研究者には柱を立てる人と,その柱の間に一生かかって営々と1枚の煉瓦を積む人との2種類がある.誰しも目立つ柱を立てようと思うのだが,少数の才能のある人々だけが,努力し,運にもめぐまれて成功する.大多数は柱と思って作って運んでいるのは実は一枚の煉瓦なのである.これは一生懸命やった結果だから仕方がない.柱だけでは建物はできないから,その努力も惜しんではならない.あまり勧められないのは,他人の立てた柱に,小さなナイフで彫刻めいたことをする事である.

 本書は最近立てられた柱の位置を出来るだけはっきりさせ,建物の構成が少しでも見通せるようになることを願って編集された.毎年少なくともこれだけを読めば,おぼろげながら壮麗な全貌がうかがわれ,急速に進展する免疫学についていくことが出来るであろう.読者は,更に新しい柱をどこにうち立てるかを考えていただきたい.また,どの柱の間に臨床への応用を築くことが出来るかを真剣に考えていただきたい.

 幸い本年も第一線の,第一級の若手研究者が,一瞬の時も惜しい中を,貴重な時間をさいて執筆してくださった.深い感謝を捧げたい.またこの有意義な企画を推進された中外医学社の各位に敬意を表する次第である.

1997年10月

編者一同

菊地浩吉  矢田純一  奥村 康 編集  

著者

藤本真慈  畑 啓明  河本 宏  吉田由紀  垣生園子  

南野昌信  石川博通  榊田 悟  曽ヶ端克哉 鳥越俊彦  

松岡多香子 松下 祥  佐藤 宏  崔 俊青  谷口 克  

黒崎知博  工藤 明  東 隆親  寺内亜希子 高橋栄夫  

鍔田武志  広瀬幸子  片桐達雄  長谷川公範 矢倉英隆  

豊岡和人  たい旭光  藤原大美  渋谷 彰  仙道富士郎  

松澤秀一  高山晋一  一條秀憲  宮園浩平  石谷昭子  

吉野温子  小園晴生  義江 修  竹田 潔  審良静男  

竹内雅博  佐原弘益  佐藤昇志  高橋延昭  菊地浩吉  

新原直樹  田中啓二  池田英之  Pierre G.Coulie  

細川真澄男 海老原伸行 鈴木和男  名倉 宏  大谷明夫  

神奈木真理 満屋裕明  太田康男  高井俊行

免疫 1998 目 次

I.T細胞

1.T細胞への分化と転写因子   <藤本真慈 畑 啓明 河本 宏>   1

T細胞分化の過程  T細胞分化に関与している転写因子  T細胞初期分化におけるTCF-1,GATA-3の役割

2.pre-TCRα鎖の発現と機能   <吉田由紀 垣生園子>   9

pTαの発現  pTαの機能  その他のpre-TCR候補分子

3.腸管上皮内T細胞の胸腺外発達分化と機能   <南野昌信 石川博通>   18

IELの特性と胸腺外発達分化  腸管局所で活性化されるIEL  IELの生理的機能  今後の展望

4.T細胞アナジーとIL-2遺伝子の転写調節   <榊田 悟>   24

IL-2遺伝子の発現に関わる核内転写因子  T細胞アナジー

5.T細胞における細胞周期制御の分子機構   <曽ヶ端克哉 鳥越俊彦>   34

T細胞抗原受容体の構造と機能  IL-2受容体の構造と機能  末梢T細胞の細胞周期制御機構  末梢T細胞の細胞死抑制機構

6.T細胞エピトープとTh1/Th2細胞の分化   <松岡多香子 松下 祥>   42

co-stimulatory signalとTh1/Th2  抗原の濃度とTh1/Th2  T細胞エピトープの構造とTh1/Th2  MHCを介するシグナルはAPC応答を変化させる

7.Vα14NKT細胞欠損マウス   <佐藤 宏 崔 俊青 谷口 克>   50

Vα14NKT細胞欠損マウスの表現型  Th1-Th2バランス制御との関係  IL-12による抗腫瘍効果との関係

II.B細胞

1.B細胞レセプター(BCR)シグナルとチロシンキナーゼ群   <黒崎知博>   58

BCRの構造  BCR刺激による細胞内PTKの活性化  PTK下流のシグナリング  IgH鎖細胞内領域の機能  BCR及びBCRシグナル分子のB細胞発生分化における機能

2.B細胞の分化とPax-5   <工藤 明>   69

B細胞初期分化の分子機構  Pax-5のB細胞分化における役割  B細胞分化を制御する転写因子のカスケード

3.Ig遺伝子の転写活性と体細胞突然変異   <東 隆親 寺内亜希子>   79

Ig遺伝子の発現を制御する調節因子  体細胞突然変異  遺伝子導入技術を用いた体細胞突然変異とタンパク発現の研究

4.抗体のaffinity maturationと抗体の分子構造   <高橋栄夫>   86

germline diversityとsomatic mutationに伴う抗原結合部位構造の変化  抗NP抗体におけるaffinity maturation  抗原結合部位に存在する構造多形とaffinity maturation  kinetic maturation

5.B細胞活性化の調節   <鍔田武志>   93

抗原の性状とsIgシグナル  sIgを介する負のシグナルとそれを阻害する共刺激  共受容体によるsIgを介するシグナルの調節  負のフィードバック

6.自己反応性B細胞の出現におけるFas-FasL系の関与   <広瀬幸子>   100

正常マウスでのB細胞免疫寛容機構  IprマウスのB細胞免疫寛容機構の破綻  (NZB×NZW)F1マウスのB細胞免疫寛容機構の破綻

7.B細胞レセプターとチロシンホスファターゼ   <片桐達雄 長谷川公範 矢倉英隆>   107

CD45によるB細胞レセプターシグナルの制御  SHP-1とB細胞レセプター  B細胞レセプターシグナルとPEP

III.接着分子・補助シグナル分子

1.Transmembrane 4 superfamily(TM4SF)−T細胞活性化におけるCD9の役割−        <豊岡和人   旭光 藤原大美>   118

TM4SF  TM4SFの機能  T細胞におけるCD9の役割

2.キラーリンパ球とDNAM-1(ダム1)   <渋谷 彰>   127

キラーリンパ球活性化レセプター群  新たにみいだされたキラーリンパ球活性化レセプターDNAM-1  MHCクラスIを認識するキラーリンパ球活性化抑制レセプター  正と負のシグナルによるキラーリンパ球の活性化制御機構

3.白血球の血管外遊走を修飾する新しい細胞膜糖蛋白   <仙道富士郎>   138

細胞膜上における分子間相互作用を介したインテグリン結合性の制御  新しいインテグリン機能調節分子GPI-anchored regulator of integrin function-1(GRIF-1)  白血球遊走の分子機構

IV.アポトーシス

1.多機能分子としてのBAG-1   <松澤秀一 高山晋一>   146

BAG-1の分子構造  BAG-1の機能  BAG-1の発現調節

2.アポトーシスシグナル伝達機構におけるASK1の役割   <一條秀憲 宮園浩平>   155

MAPキナーゼカスケードの構成  アポトーシスシグナル伝達経路としてのMAPキナーゼカスケード  ASK1の機能  ASK1の活性制御機構

V.抗原提示・MHC

1.HLA class Ibの発現と機能   <石谷昭子>   163

HLA-E  HLA-G

2.T細胞レセプターとMHCの相互作用と分子構造   < 野温子 小園晴生>   176

TCR-MHC/ペプチド複合体間相互作用  TCR-MHC/ペプチド複合体の3次構造  新しく想起される問題点

VI.サイトカイン

1.新規リンパ球特異的CCケモカインTARC,LARC,ELC,SLC,PARC   <義江 修>   188

ケモカインスーパーファミリーとケモカインレセプター  ケモカインの生物作用  TARCとCCR4  LARCとCCR6  ELCとCCR7  SLC  PARC

2.STATファミリーのノックアウトマウス   <竹田 潔 審良静男>   202

STATファミリー  STATの活性化  STATファミリーのノックアウトマウス  STATノックアウトマウスからの知見

3.IL-1レセプターのシグナル伝達機構   <竹内雅博>   209

IL-1レセプター  IL-1によって誘導される細胞内シグナル

VII.腫瘍免疫

1.癌拒絶抗原ペプチドによる治療   <佐原弘益 佐藤昇志 高橋延昭 菊地浩吉>   216

腫瘍拒絶抗原ペプチドの分類  抗原ペプチドとクラスIとの親和性,CTL反応性  natural antigenic peptideの同定の重要性  抗原ペプチドを用いた新しい免疫療法  癌におけるCTLからのエスケープ機能の新発見

2.腫瘍拒絶抗原エピトープ生成とプロテアソーム   <新原直樹 田中啓二>   226

腫瘍拒絶抗原ペプチド  クラスI-MHC結合ペプチド生成の分子機構  プロテアソームの作用機構モデル  プロテアソームとPA28による腫瘍拒絶抗原ペプチドの生成

3.腫瘍特異的キラーT細胞に発現するキラー抑制性および活性化レセプター分子   <池田英之 Pierre G.Coulie>   236

ヒトNKRクローニング  T細胞に発現するNKR  LB33システムとCTL  KIRのリガンドであるクラスIに結合しているペプチドはKIR特異的か?

4.LAK細胞遊走因子・阻止因子   <細川真澄男>   249

LAK細胞の腫瘍組織集積性  化学療法後腫瘍組織におけるLAK-attractantおよびLAK-MIFの産生

VIII.免疫疾患

1.眼疾患とアポトーシス・Fas/Fasリガンドシステム   <海老原伸行>   256

眼の免疫学的特殊性とFasLの発現  眼疾患との関連  Fasリガンドのパラドックス

2.好中球細胞質自己抗体−ANCA   <鈴木和男>   266

血管炎の血清診断マーカーとしての好中球の細胞質自己抗体ANCA  ANCAの標的蛋白質の同定−P-ANCAとC-ANCAからMPO-ANCAおよびPR3-ANCAへの進展  ANCAの対象疾患  MPO-ANCAと病態  ANCA対応抗原の分子性状  エピトープ解析  MPO-ANCA関連疾患患者の好中球機能  好中球の過剰反応の抑制の薬剤  その他の治療をめざした研究  モデル動物による病因解明と治療研究  第7回国際ANCAワークショップおよびANCA会議(Melbourne)での開催内容の報告

3.粘膜免疫の進歩と疾患への応用   <名倉 宏 大谷明夫>   279

粘膜バリア−粘液と分泌型IgA  上皮細胞とリンパ球の相互対話−上皮細胞間リンパ球  粘膜のユニークなリンパ装置「パイエル板  粘膜免疫機構による全身免疫機構の制御−経口免疫寛容

4.ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に対する宿主防御機構   <神奈木真理>   289

ウイルスの細胞親和性とHIV感染副レセプター  HIV初感染におけるウイルス選択とHIV副レセプター  急性期における生体防御  無症候期のHIV複製  無症候期のCD8陽性T細胞依存性HIV抑制機構  ケモカイン,IL-16とCD8細胞因子  HIV複製抑制機構の破綻

5.AIDS治療薬の進歩   <満屋裕明>   297

ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤とその臨床  非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤  プロテアーゼ阻害剤とその臨床  逆転写酵素阻害剤に対する薬剤耐性HIV-1の出現  プロテアーゼ阻害剤に対する耐性変異株の出現  多剤併用療法はいつ開始するか?  多剤併用療法はどのようなときに変更するか?

IX.その他

1.マスト細胞における高親和性IgE受容体シグナル伝達機構におけるSyk/Cbl複合体について   <太田康男>   306

マスト細胞における高親和性IgE受容体(FcεRI)刺激による活性化機序について−特にSykチロシンキナーゼの活性化機序について  プロトオンコジンプロダクトp120Cbl  マスト細胞におけるSyk/Cbl複合体

2.Fcレセプター ノックアウトマウス   <高井俊行>   312

FcRの分子構造の概観  FcεRIαおよびFcRγノックアウトマウスにおける過敏症反応の消失  FcεRIIノックアウトマウスとIgE産生  FcγRIIBノックアウトマウス  抗原提示とFcR

索 引      321