本書の題名に糖尿病が加わったのは大変喜ばしいことである.昨年までは糖尿病の表題がなくとも大きなセクションとして取り上げていたが,本年からは表題でも読み取れるようになった.この変更は本書の性格をより明らかにし,読者に選択していただけるであろう.
 最近はレビュー誌が多くなり,またインターネットを通じて文献の収集はより容易になり本書が現在,かつて利用されていたのと同じように新しい文献を読者が利用するというスタイルで使用されるとは思われない.今までも文献を通じてそれぞれのテーマにつき新鮮かつ個性的な総説を書いていただいたつもりであるが,さらに他誌よりより高いレベルの内容でないと読者から見捨てられる可能性があると編集者一同危機感を持ち,テーマの選択には特に注意した.
 内分泌学の分野ではグレーリンやアディポネクチンをはじめとして多くの新しいホルモンやサイトカインがわが国で発見され,一部では既に創薬の面への進展が認められており,さらに世界中の研究室でさらなる発展が図られている.内分泌・代謝学の成果のかつては輸入国であったわが国からの発信が著しく,学問の世界はまさに国境のない時代になって来たことをひしひしと感じる.基礎糖尿病学では内分泌同様ボーダレスの時代であるといえる.一方臨床の分野では糖尿病の予防・治療に関する無作為化大規模試験が一世を風靡している.その成果を基にしてガイドライン作りをすることが臨床上大切であるとし,新しい研究成果が治療の到達目標値をしばしば書き換え,昨日の正常値は今日は異常値だと臨床医は右往左往している.
 Annual Review 糖尿病・代謝・内分泌2006では基本構成を各分野別に「基礎分野での進歩」として先端的なテーマを,「臨床分野での進歩」では臨床と直結しながら必ずしも従来充分に解説されていないテーマに注目し,それらの中での重要なトピックスを選び新しい切り口で解説していただくことにした.このようなスタイルが読者の方々に受け入れられ,本書が基礎の読者の臨床への理解と,臨床医の方々を最新の基礎研究分野へ案内するお役に立てばと期待している.

2005年12月
編者一同


[編集者]

金澤康徳   武谷雄二
関原久彦   山田信博

[執筆者]

金澤康徳   荒木栄一   本島寛之
井形元維   児島 協   島野 仁
山内敏正   門脇 孝   須磨崎 亮
金藤秀明   中谷嘉寿   松久宗英
山崎義光   梅本富士   川上正舒
松本慎一   田中 明   片山茂裕
松木道裕   加来浩平   山田祐一郎
中山雅文   小川久雄   内村 功
前川 聡   柏木厚典   東浦勝浩
島本和明   永島秀一   石橋 俊
村野武義   白井厚治   安東克之
藤田敏郎   寺本民生   松澤佑次
伊木雅之   齋藤 康   細井孝之
三木隆己   今西康雄   本間研一
高橋和広   戸恒和人   村上 治
桜井 武   赤水尚史   山田佳彦
関原久彦   藤川隆彦   笹野公伸
中村保宏   石橋洋則   鈴木 貴
方波見卓行  小尾竜正   成瀬光栄
田辺晶代   西川哲男   中村浩淑
佐藤幹二   前田清司   宮内 卓
林 良夫   新垣理恵子  石丸直澄
久末伸一   伊藤直樹   塚本泰司
山中英壽   宮永直人   赤座英之
河村和弘   田中俊誠   永松 健
藤井知行   武谷雄二   小原範之
陳 衛    丸尾 猛   堂地 勉


目次

I.展望 <金澤康徳>…1
   大規模臨床試験の結果と臨床   急激な血糖改善は危険か
   食後の血糖値は治療のターゲットか?
   インスリン抵抗性を低下させる薬剤は糖尿病治療の本命か
   生体の調節能力と糖尿病治療

II.糖尿病
 A.基礎分野での進歩
 1.酸化ストレスとインスリン抵抗性
            <荒木栄一 本島寛之 井形元維 児島 協>…5
   酸化ストレスとは   インスリン抵抗性とは
   インスリンによるROS産生; インスリンシグナルの一部としてのROS
   過食からのインスリン抵抗性; 酸化ストレスの関与(ROS産生の機序)
   肥満によるROS産生   糖尿病における酸化ストレスとインスリン抵抗性
   ROS抑制によるインスリン抵抗性改善の試み   今後の展望
 2.SREBPとインスリン抵抗性 <島野 仁>…14
   インスリン同化作用としてのリポジェネシスとSREBP-1cの活性化
   SREBP-1cとインスリン抵抗性   SREBP-1cとメタボリックシンドローム
 3.アディポネクチン受容体とその機能 <山内敏正 門脇 孝>…20
   肥満によるインスリン抵抗性惹起メカニズム
   インスリン感受性調節における脂肪組織の役割
   インスリン感受性が良好なPPARγヘテロ欠損マウスでアディポネクチンの発現が亢進している
   アディポネクチン遺伝子は日本人2型糖尿病の主要な疾患感受性遺伝子である
   アディポネクチンは白色脂肪細胞由来の主要なインスリン感受性ホルモンである
    -- アディポネクチン補充は脂肪萎縮性糖尿病のインスリン抵抗性を改善する --
   肥満,2型糖尿病ではアディポネクチン不足が存在しインスリン抵抗性が惹起される
    -- アディポネクチン補充はインスリン抵抗性を改善する --
   アディポネクチンは生体内で抗糖尿病因子として作用している
    -- アディポネクチンホモ欠損マウスは耐糖能低下を示す --
   アディポネクチンによる脂肪酸燃焼促進メカニズム
   アディポネクチン受容体のクローニング
   アディポネクチン受容体の細胞内情報伝達と機能解析
   AdipoR1・R2の発現制御とアディポネクチン感受性制御
    -- 肥満におけるアディポネクチン低下・アディポネクチン感受性低下の悪循環の存在 --
   AdipoRを増加させる薬剤   AdipoRのアゴニストの開発
   高分子量アディポネクチン測定の意義
   Lodish Hらによって報告されたT-カドヘリンの問題点
 4.膵β細胞の増殖・分化と再生 <須磨崎 亮>…31
   膵β細胞の自己複製   膵前駆細胞からの膵島新生
   組織幹細胞の分化と可塑性   ES細胞からのインスリン分泌細胞の分化
   薬剤による膵β細胞の再生促進   糖尿病に対する再生治療の展望
 5.糖尿病治療標的としての小胞体ストレスおよびJNK経路
              <金藤秀明 中谷嘉寿 松久宗英 山崎義光>…38
   小胞体ストレスを介したインスリン抵抗性
   糖尿病治療標的としての小胞体ストレス
   JNK経路を介したインスリン抵抗性   糖尿病治療標的としてのJNK経路
 6.糖尿病患者の血管内皮細胞機能 <梅本富士 川上正舒>…45
   はじめに   食後高血糖と内皮機能障害
   ポリオール代謝亢進と内皮障害   非酵素的糖化反応とAGE
   酸化ストレス   PKC   poly ADP ribose polymerase
   LOX-1発現亢進
 B.臨床分野での進歩
 1.膵島移植の現状 <松本慎一>…50
   エドモントンプロトコール   エドモントンプロトコール以後の進歩
 2.糖尿病における高脂血症管理 <田中 明>…56
   LDLコレステロールの治療目標値の低下
   メタボリックシンドロームの影響   スタチンの耐糖能に及ぼす影響
   JDCSの8年目の結果
 3.糖尿病における血圧管理 <片山茂裕>…62
   糖尿病患者における高血圧の成因: アディポネクチンの血圧に及ぼす影響
   糖尿病患者における高血圧の治療
   糖尿病性腎症と降圧薬: ACE阻害薬/ARBを用いた厳格な血圧コントロール
 4.糖尿病発症予防効果のある治療薬 <松木道裕 加来浩平>…69
   糖尿病発症予防効果のある降圧薬
   糖尿病発症予防効果のある抗高脂血症薬
   糖尿病発症予防効果のある経口血糖降下薬
   糖尿病発症予防効果を検証中の薬剤
 5.インスリン分泌調節薬の現状 <山田祐一郎>…76
   膵β細胞のインスリン分泌促進機構   糖尿病におけるインスリン分泌障害
   SU受容体を介したインスリン分泌促進薬
   新たなインスリン分泌促進薬 -- インクレチン
   インクレチンの膵β細胞増殖作用   インクレチン臨床応用の問題点
   インクレチン誘導体の臨床応用   DPPIV阻害薬
 6.糖尿病におけるアスピリン療法 <中山雅文 小川久雄>…81
   これまでに報告された動脈硬化性疾患に対するアスピリンの予防効果
   アスピリンの抗血小板作用機序
   PPP研究の考察と日本におけるJPAD研究   アスピリン抵抗性について
 7.持続型インスリン・超速効型インスリンの臨床に与えるインパクト
                             <内村 功>…87
   持続型インスリンについて   超速効型インスリンについて
   1型糖尿病の治療はこう変わった   2型糖尿病の治療はこう変わった
   その他の糖尿病治療はこう変わった

III.代 謝
 A.基礎分野での進歩
 1.脂肪組織におけるマクロファージ機能 <前川 聡 柏木厚典>…93
   メタボリックシンドロームと炎症性サイトカイン   脂肪組織と炎症
   脂肪組織におけるマクロファージ
 2.メタボリックシンドロームとミトコンドリア機能
                     <東浦勝浩 島本和明>…98
   メタボリックシンドロームの病態   運動とミトコンドリア機能
 3.腹腔内脂肪と皮下脂肪の代謝調節の役割 <永島秀一 石橋 俊>…103
   脂肪組織除去の各種代謝指標への効果   脂肪合成   脂肪分解
   アディポカイン分泌能   脂肪細胞の分化能   PPARγ
   11β-HSD1 性ステロイドホルモン   成長ホルモン   運動と食事
 4.新しい脂肪分解酵素: Adipose Triglyceride Lipase
                     <村野武義 白井厚治>…111
   脂肪細胞における脂肪動員機構とその意義
   従来から知られているホルモン感受性リパーゼ(HSL)の同定と問題点
   新しい脂肪分解酵素: adipose triglyceride lipaseの同定
 B.臨床分野での進歩
 1.新しい高血圧治療ガイドライン <安東克之 藤田敏郎>…116
   ガイドラインの立場: population strategyとhigh risk strategy
   高血圧の定義と分類   危険因子の評価   高血圧治療の方針
   生活習慣の修正   降圧薬治療   糖尿病を合併する高血圧の治療
   その他の代謝疾患の合併
 2.ストロングスタチンの使い方 <寺本民生>…123
   ストロングスタチンとは   ハイリスク患者のEBM
   ストロングスタチンの使い方
 3.メタボリックシンドロームの疾患概念と診断基準 <松澤佑次>…127
   メタボリックシンドロームの概念設定の背景
   メタボリックシンドロームの歴史   わが国の診断基準の策定
   わが国のメタボリックシンドローム診断基準
 4.我が国における骨代謝マーカーのデータベース <伊木雅之>…132
   はじめに   骨代謝マーカーの測定意義
   我が国における骨代謝マーカーの基準データベース
 5.抗肥満薬の進歩 <齋藤 康>…139
   肥満治療薬の位置づけ   薬物治療の考え方と適応
   主な抗肥満薬の作用機序
 6.エビデンスに基づいた骨粗鬆症最近の治療 <細井孝之>…145
   骨粗鬆症における疾患概念の変遷と治療目標
   骨折予防効果からみた各薬剤の特徴
   メタアナリシスによる骨折予防効果の比較
   骨折のリスク評価と薬物療法の開始と選択
 7.骨粗鬆症治療薬としての副甲状腺ホルモンの有効性
                       <三木隆己 今西康雄>…151
   PTH投与と骨量増加の病態   骨折防止効果
   併用療法研究の現状と問題   我が国におけるPTH治療開発の現状
   PTH治療の特徴,問題点

IV.内分泌
 A.基礎分野での進歩
 1.生物時計の遺伝子調節 <本間研一>…158
   生物時計の発振メカニズム   中枢時計と末梢時計
   時計遺伝子とエネルギー代謝
 2.ウロコルチン -- 最近の進歩 <高橋和広 戸恒和人 村上 治>…163
   内分泌系におけるウロコルチン   心血管系におけるウロコルチン
   脳神経系におけるウロコルチン   消化器におけるウロコルチン
   その他の器官におけるウロコルチン
 3.オレキシン -- 最近の進歩 <桜井 武>…169
   オレキシン産生神経の概要   オレキシンとナルコレプシー
   オレキシン産生神経の制御機構
   オレキシン産生神経の制御系の生理的意義
   エネルギー恒常性とオレキシン神経
 4.グレリンの臨床応用 -- どこまで進んだか --  <赤水尚史>…175
   臨床第I相試験   臨床第II相試験
 5.脳の機能とステロイドホルモン <山田佳彦 関原久彦>…180
   ステロイドホルモンと性差   脳におけるアンドロゲン
   グリア細胞への影響   神経保護作用に関する分子機構
   ステロイドホルモンと精神疾患との関連   その他の神経疾患との関連
 6.プロラクチンとストレス <藤川隆彦>…186
   PRLの分泌調節   PRLと抗不安効果   PRLとストレス性胃粘膜びらん
   PRLの作用部位と抗ストレス効果   PRLの新規生理作用
   抗ストレス作用を有する生薬(サプリメント)によるPRLの放出と薬理
 7.プロゲステロンの子宮外作用
    -- 血管平滑筋,胸腺腫,肺癌におけるプロゲステロン作用の新たなる展開 --
              <笹野公伸 中村保宏 石橋洋則 鈴木 貴>…193
   ヒト動脈系におけるプロゲステロンの作用   ヒト胸腺腫とプロゲステロン
   肺癌とプロゲステロン
 B.臨床分野での進歩
 1.サブ(プレ)クリニカルクッシング症候群診断基準の問題点と改善策
                      <方波見卓行 小尾竜正>…199
   頻度に関する問題点   名称・定義に関する問題点
   診断法に関する問題点   診断法の改善策
 2.褐色細胞腫診断の問題点 -- 悪性度の診断法 --  <成瀬光栄 田辺晶代>…206
   カテコラミン測定   病理所見   テロメラーゼ活性
   腫瘍抑制遺伝子発現とアポトーシス   血管新生因子   COX-2
   遺伝子検索
 3.原発性アルドステロン症の日常診療における診断基準
           -- 180万人の患者をどう診察するのか --  <西川哲男>…211
   歴史的背景および頻度とその問題点
   原発性アルドステロン症のスクリーニング法   確定診断法
   ACTH負荷副腎静脈採血法(ACTH-loaded AVS)による確定診断
 4.Basedow病薬物治療の問題点 -- ガイドライン作成にむけて --
                            <中村浩淑>…220
   Basedow病薬物治療について
   「Basedow病薬物治療のガイドライン」作成の取り組み
   主要な項目に関するステートメント
   ワーキンググループ4施設による共同臨床試験について
 5.原発性副甲状腺機能亢進症の進歩 -- 内科的治療か,外科的治療か --
                            <佐藤幹二>…227
   aPHPT患者の自然経過   aPHPT患者の術後経過
   aPHPTの一般的療法   aPHPTの内科的療法
 6.エンドセリンの臨床応用の現状 <前田清司 宮内 卓>…233
   エンドセリン研究と臨床応用   エンドセリン系の基礎
   エンドセリン系の阻害薬   エンドセリン受容体遮断薬を用いた臨床試験
   今後の展望
 7.エストロゲンと自己免疫疾患 <林 良夫 新垣理恵子 石丸直澄>…241
   自己免疫疾患とは   全身性エリテマトーデス(SLE)における性差
   関節リウマチ(RA)における性差   Sjogren症候群(SS)における性差
 8.男性更年期障害のテストステロン補充療法
                 <久末伸一 伊藤直樹 塚本泰司>…247
   PADAMの診断と男性ホルモン補充療法の適応
   男性ホルモンの低下による影響と男性ホルモン補充療法の効果
   新しい男性ホルモン補充療法薬の開発
 9.前立腺癌の内分泌療法の新戦略 <山中英壽>…252
   ネオアジュバント・アジュバント内分泌療法   間欠内分泌療法
   アンドロゲン除去療法後の骨折リスクおよび対処
 10.前立腺癌と食習慣 <宮永直人 赤座英之>…258
   食品(脂肪,蛋白,肉,野菜,果物など)
   食品要素(ビタミン,微量元素,イソフラボンなど)

V.生殖医学
 A.基礎分野での進歩
 1.グレリンと生殖 <河村和弘 田中俊誠>…264
   グレリンの生殖に対する中枢性作用   グレリンの生殖に対する末梢性作用
 2.胎盤形成とO2 <永松 健 藤井知行 武谷雄二>…269
   正常胎盤形成における局所酸素濃度の変化   絨毛細胞機能と酸素濃度
   酸素濃度と胎盤内血管系の発達   酸化stressと胎盤形成
   胎盤内低酸素と妊娠高血圧症候群
 B.臨床分野での進歩
 1.GnRHアンタゴニストと下垂体外作用
                  <小原範之 陳   衛 丸尾 猛>…276
   GnRHアンタゴニストの臨床応用
   GnRHの腫瘍細胞における細胞内情報伝達系
   GnRHアンタゴニストの下垂体外作用
 2.多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)におけるインスリン抵抗性改善薬の有効性
                           <堂地 勉>…282
   PCOSと体脂肪分布異常やインスリン抵抗性
   PCOSと生活習慣病発生との関連性
   PCOSに対するインスリン抵抗性改善薬の投与
   インスリン抵抗性改善薬の投与法

索引…287