ご承知のとおり国立大学が2004年4月から法人化された.公立大学の一部も時を同じくして法人化された.大学の自主性が尊重され,改革がしやすくなるとの前提でなされたものである.しかし,現実的にはそうはなっていない.一番の心配は大学に在籍する研究者の士気である.大学に以前のようなアカデミックな独特のゆとり感がどんどんなくなってきていると感じるのは私どもだけではないであろう.加えて,将来的な経済効率をきちんと頭においた研究はもちろん大切であるが,特許や実用化だけが行き過ぎた形で前面に出され,近視眼的な研究が優先される傾向にある.基礎研究が大事といわれつつも,国策としてはその方向にない.研究者を勇気づけるのは新しいパラダイムの発見であり,それらを次々と成し遂げるために大学が存在しなくてはいけない.そのためにどうするかの戦略が全く欠けているような気がしてならない.大学で研究することに魅力がなくなったら,この国はたいへんなことになる.

 このような厳しく先のみえない時代であるが,幸いなことに免疫学の研究は活況を続けている.今年も免疫学の新しいパラダイムや考え方を意味するようなレビューがたくさん寄せられた.さっとでも一読することにより免疫学の大きなうねりを感じることができる.しかもその多くが日本発である.大変嬉しいことである.最後にいずれも執筆者は超ご多忙の方々ばかりである.心よりお礼申し上げる.

  2004年11月

   編者一同


[編集者]

奥村 康  平野俊夫  佐藤昇志

[著者]

坂口教子  坂口志文  堀 昌平  南部由希子

菅井 学  清水 章  竹森利忠  池田英之

豊田 実  田村保明  大浦 淳  佐藤昇志

本田哲也  坂田大治  成宮 周  山本雅裕

審良静男  松沢 厚  三枝かおる 一條秀憲

綾部時芳  蘆田知史  河野 透  高後 裕

中山俊憲  橋本香保子 若尾 宏  小笠原康悦

尾崎暁美  関 陽一  久保允人  高岡晃教

佐藤まりも 田原秀晃  松永卓也  田中正人

岩波礼将  高浜洋介  吉田尚弘  小坂 朱

松崎順子  張 悦   西村孝司  松崎勝巳

宮平 靖  久枝 一  姫野國祐  原田 守

杉山治夫  日野田裕治 石田高司  上田龍三

設楽研也  山下直秀  赤塚美樹  山田 亮


目次

I.T細胞

 1.ZAP-70によるT細胞選択偏移と関節リウマチ  <坂口教子 坂口志文>  1

   SKGマウスに自然発症する自己免疫性関節炎  SKGマウスの遺伝子異常

   SKGマウス関節炎の発症機構

 2.FoxP3による免疫制御  <堀 昌平>  8

   制御性T細胞による免疫制御  優性寛容機構の破綻による自己免疫疾患

   FoxP3による内在性制御性T細胞分化の制御  制御性T細胞の多様性

   FoxP3の上流・下流シグナル

II.B細胞

 1.イムノグロブリンクラススイッチとヒストン─クロマチンアセチル化 

           <南部由希子 菅井 学 清水 章>  17

   V(D)J組換えとヒストンアセチル化  クラススイッチ組換えの標的特異性制御機構

 2.記憶B細胞産生維持と最終分化の分子機構  <竹森利忠>  25

   一次免疫反応における胚中心反応  記憶B細胞の維持

   記憶B細胞の生物学的特性にかかわるBCRシグナル伝達

III.MHC,抗原処理提示機構

 1.腫瘍のクラスII発現を制御するCIITA遺伝子の多様性  <池田英之 豊田 実>  36

   CIITAとMHCクラスIIプロセッシング  腫瘍細胞のCIITA発現  頭頸部扁平上皮癌

   脳腫瘍  造血器腫瘍  消化器癌  CIITAを用いたクラスII拘束性抗原同定の試み

 2.熱ショック蛋白質(HSP)-ペプチド複合体による新しいMHCクラスI抗原提示経路

           <田村保明 大浦 淳 佐藤昇志>  45

   クロスプレゼンテーションとは  HSP-ペプチド複合体による

   クロスプレゼンテーションとdanger signal  抗原提示細胞上のHSP受容体の同定

   クロスプライミングにおける提示抗原は何に由来するのか?

   TLRリガンドとクロスプレゼンテーションを実行する樹状細胞

   HSP-ペプチド複合体を用いた癌ワクチン

IV.自然免疫,マクロファージ・抗原提示細胞

 1.PGE2による皮膚Langerhans細胞機能制御  <本田哲也 坂田大治 成宮 周>  53

   PGE2と樹状細胞遊走機能  補助刺激分子発現,抗原提示機能におけるPGE2の役割

   サイトカイン産生におけるPGE2の制御  DC機能調節と他のプロスタノイド(PGD2)

 2.TLR4を介するシグナル伝達機構におけるTRIF/TRAMの役割  <山本雅裕 審良静男>  62

   TIRドメインを介したTLRの細胞内シグナル伝達

   TIRドメインを有するアダプター分子群とMyD88非依存的経路

   TLRシグナル伝達経路におけるTRAMの役割

   TRIF/TRAMを介したMyD88非依存的経路にかかわるシグナル伝達分子

 3.ストレス応答キナーゼASK1による自然免疫シグナルの制御機構

           <松沢 厚 三枝かおる 一條秀憲>  70

   MAPキナーゼカスケードとASK1  自然免疫シグナルにおけるASK1の関与

   ASK1の自然免疫における生理機能

 4.腸粘膜上皮におけるPaneth細胞の自然免疫機能と病原体認識機構

           <綾部時芳 蘆田知史 河野 透 高後 裕> 81

   内因性抗菌ペプチドをもつPaneth細胞

   感染刺激でPaneth細胞から分泌されるα-defensinの作用

   病原体認識機構  Paneth細胞と難治性疾患

V.NK,NKT

 1.内在性リガンド認識とIL-12による自然免疫系と獲得免疫系の橋渡し

    −NKT細胞活性化の新しい分子機構  <中山俊憲 橋本香保子>  88

   NKT細胞の特徴  Th1/Th2細胞分化と免疫反応,活性化NKT細胞による調節

   自己抗原認識とIL-12によるNKT細胞の活性化

 2.新規NK受容体KLRE1による同種移植拒絶  <若尾 宏>  93

   結果

 3.NKG2Dとそのリガンドの機能と役割  <小笠原康悦>  102

   NKG2Dレセプターの構造とシグナル伝達  NKG2Dリガンド

   NKG2Dの発現調節および機能  腫瘍とNKG2D  自己免疫疾患におけるNKG2D

   ウイルス感染におけるNKG2D

VI.サイトカイン

 1.SOCS3によるTh-2介在アレルギー性反応制御  <尾崎暁美 関 陽一 久保允人>  110

   SOCS3分子の構造と機能  SOCS3の発現とアレルギー性疾患

   Socs3遺伝子改変マウスにおけるアレルギー性疾患モデル

 2.I型インターフェロンによるp53を介した,抗腫瘍作用・抗ウイルス作用の新規制御機構

           <高岡晃教>  118

   インターフェロンとp53  インターフェロンによる抗腫瘍作用におけるp53の役割

   免疫応答におけるp53の役割に関する従来の報告

   感染細胞でのp53による新たなアポトーシス誘導機構

 3.IL-23による免疫制御  <佐藤まりも 田原秀晃>  128

   IL-23とは  IL-23の細胞性免疫における役割  IL-23と自己免疫疾患

   IL-12ファミリー

VII.接着,共刺激分子,トラフィッキング,ホーミング

 1.急性骨髄性白血病の予後因子としての接着因子─VLA-4を標的とした白血病制御

           <松永卓也>  135

   CD56(NCAM)  CD62L(L-selectin)  CD44-6v  CD11b  CXCR4

   CD117/CD15  CD40/CD11a  VLA-4(α4β1-integrin)

 2.食細胞によるアポトーシス細胞の貪食機構  <田中正人>  149

   死細胞貪食の分子機構  死細胞貪食に関与する分子  死細胞の貪食異常と自己免疫疾患

VIII.免疫組織

 1.胸腺の器官形成−動物モデルによるアプローチ  <岩波礼将 高浜洋介>  155

   胸腺発生にかかわる細胞群  胸腺発生にかかわる遺伝子群

   ゼブラフィッシュを用いた胸腺研究  メダカを用いた胸腺研究

 2.末梢リンパ器官形成にかかわる細胞と分子について  <吉田尚弘>  162

   発生過程のLNに存在する特殊な細胞  末梢リンパ器官構築にかかわる間質細胞

   PP原基発生とLN原基発生との違い  末梢LN原基に細胞をよび集めるもの

   LTβRから先のシグナル  LTiあるいは器官固有末梢リンパ器官形成のマスター遺伝子

IX.免疫記憶,免疫調節,寛容

  免疫バランス制御におけるAsialo GM1+Gr-1+CD8+メモリータイプT細胞の重要性

           <小坂 朱 松崎順子 張 悦 西村孝司>  170

   メモリーCD8+T細胞への分化とその機能的特徴

   セントラルメモリーとエフェクターメモリー

   ASGM1+CD8+メモリータイプT細胞によるTh1免疫の活性化

   免疫応答初期におけるメモリータイプCD8+T細胞の重要性

X.感染と免疫

 1.抗菌性ペプチドとinnate immunity  <松崎勝巳>  177

   作用機序と役割  抗菌性ペプチド同士の相乗効果  哺乳類細胞との相互作用

   新薬の開発に向けて

 2.寄生虫感染症に対する免疫反応  <宮平 靖>  183

   細胞内寄生体感染症に対するCD8陽性T細胞の役割  CD8陽性T細胞の定量手法

   CD8陽性T細胞の免疫応答はブースト可能である

   Trypanosoma cruzi感染モデルを用いたT細胞免疫応答誘導手法の開発実験系

XI.腫瘍免疫,移植免疫

 1.ユビキチン-プロテアソームシステムの応用による癌遺伝子免疫

           <久枝 一 姫野國祐>  192

   CD8+T細胞の活性化  ユビキチン-プロテアソームシステム

   ユビキチン-プロテアソームシステムを標的とした免疫療法

 2.T細胞とIgG抗体に認識される癌関連抗原ペプチドと癌ワクチン療法  <原田 守>  201

   CTLエピトープペプチドに対するIgG抗体

   CTLエピトープペプチドをクラスII拘束性に認識するCD4陽性T細胞の誘導

   CTLエピトープペプチドのワクチン後に誘導されるPSA蛋白反応性IgG抗体とCD4陽性T細胞

   癌免疫療法に伴うepitope spreading

 3.WT1由来ペプチドによる癌ワクチン臨床試験  <杉山治夫>  209

   Wilms腫瘍遺伝子WT1  WT1は白血病および固形癌で高発現する腫瘍拒絶抗原である

   白血病や骨髄異形成症候群の患者はWT1蛋白に対して免疫応答している

   WT1ペプチドを用いた白血病に対する免疫療法の第I相臨床試験

   WT1ペプチド投与の効果と副作用

 4.mRNA-DCを用いた癌免疫治療  <日野田裕治>  216

   DCへのmRNA導入  CTLの誘導  臨床試験  新たな戦略  total RNA

 5.成人T細胞性白血病/リンパ腫における新規標的分子としてのケモカインレセプター: CCR4

           <石田高司 上田龍三 設楽研也>  223

   ケモカインとは  ATLLとは  ケモカインレセプターCCR4とATLL

   なぜ,大多数のATLLはCCR4を発現しているのか

   CCR4陽性ATLLの皮膚浸潤のメカニズム

   ATLLにおいてCCR4の発現が予後不良因子となるのはなぜか

   悪性腫瘍に対する抗体療法の現状  抗体の作用機序: ADCC活性の重要性

   ADCC活性を増強するアプローチ  低フコース型抗CCR4抗体の開発

 6.自家メラノーマ─樹状細胞による癌ワクチン第I相臨床研究  <山下直秀>  233

   治療用のDCについて  第I相臨床研究の結果

 7.造血細胞特異的に発現する新規マイナー組織適合抗原遺伝子BCL2A1  <赤塚美樹>  241

   mHAgの概略  造血細胞特異的に発現するmHAgを標的とした免疫療法

   BCL2A1遺伝子にコードされる新規mHAg

XII.免疫疾患

  関節リウマチ関連遺伝子としてのPADI4  <山田 亮>  249

   RAの遺伝性  シトルリン化: アルギニン残基の翻訳後修飾

   抗シトルリン化ペプチド抗体と関節リウマチ

   PADI4遺伝子関節リウマチ感受性バリアントの同定

索引  257