政策の評価と終結と議会の役割
  埼玉県幸手市議会員  武藤 寿男
1 はじめに
 西暦2000年を迎え、新たなミレニアムの時代になったが、同時に意義的にも大きな時代の転換期と思われる。歴史的に見ても明治維新、戦後の大改革に次ぐ、大変革の時代であり、情報革命、IT革命の時代といわれている。また、少子高齢社会を迎えて人口構造も変化してきた。このような社会の背景の中で、わが国の経済の低迷と縮小傾向により、地方の自治体においても財源の落ち込みなど大きな影響を受けている。  
  しかし、地方住民にとっては、経済の不況対策、少子化対策、介護保険の開始、環境保全対策などニーズは多岐にわたり、その行政需要は増大している。   
  また、地方分権の推進化により新たな自治事務、法定受託事務が増加し、地方自治体 の役割が重要となると同時に自立が求められているが、財政力が追いつかないのが現状 である。
  このような状況の中で、必然的に行政改革、財政改革に地方自治体が取り組まなけれ ばならないところに置かれている。これは先ず行政の役割と住民の自己責任を明確にし、 事業や政策の選択をすると共に、その政策の有効性、効率性などにより選択をして限りある財源を充当せざるを得ない。
 従って、政策の新たな開始や、政策の継続、政策の廃止などの意思決定を常に行い、真に住民福利に向上につながる「良い政策の選択」を行うために、「政策評価」を行政、首長、議会がそれぞれ行う必要がある。

2 政策評価には  
 政策評価については、まだこのことが議論されるようになってきたのはここ数年であり、様々な評価のあり方が提起されているが、大別すると次のニになるのではないのかと思われる。

@ 事務事業評価
これは、市役所等の行政組織が行う評価であり、それぞれの事業の妥当性、事業の有効性を評価するものである。その手段の一つとしては、事業を予算決算等のフロー、ストック、コストの面など数値的な評価も加えなければならない。
A 政治評価
政治評価は、事務事業評価を踏まえ政治的な価値判断を行うものである。それぞれの事業が政策ビジョン、基本理念に対して適合しているかを評価するもので、首長、議会の役割である。特に議会は、市民サイドに立った評価をすべきものである。
 
 これらの評価を踏まれて、それぞれの事務時事業は成功しているか、失敗したか判断をし、良い政策を選択するものである。つまり、とかく行政の政策は開始されると継続され事業量は増加の一途をたどりがちであるが、評価によっては政策を終結させることも必要である。よく言われるスクラップアンドビルドの実現である。

3 政策評価の方法と政策終結  
 政策評価の意義は、政策の具現化である事業について、顧客である市民への情報を積極的に開示し、行政機関のアカウンタブリティ(説明責任)を果たすことにより、真の市民本位の政策に改良することである。  
 これらの促し方は、我々の市民生活において多くの社会問題があるが、この社会問題解決の方法としての政策政策の、現実の社会への効果を見るものである。とくに政策は失敗するものであり、なぜ失敗したかを検証し実証しなければならない。
 また、政策のねらい、目的が果たされているのかの成否の判定が政策評価であり、この政策評価の判定基準が政策評価システムとなる。
 更に、政策評価としては

@ 手続に対する評価
 これは、先ずそれぞれの事業が、法規や事例、規則などに適合しているか、否かの評価をし、また、市民が主体であるかの民主性、広く市民に開かれているのか公開性、市民に等しく公平かどうかの公平性などに、照合しての評価である。
A 内容の成否に対する評価
  これらには、有効性評価と効率性評価がある。有効性評価は、事業の目的、目標に対しての達成度や政策の効果の表れを評価するものであり、政策が問題解決にどの程度有効であったかを見るものである。また、効率性評価は、政策のコストに対する評価であり、インプット(投入物)とアウトプット(産出物)両面からの極めて難しい評価である。同時に金額に換算しての経済価値として表しての評価のため、これまた難しい評価である。 以上のような考えかたに分類することもできるが、これらはいずれも行政機関が主とし行う事務事業評価である。  一方、政策は失敗するものであるが、なぜ失敗するのかと言えば、その失敗するケースには、政策設計システム、政策実施システム、市民社会システムのいずれかのシステムに問題があるためである。
@ 政策設定システムに問題がある場合
 政策、事業には、一般的な目的、目標の設定の明確でないとならないが、これらが最初から明確でない場合と、また、市の総合振興計画、実施計画などの計画、法規事例規則、予算などに照合して整合性に問題がある場合である。
A 政策実施システムに問題がある場合
これは行政機関である役所の仕事であり、これが正常に機能しているかどうかの問題である。政策設計通り設計の翻訳、変換がなされ、具体的な事業の目的、目標が正しく設定されているかである。これは役所の意思決定の連続であり、この意思決定過程が正しく行われたかと言うことになる。また、役所のその政策、事業に取り組む組織の編成と手段の組み立てに問題がある場合と、これらの政策を適用させる時、サービスの規制、実施場面などに適正に実施されない場合である。
B 市民社会システムの問題
経済社会環境は常に変化をしているため、この経済社会環境に合わなくなってしまうことがある。このような時に、政策は失敗するものであるが、現在行われている政策評価は、行政組織自身の政策実施システムの自己点検と言うべきものである。今、議会、首長に求められているのは、政策設計システムの評価であり、それによって大改革になるのか、微調整に留まるのか、政策を終結するべきかを首長、議会が決定すべきである。

4政策終結
 政策評価の議会での充分な議会を踏まえた結果、政策を終結すべきとなった場合と、首長の決断によって政策終結を図る場合も、種々の条件が満たされなければならない。その条件は、     
 @政権交代や政権の安定など、政治的イニシャティブをとれる政治環境の存在     
 A完璧に近い終結手続きへの合意の形成     
 B総論への支持の拡大(新しい公共価値)     
 C各論における反対の縮小と分散化(既得権益)     
 D客観的データによる裏付けの提示     
 E夢のある政策への生まれ変わりの提示(終結の積極的価値)
などでこれからが整備されて、初めて政策を終結することができる。社会の環境は激しく変化をしており、絶えず政策評価を行いながら、社会環境に合わせた政策のスクラップアンドビルドを行わなければならない。
5幸手市に於ける政策の終結と変更  
 先ず、我が幸手市について紹介しよう。幸手市は埼玉県の北東部に位置し、境を千葉県茨城県に接している。江戸時代は、日光街道、奥州街道の宿場町、江戸への船便の要衝と して栄えたが、交通手段の変遷とともに町も変化をしてきた。産業は拡大名農用地を有し米作を中心とした農業と、地方の拠点としての商業の町として発展してきた。戦後、昭和40年代以降、東京への通勤者の急速な増加とともに、ベットタウンとして人口も増加し 昭和61年に市制を施行した。面積は約33q、人口約5万8千人の小さな都市である。  以前は順調に発展を遂げてきたと考えられるが、平成5年現在の市長になって以来、改革を掲げたものの、中身は「有名な街、誇れる街」が理念と言うことで、行政の使命も手法も全く解せず、ただ市長としての権力を振るう事によって、幸手市は現在行政の停滞と混乱を招いている状況と私は考えている。財政状況は、平成11年度決算の時点において一般会計約150億円、市債残高135億円、基金積立金34億円と埼玉県の43市の中では下位であるが、全国的にほぼ中立の都市である。
 まだ議会構成は、議員定数27名、内女性1名、無所属議員19名であり、市長支持グループは14名、他の者13名と拮抗している。
 このような幸手市ではあるが、政策評価は未だ検討段階であるものの、政策の終結に失敗した事業、また、事業計画以来14年目を迎えても、なお実施段階に至らない事業について、事業の変更を決断すべきかと思われ、それらの事業について、政策の終結と変更について考察していみたい。
 @敬老年金の廃止に失敗
 まだ国民皆年金制度が確立される以前、昭和33年から80歳以上の高齢者の方に、 僅かの額では、長年の労苦に報い長寿を祝福するために、市から支給されてきた。
今日では、各種年金制度も完備され、この敬老年金制度の役割は、既に終えたとのことで、平成10年3月議会に、敬老年金の廃止条例が、老人会等の高齢者関係団体にも何の説明もないまま、また、議会の市長の与党的会派さえにも相談することなく、提案された。
 議会の審議においてこの敬老年金制度は、所得制限がないため、確かに高額の年金受給者など、かなりの所得のある方にさえも支給されている現状、また、支給額が1万8000円と僅かであること、年金制度開始時に比して、各種社会保障制度が整備されてきたことなどにより、一定の役割は果たしたと言う認識を議会側もかなり多数の議員が所持していた。従って、市側、議会共に政策評価としては、この敬老年金制度は終結の方向では、ほぼ一致していたと言える。
 しかし、市側に対する議員の質疑に対し、80才以上の所得の状況、廃止された場合の無年金者の現状などが、全く把握されておらず具体的に提示されることがなかった。また、廃止することによって、他の福祉政策費に充当すると言うだけで、具体的な他の政策の対案も示されなかった。さらに、幸手市としては高齢化率も11〜12%と低位にあったため、敬老年金は存続された。従って現在も2700万円程度支給されているところである。
 これは、概ね政策に対する評価は、終結が可能であったにも係わらず、市側の怠慢とも言える状況により、政策の終結をできなかった実例である。
 この原因は、先ず、議会や老人会等への説明、相談を全くされず、終結手続きへの合意の形成に失敗したこと、具体的データーの裏付けの提示がされなかったこと、新しい具体的政策への生まれ変わりの提示がされなかったことなどに因るものである。正に、政策評価を政策終結に結ぶことができなかった典型的な例である。市側と共に議会のあり方も総括の必要があると思われる。
 A幸手駅周辺整備事業は事業変更しては?
 我が幸手市の東武鉄道幸手駅周辺の整備事業は永い間の懸案である。既成の市街地は駅の東口で商業地であったが、昭和40年代以降のベットタウンとしての人口急増と共に、西口の開設と整備も叫ばれてきたところである。
  昭和57年には、東口広場3,700mと都市計画街路幸手停車場線、西口広場2,600mと都市計画街路西口停車場線がそれぞれ都市計画決定された。
 その後先ず、昭和62年、西口50haについて西口地区整備構想が作成され、区画整理方式での整備方針が提示され、平成10年に基本計画案が作成されたが、これまた都市計画決定をすることができず難航している。
 一方東口については、昭和63年、東口周辺15haの東口周辺整備構想が作成され、地区住民と検討を続けてきたが、平成5年現市長の方針により、平成7年度都市計画決定、平成14年度の完成目標が出された。翌平成6年、区域内1.7haを市街地再開発事業として実施する事とし、東口駅前通り地区整備計画素案が示された。これはキーテナント方式の手法であり、当時の経済社会環境からも既に疑問視されたものである。平成7年度に予定された都市計画決定も見送りのまま、地域の協力もいまだ得られず、現在に至っている。その間、平成8年度より駅から徒歩2〜3分の区域内の市有地に、事業の代替として戸建て代替地を造成したが、駅近くの土地利用のあり方のコンセプトが何かを問われてることなども起きている。(私は高層マンションでもあればよいと思う)未だ先の見えない状況である。
 また、今日までのこの駅周辺整備事業に要した経費をみると
      昭和63年度から平成11年度までの充当経費
         人  件 費    774,402,833円
        各種委託料他   784,276,693円         
           合計    1,558,679,526円
以上のように、約15億6000万円と言う経費が投じられ、補助金等は僅かであり、そのほとんどが市民の税金で賄われているのが現状である。しかし、実効性、有効性からみても、具体的に何も見えてきてない。
 このような状況のなかで、駅周辺整備事業についての、私の政策評価を考えて見ようと思う。
 構想作成時の社会状況は、まだ経費も活発な時期であり人口も増加の頃であったが、現在はと当時と比べて、バブル崩壊後の低迷から依然として脱しきれず、また、少子高齢社会となり、大きな変革の時代となっている。更に、流通革命により商業の形態も、小売業はコンビニ化と収斂されつつあり、従来の市街地商店街の不振につながり、回復は困難となりつつある。
 従って、人口約6万人程度の駅周辺の整備は、キーテナントを核としての商業中心の街づくりは難しく(30万人以上であれば可)、通勤サラリーマンに利便性の高い優良な住居を提供し、日常生活に必要なコンビニ程度中心の商業にならざるを得ないと思うものである。また、区画整理、再開発等を行っても、住人は確かに環境は良くなるものの、固定資産税が上がるのみであると考えている人が多い。更に、区画整理、再開発では、保留地の処分に頼るところが多いが、地価の大幅な下落によりこれが困難である。
 また、長い間市民の理解を得る努力ををしてきたが(市長自身は余りみえない)、なかなかその成果もでず、実際の事業経費も現状の縮小した素案でも私は150億を越えると予想され極めて難しい。
 これらの現状を考察すると、市民社会のシステムの大きな変化より、政策設計システムが機能しなく成っている。従って、政策設計システムの大幅な変更、見直しの必要があり、早急に実施しなければならない。
 つまり、15年近くの永い年月が経過しても、都市計画決定すら決定する事が出来ない現況で、更に今後何年かかるか見通しの立たない現状では、現在まで投じられた経費の15億6000万円を有効に生かす意味からも、原計画は街づくりのプランとしては残しながらも、既に都市計画決定がなされている東西の駅前広場の整備事業、東西停車場線の街路事業を一日も早く先行実施するよう変更すべきものと思う。そして、それらが実施されその状況を市民がみて、自ら街づくり事業を行おうとの機運の盛り上がったところから、少区域づつ順次実施する方向に転換を図って、事業実施に道を開けるべきと考える。これが政策転換の方向であり議会は積極的に提言する必要がある。

6 結びに
 アメリカのクリントン政権が、@形式的な手続の廃止と業績、結果への責任、A顧客優先主義の徹底、B職員への権限委譲による業績向上(独立行政法人など)、Cより良くより安い政府という基本原則に戻ること、という行政改革の4原則を明示したが、これらは現在の我々地方自治体が取り組まなければならない、行政改革の方向と行政機関のあり方と共通しているものである。私たち議会人は議会の場を通して、行政機関の執行部と予算決算等の審議を通じ、また、一般質問などにより、4原則を基本として、常に政策評価をしながら、より良き政策の選択と終結をはかることが使命であると考える。     
むとう寿男   
むとう寿男