
CD4+CD25+Tregの癌免疫応答への関わり
SEREX同定自己抗原によるCD4+CD25+Tregの誘導
ヒト腫瘍系でのCD4+CD25+T細胞の検討
3.抗体によるヒト癌免疫治療の現状と課題 <佐々木 茂 中山一郎 今井浩三> 259
抗体を用いた癌免疫治療の問題点とその克服 固形癌に対する抗体を用いた癌免疫治療
血液腫瘍に対する抗体を用いた癌免疫治療 癌遺伝子産物ErbB-2に対する抗体を用いた癌治療
4.HSPによる自然免疫−獲得免疫のリンクと癌ワクチン <田村保明 今井章仁 佐藤昇志> 268
HSPによる抗原提示細胞の活性化,成熟 HSPによるクロスプレゼンテーションとそのメカニズム
クロスプレゼンテーションにおける外来性HSP-ペプチド複合体の細胞内輸送経路
抗原提示細胞上に発現するHSPレセプターの同定 danger signalとしてのHSP
danger signalのセンサーとしてのHSPレセプター
HSPによる樹状細胞の活性化(licensing)とCD8+T細胞活性化: HSPレセプターは2種類存在するのか?
HSPによる自然免疫と獲得免疫のリンク
XII.免疫疾患
1.フォスファチジルセリン露出と補体−抗リン脂質抗体とアポトーシス− <和田芳直> 277
アポトーシス細胞表面へのPS露出と補体活性化 PS露出と補体活性化
アポトーシス細胞の貪食に関わる分子 アポトーシス細胞貪食と補体
アポトーシスと自己免疫 C1qと自己免疫 自己抗体による病態形成と補体,aPL
アポトーシスとaPL
2.アトピー性皮膚炎とサイトカイン <善本知広 中西憲司> 284
TSLPによるADの誘導 IL-18によるADの誘導
3.上・下気道のアレルギーと抗原ペプチドによる免疫療法 <山中 昇 戸川彰久> 291
アレルギー性鼻炎と気管支喘息の合併頻度 上・下気道のアレルギーが高率に合併するのはなぜか
即時型アレルギー反応と遅延型アレルギー反応 上・下気道アレルギーの診断と治療
ステロイド治療の有効性 花粉抗原ペプチドによる免疫療法
4.アトピー関連遺伝子の新しい展開 <西山千春> 300
IgE受容体α鎖遺伝子構造と発現調節機構 IgE受容体α鎖発現を制御するもう一つのプロモーター
IgE受容体β鎖遺伝子構造と発現調節機構 遺伝子多型とIgE受容体発現
索引 311