新世紀に入り一段とIT化が加速され,いつでもどこでも情報にアクセスできる時代を迎えている.情報が豊かなこと自体望ましいことではあるが,情報はいわば食材であり調理しなければ食べることができず,それ自体無価値である.情報は私達の知的体系の中に消化吸収され再構築されて初めて知識としてその意味をもつことになる.

 翻ってITシステムにより収集できる情報を知識化するとなると容易ではない.まず一定の基礎知識がないとこの情報を判読し理解することはできない.またよしんばそれを理解したとしてもすでに確立された知識体系の中でそれをどう評価し,どう再編成するかといったノウハウは慢然と情報を眺めていても得られない.この意味でIT化の時代を迎えているにもかかわらず,本書の付加価値はむしろ増大したといえるであろう.すなわち本書は各専門家が当該領域におけるおびただしい最近の研究の結果とその動向を全般的に把握し,そのエッセンスを簡潔に再現してくれるものである.いわば各専門家が最新の情報を咀嚼してそれに基づいてupdateされた知識体系を示してくれるものといえ,よく調理され味付けされた情報といえるものである.

 内分泌・代謝学は昨今,分子遺伝子レベルで生命現象の調節メカニズムに関する詳細な研究がなされている.他方,EBMという,それと全く対極にあるホリスティックできわめてプラクティカルかつ機械的な方法論により得られた成績を尊重するという風潮が高まっている.このように各専門家の間でも,共通の言語を見出し難い状況を迎え,全体の流れを整合的に理解するためにも本書のごとき解説書の存在意義は大きいといえる.

 本書は基礎研究者,臨床家双方にとって,その立場に応じて活用できるものと確信している.御多忙な日々を過ごしておられる各執筆者にはその御骨折りに対し編集者一同,この場を借りて御礼申し上げたい.

  2002年12月

    編者一同


[編集者]

金澤康徳  武谷雄二  関原久彦  山田信博

[著者]

大関武彦  中西俊樹  藤澤泰子  柴崎 学  齋藤 康

本庄英雄  岩佐弘一  中村治雄  島袋充生  宮川潤一郎

浅野知一郎 浦風雅春  小林 正  花房俊昭  今川彰久

内野 泰  河盛隆造  大須賀 穣 北脇 城  岡崎具樹

古谷 崇  四釜久隆  高橋宏和  中島 淳  関原久彦

後藤公宣  名和田 新 武城英明  田中 明  島野 仁

市田公美  細谷龍男  松浦稔展  知念安紹  田守義和

春日雅人  丹羽正孝  河盛隆造  西村理明  田嶼尚子

岡本元純  清野 裕  下村裕子  南條輝志男 奥田諭吉

安田 斎  富野康日己 石橋 俊  肥塚直美  福田いずみ

高野加寿恵 蔭山和則  須田俊宏  高須信行  田坂慶一

安井敏之  苛原 稔  石川三衛  佐藤哲郎  森 昌朋

伊藤光泰  高見 博  亀山香織  佐藤幹二  青木一孝

関原久彦  柴田洋孝  猿田享男  此下忠志  宮森 勇

縣  潤  中田智明  島本和明  田中啓幹  中村和人

峯岸 敬  諸橋憲一郎 福井由宇子 平田結喜緒 竹内和久


目 次

I.トピックス

 A.代 謝

  1.小児の生活習慣病  <大関武彦 中西俊樹 藤澤泰子>  1

   肥満の小児期・思春期から成人期へのtracking  adiposity reboundの意義は何か

   耐糖能障害,インスリン不応は小児期でも存在するか

   新生児期・乳児期の研究への展開  出生前因子までさかのぼると─特に11βHSDを中心として

   小児期の血圧・血管病変  食事および生活様式  その他

  2.スタチンのpleiotropic作用  <柴崎 学 齋藤 康>  8

   血管内皮細胞からのNO産生に対する作用  血管平滑筋細胞に対する作用

   単球・マクロファージなどに対する作用  その他のスタチンのpleiotropic作用

  3.エストロゲンの多様性作用  <本庄英雄 岩佐弘一>  12

   乳腺および子宮に対する作用  骨に対する作用  心血管系に対する作用

   中枢神経に対する作用  hot flushesに対する作用

  4.高感度CRP測定の意義  <中村治雄>  18

   動脈硬化とCRP  日本人における基準範囲と修飾因子  hs CRPの臨床的有用性

  5.遊離脂肪酸の生理活性: 脂肪毒性の基礎と臨床  <島袋充生>  24

   遊離脂肪酸とインスリン分泌  遊離脂肪酸とインスリン抵抗性

   遊離脂肪酸でインスリン抵抗性が惹起される機序

 B.糖尿病

  1.再生医療によるインスリン分泌不全の治療  <宮川潤一郎>  30

   膵β細胞再生機構  糖尿病における再生医療の現状と展望

  2.レジスチンの生理作用  <浅野知一郎>  42

   レジスチン及びRELMの構造と臓器分布  レジスチン及びRELMの発現調節

   レジスチンの生理作用  レジスチン,RELMと糖尿病

  3.インスリン抵抗性とアスピリン  <浦風雅春 小林 正>  47

   インスリン抵抗性について  アスピリンの血糖降下作用

   インスリン抵抗性とIKK-β  アスピリンのIKK-β抑制作用

  4.劇症1型糖尿病  <花房俊昭 今川彰久>  54

   疫学  病態  病理  興味ある症例報告など  病因

  5.食後高血糖の臨床的意義  <内野 泰 河盛隆造>  58

   postprandial hyperglycemia(PPHG)とは?  PPHGへの介入と糖尿病発症抑制

   PPHGによる糖尿病合併症発症機序  PPHG是正の臨床的手段

 C.内分泌

  1.生殖生理と血管新生  <大須賀 穣>  64

   子宮内膜  子宮内膜症  卵巣

   内分泌腺由来血管内皮細胞増殖因子 endocrine-gland-derived vascular endothelial growth factor(EG-VEGF)

  2.アロマターゼと生殖病理  <北脇 城>  71

   アロマターゼ遺伝子  エストロゲン依存性腫瘍組織のエストロゲン代謝

  3.インシデンタローマ  <岡崎具樹>  77

   診断および集計報告  治療およびマネージメント  病態生理

   副腎皮質インシデンタローマの内分泌学的検索: いくつかのトピックス

  4.核内受容体の分解機構とリガンドによる調節  <古谷 崇 四釜久隆>  87

   ユビキチン-プロテアソーム系による核内受容体の分解

   リガンドによる核内受容体の分解調節

  5.ホルモンとアポトーシス  <高橋宏和 中島 淳 関原久彦>  92

   視床下部-下垂体ホルモンとアポトーシス  甲状腺・副甲状腺ホルモンとアポトーシス

   副腎皮質・髄質ホルモンとアポトーシス  性腺・胎盤ホルモンとアポトーシス  その他

  6.DHEAの新しい標的分子  <後藤公宣 名和田 新>  98

   インスリン様成長因子(IGF-1)  stromelysin-1  Slo potassium channel

   炎症性サイトカイン  膵β細胞  mitogen-activated protein kinase(MAPK)cascade

II.代 謝

1.高脂血症

 a.成因・病態  <武城英明>  102

  cholesterol quartetの分子生物学  高トリグリセリド血症起因遺伝子

  メタボリックシンドロームにおける高脂血症  脂質代謝調節の分子機構の展開

  家族性高脂血症の遺伝学

 b.治 療  <田中 明>  107

  新しい高脂血症の治療基準  大規模臨床試験による新しいエビデンス

2.肥満とエネルギー代謝  <島野 仁>  112

  レプチンに関する動向  11β水酸化ステロイド還元酵素(11βHSD-1)

  GIP(gastric inhibitory polypeptide)  グレリン  FAS inhibitor

  アディポネクチン(ACRP30,AdipoQ)

3.プリン代謝異常  <市田公美 細谷龍男>  117

  痛風,高尿酸血症  先天性プリン代謝異常

4.先天性代謝異常  <松浦稔展 知念安紹>  123

  酵素補充療法  遺伝子治療  移植治療,再生医療  新たな治療法の試み

  先天代謝異常の新たな病態像  新生児マススクリーニング法

III.糖尿病

1.成因・病態

 a.成因(1型,2型,その他の型)  <田守義和 春日雅人>  127

  1型糖尿病  2型糖尿病  その他の特定の機序によるもの

 b.2型糖尿病の病態  <丹羽正孝 河盛隆造>  132

  肝糖代謝の障害  食後高脂血症の影響

2.疫 学  <西村理明 田嶼尚子>  137

  耐糖能異常からの糖尿病の発症予防  糖尿病のスクリーニング

3.治 療

 a.食事療法  <岡本元純 清野 裕>  142

  Finnish DPSとDPP報告

  2002年ADAのnutritional technical reviewとposition statement(勧告)

  過去1年間の関連報告の動向

 b.薬物療法  <下村裕子 南條輝志男>  146

  経口血糖降下薬  インスリン療法

 c.運動療法  <奥田諭吉>  151

  疫学的成績  運動の代謝内分泌学的効果  糖尿病の病態と運動の適否

4.合併症

 a.神 経  <安田 斎>  158

  臨床像,病型  実験モデルによる病態の検討  成因と治療  対症療法薬

 b.腎 症  <富野康日己>  163

  2型糖尿病性腎症の発症・進展に関する遺伝因子の解明

 c.動脈硬化症  <石橋 俊>  169

  疫学的研究  診断法の進歩  発症機序  治療

IV.内分泌

1.視床下部-下垂体

 a.成長ホルモンとGHRH  <肥塚直美 福田いずみ 高野加寿恵>  174

  グレリン  成人GHD  末端肥大症

 b.ACTHとCRF(CRH)  <蔭山和則 須田俊宏>  179

  ACTH  CRF(CRH)  Cushing病

 c.TSHとTRH  <高須信行>  186

  TSH  TRH

 d.ゴナドトロピンとGnRH  <田坂慶一>  191

  GnRH分泌調節  下垂体GnRH receptor  下垂体ゴナドトロピン分泌とGnRH作用

 e.プロラクチン  <安井敏之 苛原 稔>  196

  プロラクチンの産生と分泌調節  プロラクチン受容体  プロラクチンの作用

  プロラクチンisoformの作用

 f.バソプレッシン(AVP)  <石川三衛>  202

  バソプレッシンの合成と分泌  バソプレッシンの作用

2.甲状腺

 a.甲状腺機能亢進症  <佐藤哲郎 森 昌朋>  208

  Basedow病の病因遺伝子解析  自己免疫性甲状腺疾患の病態解析

  Basedow病の診断と治療

 b.甲状腺機能低下症と甲状腺炎  <伊藤光泰>  213

  先天性甲状腺機能低下症  甲状腺ホルモンと中枢神経系

  甲状腺機能低下症とエネルギー代謝  慢性甲状腺炎(橋本病)の病因論

 c.甲状腺腫瘍  <高見 博 亀山香織>  222

  臨床研究  基礎研究

3.副甲状腺ホルモンとカルシトニン  <佐藤幹二>  227

  副甲状腺機能亢進症  副甲状腺機能低下症  カルシトニン

4.副腎皮質

 a.副腎アンドロジェン  <青木一孝 関原久彦>  232

  心疾患や内分泌・代謝疾患に対する作用  補充療法  老化・健康に対する作用

  腫瘍に対する作用  神経に対する作用  骨に対する作用

  免疫系等に対する作用  受容体・細胞内情報伝達系に対する作用

 b.糖質コルチコイド  <柴田洋孝 猿田享男>  238

  ステロイド合成P450の転写調節因子

  糖質コルチコイド受容体(GR)の作用機構とコアクチベーター・コリプレッサー

  糖質コルチコイドと骨粗鬆症  副腎インシデンタローマ  Cushing症候群と副腎腫瘍形成

 c.レニン-アンジオテンシン-アルドステロン  <此下忠志 宮森 勇>  247

  レニンレセプター  アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)

  AT2遺伝子型の臨床的意義  アンジオテンシンIVレセプター(AT4)

  心血管系とアルドステロン

5.副腎髄質−褐色細胞腫の診断・治療  <縣 潤 中田智明 島本和明>  253

  病因: 褐色細胞腫に関連した遺伝子異常  診断: 各種生化学マーカーの診断精度

  局在診断: 副腎腫瘍の画像診断アルゴリズム  治療: 腹腔鏡下か開腹か

6.性 腺

 a.男 子  <田中啓幹>  258

  アンドロゲン受容体  内分泌療法抵抗性前立腺癌進展(再燃)の機序

 b.女 子  <中村和人 峯岸 敬>  263

  卵巣内の局所調節因子  ベーターグリカンの役割  ベーターグリカンの組織分布

  性周期におけるベーターグリカンの役割  その他の局所調節因子について

7.性分化・発達の異常  <諸橋憲一郎 福井由宇子>  267

  SRYの発現  SRYの機能  メダカ性決定遺伝子の発見

  DHH(desert hedgehog)

8.心血管ホルモン  <平田結喜緒>  271

  ウロテンシンII(UII)  B型Na利尿ペプチド(BNP)

  アドレノメデュリン(AM)  エンドセリン(ET)-1  一酸化窒素(NO)

9.プロスタノイド−トロンボキサン系と

 peroxisome proliferators-activated receptor(PPAR)-γ  <竹内和久>  278

  TX受容体  TX合成酵素  TX系とPPAR-γ: その意義

索 引    284